艦娘ぐらし、始めました-Welcome to Kan-Colle world- 作:嵐山之鬼子(KCA)
人類の業というか執念深さというか、そういった諸々の代物を甘く見てはいけない。
隣に座って鼻歌なんぞ歌いながら編み物している“コイツ”の姿を見ている時、ふとそんなフレーズが脳裏に湧き上がってきた。
「……? なに?」
「あぁ、いや何でもない。続けてくれ」
「そう?」
簡潔な、いっそそっけないと言えそうなほどに短い言葉の応酬だが、別段俺とコイツは仲が悪いわけじゃない。むしろ、実家にいる家族を除けば、今一番親しいのはコイツだと言っても差し支えないだろう。
(とは言え、まさかコイツとこんな関係になるとはなぁ……)
俺は、士官学校を出てから久しぶりにコイツと再会した1年ほど前のことを思い出していた。
* * *
当初は圧倒的に人間側が不利だった深海棲艦vs人類の戦いも、艦娘と呼ばれる存在が生まれ、あるいは生み出され、活躍するようになると徐々に人類側が有利になっていった。
しかしながら、生きるか死ぬかのカツカツの状態ならともかく、余裕が出来てくると、いらんことを考えるのもまた人の
「人間を艦娘化する
……などと考えた
人類側の勝率が上がって、姫級、鬼級の撃破さえ(ある程度の味方の犠牲を容認すれば)可能になったからこそ、生まれた発想だろう。
ともに海の上を駆け、その体躯の大きさに見合わぬ強力な武装を駆使して戦う艦娘と深海棲艦だったが、個々の戦闘力を比較した場合、一部の雑魚を除けば、やはり深海棲艦側に軍配が上がる。
深海棲艦の上位個体を鹵獲し、あるいは生体組織の一部を手に入れた人間側の科学者たちが、そんなことを考えるのも、ある意味無理ないと言えば無理ない話なのだ。
もっとも、この「艦娘に深海棲艦の能力や強さを付加する」という試みは、結果的に失敗に終わった。
深海棲艦と艦娘は、言うならば吸血鬼と乙女の関係にたとえられるだろうか。
深海棲艦の体組織やその派生物を艦娘の身体に入れるというのは、乙女が吸血鬼に噛まれて血を吸われるようなもので、一定量を越えた瞬間、噛まれた方も吸血鬼(≒深海棲艦)と化してしまうのだ。
そこで次善の策として考えられたのが、「人間を人間らしい心を保ったまま直接深海棲艦に変える」という研究だった。
しかし、こちらもあまりはかばかしい結果は得られず、いくつかの実験とそれにともなう試験的な成功例と失敗例を生んだ後、結局この研究チームは解散されることとなった。
で……だ。
士官学校での同期のコイツは、俺と同様に“提督”の素質持ちだったが、それ以外に艦娘としての適性も高かったらしい。
女性だけでなく男性であっても、適性値が高ければ艦娘になれることは(一般公開はされていないが海軍内では)周知の事実であり、研究班はそれを踏まえて、コイツに人造深海棲艦実験への協力を要請したのだ。
一応、佐官の将校である俺達提督なら、協力要請を跳ねのけることもできたはずなんだが、生真面目なコイツは断らず、その身を“人類防衛のための科学の発展”に捧げることを決意する。
測定の結果、軽巡娘になる資質が高かったコイツには、軽巡棲鬼の因子が植え付けられ、約1ヵ月の経過観察が為されたのち、実験は失敗(一部のみ成功)と判断された。
てっとり早く言うと「軽巡棲鬼っぽいモノにはなったが、著しく不完全」だったのだ。
外見自体は、なるほど軽巡棲鬼とよく似てはいる。だが、本物の軽巡棲鬼と比べて肌は人間らしい健康的な色を保ち、また下半身にもしっかり足がある。さらに自力で深海棲艦系艤装を生み出すこともできない。
艦娘の那珂や阿賀野用の基本艤装であれば一応装備することはできるのだが、“本職”のふたりと比べると運用はぎこちなく、総合的な戦闘能力は「未改装の旧式軽巡娘」程度で、軽巡棲鬼には遠く及ばなかったらしい。
劣化深海棲艦を作るくらいなら、素直に艦娘を作って運用する方が(安全面でも経験蓄積面でも)お得だ──と判断され、めでたく(?)コイツはお役御免となったわけだ。
とは言え、まがりなりにも深海棲艦の要素を持つ実験体を普通の軍や一般社会に戻すわけにもいかない。
いずれかの鎮守府で経過観察も兼ねて引き取ることになり、その際、白羽の矢を立てられたのが、コイツの同期のオレだった。
基本的に人間から艦娘への変化は不可逆だ。
いや、基本艤装とのリンクを断ち切り“解体”することで、限りなく人間に近づけることは可能だし、普通はそれで問題ないのだが、男性から艦娘になった者にとっては大きな問題が残る。
すなわち──“解体”したからといって、艦娘化時に変化した容姿(性別含む)が元に戻るわけじゃないのだ!
