不思議なチカラがわきました   作:キュア・ライター

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息抜きに書きました。


一話 天空闘技場

 割れんばかりの歓声と会場に満ちる熱気でステージのテンションは最高潮であった。ここは天空闘技場。血で血を洗うような野蛮な戦いを見に人々は集まり、参加者たちは富と栄誉を求め世界各国ありとあらゆる格闘技・流派の人間が覇を競いに集まる場所だ。

 

 そんな群雄割拠の闘技場に現れた一人の青年がいた。彼の名前はカストロ。長い金髪を持った男でこの場に似合わぬ優男のような風貌である。しかし、その見た目とは裏腹に実力は天空闘技場にて一級。並み居る猛者たちを倒して階層をどんどんと勝ち上がっていた。

 

 そんな彼は勝ち進んだ結果本日彼は150階に到達しひとまずの目標とする200階を目前としていた。カストロはその実績を自信に持ち今日の試合に望もうとしている。

 

『さぁ!! いよいよ間も無くに迫りました! 本日の試合! ここまでほぼ無敗で勝ち上がってきたカストロ選手! 見た目もさることながらその拳撃も流麗! 彼は150階にてどう戦うのか!』

 

 カストロがステージに入ると大音声が響きわたり応援、罵声が入り混じったものが轟いた。その様子に軽い微笑みをもって応える。彼は適度の緊張に身を包み試合へのコンディションは最上。集中力も研ぎ澄まされていた。ーーしかしその状態も長くは続かなかった。

 

『さて相対するのは天空闘技場の華!! その可憐さ! その苛烈さ! 愛らしい容姿の魅力だけでなく格闘能力の高さもピカイチ! 衣装はフリルたっぷり! 動きは殺意たっぷり! ラジカ選手です!』

 

 入ってきたのはこの場に似つかわしくない可憐な少女だった。年は十代前半で、髪は桜色で目は宝石のように輝く桃色。装いも戦闘には向かないようなフリルとリボンだらけの可愛いピンクと白のパステルカラーで彩られたドレスだ。申し訳程度に動きやすいようにかスカートは短く白い足がまばゆいばかりに露出されている。カツン、カツンと音を鳴らしながら歩く彼女の足元を見ると、これもまたリボンがあしらわれたハイヒールを履いていた。

 

 桃色の幻想的なドレスに身を包んだ彼女はまるで女児の夢を体現したかのようだった。

 

 彼女はゆっくりと足音を鳴らしながら、会場に歩み寄ってくる。堂々としたその歩みに観客、とくに男性はその美貌にほうと思わず息を呑む。風に舞うリボンや歩くたびに揺れるフリルで飾られたドレスは彼女本人の愛らしい容姿も相まってまるで絵本から抜け出したお姫様のようである。

 

 会場に入り衆人観衆が見守る中、彼女はゆっくりと——

 

 

 

 

 ()()()()()()

 

 

 

 

 そう、それはもうはっきりくっきりと、白魚のような細い指をピンと上げていた。

 

 儚げな美少女の奇行に彼女の清廉な雰囲気にやや呑まれていたカストロも思わず目を見張る。彼女の予想外の行動に驚いて固まるカストロを他所に目の前の彼女、ラジカと呼ばれた少女は小さな口を開き鈴の音のような声で言葉を紡ぐ。

 

「うるっせーんだよ、ロリコンどもが!!」

 

 叫ぶと同時にハイヒールで床をひび割れんばかりの勢いで踏みつける。ラジカは桜色の髪を翻しながら地団駄踏むように暴れ始めた。

 

「人がいちいち登場しただけで騒ぎやがって! 黙って賭けでも楽しんでろや!!」

 

 透き通った声で観客に向かって罵倒するラジカに観客は憤るわけでもなくむしろ興奮したように歓声を上げた。その声に煩わしそうに眉をひそめるラジカ。おおよそ少女がするような口調ではなく、見た目と振る舞いのギャップにカストロは面喰らう。

 

「罵られて喜んでんなよ変態どもが!!! ッチ!!」

「君は……本当にこの闘技場の選手なのか?」

 

