「今日の訓練は此処までですわぁ」
僕の毎日はそれなりに忙しい。自領を中心に冥界の歴史や統治関連、貴族として必要なマナーや駆け引きのイロハ、それに加えて戦闘訓練。冥界は力が評価に直結するから弱いと侮られるし、貴族としてそれは致命的なんだ。
今日行ったのは魔力と家独自の能力の制御訓練。プレアデスの一人のエントマが見せて来る液晶画面に火とかの属性が書かれていたら対応する属性の魔力の球を浮かせ、物の名前の場合はそれを出す。上手く作れなかった物は不安定で形が悪いし直ぐに砕けて消え去っちゃう。次々と増えていく魔力を存在させたまま新しい物を作り、スカシカシパンのフィギュアを作った所で魔力の球が一斉に弾ける。
「新記録達成ならずかぁ……」
今日は今までの最高記録タイ。調子が良かったけど、細かい部分が曖昧な物や複雑な作りの物は本当に難しい。神器なんて毎晩の様に魔力で包んで設計図の様な物を自分の中にインプットしてやっとだったし。
「そう落ち込まなくても大丈夫ですわぁ。私が見てきた一族の誰よりも優秀ですものぉ」
「でもさあ。僕はもっと強くなりたいんだ」
「張り切るのと無理は違いますよぉ」
特訓が上手く行かなくて落ち込む僕の肩にそっと手が置かれる。エヴァリスの場合、どんな事を言うだろう?
『思い上がるな、餓鬼が。貴様は停滞も挫折も知らない天才と自画自賛していたのか? 落ち込む間に積み重ねろ、愚か者』
うわぁ。ものすっごく思い浮かぶ。僕がそんな事を考えていると姉様が背後から足音を忍ばせながら近寄って来るのが液晶に映っていた。目くばせでエントマに合図したら頷いたし、ここは弟として付き合ってあげた方が良いよね?
「だーれだ?」
「えっと……姉様?」
「正解っ! ルークは凄いね」
偶に思うけど姉様って子供っぽい所があるよね。同年代の人には子供も居るのに……あっ、今背筋がゾッとした。姉様は僕を背後から抱っこして楽しそうに鼻歌歌ってるけど何故か怖い。エントマも顔逸らしているし。
……所で僕はもう十歳だし抱っこは止めて欲しい。でも、口で言っても恥ずかしがって可愛いとか言うだけだし、姉は弟よりずっと偉いからって却下されるだけだよね。
「あっ!」
向こうから誰か来たから視線で救援要請。デンバーのジェスチャーを見ているから少しは得意になったかな? 他の人が言えば助かると思った僕だけど……現実は非常だった。
「あっ! リッカ様、私にも抱っこさせて欲しいっす!」
「良いよー!」
タイミング良く帰ってきたルプーは僕の助けを求める視線に気付いてたのに裏切って僕を抱っこする。しかも正面からだ。……むぅ。ソーナさんには口止めしたし、君が一番信頼する眷属だって絶対に言ってやらないからね!
……って言うか、どうせならソーナさんが良かった。姉様とルプーじゃね。それにしても……。
「ルプー、機嫌いいね」
何時もニコニコしているルプーだけど悪戯をお思いついた時や苛立っている時もだから見分けがつかない人は多い。僕は付く。今はとっても機嫌が良い時だ。
「そりゃあ、もう。嬉しい情報を手に入れたっすから。うりうり、ルーク様は相変わらずキュートっすね」
「……ちぇ」
あーあ。何時になったら可愛いを卒業できるのかな? ルプーに髪をワシャワシャされながら僕はそう思った……。
「……あーあ、早くデートの日が来ないかなぁ」
それだけで勉強を頑張れるのにさ……。
「……そのデートが中止になったのか。その割にはサボらないな、お前。ふん。実に良いことだ」
「飴玉を貰わなきゃ頑張れない歳じゃないからね、僕。頑張るのは当たり前だから……」
楽しみに、楽しみに、楽しみに、楽しみに……していたソーナさんとのデートだけど延期になった。この前、ルプーが出会ったっていう水着みたいな格好で町中を歩くのを上に強いられている可哀想なお姉さん達が齎した情報、堕天使幹部のコカビエルの潜伏でだ。……ムカつくなあ。
「暇潰しに俺の研究室に来られても迷惑だが……まあ、完成品間近の物を見せてやろう。俺は前々から悪魔は防具を疎かにしていると思っていた。障壁や纏った魔力で防げるから? その程度で優れた防具の制作を諦める者が多いとは唾棄すべきだ」
