あれか? 別の新作かけとか?
「ずっと室内に居るのは勿体ない気がするな」
何処までも続く蒼い空に寄せては帰す波の音。窓から外を眺めれば絶好の海水浴日よりだが、生憎今日の私は仕事だ。ヴォラク家所有の無人島に建つ別荘の厨房を任されて投げ出すようでは、ヴォラク家副料理長エミヤ・シェローの名が廃る。
「若君も頑張って居ることだしな」
野菜をカットしながら思い出すのは遠泳に向かったルークの姿。兄であるデミヤの監督の下、トレーニングの真っ最中だ。本日はシトリー家とグレモリー家の次期当主と眷属を集めたパーティーの日で、この日のためにスケジュールを詰めて来たのだからな。
貴族といえども子供は子供。だが、子供が子供としてだけ過ごすのを許さないのが貴族社会だ。純血悪魔でこれなのだから、主の後ろ盾があっても一から作っていく転生悪魔の領地経営は本当に大変だろうな。そんな事を思いながら野菜と肉を串に刺していると客人の到着を知らせるベルが鳴った……。
砂浜で、男子二人が、大叫び。
「「おんぎゃあああああああああああああああああっ!?」」
「五月蠅い奴らだな。人の顔を見るなり叫ぶなど」
本日はルークに招待されて別荘に来たのですが、どうやら今日もトレーニングの最中との事。何時も何時も頑張ってて、ヘトヘトでも私の顔を見るなり喜んで駆け寄ってくる姿は抱き締めたくなります。ええ、実際に抱き締めていますが。ほっぺにチューをするオマセさんの癖に私から抱き締めると照れて可愛らしいのです。
「か、会長。あの端的に言って変態っぽい仮面の人は一体……?」
「彼が話に出た蝶々の妖精族の出身です。……流石に謝罪する必要がありますね」
「わあ! イッセーさん。私、妖精さんを初めて見ました!」
「アーシア!?」
転移前はあれだけ楽しみにしていたサジと兵藤君は転移した目の前に立っていた水着姿のパピヨンさんを見て即座に悲鳴を上げます。しかし、あのエレガントでアヴァンギャルドな水着姿の何処が変態なのでしょうか? 私もリアスも理解できずに首を捻るばかりでした……。
「皆様、お部屋を用意しておりますので着替えは其方でどうぞ」
サジ達は未だに、有り得ない、間違っている、と虚ろな目でブツブツ呟いていますが、余程イメージと違ったのでしょうね。確かに一般的に広まっている人外のイメージと本物が懸け離れているケースは多いですが、それを本人の前で文句として言うのはどうなのでしょうか? 後でお説教ですね。
プレアデスのリーダーであるユリ・アルファさんから個室の鍵を受け取り部屋に入れば豪華な内装が広がっていました。一流の家具に絶景が広がる大きな窓。客人の中でも身分の高い相手用の部屋がリアスと私にあてがわれたと聞きますが、流石はヴォラク家と言った所ですね。
「うぉおおおおおおっ! 会長、素敵っす!」
私が選んだのは競泳水着。流石にリアス達の側でビキニになる気はありません。
「少し落ち着きなさい、サジ。眷属以外の方もいらっしゃるのですよ」
サジが興奮した様子で声を掛けてくるので叱っておく。これも主の務めとはいえ、もう少し落ち着いて周囲の目を気にすることを覚えて貰いたい物ですね。兵藤君も酷く興奮した様子で周囲を見回してリアスに叱られていますが、ルークは成長してもあのような振る舞いをしないように私からも注意しなくては。
「
「げっ! さっきの……って、吐血したっ!?」
「五月蠅いな。単なる不治の病だ。超人的な肉体を持っているからもう死にはしないさ」
パピヨンさんは相変わらずの様ですね。元は妖精族の名家の生まれでしたが不治の病の治療法を求め出奔。エヴァリスの弟子となって病に負けない肉体とルークの僧侶の地位を手に入れた天才……いえ、蝶天才研究者。吐血に慣れていないサジ達は聞き逃しましたが……。
「何だ、貴様は遊ばんのか? 妾はアレだ。別に泳げない訳じゃないぞ?」
「ええ、眷属には悪いのですが……ルークが修行中に先に遊んでは可哀想でしょう?」
水着に着替えた椿姫達が砂遊びや海水浴をする中、私は用意されたビーチチェアに寝転がると、エヴァリスさんが隣で同じ様にビーチパラソルで日光を遮りクーラーボックスで冷やした大量のアルコール飲料を飲んでいました。非常に酒臭い上に、そもそも泳がない理由を訊いてはいないのですが。
「そう言えば彼は? 姿が見えないのは不安なのでちょっと……」
先程から気になっていたのですがトラブルメーカーであるネイリムさんが見えないのは嫌な予感しかしない。
「ん? 奴か……」
名を出さずとも誰か理解したエヴァリスさんはTシャツにハーフパンツにサングラスといった格好で此方を一瞥するとテーブルの上の果物に手を伸ばす。林檎にかじり付き、咀嚼して飲み込んだ彼女が指を鳴らせば何処からか銃声がして砂が弾け飛ぶ。砂中からテニスボール大の白い玉が飛び出し、再び何処からか放たれた銃弾が更に命中する。空中で弾き飛ばされた玉はエヴァリスさんの手に収まり、僅かに明滅をしました。
「も~! 折角気持ちよく寝てたのに~。シズちゃん酷いや! 性根が腐ってるね」
「貴様にだけは言われたくなかろうさ。……どうした? ああ、この姿を見るのは初めてだったな。これがネイリムの本体だ。何時ものパンダの姿を普段着と呼ぶ事があるだろう? 自然物で第二の肉体を作っているんだ」
不満そうな声でおまいう発言をしたネイリムさんに手で触れればツヤツヤとした手触りと硬質な感触が伝わってくる。まるで水晶玉の様ですね。しかし、ネイリムさんは本当にいったい何なのでしょうか?