 容姿や言動があまりにも今までカストロが戦ってきた相手とは違いすぎる。ここまで幼く、しかも少女というのはここでは類を見ない選手だ。仮にまだ心源流の弟子だというならば理解できるが、しかし彼女が着ているのは胴着ではなく柔らかい印象を与えるドレスだ。どう見ても戦いに来たとは思えない。

 

「んだよ兄ちゃん。ジロジロ見てきやがって。テメーもロリコンか?」

「違う、そうではない」

 

 ラジカは幼く透明感のある顔を嘲るように歪める。彼女のような歳の人間がしてはいけない表情であった。窮屈そうなドレスをゆっくりと動かし、彼女は拳を構え正面のカストロを見据える。

 

「御託はいらねぇ。男なら男らしく拳で語れや」

 

 ニヤリとこれまた雰囲気に似合わぬ好戦的な笑みを浮かべ、手をクイクイとかかってこいとジェスチャーをラジカはしてみせた。

 

「……それもそうか。いいだろう」

 

 ラジカの言う通りここは己の武を競う場。問答は無用。ただ互いの実力を試し勝者が生まれるだけだ。そこに老若男女は関係ない。カストロは思考を切り替え先ほどまでの集中力を取り戻そうと構えを取り深呼吸をする。歓声も罵声も切り離し、カストロはただ目の前の少女ラジカとの決闘に神経を研ぎ澄ます。

 

 野性味溢れる笑みを浮かべるラジカと神経を研ぎ澄まし静謐を纏うカストロ。彼らを見て審判は両手をあげる。

 

「ラジカ対カストロ! ポイント&KO制!! 時間無制限一本勝負!! 始め!!」

 

 審判の宣誓とともにカストロは前へと動き出す。両者の体格差は一目瞭然。カストロの攻撃範囲の方が圧倒的に広い。小回りのきくラジカに懐に入られぬように自分の間合いで勝負を試みる。だが——

 

『攻めの姿勢をとるカストロ選手! しかしカストロ選手の攻撃は全て見切っているのかラジカ選手は全て避ける!』

 

 元々の的が小さいこととラジカの技量も合わさり、ドレスとヒールとは思えない素早い動きで避けていく。カストロの攻撃は苛烈さを増し、ペースも上がるがそれでもドレスを掠めることすら叶わない。まるで舞踏会で踊るかのように彼女は動き、それに引きずられようにカストロもペースを無理矢理合わせられる。

 

 拳、突き、手刀、蹴り。次々と繰り出される猛撃は同階層の人間でも捌ききるのは難しい。そう思わせるほど見事なものであった。しかしそんな攻撃を払い、受け流し、躱し、飄々と試合開始時に浮かべていた獰猛な笑みを携えたままラジカはカストロの攻めをやり過ごす。

 

 ヒートアップしていくカストロだが体力は永遠に続くわけではない。次第に精密さを欠き、息も上がってくる。このままではマズイと判断し、置き土産に大振りの蹴りを放ち一先ずラジカから距離を取る。それを余裕の表情で躱し、彼女も背を仰け反り床に手をつき、一回転し曲芸じみた動きで距離を取る。

 

「ハァ……ハァ……」

「へぇ兄ちゃん優男みたいな見た目して意外とやるんだな」

 

 対照的な様子であった。肩で息をするカストロと余力があるラジカ。体格差や身につけている物など差がありカストロが圧倒的に有利なはずだが、それでも結果はラジカの方が圧倒的に優勢。ここまで勝ち上がってきたのはまぐれではなく、実力によるものと裏付けるような果敢な攻めであった。が、それはラジカに届くことはない。その事実にカストロの自信が揺らぐものの、考えを改める。

 

 自分の調子は良い。ベストコンディションと言ってもいい。しかし届かない。つまり目の前に対峙する幼い彼女の実力が自身よりもはるかに高いことを意味する。

 

(さすがは天空闘技場、世界というのはかくも広いのか)

 

 自分よりも遥かに幼い少女が、自分よりも遥かに高い実力を有している。その事実に衝撃を受けながらも目の前のラジカからは視線を逸らさない。息を整える間も試合は止まることはなく、次はラジカから動き出す。

 

「次は俺からいくぞ!」

 

 言うや否やラジカは粉塵が湧くほど力強く踏み込み爆発的な加速力とともにカストロに迫る。少し前の展開とは一転、攻守が完全に逆転した。轟ッ!という音とともに拳が振るわれ、それを紙一重で避けていく。

