不思議なチカラがわきました 作:キュア・ライター
遥か上空、青い空を流れる白い雲をぼんやりとサングラス越しに見る。プールサイドに用意されていたパラソルの下、ビーチチェアに寝転び白い脚を覗かせていた。
ご機嫌な様子で鼻歌を奏でながら傍に置いたノンアルのカクテルドリンクを一口含む。南国を思わせる色彩鮮やかな飲み物は様々な果実の風味がした。
俺は今魔法少女になって以来最高の時間を過ごしている!!
「珍しくご機嫌コルな」
「そりゃ機嫌も良くなるだろ!!見ろこの青空!海!プール!!」
「久々の贅沢に頭おかしくなってるコル」
ため息交じりのリリコルの言葉も気にかけないぐらいには機嫌がいい。だから今リリコルが空に吹き飛んだのは気のせいだ。別にイラっとしてぶん投げた訳じゃあないことをここに誓おう。豪快な水しぶきを上げて沈むリリコルを尻目に潮風に吹かれながらぐっと背伸びをする。
プールに沈んだリリコルは上がってくると、嫌がらせとばかりに俺の近くで体を振って水を飛ばした。ほう、やる気かコイツ……?
「エリザの恋人の話を聞いたときとは偉い違いコル」
「おい、次その話題を投げかけてみろ、八つ裂きにするぞマスコット」
「そ、そういえば予言の内容はわかったコルか?」
目から冗談ではなく本気の殺意が迸っていたので話題を無理矢理リリコルは変える。
「ん? あぁ、それなら割とわかったかな」
ネオン様からの詩を自分なりに解釈してみた結果とりあえず序盤の部分は以下のようなことだと俺なりに理解した。
***
あなたは空へと登る道中
服を脱ぐことは叶わず
死神と出会い取り憑かれる
財は諦め逃れなさい
波に紛れて試練の場へ
揺られる中で金に恵まれる
色を変えなければ
富との糸が結ばれる
***
この『空へと登る道中』というのは天空闘技場のことだ。勝てば勝つほど上の階層にいくため間違っていないはず。次の一行はこの前エリザと話した通り除念されないことだ。まぁ、あそこに居て戦っても得るのは金ばかりでMPは雀の涙ほどしかたまらないのだから当然と言えば当然だ。
問題なのはその次の一行だ。
『死神と出会い取り憑かれる』。この一行はどう切り取ったとしても不穏な要素しかない。この死神が念なのか、人なのか、物なのか。正体は定かではないが碌な事ではないことは確かだ。取り憑かれるのは疫病神(リリコル)だけで十分である。次の行にも『財は諦め逃れなさい』と言っていることなので素直に従うことにした。
次の一節からはおそらくハンター試験に向かう暗示だろう。というわけで俺はクルージングを楽しんでいた。天空闘技場で稼いだお金を、貯めておくだけというのは勿体無いと思い切って豪華客船に乗ってみることにしたのだ。今まで護衛以外でこういった高級客船を乗船したことはなかったのだ。
気分は完全にセレブ。といっても流石に女児の体型で水着を着るつもりは無いので薄手のTシャツと短パンにパーカーという出で立ちである。
周りの客も基本的に金持ちで優雅な方々ばかりであるし、そういった人間は得てして寛容である。本当のセレブというのはこういったものか、と愕然としていた。そもそもどこぞのお嬢様と見なされているのか、一人でいるが誰も関与してこない。
この船でハンター試験会場の近くまで行く手はずだ。こんなにゆっくりとした時間を取るのはだいぶ久々なので思い切り羽を伸ばそう。
***
と思ってた時期が俺にもありました。
傍にはサングラスに黒服をかけた男たち。背後にはガラスケースに包まれた煌びやかに輝く宝石。周りはガラス張りの展示場。天井には豪華なシャンデリア。頭の上にはリリコル。そして俺が着ているのは周囲の人間と似た系統の黒いスカートスーツ。
端的に言って仕事をしていた。
内容はこの豪華客船内に展示されている宝石や希少な自然物の保護である。この豪華客船には大勢の資産家がおり、その人間が各々が有する物をお互いに展覧するために持ってきていた。大勢の人々に希少なものを楽しんでもらおうという理由であるが、結局のところ「自分はこんなに凄いものを持っているんだァ!」という自慢がしたいだけだろう。金持ちは自己顕示欲の強い人間が多いのだ。
