不思議なチカラがわきました 作:キュア・ライター
今日も今日とて天空闘技場にて試合をし、適度に勝ち、適度に負ける。その結果150階から180階を行ったり来たりして稼いでいた。200階に登ってしまうと賞金が発生しないという情報を聞いたラジカは名誉や名声なんて求めておらず、金欲しさに来ているだけと割り切りそういった現状に落ち着いたのだ。一銭にもならないような試合をここでするつもりはない。
今日の試合は適度に苦戦を演出し、ポイント負けをした体で終わらせた。そして試合を終えたラジカはだらだらとパソコンの前にかじりつき、ネットサーフィンに興じている。
「見た目は美少女! 中身はチンピラ! 魔法少女ラジカル☆ラジカ!!」
カチカチというクリック音とカタカタキーボードを叩く音だけが虚しく響く部屋で、突然リリコルが叫んだ。リリコルの奇行に慣れているラジカは見向きもしないが、とりあえず声を掛ける。
「何だよ急に」
「魔法少女といえば変身の際に何か言うのが普通コル」
その普通というのはどこからの知識なのか二、三度問い詰めたい気がするが、するだけ無駄なので大きなため息を一つつく。どうせ最近朝見ていた女児向けアニメとかだろう。
ため息をつくラジカの肩にぴょんとリリコルは飛び乗ってきた。リリコルの大きさは小型犬と同程度にはあるのだが、なぜか重さはほとんど感じない。こういったときにコイツ、本当に念獣なんだな、ということをしみじみと実感する。
「というわけで今決めたキャッチフレーズコル。今度からこれを名乗ればMPが溜まるように決定したコル」
「本当ど突いたろうかこの小動物」
「そんなことしても無意味コルよ? 散々試したのに忘れちゃったコルか?」
煽るように語尾が上げられた言葉を受けて、無言で肩に乗るムカつく小動物をはたき落とす。否、はたき落とすというよりかはもはや掴んで投げ飛ばしていた。ムギュ〜と無駄にマスコットらしい声を上げて二、三度バウンドして部屋の隅に飛んで行った。
魔法少女らしさというのがリリコルにもわかっていないらしいのだが、作成者たちの無意識に働きかけ当てはまるかどうかを判別してある程度のルールや基準を設けることは可能らしい。といってもルールの決定は作成者たちの三分の二以上の同意がないとできないらしいが。
今の所決まっているルールは少ない。
・他人を故意に殺すとMPがリセットされる
・女性女児用以外の服を着ると着用時間に応じてMPが下がっていく
・変身の際に口上を述べるとMPが溜まる NEW!
以上である。それ以外はアバウトで、人をぶん殴ってMPが溜まるときもれば人助け(あとあと調べたら犯罪者の逃走を助けてた)で下がることもある。
「そういえば何をさっきからネットで見てたコルか? 可愛くなる方法とかコル?」
「アホか。除念師の情報調べたんだよ」
勢いよく投げ飛ばされたというのにケロっとした顔で戻ってくるリリコルの問いに答える。ラジカが見ているサイトは髑髏や逆十字などが表示されて背景は真っ黒で文字は真っ白で書かれているものだ。
「そんな厨二全開のサイトよりもケーキのサイトとか見る方がMP溜まるコル。早くキラパティのサイトを開いてモンブランを頼むコルよ」
「ふざけんな、それお前が好きな高級ケーキ屋じゃねぇか。誰が頼むか、そんなもん」
「どっちにしろ除念師の情報なんてネットに載ってるコルか? そういう能力は希少価値が高いから普通隠していることの方が多いと思うコル」
リリコルの言う通り、除念師の情報など前職の伝手を使ってもなかなか集まらない。一度除念師を名乗る輩に会ってみたことがあるのだが、いざ会って蓋を開けてみると念能力者でもないパチモンである。そのとき思わずラジカはルールを無視してそいつを殺そうとしたほどには怒り狂った。
「あ〜クソ。やっぱヒットしないな〜」
