艦娘ぐらし、始めました-Welcome to Kan-Colle world- 作:嵐山之鬼子(KCA)
幸いにして薔薇の花も百合の花も咲くことなく(あたりまえだけど)、無事に初春ちゃんたちによる鎮守府内の案内は終わった。艦娘に関連する設備のことがわかったし、道すがら色々雑談してあの3人ともちょっとは仲良くなれたと思う。
「それにしても、鎮守府内にコンビニがあるんだ」
昔の、それこそ旧海軍でいうなら酒保に相当する施設なんだろうけど、そこに(委託とは言え)民間企業が入っているのは、時代の流れなんだろう。
ゲームの『艦これ』では鎮守府の施設なんて、提督の執務室以外は工廠と入渠施設、あとはせいぜいアイテム屋と家具屋くらいしかなかったから、意外ではあったけど、よく考えれば艦娘以外の軍人・軍属もいるみたいだし、日常生活に必要ではあるよね。
「申請書を出せば、非番の時なら艦娘も外出はできるんだけど、あれ、結構手続きが面倒なんだよねー」とは、白露ちゃんの談。
確かに、夜中にちょっと小腹が空いてお菓子買いに行きたいからって、わざわざ外出申請出すってのも、ねぇ?
そういう意味では、たとえ駅の売店に毛が生えた程度の規模とは言え、朝7時~夜中11時の16時間営業してくれる店があるのは地味に有難いかも。
それともうひとつ驚き……というか、ある意味納得だったのは、この“呉鎮守府”には複数(具体的には5つ)の鎮守府が置かれていること。
どうもこの世界における“鎮守府”って言葉にはふた通りの意味があって、ひとつは場所としての海軍基地そのものを指し、もうひとつが、ひとりの提督が統括・指揮する艦娘の集団(部隊?)の方を指すみたい。
確かに、ゲームの方でも「横須賀」や「舞鶴」といった鎮守府名=サーバーで、そこに何万もの
ひとつの鎮守府(部隊)に所属する艦娘は、おおよそ10数人~50人前後。提督がどれだけの艦娘を一度に編成・指揮できるかはかなり個人差があって、最大でも4艦隊24人が限界……っと、このあたりもゲームと同じなのかな。
ちなみにウチの井上提督の最大指揮数は18人・3艦隊だから、そこそこ優秀な方らしい。むしろ最大20人以上・4艦隊フルに指揮できる人材なんて、日本全体でも10人はいない超エリートなんだってさ。
(──なぁんて、考え事して現実逃避していたけど、やっぱりやる事はやらないといけないよね)
あの後、「部屋で荷物整理したいから」という理由をつけて、初春ちゃんたちといったん別れ、自室に帰っては来たんだけど……。
「コレ、私が開けちゃっていいのかなぁ」
ためらっていたのは、“
この身体を“奪って”しまったのは不可抗力だとしても、それに甘えて本人の私物にまで手を出すのは、プライバシーの侵害じゃないか、とも思うけど……。
「どうしようもない、か」
着の身着のまま……どころか、
覚悟を決めて、まずは積まれている上から箱を開封していく。
ひとつめは、日曜雑貨の入っている箱だった。タオル数枚に歯ブラシ&歯磨き粉、コップ、それに電気ケトルとマグカップ、紅茶の缶。布製の筆箱に入った筆記用具やノート。シャンプーとボディソープ、そして……。
「このポーチの中身は化粧道具かぁ」
よく見れば、それ以外にも、箱には洗顔フォームだとか化粧水とかも入ってるみたい。
外見年齢的通りなら15、6歳だから、こういうのを持っててもおかしくはないんだろうけど、艦娘とお化粧ってあんまり結びつかないなぁ。
「まぁ、いいや。私服で外出する時とかに必要になるかもしれないし、しまっとこうっと」
寮の談話室に共用で使えるノートPCがあったから、折を見てネットで使い方とかも調べておかないと。
「あ、お財布!」
助かったぁ、これで一文無しじゃなくなる。
財布の中には数千円分の現金以外にキャッシュカードも入っていて、名義はローマ字で「MINAMI TOURA」と記してあった。
(戸浦、それとも渡浦かな? 名前の方は“南”か“美波”か、あるいはひらがなで“みなみ”とか)
なんとなく直感的に「戸浦美波」が正解のような気がする。
それにしても──「とうらみなみ」か。「みうらみなと」のアナグラムだけど、それって今の状態に何か関係あるのかなぁ。
「あっ! カードあっても、暗証番号わからないと意味ないじゃん」
ガックリ肩を落とし、お金のことは提督か大淀さん達に相談しようと決意する。
幸いにして、翌日、大淀さんから「艦娘・浦風」の給料用の新しいキャッシュカードを渡されて、その時に暗証番号も改めて設定した事で、お金の心配はなくなるんだけどね。
箱の一番底にはバスタオルが入ってたから、とりあえず歯磨きや洗面だけじゃなく、お風呂も問題ないかな。
ふたつ目の箱を開けると……。
「わ! こっちは衣類なんだ」
一番上には寝間着がふた組。水色の長袖でトレーナータイプの上下と、半袖でピンク色のロングTシャツタイプという、どちらも比較的シンプルなデザインだ。フリルやリボンがたっぷりついた可愛らしいネグリジェとか透け透けのベビードールとかでなかったのは、正直助かる。
(いや、でもまぁ、15、6歳の女の子がベビードールはないよね)
あ、でも、艦娘の容姿は
(私服を見たら、そのヘンも想像つくのかな?)