元が体重100キロオーバーのメタボなデ●だろうが、バーコード頭の中年男だろうが、艦娘化すれば10代から20代初めの美女・美少女になり、艦娘である限り、その容姿は変わらない(正確には老化速度が常人の10分の1以下になる)。
“解体”すれば流石に歳をとるようになるが、それでも女性化した身体は男には戻らない──女のままだ。
まして、コイツの場合、深海棲艦化の実験サンプルということもあり、実は“解体”すらされていない(正確には「できなかった」らしい)。
「──そういうワケで、今後、そちらにお世話になります」
士官学校の同期の中ではそれなりに仲が良かったはずのコイツが、他人行儀な口を利くのも、これだけの運命の激流に流された以上、そりゃ無理はないか。
「お、おぅ。ま、まぁ、それほど肩肘張らず、のんびりやっていこうや」
俺としても、学校時代に教官の目を盗んで一緒に色々バカやった友人が、見目麗しい(それこそアイドルデビューしても通用しそうな)15、6歳の女の子の姿になったとなると、いささか戸惑う。
「あんまり実戦には出すなって上から言われてるからなぁ……うーん、とりあえず俺の秘書艦と、この基地やみんなに慣れてきたら演習での教導を頼もうかね」
* * *
アイツ──“軽巡棲鬼”からとって「ケイキ」と呼ばれることになった“彼女”が、この鎮守府に来てひと月余が過ぎた。
ケイキは、秘書艦としては極めて有能だった。
書類関連の事務能力は折り紙付き、実戦を指揮する提督の補佐役としても気配りがいきわたっている。
仮に俺が緊急の要件で数日間鎮守府を留守にしても、即座に代役が務まるだろう。
(考えてみれば、アイツも元は提督候補だったんだから、当たり前だよなぁ)
逆に言うと、本来は俺と同じ立ち位置で艦娘たちを指揮するはずだったなのに、今は俺なんかの副官的な立場にいるんだ。
口には出さないがそれなりに思うところがあっても不思議じゃないだろう。
だが、アイツは少なくとも俺たちの前で、そんな素振りを見せたことはない。
むしろ最近では、再会当初の堅く思いつめたような表情や態度も幾分緩み、俺の前でも学校時代(むかし)ほどではないが、冗談めいたものも稀に口にするようになっている。
ウチの艦娘たちとの仲も、最初こそややぎこちなかったものの、駆逐艦を始めとする年少組がすぐに懐き、それに伴い、年かさの艦娘たちとも徐々に打ち解けるようになった。
いい傾向だ、とは思う。だが、だからこそ少々やる瀬ない気もする。
「──というわけで、頑張っているケイキちゃんに、特別休暇が支給されることになりました~」
わー、ぱちぱち……と自分で拍手する俺を、アイツは溜息をつきながらジロリと睨んでくる。
「いえ、いきなり“というわけで”と言われましても」
こういう時、素直にノッて来ないでマジレスする辺り、士官学校時代と変わってないな。
「ま、てっとり早く言えば、強制的に明日明後日の土日は休んでもらうってこった。お前さん、鎮守府(こっち)に来てから、一日も休暇をとってないだろ。
ウチはどこぞのブラ鎮とは違う、週休2日・有給完備・残業極小の明るいホワイトな職場環境がウリなんだ。
その提督(トップ)の傍らにいる秘書艦が過労やストレスで倒れたりしたら、シャレにならんだろ?」
そんな風におどけて見せたが、はて、アイツの表情はあまり嬉しそうではない。
「休み……と言われても。することはありませんし、むしろ何をして時間を潰せばいいのか……」
──は?