 

 ラジカの回避とは違い、ぎりぎりで躱しておりカストロは自然と冷や汗をかいた。やがて彼女の攻撃は激化していき殴打や蹴りの鋭さは増していく。

 

 華奢な少女の四肢から繰り出されるものとは思えない攻撃を受けカストロは歯を食い縛る。防御をしてもその上からねじ伏せるように一撃一撃が重く、そして鋭い。

 人間の体同士がぶつかっているとは思えぬ音が会場に鈍く響き渡った。そんな原始的な暴力の応酬に観客は盛り上がり、歓声が沸き立つ。

 

 そんな時間は長くは続かない。ラジカの攻撃は着実にカストロの体力を削っている上に、彼は防戦一方。そして決着の時間は訪れた。

 

「ッハ!!」

 

 短い掛け声とともに繰り出された攻撃は高い威力を誇り、カストロを防御していた腕ごと弾き飛ばす。体勢が崩れカストロは顔を青くするが、その隙を見逃すラジカではない。右の拳を握りしめ大地を踏みしめて、腰から全身の力を乗せた今まで以上に重い一撃が繰り出される。その殴打を食らったカストロは両足で体を支えることすら叶わず、肺から空気を漏らし、息ができなくなりながらステージ外の壁へと一直線に叩きつけられた。

 

 体重差があるはずなのに、それを感じさせない凄まじいラジカの拳。それは吹き飛ばすだけでなくカストロを壁にめり込ませ、完全に意識を奪っていた。

 

「カストロ選手KO! 勝者ラジカ選手!!」

 

 意識の有無を確認した審判の宣言によって勝敗が決し、衆人が興奮から大声を上げた。

 

「よっしゃ!!」

 

 その歓声を受けてラジカは拳を突き上げ微笑む。見た人物を恋に落とすような、そんな晴れやかな笑みだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「いや〜一試合でこんなに儲かるとはな!!」

 

 通帳片手にうはうはと笑みを浮かべるドレスの少女。先ほどまで戦っていた少女、ラジカである。

 ここ天空闘技場では100階以上の階層の選手には個室が用意される。彼女が今居るのもその一室。そんな部屋の中で彼女は少女としてはNGな表情とともに手元にある通帳をやらしい笑みで眺めていた。

 

 天空闘技場では一試合ごとにファイトマネーが出され、勝者はそれを入手できる。ラジカが先ほど戦った試合のファイトマネーは2億。真面目に働くのもバカらしくなるような莫大な金額だ。試合に勝つだけで金が手に入る。正直脳筋気味なラジカとしては天国のような場所であった。

 

「『魔法少女』はそんな顔しないコル」

 

 だらしない顔で喜ぶラジカをたしなめる声。しかし、そんな部屋でかけられた声に気分を害されたのか苛立ちを隠そうともせず舌打ちをするラジカ。

 

「ッチ! うるせぇなリリコル。魔法少女になんかなりたくてなったわけでもないっつーの」

 

 リリコル。彼は人間ではない。この部屋には住人はラジカ一人であり彼女は自分以外の人間をこの部屋に入れたことはない。チラリとベッドの上に居座るリリコルの方を向く。

 

 

 

 ウサギのような長い耳。イヌのような四肢。ユニコーンのような角。ネコのような尻尾。背中に小さな白い翼。そして真っ赤な首輪に暗い宝石。

 体毛は全体的に淡いパステルカラーであり、瞳だけが金のように輝いているのだ。

 

 

 

 そんなよくわからないキメラ。それがリリコルだ。

 

「リリコルは死にかけてたキミを救ったコルよ? 感謝される謂れはあっても非難される筋合いはないコル」

「それは感謝してるけどなぁ……」

 

 今から約一年前、前職についている間死にかけていたラジカはリリコルと契約することによって救われた。病院に連れて行ってももう手遅れと一目でわかるほどの瀕死の重傷から奇跡的に生還したのだ。どうやってかと言うとそれはリリコルの正体に起因する。

 

 リリコルの正体とは【契約の妖精(ボクトケイヤク)】という念獣である。

 複数の系統から作られた念獣であり、人語を解し喋ることができる。

 

