今日は待ちに待った公開授業の日、ソーナさんの勉強する姿を堂々と見学できる日だ。この日の為に頑張って予定を詰めたし、今も早起きして身嗜みを整えているんだけど、今日に限って寝癖が酷い。何度やってもハネたままなんだ。
「……何をやっているのですか。貴族ならば自分ではなく使用人に整えさせるものですよ」
背後から呆れ声が聞こえて、振り返れば小言を言われる。うーん、確かにそうなんだけど、自分でやってるのには理由があるんだよね。
「えっと、この程度なら自分でやれるようになりたいなぁって。ほら! ソーナさんは一人暮らしで自分でやってるし……」
「……それで上手く行かないのなら意味がないでしょうに。ほら、貸しなさい」
手から櫛が取られて僕の髪の跳ねが簡単に直される。あっ! 水の魔力を微妙に付着させているんだ。でも、この人だって自分でするような立場じゃないのに、どうして手慣れているんだろう? 僕が浮かべた疑問は顔に出ていたらしく、彼女は溜め息と共に教えてくれた。
「……戦時中、髪を整えさせる使用人が近くに居なくても張るべき見栄という物がありましたからね。出来なければならなかった、それだけです。……お前の姉と遭遇した時は不慣れで、髪の跳ねを指摘されて恥ずかしかったのを覚えていますよ」
姉様、戦争中に相変わらずの言動だったんだなぁ。空気が読めないというか、常時ギャグ選択肢が表示されているというか……あれ? 僕、何を訳の分からないことを?
「何で首を傾げているのですか、貴方は。……そうそう。貴方の眷属は付き添いに向いている年代の者は他に見たい者が居るとかで使用人が付き添う予定でしたが、どうせ彼らも来るでしょうから私も同行しますよ」
あー。リアスさんやソーナさんの授業見学に絶対に来るだろうからね。昨日、姉様が電話で話してたから隠しているのがバレちゃったし。あの格好で保護者に混じられたら恥ずかしいよねぇ……。
「……しかし、まさかとは思いますがあの格好で人前に出て、更にあの名前を堂々と名乗りはしないでしょうか? 憤死してしまいたいレベルですよ、そうだったら」
あっ! 此処にもっと深刻な人が居た……。
「ねぇ、あの人って誰の家族かな? 凄く格好良いけど……」
「外国人? でも、クラスに留学生は居ないよね?」
もう授業開始間近なので見学の保護者や中学生、小学生が集まっているのですが、何で居るんですか、エクネスさん。私の授業を見に来たんですね、恥ずかしいから帰って下さい。部長が家に知られるのを嫌がった理由が実体験で分かりました。
教室の端でビデオカメラ片手にこっちに手を振っていますし、名前を呼んできたから私にも注目が集まる。……でも、少しだけ嬉しい気がしました。仙術を暴走させた、そう認識されている姉様と付き合いだしてから鬱陶しい位に世話を焼いて、姉様が姿を消して私に危険が及んだ時は偽物を用意して匿ってくれた恩人。だから、今日は良い所を見せたいと思います……。
「ぷはははははっ! 高いところに書いている問題に手が届かないとかっ! は、腹痛ぇ!」
「……五月蠅いです」
あの後、先生が出した問題を解こうとしたのですが、身長が足りなくて手が届かず何時もは端に置いてある踏み台に乗って書くことに。この男、私目当てだったくせにいの一番に吹き出して今も笑っているのです。……取り敢えずビデオカメラは寄越しなさい。
「嫌だねっと。ほーら、取れるものなら取ってみろ。教室から踏み台でも借りてくるか? って、脛蹴るな脛を!」
わざとらしくビデオカメラを持った手を高く掲げたので無言で脛を蹴り続ける。股間でないだけ感謝して欲しいです。っと言うか早く渡してください、ぶっ壊しますので。
「……悪いけど無理だわ。あの馬鹿が万が一無事に帰ってこれた時に見たいだろうからな」
「……そうですか」
エクネスさんは何時も懐に忍ばせている指輪を弄くる。姉様に渡す予定だった婚約指輪だ。散歩中に店から出てきた所に出くわして口止め料としてパフェを奢って貰ったのを覚えています。だって、その翌日に姉様は大勢の前でこの人を振って数日後に逃亡しましたから。
何か理由があった、今でも信じていますけど無事に帰って来るのは無理でしょう。きっと説明しても、眷属如きがその様な理由で、と一蹴されるのが目に見えていますから。意識改革が成功し、姉様が減刑される社会は悪魔の寿命を考えても長いのでしょうね。
「……失礼します」
「ん? トイレか?」
セクハラ男の股間を蹴り上げようとするけど避けられる。この人はどれほどの月日が流れても姉様を待ち続けるのでしょう。それを思うと嬉しく感じて……胸が締め付けられる想いでした。
「……魔法少女のコスプレ撮影会?」
「そうなんだよ、小猫ちゃん。ちょっと見に行こうぜ」
エクネスさんと別れて廊下を歩いていた私はイッセー先輩達と人集りが出来ている方向へと進みます。今は馬鹿馬鹿しい物でも見て気を紛らわしたい気分ですから。喜ばしいことなのに悲しくも感じる妙なモヤモヤを感じつつ進めばパンツが見えているのに嬉しそうにポーズを取っている……魔王セラフォルー・レヴィアタンの姿がありました。
「……あっ、これは無理ですね」
実年齢的に無理がある、という意味ではなくて意識改革の話です。所で目が微妙に笑っていない気がするのですが。これ以上は今の気分的に見ていたくないので去ろうとした時、真横をツカツカと歩いてセラフォルー様に接近する人が。あっ、これで騒ぎも終わりですね。
「……行きましょう、イッセー先輩。流石に見ていられません」
「え? いや、俺はもう少し……」
「行きますよ」
ゴネるイッセー先輩の腕を掴んで強引に連れて行く。背後からセラフォルー様の悲鳴が聞こえてきましたが絶対に気のせいです。だって魔王とは悪魔にトップですから、事実上は兎も角として。実際は貴族派に押され気味ですけど。
「あ・な・た・は! 人前でその格好をするなと何度言えば分かるのですか! っと言うかコスプレネームと番組に人の家名を使うのをいい加減止めなさい!」
「痛い、痛いってばカテレアちゃーん! 耳を引っ張らないでー!」
「良いからこっちに来なさい! お説教です!」
……ええ、私は何も聞いていない。現レヴィアタンが前レヴィアタンの末裔に泣かされているなんて幻聴です。
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