艦娘ぐらし、始めました-Welcome to Kan-Colle world- 作:嵐山之鬼子(KCA)
「お菓子と言えば、確かここ、“間宮”もあるんだよね」
自室のカラーボックスにもらったお菓子をしまったところで、ふと、そんなことを思い出した。
第二次大戦時には、軍艦で勤務する軍人達に大人気を誇った給糧艦・間宮。『艦これ』においても、給糧艦娘として実装され──と言っても、いわゆるNPC的な扱いだけど──彼女が生み出す甘味の数々は、往時と同様に艦娘たちを魅了する……らしい。
実際のゲームでは、一種の課金アイテム的な扱いで、使用すると彼女の造ったアイスクリームを振る舞ってくれて、疲労が回復するんだよな。
一方、コミカライズやアニメ、あるいは二次創作なんかでは、お店を構えていて、非番時の艦娘たちの憩いの場になってる……って描写が多い。
さっき初春さんたちに基地内を案内された時も、赤レンガの本部の横に、いきなり“峠の茶屋”っぽい建物があって、何かと思ったら「ここが、かの有名な間宮じゃ」って教えてもらったんだ。
「ちょっと興味あるかな」
アニメでも吹雪とか北上とかが、和風パフェっぽいモノを食べてたし……。
「今は──16時過ぎか。晩ごはんまではまだ時間があるし、行ってみようっと」
そんなこんなで甘味処「間宮」に足を運んでみた。
「いらっしゃいませー!」
中に入ると、ゲームでお馴染み(って言うほど、使ったことは実はないけど)藤色のブラウスと青いロングスカートの上に割烹着を着た妙齢の女性──間宮さんが、優しい笑顔で出迎えてくれる。
「あら、貴女は確か今日着任した……」
「はい、陽炎型駆逐艦11番艦・浦風です。未熟者ですが、以後、よろしくお願い致します!」
うーん、たった半日で、この自己紹介と敬礼にも慣れて来た感じがするなぁ。
「はい、こちらこそよろしく。そうだ! 浦風さん、よろしかったら着任祝いに何かご馳走しましょうか?」
「えっ!? それは、正直すごく嬉しいですけど……いいんですか?」
「ええ。新しくこの鎮守府に来た艦娘の皆さんには、同じようにさせていただいてますから」
せっかくなので、そのお言葉に甘えることにする。
待つこと3分足らずで、間宮さんがお盆に載せて運んできてくれたのは……。
「はい、間宮特製アイスクリームを使用した、クリームみつまめです」
「わぁ、美味しそう♪」
公式で艦娘たちの
アニメで大井と北上が食べさせっこしてたヤツほど大きくないけど、あと2時間もすれば夕飯だろうから、これくらいでちょうどいいかな。
「で、では早速、いただきます」
長めのスプーンで、まずはアイスの部分からひと匙すくって、口に入れる。
「!! ほわぁ~」
──ヤバい。コンビニの百円アイスは元より、アイス専門店のちょっとお高めのアイスと比べても、こっちの方がメッチャ美味しい!!
顔がだらしなく笑み崩れてるのが自分でもわかる。
そもそも「俺」は甘いものは嫌いじゃないけど格別好きってほどでもない、あれば食べる程度の嗜好だったんだけど、今の「私」は身体が艦娘になったせいか(あるいは単に女の子の味覚だからか)、この間宮アイスを舌に載せただけで「至福」という言葉の意味を
(そりゃ、こんなの食べたら、キラキラもしますよ、猿●さん!)
意味不明な独白を心の中で垂れ流しつつ、夢中になってスプーンを進める。
アイスだけじゃなくて、その周囲に盛り付けられたワラビ餅や白玉、寒天、フルーツに至るまで美味し過ぎて手が止まらない。
そして、さらに黒蜜ベースのタレの底に1センチ角ぐらいに切られた小豆色の塊が沈んでいる。
「! これは……羊羹?」
「はい♪ アイスと並ぶウチの自慢の
すでに様々な“甘さ”を味わってきたばかりなのに、その絶妙なバランスの甘さととろみと舌触りのハーモニーが、新たな感動を舌に巻き起こす!(自分でも言ってる意味がよくわかんなくなってきた)
間宮と言えば羊羹、羊羹と言えば間宮、そんな超有名絶品和菓子をこんなトコロにまで使っているとは、畏るべし甘味処「間宮」!
小さめのお茶碗くらいの器に盛られたクリームみつまめを、またたく間に完食した私は、早くも暇さえあればこの店に通う気満々になっていた。
「ご馳走様、とっても美味しかったです。ありがとうございました」
奢ってくれた義理とかそんなの関係なしに、心からの感動と感謝の意を込めて、間宮さんにお礼を言う。
「はい、お粗末様です。でも、今来てくださってちょうど良かったです。あと30分遅いと、お店閉めてるところでしたから」
あれ? 「間宮」ってそんな早くに閉まるの?
「はい、17時からは艦娘用食堂の方に移動して、晩御飯の用意をしないといけませんから」
言われてみれば、確かに当たり前の話で、給糧艦としては、おやつ・デザート以上に、三食の食事に力を入れるのが本道だよね。
「もしかして「間宮」の営業時間って、すごく短いんですか?」
「そうですね。特にイレギュラーなことがなければ、午前中は9時半から11時、午後は14時から16時半までで、基本的にお夕飯後には営業していませんね」
「伊良湖ちゃんがいると、それ以外の時間も任せられるんですけど……」と、間宮さんはちょっと残念そうだ。
なんでも日本国内に12ヵ所ある鎮守府(警備府や基地・泊地含む)には、間宮さんか伊良湖さんのどちらかが大本営から派遣されていて、両方がいるのは横須賀と舞鶴だけらしい。
ちなみに、朝昼晩の食事に関しては艦娘用食堂と隣接する厨房で作っており、司厨長格の間宮さん以外にも軍属扱いの調理師2名、さらに艦娘からの有志数名が手伝ってくれるんだとか。
そりゃそうか。この呉鎮守府に所属する艦娘だけでも100人は下らないって話だし、それを独りで用意するなんて、どんだけブラック勤務なんだって話だし。
(手伝ってるのって鳳翔さんを筆頭に、瑞鳳とか龍鳳とかの良妻軽母組なんだろーなー)
一応「駄目提督製造機三号」枠の“浦風”としては、調理スキルを上げるためにも、もしかしてソレに参加しておいた方がいいんだろうか?
(「俺」は、独り暮らしの男子学生としては多少は自炊もやってた方だと思うけど、作れるのは雑な男飯レベルだし)
野菜炒めとかカレーとかの、「適当に切った具を炒めるor煮る」で作れる学校の家庭科レベルものオンリーで、手の込んだ料理は未体験だ。
そのレベルでもいいのか、と間宮さんに聞いてみたら、それで十分なので手が空いてる時に下拵えなど手伝って欲しいって言われちゃった。よっぽど人手不足なのかな。
「お給料なんかは出せませんけど、その代わりに簡単なレシピとかは教えてさしあげられると思いますよ」とのことなので、鎮守府での暮らしに慣れたら手伝うことを約束して、私は「間宮」をあとにしたのだった。