 

 リリコルはある一つの念能力の一部である。

 

 能力名は【憧憬乙女(ニチアサ)

 

 その本質は契約。一人の人間と契約することができ、その契約を完了することで契約した人間の願いを一つ叶えることが可能。また契約を完了するために様々なサポートもでき、その支援の一貫として瀕死の重傷からラジカは回復することができた。

 

 さて、そこで重要なのはその契約である。契約の内容は端的に言うと

 

()()()()()()()』ことである。

 

 もう一度言おう、『魔法少女』になることである。よくわからないだろうが、ラジカにもよくわかっていない。というかリリコルにもわかっていない。

 【憧憬乙女(ニチアサ)】は複数人で作られた複合型の能力らしく、リリコルいわく少なく見積もっても40人は関わっている能力らしい。このリリコルを作った人間たちがそれぞれ魔法少女らしい振る舞いと判断する行為を行うたびにリリコルの首輪に埋められた宝石が輝きを増し、最高の輝きになったとき契約完了と見なされ解除される。

 

 そしてこの契約の対象は老若男女を問わない。が、この契約した段階である能力が発動する。その名も【夢幻少女(インストール)】。この能力によって強制的に体が十代の少女のものへと切り替わるのだ。たとえ爺でも三歳児でも性別、年齢、病気、身長、体重、すべての状態が健康的な十代女子へと切り替わってしまう。

 

 この能力によってラジカは青年から少女へと強制的に体を組み替えられた。そのせいで前職はクビになり、しばらく無職になってしまったのだ。正体不明の念にかかった人物を身近に置きたくはなかったのだろう。

 

「今日もあんまりMPは溜まらなかったコル」

「いや試合しただけで少しでもたまってくれるだけで御の字だわ」

 

 MPとは魔法少女ポイントの略称であり(命名ラジカ)、これが溜まると宝石が輝くのだ。しかしこの基準結構雑である。例えば困っている人への人助けや仲直りのお手伝いなどはわかるんだが、今日のように殴り合いをしても微量ではあるが溜まることがあるのだ。なんだろうか、魔法少女(物理)でも理想としてる人物がいるのだろうか。ラジカとしてはその辺の定義をはっきりとさせておきたいところである。

 

「登場したときにもう少し微笑むなりすればMPも溜まるコル」

「嫌だね、俺はさっさと除念してもらうつもりだ。ここにいるのもそのときの依頼料を稼ぐためだからな」

「そこらへんのバカな客どもに媚び売っとけば早く解けるかもしれないコルよ?」

「オイ、リリコル。魔法少女のマスコット名乗るにしちゃ口が悪いぞ」

「細かいこと気にするなんて魔法少女らしくないコル」

「それ言っておけば何とかなるって思ってないだろうな」

 

 

 何はともあれ魔法少女になってはや一年、未だにこの魔法というよりか呪いのような念が解除される気配は見えないのであった。

 

 




憧憬乙女(ニチアサ)
全系統の能力
最低40人以上の人数が協力してできた念能力。彼ら彼女らが理想とする魔法少女を作り上げるためにできた複数の能力の総称である。
叶えたい望みのある人間と契約して魔法少女にする。魔法少女らしい振る舞いをすることでこの能力は解除される。
契約が完了すると契約者の望みを叶える。
<制約>
能力は作成後、作成者の記憶から消え去る。
作成者には発動されない。
契約した人物に少量づつオーラを無意識に供給する。
契約者は契約直後から【憧憬乙女(ニチアサ)】以外の発が使えなくなる。
契約者には内容を全て話さなけらばならない

契約の妖精(ボクトケイヤク)
具現化・放出系能力
リリコルのこと。人語を解し、会話ができる。契約者を見つけ出し、その人物が契約に同意した場合魔法少女にする。絶対に破壊されない。
首輪についた宝石が契約をどれだけ完了しているかを見定める基準となっている。
<制約>
作成者の記憶を持たない。
語尾にコルが基本的につく。

夢幻少女(インストール)
特質・操作・具現化系能力。
憧憬乙女(ニチアサ)】で契約した人間を十代の健康的で()()()少女の体にする。操作系で体の内外を操作し少女にするが、それでも可憐にならない場合は強制的に体を変形させる。

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