つまり最大値〈現在+最大イッセー半分
まあ、半分人間ですし極限まで鍛えて限界近く、その後はドラゴンに近付いて体が変化したと思えば? 例えるなら表面張力で零れない寸前近くまで水が入ったコップ。……その実力差で素人同然に戦いになってたのは油断でしょうね。
筋肉モリモリの人でも刃物は通るし肉体の強度には限界があるんでしょう
イッセーは言ってみれば未熟なゴリラ ヴァーリは鍛えまくった人間 半分人間で幼少期の発育や肉体への影響を加味すれば納得も……
早朝、微睡みの誘惑を振り払った我は目を開け、寝起きで鈍くなった頭を働かせる。我思う、故に我あり。要するにだ。思考という行動こそが己の存在を確立する唯一無二の方法であり、思考を放棄した者や思考する程の能力を持たぬ者は他者によってのみ己の存在を確立できるという事か。
「クックックック……」
ちょっとしたジョークを思い出した。傍輩達との集会を定期的に行っているのだが、守護神獣殿が抱腹絶倒の話をしてくれたのだ。
『シュレーディンガー博士が運転する車が警察の検問に引っかかり、トランクの中から猫の死体が発見される。問い詰める警官に対して彼は言った。”まあ、今は死んでいますね”』
思い出すだけで腹が捩れる話であるな! 流石は守護神獣殿だが、主である大老様も素晴らしい御方である。
普段は怠惰の極み、酒に溺れ存在価値を見いだせない汚物にさえも思えるが、気の遠くなる年月を生きた経験と精神力、知性は感嘆すべからざると賞賛すべきである。御方は我が主達の中においては戦場にて気を引き締めさせる部類の精神的支柱に該当する。故に普段の言動が悔やまれてならんな……。
「……」
むっ、デンバー殿か。元は大老様の配下であり、現在は主の戦車とやらを任されし寡黙なる御仁である。ミイラ男等と駄犬めに揶揄されるが思慮深く勇敢な御方だ。我に対しても手の動きで朝の挨拶をして下さるので此方も同様に返礼する。……この御仁が今の時間に庭に居るという事は主の護衛は駄犬かマシュ嬢が任されているのであろうか?
デンバー殿と動作で幾分かの言葉を交わし、配下の者共が未だ寝入る小屋に戻った我は思考の海に潜る。あのパンダを名乗るよく分からん存在、獣とも人とも違った何かが齎した情報だ。無論、我に言っても何が出来るのか、と無力感に打ちひしがれるのだが、その時に備えて覚悟を決めろと言いたいのであろうか?
創造主である主の絶対の下僕として生み出され、己が欲のために裏切った存在である堕天使。余興のための道具でしかなかったが生存欲求から逃げ出した我は少々親近感を覚える者達だ。主の種族とは敵対関係であるが、現在は小競り合い程度の小康状態だそうしな。
だが、堕天使の中でも幹部とされるコカビエルなる者は教会陣営、パピヨン殿曰く『眩しい光に集まるだけの思考を止めた醜い蛾』、からエクスカリバーなる武具、ランスロット曰く七つに分かつ前から本来は後に続く名前があるらしい、を奪い、主のお子をなす予定のソーナ様の留学先に潜伏したとか。
「……クッ」
頭の切れる奴だと敵ながら賞賛する。先ず、居場所が割れたのは故意だ。どの勢力も他の陣営を刺激する事を恐れて様子見程度しか戦力を出せぬのだからな。堕天使は組織の総意と思われるのを避ける為に追っ手を出せず、教会も悪魔まで敵に回すことを忌避し、今回送った者が成功すれば良し。失敗すれば口実に成功が見込める実力者を派遣するのだろう。それこそコカビエルに勝利しえる者をな。残酷だが、様子見で出される雑兵は存在するのだ。
悪魔も自分達に現状で被害が出ぬのなら藪蛇は避けようとし……動かざるをえない時点までコカビエルは悠々と何らかの準備を進められるという訳だ。
「……我、じっと見詰める。エヴァリス居なかった。お前、何?」
視線を感じ振り向けば見知らぬ老爺の姿をした龍が我に視線を合わせるかのように這いつくばっていた。この龍、危険だ。底が知れぬのではなく、底がない。大老様の知人である様だが……例の組織とやらか。痛々しい格好をした雌の悪魔が屋敷に来たときに我に愚痴をこぼしていたな。
魔王とは群れの長の事であった筈だが……いや、忘れよう。可哀想な気がしたし、今は目の前の存在が最優先だ。刺激することなく帰って貰わねば。しかし、我の言葉が通じるのだろうか?