いや、待て。確かに士官候補生時代も、勉強と鍛錬が趣味みたいな堅物で、俺や他の友人たちが引っ張り出さなければ、延々と自習してるか訓練室で自主トレしてるようなヤツだったな。
やむを得ん。ここはひと肌脱いでやるか。
「よーし、じゃあ、仕方ないな。それなら、明日は俺とデートしようぜ!」
* * *
「──ヤっちまったぁ~~!」
真っピンクの色彩に彩られた見知らぬベッドルームで目が覚めた時の第一声は、我ながら存外芸がなかった。
温かみと重みを感じる右腕の方におそるおそる視線を向けると、そこには阿賀野と那珂を足して2で割ったような美少女の寝顔がががが……。
ちなみに、上掛け布団からのぞく肩を見る限り、少なくとも上半身は裸っぽい。そして、己の足にからみつく滑らかな太股の感触から推測すると、下半身も……。
「どうしてこうなった……」
俺は、昨日のデートの記憶を必死で脳裏に手繰り寄せた。
……
…………
………………
「呉鎮守府の腕白小僧」の異名をとる柳沢中佐が、自らの保護観察下にあるケイキ──元・軽子坂少佐であった人造深海棲艦の少女と共に外出した当初は、彼の思惑通りに事は進んでいたんだ。
「その方がデートっぽいから」という理由で、最寄りのJRの駅前で待ち合わせ、先に着いていた柳沢の前にケイキが(いつになくモジモジした表情で)姿を見せる。
「あ、あの、提督、お待たせしてしまいましたか?」
「いんや、俺も今来たところ……って、見違えたな!」
ケイキは鎮守府で着ているシンプルな黒一色のワンピース姿(軽巡棲鬼の衣装を簡略化したもの)とは真逆の、カラフルで女の子らしい格好をしていたのだ。
白に近い薄水色のハイネックワンピースの上に、レースとフリルで随所を飾られた深紅の長袖ボレロを羽織り、足には純白のタイツと黒のアンクルストラップパンプス。
髪型こそ普段と同じく中華風シニョンだが、勤務中と違い、お団子をピンクの細いリボンで束ねているのがお洒落だ。
いつもより肌の露出が大幅に減っているにも関わらず、逆に(矛盾した表現だが)女らしく清楚な色気が感じられて、少佐はガラにもなくドキッとした。
「お、おかしいですか?」
「全然! むしろすっごく可愛いぞ」
彼らしくもない素直な賛辞が口からこぼれたのは、それだけドギマギしていたせいかもしれない。
「! そ、そうですか。(よかった♪)」
(おぉぅ、薄桃色に頬を染め、俯き気味に恥じらう様子もまた良し──って、こんなところで思春期のチューガクセーカッポーみたいなやりとりしてる場合じゃねぇってばよ!)
「(コホン)そ、それじゃあ、い、行こうか?」
周囲の生暖かい視線を意識した軽子坂提督の声が、若干どもり気味だったことは、見逃してあげるのが武士の情けだろう。
……
…………
………………
「と、とりあえず映画の時間が迫っているから、行こうぜ」
初デートに於いて「映画」は最強の選択肢。異論は認める。
というのも、「隣り合わせに座って時間を共有」しつつ、「何か話さなくても間がもつ」というデート初心者にとっての難問をふたつをいっぺんに解決してくれるからだ。
「──だよな。あそこで主人公のあの反応はないよなぁ」
「そうですね。さすがに、ヒロインが可哀想かと」
さらに映画館を出た後、喫茶店なんかで先ほど観た映画の感想なんかを話し合えば、とりあえずの話題に困ることなく、ごく自然に話し合えるし(無論、観る映画はある程度選ばないといけないが)。
──え? 「童テイ督の癖に、よくそんなコトしってたな」?
どどどど童貞とちゃうわ! いやマジで……まぁ、恋人とかではなく、そのテのお店のおねーさんが相手なんですけどね!