「わっ! 何処触ってるのさ!」
「妙な部分に触れました?」
「さあ? 僕、この状態だと特に何処がどの部分とか無いし」
……生ゴミと不燃焼物のどちらで出せば良いのでしょうか?
「元ちゃーん! オイル塗って欲しいっす!」
「わっ!? く、くっつくなよ!?」
「えー? 自分と元ちゃんの仲じゃないっすか」
「……絶対に放さないで下さいね」
「へいへい。泳ぎの特訓はちゃんと付き合ってやるよ。何なら溺れた時は人工呼吸してやろうか、小猫?」
「……溺れないので必要ないです。足が着かない場所でもこうやってくっついていれば良いだけですから。エクネスさんはそこで突っ立っていて下さい」
ビーチパラソルの下でゆっくりしながら耳を傾ければリアス達以外にも男女で仲良くやっている人達が。所でエクネスさんはその……違いますよね? まさか端から見れば私とルークもあんな風に見えるのかと思っていると飲み物が差し出される。監視台に座ったデンバーさんが包帯で掴んだ飲み物を皆に配っていました。
「彼は遊ばなくて良いのですか?」
「貴様と同じ理由でな。主の修行中に羽を伸ばせない、だとさ。妾の側近だった頃からだが頭が固いのだ。……文字で会話する場合は凄いぞ、ある意味」
何が凄いのか気になりますが、知らない方が良い気もしたので飲み物を受け取って別の方に目を向ければアロハシャツ姿のランスロットさんが私の眷属に話し掛け、背後にマシュさんが立っていました。
「何とお美しい。私の心を持って行かれそうです」
「……サー・ランスロット。娘の同級生相手に何を?」
「マ、マシュ!? こ、これはですね!? ただ、騎士として女性を賛美しただけでしてっ!?」
ゴミを見る目を初めて目にした時、漸く目当ての人物の姿が視界に入ったので立ち上がり寄っていきます。ええ、勿論相手はルークで、私は歩いてですが、向こうは嬉しそうに駆け寄って来ます。
「ソーナさんっ! わっ!?」
ですが疲れと砂浜のせいで足を取られて転び掛けたので受け止める。水着だからか少し何時もより恥ずかしそうな気がしますね。ええ、眼福です。
「ソーナさん、その姿も素敵です。此処にいる誰よりも綺麗ですよ」
「ふふふ、有り難う御座います。では、これは誉めて貰ったお礼という事で……」
負けず嫌いのリアスも今回は仕方ないという表情。ルークの心が完全に私の物だと知っているからでしょう。私はそれが楽しかったのか何時もに比べて悪乗りをし、ルークの頬に両手を添えるとオデコに唇を軽く当てました。
「うわっ!?」
「か、会長!?」
随分と恥ずかしそうにしながらも嬉しそうなルーク。本当に可愛いです。……今日はリアス達みたいに一緒のベッドで眠るのも楽しいかも知れませんね。
「先程はいきなりですみません。私のこと、嫌いになってしまいましたか?」
「そんな! 僕がソーナさんを嫌いになるなんてありえません! 大好きですから!」
ルークが遠泳を終えて戻ってきた頃に丁度昼食の準備が整い、串に刺した肉や野菜、海産物を炭火で焼くバーベキュー。隣に座ったルークが可愛いので少し意地悪を言ったら嬉しい事を言ってくれます。
「ええ、私も大好きですからね。ほら、野菜ももう少し食べなさい。はい、あーん」
「あ、あーん」
こんな楽しく幸せな想いの代償ならエクネスさんの同類扱いも悪くはないかも知れませんね。今度の公開授業、ルークが来るのが楽しみです。お姉様には秘密ですし、問題は有りませんし……。
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