「我、お前の言葉分かる」
……いや、そもそも龍と人の言語は別物であったな。我の種族も然り。我は己を識別する名称と種族、同類と違って知性と肉体の能力の高い事、死の間際に闘気と呼ばれる能力に目覚めた事を告げる。
「……死にかけたら強くなる? シャルバ達も同じ?」
否定はしない。ここまで正直に話す必要はなく、恐らく虚偽は通じるだろうが、恥ずべき事に我は恐怖で竦んでしまったのだ。恥辱に耐える我から別の事に興味を向けたのか姿を消す龍であったが、我は己への怒りと屈辱で暫く動けずにいた。
「朝ご飯すよー! 相変わらず何も考えてないっぽくて羨ましいっすねー」
駄犬が訪れたのは少し経った後。嗅ぎ慣れぬ香りを感じ取ってか怪訝な顔をしながらも、駄犬が駄犬であるが故に流す。何時もならこの場にいる者共と連携し蹴り続けてやる所だが野生の血から感じ取った力に恐れをなして龍が去った後も大人しい者達に強いるのは酷か。
「あだっ! あだだだだだっ!? 何するっすかー!?」
取り敢えず我のみで駄犬を啄むとしよう。暫く我と駄犬の雌雄を決する戦いが続いた。
「はあっ!!」
本日は休校日だからか普段は終わっている時間にもマシュ嬢の特訓の声が響いてくる。相手はエク……何とか。ゴーレムとホムンクルスの製造に長けた家の出であり、奴が造った機動力の高い小型ゴーレムが空を飛び交い、パワータイプの大型が一撃粉砕級の攻撃を仕掛けるもマシュ嬢の防御は貫けない。
周囲の状況を把握し、次の行動を考えて動く。口にすれば簡単で行うのは困難だが、真摯に打ち込んだ鍛錬が彼女を成長させていた。
あのトロかった少女が成長した物だ。……しかし、見えない守りがあるとはいえ、あの露出の高さはどうなのだろうか……? あと、マシュ嬢を困らせる某騎士は腐って落ちればいい。何処がとは言わないがもげろ。
「……まあ、問題はないな」
今日は月に一度の定期検診の日。闘気だの種族の枠を越えた身体能力だの、体を作る成分が同じ以上は何らかの反動が起きぬかとパピヨン殿に調べて頂いている。
この御方は元は蝶の妖精の名家の長男であり、只漫然と生きているだけの同族の嫌気がさして出奔したとか。一旦不治の病魔に侵されるも大老様に学んだ知識によって問題ないほどの強靱な肉体を手に入れた。
「おい、分かっていると思うが進歩する気がないと判じたら診察は二度と行わん。貴様も遠く高く飛ぶ気構えを持ち続けろ」
我は体の構造的に飛べないのだが、あれだろうか? 飛ぶのではなく空中で跳べという事だろうか? 要努力であるな。
さて、そろそろ主の元に向かうとしよう。今の平穏な暮らしをくれた御方の元にな……。
「やっぱり動物は癒されるね。勉強のストレスが吹っ飛ぶよ」
「コケッ!」
おっと、失礼した。我の名前はシャモ。強くなり過ぎた軍鶏であり、今は闘鶏から主の使い魔に転職した者だ。
鶏の姿で読み直してみてください
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