『愛』と『平和』の為に 〜Love&Peace~   作:とある世界のハンター

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第32話 ハザードの信号

 

 

 

 

 

 

「...」

 

 あれから幾分経っただろうか、体は時間という概念すら忘れて空間すらも歪めたようだった。彼女、小兎謚 希桜音の足元はおぼつかない。

 

 ━━━━━━━━ご飯の匂い

 

 イヤに嗅覚が敏感になっている。他は疎かになっているようだが。

 白と黒に点滅する世界の隅に映る引き戸に彼女は手を掛ける。中はザワザワと騒音にも似た和気藹々とした声で満ちているようだった。

 

 ━━━━━━━━やめてよ

 

 火傷痕がメラメラと燃え始めたような気がする。これもまた、何かを欲しているのだろうか。

 希桜音はフゥっと一息吐いて、思い切りドアを開けた。そこから先は、もう退けない。

 

「ご飯ー!!」

 

「希桜音ちゃん!体大丈夫?」

 

「うん、大丈夫。いただきまーす!」

 

 たったっと空いてる席へと駆けて行き、手を合わせていただきますと言い放って箸を持つ。傍の蛙吹に心配されながらも、彼女はバクバクと夕食を胃袋へと詰めていく。まるで何もなかったかのように。

 

 空になった胃袋を満たすように無理矢理夕食を詰め込んだあとは、入浴の時間となる。のだが、彼女は腹痛と担任に伝え、入浴の時間をズラすことにした。

 

「治ってないんだろ。火傷()

 

「...聞きました?」

 

 伝えた後は部屋で時間を潰そうかと考えていたのだが、相澤に拘束されてしまった。誤魔化すように愛想笑いをするのだが、まだ話は続くようだった。

 

「1週間黙り通すつもりか?」

 

「...そうですけど。何か問題でも?」

 

「バレるのは時間の問題だ。クラスメイトを心配させたくないのなら、素直に話しとけ」

 

「...考えときますね」

 

 では、と言って希桜音は職員用の部屋を後にする。

 

『希桜音、いいか?』

 

 ニョキっと首を伸ばして、クローズドラゴンが顔を覗かせている。希桜音は戦兎の声がする方へと足を進めた。

 

「入って」

 

『おう』

 

 クローズドラゴンを押し入れの中へと入れた希桜音は、部屋へと戻る廊下を歩きながら話し始めた。

 

 ━━━━━━━━なに

 

『一海...グリスについての対抗策なんだが。お前の個性を使う』

 

 ━━━━━━━━対抗策...?てかなんで押し入れ

 

『お前の個性は物しか入れられない。なのに俺と万丈は入れた...あくまで仮説だが、ハザードレベルが3.0以上の人間、もしくは異世界の人間は押し入れの中へ入れるんじゃないか...ってな』

 

 ━━━━━━━━よく分かんないけど、次会ったらやってみる価値はあるかも、ね

 

 女子部屋の扉をガラガラと開けた希桜音は、畳の上へとゴロンと転がり込んだ。時計に視線をやると、まだA組女子の入浴時間終了までは時間があるようだ。

 

 ━━━━━━━━ねぇ、エボルト...は同じ事しないの?

 

『スタークの姿なら倒せるかも...な。ま、それはケースバイケースだ』

 

『...ケータイアイスってなんだ?』

 

「『ちょっと黙ってなさいよアンタ』」

 

 やり取りに疲れたのか、希桜音は少しの間目を瞑って休息をとる。だがふっと目を開いて、立ち上がった。

 

 ━━━━━━━━お花摘み

 

『分かった分かった。じゃ、俺らも行くか。じゃ、明日』

 

「ん。おやすみ。どこ行くの?」

 

『男部屋』

 

 そう言って戦兎は万丈を無理矢理連れて、男部屋へと飛んで行く。希桜音も一足遅れて部屋を後にして、生徒達の入浴時間が終わるまで適当に時間を潰すのだった。

 

 

 

 


 

 

 

「ふぅ...」

 

 時刻は21:25。B組生徒の入浴時間が終わってすぐの時間に、希桜音は少し温めの湯に浸かっていた。他には誰もおらず、そこは彼女の貸切状態の露天風呂であった。

 

「っ...」

 

 ふと湯に映った自身の顔に、希桜音は吐き気を催す。この嫌悪感はどうしようもないようで、暫くソレと戦うのだった。

 

「...治らないんだよな」

 

 落ち着いた彼女は自身の右手から肩にかけてを眺めた。これもまた、右顔と同じように火傷痕が酷く残っている。

 病院で再び目が覚めた後に医者に言われた、一生治らないという言葉が蘇る。嫌なものだと、希桜音は左腕で忌々しく右腕を握り締める。

 

