『愛』と『平和』の為に 〜Love&Peace~ 作:とある世界のハンター
第36話 明かされたヒストリー
『お〜い起きろ〜?』
トントンと優しく叩く音が部屋に響き渡る。部屋は薄暗く、例えるなら牢屋という言葉が似合うだろう。鎖に繋がれた彼女は、未だ意識を失ったままだ。起こそうと試行錯誤し始めて早10分、そろそろネタが尽きてきたとスタークは飽き始めてきた。
『はぁ...オラッ!』
「かはっ!?」
鳩尾に与えられた衝撃によって、希桜音は呼吸が困難になることをトリガーにして目を覚ました。噎せながらも、なんとか肺に酸素を取り入れようと必死になる希桜音をスタークは嘲笑うが如く見詰める。
「何が...目的?」
希桜音のその問いに、彼は鼻で笑って答えた。
俺の口から言うべき事じゃない、と。
『質問は後から来る奴にしてくれ。先生、どうぞ。じゃあな小兎謚 希桜音、チャオ!』
そう言い残してスタークは牢屋を後にした。鎖に繋がれた彼女は、飼い慣らされた犬のようにそれをじっと見詰めることしかできなかった。
そして彼と入れ違いになるように、彼女をここまで運んできた張本人、金と紅のビルドが入ってきた。彼女は希桜音の前までやって来ると立ち止まり、立ったまま話を始めた。
「この男に見覚えは?」
開口一番に、彼女は希桜音に質問を投げ掛けた。どこか無機質な声と共に差し出された写真には、彼女の良く知る人物の顔が写されていた。
「...知らない」
嘘。
別に嘘をつく必要など無いのだが、彼女の心に秘める怨恨の念が彼女の記憶から彼の存在を抹消させようとしたのだ。
だがそんな事はお見通しのようで、希桜音は顔を掴まれ写真を再度見せられる。
「...私の、父親」
「その個性は?」
「...押し入れ」
分かっているのならいい、それだけ言ったビルドは希桜音を思い切り地面へと叩きつけた。砂埃が舞い上がり、それを煙たそうにして希桜音は起き上がる。痛みはあるのだが、それ以上に彼女に対して怒りが湧いてきた。だが鎖に繋がれてしまっていれば、持ち合わせた牙も届かない。それ以前に、今の彼女には牙など無いのだが。
「さて、本題へ入ろうか」
金のビルドは改まって希桜音の前へと立ち塞がり、見下すようにして手にした資料を見せつけた。光が反射してよく読めずに目を凝らす希桜音を見兼ねたか、彼女は資料を床へとばら撒き見やすい位置へと捨て去った。これも彼女なりの優しさなのだろう、希桜音はすることも無いのでまじまじとそれを読むことにした。
━━━━━━━━脳無に関するデータ...?コイツはUSJの時の、コッチは保須の時の翼の...