頭をかきむしって机に突っ伏す。そもそも出会えたところで最低40人からなる念を外すことができるほどの優れた除念師であるかどうかはわからない。一応依頼料として金は貯めれるだけ貯めているが事例が少ないだけに相場もわからない。
「前職についてたときの知り合いとかにいなかったコルか?」
「俺の知ってる範囲ではいない。というか同業者はみんな敵だし、仲間内にいなかったらそう簡単に頼れないからな」
就いていたのは見栄や面子を大事にする職業であった。それに現在の姿で会うのはラジカのプライド的に許さない。元は引き締まった肉体にそれなりに整った顔、暗い紫の髪をオールバックにし、顔に走る刀傷で威圧感を与える。そんな人間であったのだ。
それが今はどうだ。
黒に近い紫の髪は淡い桜色で輝かんばかりの美しい髪に。背丈も大いに縮み、華奢な肢体に変わり、凶悪な目つきも今はもう愛らしい大きな瞳へと化けてしまった。舐められる云々の話ではない。事情を知らない人間が見たら確実に赤の他人だろう。
「そもそも元の職業がマフィアっていうのも魔法少女らしくないコル。可愛らしくパティシエとか歌手とかだったら良かったコル」
「そんなんやってたらそもそも死んでないし、魔法少女の契約なんてしてねぇわ」
一応諦めきれず検索を続けるが次第にやる気も失せて大人しくブラウザを閉じる。すると右下と時計が目に入り、だらけていた体を慌てて起こして動き出す。
「やばい、もうすぐ時間じゃん!」
急に起き上がったせいでラジカの頭に乗っていたリリコルが落ちて、不満げな視線を送る。そんな視線を受けているなんて気にもとめずに部屋に散乱した洗濯物やカップラーメンの器など大慌てで整理を始めていた。普段どれだけリリコルが言っても整理整頓をしないラジカの行動を見てようやく理解する。
「妹ちゃんとの電話の時間コルか。普段整理整頓してないから急に慌てる事になるコル」
「うるせぇ! ガミガミ小言を言うくらいなら手伝え!!」
***
大慌てで掃除を数分した結果、パソコンのカメラの死角に余計なものを追い込む事によって一見すると清潔な部屋に見せかけることに成功した。そして14時ちょうどになるとパソコンの画面に着信ありと表示される。
髪や服装をひと撫でして軽く直し、リリコルが余計なことをしないように捕まえて胸の前に組んだ腕の中に閉じ込める。パソコンを操作すると画面に紫の髪をした女性が現れた。彼女は和服に身を包み、柔和な笑みを浮かべている。
『こんにちは、ラジカ。元気にしてた?』
「やぁ、エリザ 久しぶり! 元気だよ」
画面に映るのはラジカの妹、エリザである。ノストラードファミリーというマフィアの娘、ネオン=ノストラードに仕える女性だ。
孤児であった二人はノストラードファミリーに拾われてラジカは護衛、エリザは侍女として育てられた。その恩返しとしてしばらくの間はノストラードファミリーに仕えることが二人の間で決定していた。少なくともラジカは死ぬまで仕えるつもりだったし、エリザもそのつもりではないだろうか。
しかし、ラジカの思惑は思わぬ形で阻害された。
一年ほど前、ノストラードファミリーに大勢の刺客が訪れた。おそらくノストラードファミリーの発展の裏で没落していったファミリーが妬みから襲撃を決行したと思われる。そこで総力戦となり、ラジカは致命傷を負ってしまった。
自分でもおそらく死ぬと思った瞬間、リリコルが現れ契約する事で生きながらえることができた。しかし、ラジカはそこで少女へと変貌してしまい、よくわからない効果の念を受けた者を護衛に置くわけにはいかず、ラジカは幾許かのお金をもらって退職することになった。もしもこの念が解除されたならファミリーに復帰することができるといわれたため、ラジカはそのために必死に動いている。
週に一度、ラジカとエリザはお互いに連絡を取ることが許されており、よくわからない状況へと追い込まれたラジカにとって唯一の癒しだ。