「よっ...と」

 

 あまりここに居座るのも良くないだろうと、希桜音は立ち上がって露天風呂を後にする。

 

 ━━━━━━━━月が綺麗ですね...って言う相手も言われる相手もいないか

 

 ガラガラと脱衣場のドアを開きながら、彼女はそう思う。雑談混じりに今度言ってみようかと彼女は思いながら、体に付いた水分を拭き取るのだった。

 

 

 

 


 

 

 

 女子部屋へと戻ると、クラスメイト達はガールズトークに花を咲かせていたようだった。

 

「希桜音ちゃん大丈夫?」

 

「まぁ、多少は?」

 

 希桜音は疲れたような表情で、空いている布団へと潜り込んだ。

 

「皆、おやすみ」

 

「「「「おやすみ〜」」」」

 

 

 

 


 

 

 

 翌朝、時刻にして午前5:30。未だ日も昇りきっていない頃、彼女達は外へと集められていた。寝起きと遜色ない者もおり、目を開けるのがやっとという生徒も数人いた。

 

「おはよう諸君。本日から本格的に強化合宿を始める。今合宿の目的は、全員の強化及び仮免の取得だ。具体的になりつつある敵意に立ち向かう為の準備だ。心して臨むように」

 

 そう言って相澤は、爆豪にソフトボールを投げ渡した。体力テストの時に使用した物と同じ物だった。どれだけ個性が成長したか、これで確認できるという事なのだろうか、爆豪はやる気を滾らせて開けた場所へと進む。

 

「入学直後の記録は705.2m。どんだけ伸びてるかな」

 

「成長具合かー!」

「この3ヶ月色々濃かったからなぁ、1キロとか行くんじゃねぇの!?」

「行ったれ爆豪!」

 

「んじゃまぁ、よっこら くたばれええぇぇ!!!!」

 

(((((くたばれ)))))

 

 不謹慎な言葉と共に、爆風に乗せられたボールは放物線を描いて飛んで行った。だが

 

『...たいして変わってないのな』

 

「え?」

 

 戦兎の呟いた言葉に、希桜音は首を傾げる。だが、それは現実となった。

 

「709.6m」

 

 前回と大差ない成績に、爆豪を含めたその他生徒達は動揺を口に出した。

 相澤曰く、様々な経験を経て確実に成長はしている。但し、それは技術面、精神面、そして体力的な成長のみらしく、個性は今見た通りの結果。

 

「...だから、今日から君らの個性を伸ばす。死ぬほどキツイが、くれぐれも死なないように」

 

 ニヤリと口角を上げた相澤の言葉は、いやに生徒達に建てられた壁をさらに高くするように感じられた。

 そうして生徒達は各々に振り分けられたメニューをこなしていく。基本的に、

 許容上限のある発動型は、上限の底上げ。

 異形・その他複合型は、"個性"に由来する器官・部位の更なる鍛錬。

 単純な増強型は、筋トレによる筋力の向上。

 という風になっている。例外はあるが...

 

「オラァ!」

 

 希桜音がその例外だった。

 彼女は今、ピクシーボブの"土流"によって形成された土魔獣とクローズチャージの姿で戦闘していた。本来ならば彼女の個性"押し入れ"に見合ったメニューをすべき所だが、大人の事情(対エボルト)でハザードレベルを上げるというメニューを行うことになったのだ。

 

 【シングル!シングルブレイク!】

 

 サイフルボトルを挿したツインブレイカーによる突き攻撃が、四足歩行の魔獣を正面から襲った。土魔獣は攻撃箇所から亀裂が入り、重みのある音を立てて崩れ落ちた。

 途端に彼女の立っている地面が揺れて腫れ物でも出来たかのように膨らみ始める。

 

「うをっと」

 

 希桜音は飛び上がってその場から離れるが、それはピクシーボブの狙い通り、飛行している土魔獣の的となった。

 飛行型土魔獣はその嘴で希桜音を貫こうと急接近して来た。希桜音は視界の隅に映ったそれをゼリーの噴出によって回避した。

 

 【ツイン!ツインフィニッシュ!】

 

 ツインブレイカーをビームモードへと変形させ、ロックフルボトルとローズフルボトルによる鎖と茨を伸ばして魔獣を捕縛した。

 

「せーのっ!」

 

 【スクラップブレイク!】

 

 鎖と茨を掴んで手繰り寄せた希桜音は、ベルトのレバーを下げて必殺技を発動。背中の噴出口からゼリーを噴出させ、その勢いでライダーキックの構えのまま土魔獣の体を貫いた。

 

「っ、と...」

 

 ゼリーの噴出量や角度を調整して地面に降り立つ希桜音。だが休息等与えられる訳もなく、土魔獣との交戦はまだまだ続く。

 