振り落ちた資料には脳無に関するデータがびっしりと記載されていた。彼女が戦ってきた物からまだ試作段階の物まで、容姿や個性の概要、そしてその個性の元の持ち主まで。元の持ち主、という点に希桜音は疑問を抱きながらも彼女は目を動かす。
━━━━━━━━収容の脳無...これ、昨日戦ったやつ
そしてその中にはもちろん、昨日森の中で交戦した脳無の物もあった。偶然か必然か、ちょうど彼女の真下に落ちたその資料に彼女は目を通すことにした。
「個性その1[リサイクル]
1時間以内に体内に入れた物を生成できる」
希桜音の読んだ文を読み返すようにして、金のビルドは個性概要を読み上げた。
「個性その2[筋力増強]
体の筋肉の一部を肥大化させる事が可能」
そして二つ目の個性も読み上げた。どうやらこのまま最後まで読むようで、希桜音は彼女の言葉に後を任せることにした。
「個性その3[押し入れ]」
押し入れ、ただそれだけの言葉に彼女の背中は冷汗が滝のように流れ落ちることとなる。脳無の個性が押し入れ、という事は彼女の父と何かしら関係があるということ。そうでなければ、あんな前振りは無いはずだ。
「ここで、脳無について話をしておきましょうか」
不審な思いを抱く希桜音を鎮めるようにして、金のビルドは脳無の製造方法について話を始めた。
「脳無という物は、元は人体改造されたただの人間なの」
「...は?」
「個性が複数ある事は周知の通り。その絡繰りは《個性を奪い、与える個性》を用いて個性を複数与えられた...という物よ。人体改造はそれに耐えるため。まぁ、精神は耐えられないようなのだけれど」
点と点が線で結ばれた、彼女はそんな感覚を覚えた。だがまだ気になることはあった。
「...つまり、私の父親は個性を奪われた、と?じゃあその奪われた人間はどこに」
「もう居ないわよ。この世には」
即答。その口から溢れた非情で冷酷な事実。
以前の希桜音ならまだしも、今誰かを守れる力を手にした彼女には、その現実は辛い物だった。救えなかった、その事実が彼女の心を塞ぎ詰める。
「なん...で」
「なんで死んだのか?という事かしら。ちょっと
「そんな事っ!聞いてない!!」
ガチャガチャと煩く鎖を鳴らしながら、彼女はそう吠えた。今すぐ鎖を引きちぎって、目の前の
「...何が言いたいのかしら?」
「なんで、なんでそんな簡単に人を殺せるの...人は、人の命は、貴方の玩具じゃないんだよ...?」
「あら、貴女がそれを言うのかしら?貴女だって昨日殺したばかりじゃない?」
「っ...」
「それとも、アレは
「それはっ...人間なんて知らなかっただけで」
「知らなかったで人は殺して良いのかしら?じゃ、今ここで
無駄な論争。
金のビルドはそれに飽きたのか、話を脳無についてへと戻すことにした。
「話を戻しましょうか。と言っても、脳無の製造方法ではなく、貴女が殺した脳無について、だけれど。あれ、貴女の父親よ?」
「.........えっ?」
一時の静寂を突き破る、あまりにも素っ頓狂で幼い一声。それは現実を受け止められない、受け止めたくない、未だ幼い少女の言葉だった。
「どう...いうこと...?」
「未だ分からないのかしら?貴女の父親は、脳無の体の元となったのよ。そして貴女は父親を殺した。なんでこの程度を理解できないのかしら?」
その問いに、彼女は答えない。答えられない。
彼女は父親が消えてから桐生戦兎と出会うまで、ずっと彼の事を憎んでいた。だがだからといって、そんな彼の死に動揺しないほど彼女は冷酷ではなかった。人間なのだから。
「あら、どうして泣いているのかしら?もしかして、娘を置いて出て行った父の死を悲観しているのかしら?」
黙れ、なんて言葉も出ない。
それを見兼ねた金のビルドは、慰めか、はたまた煽りのつもりか、話題を転換させることにした。
「貴女の父親は、なんで娘である貴女を置いて出て行ったと思う?」
「...それは、お母さんがいなくなって」
「うんうん」
「他の女が出来たとか、そんなんでしょ...」
「ん〜、途中まで正解!」
急に物腰が柔らかく、という言葉以上に馴れ馴れしく話を始めた彼女は、ベルトに挿さっている2つのフルボトルに手を添えた。
「100点満点の正解は〜」
手を上げると、そこには既に抜き取られたフルボトルが握られていた。それはライダーシステムの都合上、変身者の意思が解除を求めた場合は変身は解除される。この場合はそれだった。つまり、彼女の素顔が見えるのだ。
「...ぇ?」
変身を解いた彼女の莞爾した表情は、希桜音を瞠目させるには充分過ぎるほど眩しかった。眩し過ぎた。
「お母...さん?」
「正解は、