ちなみに、今回のデートプランをアドバイスしてくれたのは、「柳沢提督秘書艦ズ」の面々──元筆頭秘書の大井&その
「元」の字がつくのは、ケイキがウチに来て以来、秘書艦業務の大半はコイツが取り仕切っているからだ。
金剛とか榛名とかのグイグイくる系艦娘たちに秘書艦任せると公私の境目がヤバそうなんで、今までは大井達に任せてたんだが、コイツが来てからは自分でその垣根を崩しちまったなぁ。
(まぁ、それを言ったら今更か……)
元々コイツは、昔──士官学校時代からの友人だし、特別意識はしなくとも時々、「単なる上司と部下」ではないフランクな話し方をしちまってた気がする。
もっとも、コイツの方は堅物気質もあいまってか、あまりそういう“壁”を崩さないような丁寧な言葉遣いを心がけてたみたいだけどな。
そんなことを頭の片隅で考えつつ、テーブルの向かい側に座るコイツの顔を眺めていたら──なぜか突然ソワソワしたような落ち着かない表情を浮かべてケイキが視線を逸らした。
「あ、あの……提督、そんなに見つめられると落ち着かないのですが」
「(コイツ、結構まつ毛長いな。黒髪にも“天使の輪”ができてるし……)おっと、スマン。ちょっとぼぅっとしてた」
「? 何か気になることでも?」
「いや、その空色の瞳も綺麗だなって……」
「!」
──待て、今俺は上の空で何を言った?
「……」「……」
気まずい(というか甘酸っぱい)沈黙が、ふたりの間に落ちる。
ふ、イキがってみても、所詮は素人童貞のデート未経験者。我は呉鎮守府の提督でも一番の小物よ!(←自虐)
「(な、何とか話題を見つけて空気を変えねば)あ~、そう言えば、オマエさん、あんまり私物を持ってないって前言ってたよな? 夕飯まではまだまだ時間はあるし、ちょっと買い物してかないか?」
懸命に頭を捻って、なんとか無難そうな行動指針を提示する。
「は、ハイ、その、提督がよろしければ……」
顔を真っ赤にして蚊の鳴くような声で答える“少女”の様子は、著しく男の保護欲をそそる……って、いかんイカン。
コイツと俺とは同期の桜の友人! 今は
「──別にいいのに(ボソッ)」
ん?
そのあと、士官学校時代(むかし)とった杵柄で、プールバーに行って久々にビリヤードした後、いい頃合いなので秘書艦ズ推薦のレストランに行って飯食って……。
で、食後の散策時に、せっかくだからって
──ズキッ!
一瞬の頭痛とともに脳裏に“その後”と思しき光景が断片的に浮かび上がってきた。
……
…………
………………
当初、柳沢中佐は同行者(ケイキ)がいる手前、それほどアルコール度数が高くない飲み物を頼み、自重していたのだ。
しかし、肝心のケイキの方がスクリュードライバーを筆頭にゴッドファーザーやホワイトレディ、バカルディ といった「飲みやすいけど度数高め」なカクテルをパカパカと飲み干してしまった。
ちなみに、外見上、15歳前後、上に見積もってもせいぜい17歳程度にしか見えないが、彼女は柳沢の同期なので間違いなく二十歳は超えており、酒を飲むこと自体は法律上問題はない。
問題ないが……士官候補生だった頃から真面目小僧だったケイキ(元・軽子坂少佐)は、実はアルコールを嗜む習慣がなく、乾杯時のビール等を少し口にした以外では、ほとんど初の本格的飲酒体験だった。
当然「飲むペース」なんてものもわかってるはずがない。
そんなケイキの様子に、つい釣られて柳沢も杯を重ね、店(バー)を出るころにはふたりとも「ほろ酔い以上泥酔未満」といった状況(コンディション)に陥っていたのだ。
かろうじて残っていた理性で、このまま鎮守府まで帰るのは難しいと判断し、近くの無人ホテルに部屋(もちろんツインだ)を取り、酔いを醒まそうとした柳沢の判断は、決して下心あってのものではない。
だが──あまり表には出さないものの男にベタ惚れしている女がいて、男の側もそれなりに女に好意を抱いており、かつ酒が入り、さらに同じ部屋でふたりきり……という状況で何も起きないはずもなく。
「ふぁっ、やん……く、くすぐったい」
「ひゃ、んぅ! 指、もぞもぞして……ふひゃぁっ! そんなっ、穴の中に指いれちゃ……ひゃぅン!!」
「あっ、あぁぁっ……そんな、そこ……ヒャッ! き、汚いですよ?」
「んんぅ、そ、そんなこと言われても腰が勝手に勣いちゃうんですよォ」
「ひゃっ、くすぐらないでください。ふぁっ、あっ、あっ、ダメッ!」
「提督さん、あっ……ひゃッ、ふあっ! あぁ、入って……きて、ひぃゃ
あっ、だ、ダメ!!」
「ひぃやあぁぁっ……て、提督さんの、大きくて……私の中、壊れちゃいそう……あひゃンっ!!」
「ああ、激しい……あ、ひャッ、んああっ! ふああっっっ!!」
「ひぃゃ……も、もう……限かぃ…です……はあっ、あっ‥‥‥ひゃ、ふあン!」
──ビュクッ! ビュクルルルルルッッ!!
