艦娘ぐらし、始めました-Welcome to Kan-Colle world- 作:嵐山之鬼子(KCA)
実質的な初実戦──南西諸島防衛線の最深部を突破してから、おおよそふた月ほどの時間が過ぎた。
言うまでも無くと言うか予想通りと言うべきか、
もっとも、正直に言ってこの件に関しては、もはや半ば諦め気味でもある──良い意味でも悪い意味でも。
悪い意味については「そもそも艦娘なんてやってる限り、こんな超常現象的な事柄の真相を追及するには、絶望的に時間と手段が不足している」というのが大きい。
艦娘が第三世代を迎え、関連法案が次々に整備されたおかげで、現在の艦娘は、ほぼ日本国民に近い権利義務を有しているが、同時に現役の艦娘には幾許かの“縛り”があることも事実だ。
その縛りのひとつが“移動の自由の制限”、艦娘は任務時を除いて所属する基地から、2時間以内に帰れる距離までしか離れることを許されていない。これは休暇中も有効だ。
このテのトンデモ問題の情報ならやはり東京が一番多いのだろうが、
京都も“京大がある学術都市”と言えないこともないのだろうけど、こういう眉唾事象に手を貸してくれるかは疑問だし……。いや、いっそオカルト方面に振り切れば、まだ可能性はあるのかもしれない。
加えて、情報を得るための
そして“良い意味で”というのは──
ブッチャけると、「今の立場や毎日も悪くない、むしろ結構楽しい」と思い始めたんだ。
それなり以上の危険はあるものの、自分の努力と力量によってその危険は大幅に減らせ、さらに社会的にも個人的にも“やり甲斐”のある仕事。
給料は「並みよりは良い」程度だけれど、職場環境も職場の仲間の人間関係ものきわめて良好。つい最近、待望の後輩兼
雇用主は
加えて今の
別に性別違和や変身願望持ちではなかったけれど、「来世で生まれ変わるんなら美少女に」という意見に頷ける程度のスケべ心はあったし。
もっとも、こちらはアテが外れたというべきか、一週間もしないうちに(自分が“女”であり、女性が“同性”であるという
危惧していた適合率(という名の浸食率)の問題も、50を超えた途端に横ばい状態になり、たまに測るとコンマ1、2伸びてる程度に留まってるし。
こんだけ好条件が揃った転生(転移?)先なんて、今どき「な●う」小説でも、なかなか用意してくれないんじゃないかな。いや、俺Tueee/ハーレム系ならもっと突き抜けてるのはあるんだろうけど、現実に自分がその環境に放り込まれるとなったら、むしろ自分は遠慮したいしね。
* * *
「浦風先輩って、ほんと毎日が楽しそうですよね」
休息日である日曜日の昼前。
食堂へと足を運び、以前からの約束通り間宮に指導を受けつつ昼メニューの下拵えに協力している浦風に向かって、井上提督配下の
「んー、そうかのぅ?
里芋の皮を剥きながら小首を傾げる浦風。
休日ということで半袖ダンガリーシャツにデニムのショートパンツという比較的ラフな格好だが、きょとんとした表情や柔らかな広島弁もあいまって、とても愛らしい。中味が(少なくとも2ヵ月半ほど前までは)20歳を超えた男だなんて、誰も想像がつかないだろう。
「それはそうなんでしょうけど。でも、熱血とか全力全開って言うのとはちょっと違うかもしれませんが、いつも“
そう
「……ほうか。そう見えるんやったら、何よりじゃ」
平和や平穏が薄氷の如き脆いものであり、だからこそ、尊いその
「
ただし、それは自分の
「むぅ……なんか大人な発言です。もしかして、浦風先輩、ホントはかなり年上?」
標準的な浜風は比較的落ち着いた、それこそ
「ははは、艦娘の元の年齢を追及するんはヤボじゃな。今の
「そ、その言い方が、ますます
無論、ワザとだ。
そんなことは承知の上で言葉の上でのじゃれ合いを(陽炎型の)姉妹間で交わしながらも、浦風は里芋の皮むき、(なりゆきでついてきた)浜風もサヤエンドウの筋取りを終わらせていた。
「浦風さん、浜風さん、ありがとうございます。じゃあ、今日は小鉢にする“里芋とサヤエンドウと鶏の煮物”の作り方をお教えしましょう」
ふたりの作業成果の入ったボウルを受け取った間宮が、ニコニコしながら、そう提案してくれる。
レシピ(それ)が目当ての浦風はメモを取りながら真剣に間宮の手元を見つめ、浜風も雰囲気に流されたのかまじめに覚えようとしていた。
──そして数年後。間宮から習った家庭料理の数々を振る舞ったことが、とある男性への
「……いや、それはないから」
浜風の勝手なナレーションに、思わず素でツッコミを入れてしまう浦風だった。
そして次回は最終回……そのあとに後日談(エピローグ)があるかもしれませんが。