そんな癒しの時間を受けてラジカとエリザはお互いの近況を話し合っていた。楽しい時間はあっという間に過ぎ去っていく。そんな中でエリザは一枚の紙を取り出した。
「ねぇラジカこれ見て欲しいんだけど」
「えっと、何これ、もしかして」
「そう。ネオン様の予言よ」
画面から少し遠いからか文字はぼやけて見えるが、行数や筆跡的に元主人・ネオン・ノストラードが念能力【
しかしその的中率は脅威の100%。絶対に当たる未来予知だ。
「今すぐ戻せ! 他の人間にバレたら殺されるぞ!」
ネオンの顧客はマフィア界だけですらかなりの重鎮まで及んでおり、エリザがそれを持ち出したというのは内容に問わずまずいことだろう。一体誰のものを持ち出したのだというのだ。ラジカがハラハラとエリザを心配し始めた。そんな心配を他所にエリザはやんわりと笑う。
「大丈夫よ、これラジカの予言だもの」
「俺の?」
「ええ。ネオン様に頼んで占ってもらったの」
そういって詩が読み上げられる。
**
あなたは空へと登る道中
服を脱ぐことは叶わず
死神と出会い取り憑かれる
財は諦め逃れなさい
波にまぎれて試練の場へ
揺られる中で金に恵まれる
色を変えなければ
富との糸が結ばれる
勇者の集まりへとあなたは辿り着く
黎明には口を閉じれば苦しみは訪れない
霧に身を潜めなさい
さもなければ死神に見つかってしまうから
塔では独り島では質素でいなさい
数への執着を捨てれば勝利はやがて現れる
欲張りものが集まる場所
待ち人はそこにいる
**
「たぶんこの『服を脱ぐことは叶わない』っていうのはきっとラジカにかけられた念は解除されないってことだと思うわ」
たしかにこの『服』っていうのは【
「この試練っていうのは何のことなんだろうな」
「調べてみたんだけれどね、近日中に行われる大きな試験だとハンター試験があるの。それだと勇者の集まりって受験者のことでしょ、島とか塔って試験会場のことじゃないかしら」
エリザの解釈を聞いて納得する。確かにその解釈はいろいろと辻褄が合うことが多い。『波』は会場までの移動手段、おそらく船だろうか。
「とりあえずもう時間もないし、あとで文章を送るわね」
「おう、ありがとう」
あとで時間をかけてゆっくりと読み解こうと決心するラジカ。元々ノストラードファミリーが少数だったころはラジカもエリザも解読を試みていたのだ。だから解読するのはおそらく可能だ。
「じゃあ、またね。ラジカ」
「またな、エリザ」
通話を終えようとパソコンを操作しようとマウスへと手を伸ばす。と、その直前でエリザが思い出したかのように声を上げた。
「そうそう、ラジカ。一つ言うことがあったわ」
「ん?」
「私、良い人が出来たわ」
…………。部屋に不気味で不自然な沈黙が降りた。聞き間違いと思ってラジカは一度頭を空にする。ポカンとしたラジカに聞こえなかったと思ったのか再度口を開く。
「私、恋人ができたの」
そのセリフを今度は正しく認識できたのか、マイクが壊れんばかりの大声が自然とラジカの口から溢れ出す。
「は!?」
「じゃあね、また来週!!」
「ちょっと待て! エリザ!! 恋人ができたってどう——」
ラジカが言い切る前にブツっと通信が切れた。暗くなった画面に驚愕に満ちた美少女が映る。そんな美少女、ラジカの様子を恐る恐るリリコルは見上げた。ゴゴゴゴという擬音が聞こえてきそうなほど禍々しいオーラが部屋を満たしていく。もし色がつくとしたらドス暗い漆黒。髪色や瞳の色とは大きくギャップがありすぎてそれが更に恐怖を煽った。
「どこの馬の骨だァーーー!!!」
噴火するように溢れ出した激情とともにオーラも爆発して机の上に置かれていたコップが弾け飛んだ。彼女の今の風貌は美少女というよりはもはや悪霊。その様子に流石にリリコルも「魔法少女はそんな顔をしない」なんて言えなかった。
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