「あひゃンっ……提督の熱いのが、私のなかに……どんどん、流れ込んで……あああっ、あぁぁぁぁんっ!!!」
「ふぅ……ふぅ……こ、今度は私からシますね? んちゅっ……あむ」
「はむっ、んぅ……ちゅっ、んんぅ……どう、ですか?」
「気持ちいい? それならよかった♪」
「もうっ! 私をこんなにエッチな女の子にしたの、貴方じゃないですか。それじゃあ、イキますよッ……えいっ♪」
──このあと、明け方まで6回ぐらい“夜戦”した。
………………
…………
……
お、思い…出した!
──って、これ、どう考えても憲兵案件(アウト)じゃねーか!
これまで真面目に提督稼業続けてきたのに、それも今日まで。
嗚呼、俺も、稀に見るブラック鎮守府指揮官やセクハラ提督みたく、哀れ憲兵さんに「慈悲はない。イヤーッ!」「グワーッ!」されちまうのか。
そう思ってガクブルしてたんだが……。
あの後、目を覚ましたケイキは「お互い(少なくも戸籍年齢は)大人だし、酒が入ってのことだから」と笑って許してくれた。
「こんなコトで提督と変な溝ができる方が、私としては嫌ですし、そうなったら軍務に支障もきたすでしょう?」
(うぅ……エエ子や、ホンマ)
その場では、心の中でなぜか関西弁になってそう感激の涙を流したものの──お互いまったく変化なしというワケにもいかなかった。
まず、ケイキの側。
以前から多少その傾向はあったものの、勤務中も含め、明らかに俺との“距離”が(物理的にも心理的にも)徐々に近くなっている。最近では、秘書艦というより彼女──を通り越して“新妻”って感じがすることも。
でもって、俺の方もソレがそんなにイヤじゃない──というか、むしろ嬉しいと感じているのは、否定できない事実なワケで……。
結局、“あの日”から1ヵ月後。休日に再びケイキをデートに誘った俺は、「海の見える夕暮れの展望台」までドライブして、その場でケッコン(カッコガチ)を申し込んだんだ。
──え?
それは、今、俺にぴったり寄り添いながら、幸せそうに膨らみが目立ち始めた(ちなみに今、5ヵ月目だ)自らのお腹をさすっているコイツを見てもらえばわかるんじゃないかな。
元男の、しかも深海棲艦をモデルにした艦娘が、人間の男性との間に設けた子供ってコトで、いろいろコイツにも子供本人にも苦労をかけることになるかもしれない。
それでも、俺はコイツと──正式に籍を入れて、晴れて「柳沢螢紀(ケイキ)」となったこの娘(&お腹の子)と、人生を共に歩んでいくつもりだ。
<おしまい>
悪堕ち萌え属性低めの私は、普段あんまし深海棲艦には萌えないんですが、動画サイトとかでこの軽巡棲鬼のMMDが動いてるところを見て、ついスピレーションを刺激され、こんなのを書き上げてしまいました。
ちなみに、人間時代のケイキは、柳沢と同期なので当然自分の鎮守府を持っていたはずなのですが……軍内部のゴタゴタで初期艦がおらず、当然出撃もできないため勲功をあげられず、実質開店休業状態だったという裏設定があります。
それもあって、“実験”への参加要請を断らなかったのかも。