『愛』と『平和』の為に 〜Love&Peace~   作:とある世界のハンター

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第25話 ヒーロー覚醒

 

 

 

 

 

 

 

「甘いデス」

 

「ぐっ...」

 

 鉄のような鈍い音が、地下室の中に響いた。それに遅れて何かが倒れる音。

 腹部に強烈な蹴りを喰らった希桜音は、膝から力なく倒れた。今彼女たちは、地下室にて生身での戦闘をしていたのだ。だがそれはもう終わり、エモーはパンと手を叩いて希桜音に手を貸した。

 

「まぁ、動きはいいですケド...後は経験ですね」

 

「そうですか」

 

 よろよろと立ち上がった希桜音は、自身についた埃を叩きながら1階へと戻る。

 日は西へ傾き、橙となって地を照らしている。希桜音は台所へと赴き冷蔵庫を開いた。

 

「今日は何デスか!!?」

 

「...カレーですけど」

 

「Wow!私カレー好きなんですヨ!」

 

「毎回それ言ってません?」

 

 取り出した野菜達をトントンと鳴らしながら切る希桜音は、エモーに福神漬けを買ってくるよう指示した。料理に於いては希桜音の方が立場は上だ。エモーは飛ぶようにして事務所を後にして、スーパーへと向かうのだった。

 

 

 


 

 

 

 日は沈み、空は黒く染まった頃、希桜音は壁にもたれかかってエモーの帰りを待っていた。机には既に夕食が揃えてある。後は福神漬けと食べる人間さえあれば食事の時間になるのだがと、希桜音は窓から外を眺める。

 

『スーパーまで十数分だろ?随分遅いな』

 

「どこで油売ってんだか...って、きたきた」

 

 窓から見える道には、ルンルンとスキップしながら事務所へ戻ってくるエモーが見えた。戻ってきたエモーに何をやっているのだと、希桜音は問ただそうとしたのだがある物を投げ渡された。

 

「駅前で鯛焼きが半額で売ってまシタ!後で食べまショウ!」

 

「これ前テレビで話題になってた、ってそういう問題じゃなくて」

 

 分かりましたと手を挙げて、エモーは洗面台へと向かう。反省の色が見えない上司に腹を立てたい希桜音だったが、それより先に食事だ。福神漬けを皿に乗せ、さぁ今から食そうという時に事件は起きた。

 

「Explosion?」

 

(ヴィラン)来ましたね」

 

 外から聞こえた爆発音。椅子から飛び上がるようにして、2人は窓から爆発音のした方向を見た。窓から見えるのは、燃え盛るビル、そして街。泣き叫び、混乱に陥る市民の声。

 

「行きますヨ。ロード、バイクを」

 

 ガチャっと窓を開けて飛び降りたエモーはバイクを出す指示を出した。だが既に準備はしてあるようで、同じく飛び降りた希桜音はビルドフォンにライオンフルボトルを挿してマシンビルダーへと変形。運転はエモーに任せて希桜音はバイク後方に跨った。

 

 

 


 

 

 

 街の中心部へ向かうに連れ、人集りは多くなっていく。道路での移動は逃げ惑う人々の邪魔になると、彼女らは屋上からの移動に切り替えた。

 

「Look!あのMonsterは...」

 

「脳無!」

 

 彼女らの目線の先には、街を破壊している化け物(脳無)がいた。(ヴィラン)連合の仕業かと希桜音は判断したが、先に地上へと降り立ったエモーに目が行き意識を戻して、1歩遅れながらも続く。

 

 【Ready Go!】

 

 ラビットタンクに変身していた希桜音は、持ち前のジャンプ力を活かして脳無への距離を縮めて、手にしたドリルクラッシャーにユニコーンフルボトルを挿して頭上から突き攻撃。脳無を怯ませることに成功した。

 

 ━━━━━━━━脳無が二体、ヒーロー複数、市民の影は無し...

 

「Oh...感情が無いようデス、所謂破壊兵器と言った所でショウカ」

 

「誰あんた!!?」

 

「紹介遅れまシタ、最近コチラにヒーロー事務所を構えましたエモーと言います、以後お見知りおきを」

 

「ンな時に何やってんだ!!」

 

 ヒーロー達のこの悲惨な光景を前にしたとは思えない話に、希桜音の怒りは上がっていく。

 

「エモー?アンタの個性は」

 

「私の個性は'感情誘導'。戦闘意欲の収縮等できマス...が、このMonster相手には通じないようデスね」

 

 空を飛んでいる脳無の攻撃を去なしながら、彼女はそう言う。今彼女たちが戦っている脳無は、翼の生えた脳無と、パワーに特化した脳無の2体。

 

「ザ・フライさんがやられてますシ、今空中戦は不利のようですね。ロード!」

 

「未だ学生なんだけどなっ!」

 