 

 

 


 

 

 

「さ、昨日言ったね!世話焼くのは今日だけって!」

「己で食う飯くらい己で作れ!カレー!」

 

「「「「「いえっさ〜...」」」」」

 

 日が傾き、そろそろ沈み始めるかといったところで、彼女ら雄英生徒達は夕食の準備に取り掛かることとなった。だが殆ど、というより全員が地獄のような特訓で生気を失っており、返事にも覇気がない。

 

「アハハハハハ!!全員全身ブッチブチ!だからって雑なネコマンマは作っちゃダメね!」

 

 生気を失った生徒達を見て、プッシーキャッツの緑髪の方。ラグドールはそう言い放った。彼女の個性はサーチ。これによって特訓中は生徒達の動きを完璧に把握し、そこからマンダレイの個性:テレパスによって複数人への同時アドバイス。そうして特訓は成り立っていたのだ。

 

 ラグドールの言葉に示唆されたのか、飯田はあることに気付いた。否、勝手な解釈である。

 

「確かに、災害時などの避難先で消耗した人々の腹と心を満たすのも救助の一環...さすが雄英無駄がない。世界一上手いカレーを作ろう皆!!」

 

「「「「「応〜」」」」」

 

 飯田のやる気に感化されたのか、生徒達は時間と共に生気を取り戻していった。

 そうしてA組B組合同のカレー作りが始まる。

 

「轟〜、こっちにも火付けて〜」

 

 皆、私有地ということあって個性を自由に使い、切り、着火していく。

 

「チビドラ、火起こして〜」

「爆豪、お前も爆破で火ぃ起こせるか?」

「出来るわ!!」

 

「皆さん、他人の手を煩わせてばかりでは火の起こし方も学べませんわよ?」

 

 和気藹々とした中で、カレーは着々と作られていく。爆破による竈の破壊などのアクシデントはあったが、カレーは無事完成した。

 

「「「「「いっただっきま〜す!!」」」」」

 

「店とかで出したら微妙だけど、この状況も相俟ってうっめぇ!!」

「野暮なこと言うな!!」

 

「うっま!希桜音料理めちゃくちゃ上手いじゃん!」

「そんな、そこそこだよ」

『マジか!?希桜音!ちょっと変われ!俺も食いてぇ!』

「やだ!私が食う!!」

「傍から見ればデカい一人言なんよな」

『うお、うっま』

「『チビドラの顔が汚れる!やめるぉ!』」

 

 そうして夕食も食べ終わり、入浴を経て自由時間となった。例によって、希桜音はその時間に入浴だったのだが。

 希桜音が女子部屋へと戻ると、部屋の中にはA組の女子生徒だけでなく、B組の女子生徒もいた。

 

「何して...あ〜」

 

 何をしているのか、と聞こうと希桜音は首を傾げたのだが、その状況を見てなんとなくを察知した。

 透明の葉隠に羽交い締めされている耳郎。そしてその目の前で耳郎のスマホを取り上げている麗日。それを見つめるその他生徒達。

 

「プライバシーの侵害だぁ!見ちゃダメェ!!」

「いやなら上鳴くんとの関係性を話すんだ!!」

 

「...梅雨ちゃん止めないの?」

「どうせなら最後まで聞きたいわ」

「ヤオモモ!!ヘルプミー!!」

「すいません耳郎さん、私恋愛というものの知識がなくて...その、ごめんなさい...」

 

 希桜音はつい最近知ったことなのだが、実は耳郎響香、そして上鳴電気は付き合っている...という事らしい。恐らくこれは事情聴取的な何かなのだろう。B組生徒達もワクワクとした表情で耳郎の方を見て、今か今かと話が始まるのを待ち望んでいた。

 

「...スマホのパスワード分からへん」

「言わない、絶対言わない」

「彼氏の誕生日じゃない?」

「っ!!!?」

 

 ビンゴ。すぐさまスマホの暗証番号に0629と入れ、ロックを解除。LINEの履歴を確認するのだが...

 

「毎晩通話してるんだ?へぇ〜」

「イチャイチャ、イチャイチャ」

「その、通話の内容は...」

 

 上鳴とのLINE履歴には、晩から翌朝までの通話記録が残っていた。だが、通話内容は残っていない。つまり、これは彼女から聞き出すしかないのだ。

 

「いや、順番通りに行こう...いつから?」

「あ、確かに私知らない」

「駅前のスタバで一緒にいるとこ見たのが6月で〜」

「あ、私体育祭の帰りに見たよ」

「って事は5月ぐらいから...?」

「っ〜!!」

 

 それから小一時間。耳郎は女性陣による一斉射撃を受け、就寝時間にはほぼほぼ生気を失っていたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

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