相変わらずパピヨンは向上心がないと感じた相手を嫌悪するみたいで、僕には向けないって事は少しは認めてくれているんだなって思ったら嬉しくなる。
「何をニヤニヤしている? じゃあ、説明をしてやろう。この新素材『シルバースキン』のな」
パピヨンはそう言って広げた銀色の布に容赦ない魔力を放つけど少しも破けない。って、あれれ? 何か変な気がする。
「気付いたか。及第点はくれてやろう。衝撃に対して瞬時に金属硬化、そして再生。理論上は宇宙服にさえなり、着用者のオーラによって更に強度を増し……まあ、これ以上は完成したらだ。問題は服に加工する方法だからな。蝶・天才の俺でも時間が掛かりそうだ。例の男が完治する頃には間に合うかもだが……」
錬金術を応用した道具作成ならパピヨンの方がエヴァリスより上だ。僕が一番凄いと思うのは『修復用フラスコ』。人が一人入るサイズのフラスコで、ルプーの神器でさえ治療不可能な四肢の欠損レベルの傷さえ癒せる。この前、重傷を負ったグラシャラボラス家の次期当主も救ったしね。……あの人が死んでたら不良っぽいお兄さんと家同士の付き合いをしなくちゃだったし助かったよ。
「パピヨンは本当に天才だよね」
「違うな、蝶・天才だ。暇潰しなら他でやれ。居るだけで迷惑だ」
そう言ってパピヨンは作業に戻って何やら呟いてる。邪魔しちゃ悪いし、何処かに行こうっと。
「おっ! 丁度良い所に来た。ルーク様、良い物が手に入ったんですよ。ありゃ? 警戒してるけど一体何故?」
廊下を歩いているとエクネスと出会す。別に眷属だし屋敷に住んでいるから構わないけど、こんな風に良い所に連れて行くとか言った時のエクネスは信用できない。香水臭い露出の多いお姉さんがいるお店とか水着の上にエプロンを着た給仕のお姉さんがいる喫茶店とか、どこが面白いんだって所だし、後でマシュに叱られるからね。
『良いですか? あの人が味方だという事と能力は信用して良いですが、素行はお義父さん同様に一切信用しては駄目ですよ? 何処かに連れて行かれるのは知らない人について行くのと同じだと思って下さい』
前にこんな事を言われたから距離をとる。でも、今日は面白い物だから大丈夫かな? 少し興味が湧いたし、変な物だったら断れば良いよね?
「……何?」
「非公式に行われたレーティング・ゲームの映像ですよ。一般には絶対に公開しないってレア物だ。……色々とお勉強になりますよ?」
「観たい! 早速観ようよ!」
どうやって入手したのか知らないけどニヤニヤしながらDVDを取り出すエクネス。普段はエヴァリスと同じ駄目な大人っぽいけど頼りになる凄い人だったんだね!
「じゃあ、他の奴ら……」
「マシュ! エクネスがレーティング・ゲームの映像を一緒に観ないかだって! 一緒に観ようよ!」
「バレない様に……えぇ!?」
曲がり角から丁度マシュがやって来る。僕とエクネスが一緒だから怪訝そうな目を向けてきたけど、レーティング・ゲームの映像と聞いて目を輝かせた。マシュもゲームの大ファンだからね。
「はい! 是非ご一緒させて下さい! では、シアタールームの手配をしてきますね!」
喜んで走っていくマシュ。それとは裏腹に焦った様子のエクネスだけど一体どうしたんだろう?
「あれ? エクネスさん、どちらに?」
「……ちょっとトイレ。先に観てて……」
折角大画面で楽しもうとシアタールームに行ったのに開始前にエクネスがコソコソ出て行く。理由は直ぐに分かった。
「こ、これは……観ちゃ駄目です!」
公開されない理由だけど、これは公開出来ないよね。だって……眷属のお姉さん達全員が下着姿だもん。しかも布面積が小さい。マシュは慌てた様子で僕の目を塞いでいるけど、必死なせいで抱き寄せる力が強い。
「……エクネスさんに引導を渡してきます」
「えっと程々にね?」
映像を消してDVDを割った後、マシュは魔力で即座に戦闘服に着替えて盾を構える。あっ。ランスが舞踏会でナンパしてたのを見つけた時と同じ目だ。怖いなあ……。
「じゃあ、行ってきます!」
走り去っていくマシュの後ろ姿を見て思った。魔術的な意味があるらしいけど、もう少し露出を減らさないと、僕まで駄目な大人の同類扱いをされそうだなって……。
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