 【タカ!ガトリング!BEST MATCH!】

 

 【 Are  You  Ready ?】

 

「ビルドアップ!」

 

 【天空の暴れん坊!ホークガトリング!yeah】

 

 ホークガトリングフォームへと変身した希桜音は、空を飛ぶ脳無目掛けてホークガトリンガーを乱射した。銃弾に怯んだか、翼の脳無は空高く飛び上がってその場から離れる。

 

「あれって雄英の子じゃねーか!?アンタ学生を守る立場「Shut up!」

 

 飛び上がる希桜音を見送ったエモーは前へと出ながらこう叫んだ。

 

「優先すべきは市民を守ること!ワタシ達がすべき事は目の前のMonsterを倒す事!2体相手でコレだけ苦戦してたのなら、戦力が半分になれば勝機はあるでしょう!Do you understand ?」

 

 いやしかしだなと反論するヒーローは未だいた。しかしそんな口論を交わす余裕はくれないようで、残った脳無は破壊活動を止めない。プロヒーロー達は目の前の(ヴィラン)を止めるべく、戦闘を再開するのだった。

 

 所変わって保須市上空。希桜音は射程ギリギリで距離を保ちながら、ホークガトリンガーを乱射して脳無を攻撃していた。だが攻撃が効いている様子はあまり無い。

 

「まずコッチを見ろ!!」

 

 どこかへ飛び続けている脳無を捕らえようと、希桜音は至近距離まで距離を詰めた。だがそれは愚策、脳無は翼で希桜音を振るい払い、ビルの屋上へと叩き落とした。

 

「チィ...!」

 

 翼の脳無はその場を後にして、地上付近へと降下する。地上には人の叫ぶ声、ヒーローを呼ぶ声。希桜音は再び飛び上がって脳無を追った。

 脳無を再び視界に捉えた、だが目に映るのは泣き叫び飛ばされた市民。

 

「うをっ!?」

 

 咄嗟に民間人を受け止めた希桜音だったが、死角からの殴打を喰らってビルへと吹っ飛んだ。視界の端に映るのは、翼の脳無。

 

「くっ...そがァぁ!!」

 

 崩れ落ちるように地面へと落ちた希桜音は、民間人をほっぽいてスクラッシュドライバーを取り出した。

 

 【ドラゴンゼリー!】

 

「変身!」

 

 【潰れる!流れる!溢れ出る!】

 

 【ドラゴンインクローズチャージ!ブルァ!】

 

 クローズチャージへと変身した希桜音は、目の前の脳無目掛けて飛び上がった。足りない飛距離はゼリーを噴出させて補い、左腕のツインブレイカーを構える。

 

「キャアアア!!!」

 

 下から聞こえる叫び声。ふと目をやると、そこには落ちる瓦礫とその下にいる子供。小学生程度の女の子、髪は金髪で両サイドにお団子が作ってある少女がそこにはいた。

 

 ━━━━━━━━助け

 

 られない。体が許さない。

 体は目の前の(ヴィラン)を倒すことを望んでいる。スクラッシュドライバーを使ってきて、今までこんな事はなかった。誰かを助ける為に使ってはこなかった。

 

 ━━━━━━━━動け 

 

 動かない。これ(スクラッシュドライバー)の使用用途は、誰かを救う為ではない。戦争の為の兵器だ。

 

 ━━━━━━━━動けよ

 

 あと1メートル。瓦礫が少女を押しつぶすまで、あと1メートル。

 

 ━━━━━━━━なんで

 

 なんで、こんな時にあの言葉が

 

「アナタの原点(オリジン)は、何?」

 

 ━━━━━━━━私の、私の原点は

 

 浮かぶ。あの時の情景が。

 今にも押し潰されそうな、あの子の姿が。

 

「ッ...」

 

 砕ける音。瓦礫が砕かれた音。

 少女の目の前には鎧に身を包まれたヒーローが、そこにはいた。

 

「あの、」

 

 声を掛ける、よりも早くそのヒーローはその場から離れた。飛んだのだ。(ヴィラン)を倒すべく。

 

「皆さん逃げてくだサーイ!」

 

 人々の後ろから聞こえたのは、流暢とは言い難い避難誘導の指示。逃げ惑う人々は、彼女のいる方向へと一目散に駆け始めた。

 

 ━━━━━━━━こんな土壇場で目覚めるのか

 

「すごいですネ、彼女は」

 

 彼女、エモーは右肩のクローズドラゴンへ話し掛けた。クローズドラゴン、その中の2人は事務所へ置いてけぼりを喰らっていたのだ。追い掛けようと外へ出たところを、たまたまマシンビルダーに跨ったエモーに回収されたのである。

 

『これで、アイツはもう兵器じゃない...』

 

「と、良いですネ」

 

 保須の上空で、ヒーローの再誕を祝うような轟音と共に空中戦が幕を開けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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