そう思って、箱から他の服も取り出してみる。
白い長袖ブラウス、紺デニムのミニスカート、オレンジ色のサンドレス、若草色のカーディガン……。
「うーん、よくわかんないや」
身体に当ててみた感じ、大きすぎたり小さすぎるってことはなさそうだから、体格的には今と似たようなものなんだろう。さっき明石さんが計測してくれた浦風の身長は159センチ。ミドルティーンから成人女性までの間なら、どの年代であっても不自然じゃない感じだし。
服の傾向的にも、あまり子供っぽくはないけど大人っぽくもないから……推定年齢14~19歳ってとこかな。
──たぶん、調子に乗ってたんだろう。
厳密には自分のものではないけど、自分のものにしても誰にも咎められない“秘密の箱”を開けて中を確認する作業に、いつしか夢中になっていた。それに、恋人も姉妹もいなかった“
プライバシーの侵害に対する僅かな罪悪感も「だって、この状況じゃあ、しょうがないじゃん」という
でも、3つめの箱を開けて、何気なく中身を手に取った瞬間、そんな
「ちょ、コレ、下着!?」
別に、格別ハレンチだったりセクシーだったりするわけじゃない。
むしろ、白や水色、クリームイエローといった控えめな色合いで、素材も(たぶん)大半がコットン、一部が化繊。柄物は少なくて、無地かせいぜいワンポイント程度、
それでも、恋人いない歴=年齢だった元・男にとって、至近距離で見るショーツやブラジャー、スリップ等の視覚はもちろん触覚&嗅覚(なんかやわらかくていいにおひがした)面でのインパクトは鮮烈過ぎた。
「あ、え、ちょっと待って、もしかして……」
と同時に、つかの間忘れていた現状──今の自分がまぎれもなく女性で、つまりこれからは目の前の下着類(+先に出した衣類)を自分自身が身に着けないといけないのだってことも、思い出しちゃったんだ。
真っ赤になってわたわたしている私の様子は、
「と、ともかく! 荷物の整理を続けないとッ!!」
羞恥とか躊躇とか諸々の感情はいったん棚上げして、十数枚の下着類を取り出し、そっとベッドの上に置くと、3つ目の箱の残る中身を見てみる。
幸い、下にあったのは本──小説やマンガの類いで、おかげでいくらか落ち着きを取り戻すことができたんだ。
本のラインナップは、少女向けラノベが10冊、マンガが同じく10冊、古典名作の文庫版が5冊に、料理の入門書と大戦時の歴史解説書という構成で、元の持ち主がそれなりの本好きかつ割と真面目な性格だったことが見てとれた。
「これで全部かぁ」
年頃の女の子としてはあまりに荷物が少ない気もしたが、いまは幸いひとりとは言え、
極力「無念無想」「明鏡止水」の心境を保とうと努力しつつ、取り出した衣類を部屋備え付けのタンスにしまう。
その横の3段組カラーボックスの最上段に本を並べ、残りのこまごました雑貨類は、とりあえず箱のひとつに入れてカラーボックスの上に積んでおく。
「外出許可書を書いて、つぎのお休みの日に籠か何か買って来ないといけないかなぁ」
どこぞの干物女やズボラなOLじゃあるまいし、ゆ〇パックの箱に浴用品や化粧品をしまっているのは、さすがに年頃の女の子としては失格だろう。
──もっとも後日、重巡・足柄さんの部屋を訪問する機会があったんだけど、見事に散らかってるばかりでなく、引っ越し用の段ボール箱をそのまま使っているのを目撃することになった。飢えた狼ェ……。
逆に予想外にキッチリしてたのは、軽巡の多摩さん。猫っぽいキャラだから、てっきりものぐさで部屋も散らかり放題かと思ったら、すごくキチンと整理されてたし、さりげなく女の子らしいインテリアとかも置いてあったんだ。
駆逐艦娘のなかだと、実は年少組(?)の朝潮・雷ペアの部屋が、いちばんキレイに整理されてたのは……うん、まぁ「委員長」と「ロリおかん」だから納得ではあるかな。初春・睦月組は、可もなく不可もなく普通。磯波・白露組の部屋も、総合的には普通レベルなんだけど、白露ちゃんが散らかしたのを磯波ちゃんが懸命に片付けて、なんとかその均衡を保ってるのがありありとわかるから、ちょっと彼女が不憫だった。
……他人事じゃないのか。私も