当然セキュリティには気を使っているのだが、そんな中でも有名な盗賊が希少品を狙っているという情報が入ったのだ。そこでそれぞれ警備員を雇って配置している。俺もその中の一人だ。
さてそんな仕事に外見は10代前半の乙女がなぜ就いているかと言うと、スカウトされたのだ。
この客船には金持ちが大勢いるが、同様に恨みを買っている人間も大勢居り、船内にはそんな人間を狙った者が紛れていた。偶然殺しの場に居合わせた俺は暗殺者を撃退、無力化した。
その標的はどうやらこの豪華客船での展覧会の企画者だったらしく、大層感謝され莫大な謝礼金が支払われた。
これで終われば金も貰えて人助けによるMPも溜まってラッキーという話だったのだが、俺が天空闘技場の闘士だということがバレ、そこから拝むように嘆願され莫大な報酬に目が眩んだ俺は護衛に就くことになった。
そして就くこと早五日。
「来ないな」
「来ないコルね」
凪のごとく何もない。いや襲撃がないのは良いことなのだが何もなさすぎて暇である。俺とは反対側にいる金髪の男なんて暇すぎるのかケータイをいじっている。それで良いのかプロよ。訴えられても知らんぞ。
護衛をやっていたころとはブランクが大きく空いてしまったせいか、いまいち集中力が続かない。これは除念、もしくは契約完了後までの良いリハビリになりうる。というか集中力の低下は少女化してる弊害とかじゃないだろうか。だいたい子供なんて長いこと集中できないものだし。
俺も早くこの部屋を出てうまいものでもつまみたい。この体では飲酒と喫煙ができない(出来るには出来るがMPが下がる)ので少し不満があるが、それでもここの料理が美味いことには変わりない。つい数時間前に食べた海鮮料理を思い出すと空腹感が湧き上がってくる感じがした。
辺りを見ると、この船旅も終わりを間近にしたためか展示会場にはほとんど人がおらず、居るのは出入り口に二人の警備員。会場内には見物客が一人、それに俺とリリコル、あとは金髪の警備員が一人だ。
携帯をいじっている彼は話しかけるなオーラ全開なのでおとなしく暇潰しにリリコルとお喋りすることにした。
「この仕事ってMP溜まってるのか?」
「全く溜まってないコル。それどころか真面目に働かないとマイナスになる可能性もあるコル」
「わ、割に合わなすぎる」
「多分無償で受けていれば少しは溜まるコルよ?」
「タダ働きなんて論外だっつーの。魔法少女っていっても霞を食って生きてるわけじゃないんだから金は必要だろ」
霞を食って生きるのは仙人だし、魔法少女も嫌だが同様に仙人も嫌だわ。
戦闘以外ではボーイッシュな女子というコンセプトでズボンしか履いていないのだが、今はスカートスーツというのもあって不快度がかなり高い。サイズも正直合っていないので他人から見ると完全に背伸びしたお子様である。
一刻も早く脱ぎ捨てたいものだが、生憎と勤務時間はもう少し残っている。身も心も締め付けられているような気がして思わずため息がこぼれた。
「ラジカ、ラジカ。あのお客変じゃないコルか?」
「んあ?」
リリコルに言われ会場を見渡すとたしかに変な客がいた。目は虚ろで歩き方も覚束ない。暴れたのか上等なスーツには擦れた跡、本人には引っ掻き傷のようなものがあった。
酔っ払いが食堂からこちらへと向かってきたのだろうか。ガリガリとガラスを引っ掻きながら見つめる男性へとラジカは嫌々ながらも声をかける。
「あの、お客様」
「アぁ? んダよ、テめェは?」
呂律が回っておらず、これはめんどくさそうだと内心顔をしかめる。そんな感情は胸にしまい込みビジネススマイルを浮かべて対応する。中身は違うとしても今の自分の見た目は美少女。大抵の相手ならころっと魅了されるはずだ。ここは丁寧に行こうと軽く咳払いをして声を整える。
「申し訳ありませんがお客様、他の見学のお客様のご迷惑にもなりますので、できればガラスを引っ掻くなどの行為はご遠慮願います」
リリコルの「誰だお前」みたいな視線が突き刺さるが無視である。俺としても疲れるのは御免なので穏便に引き取っていただきたい。そのために猫被って済むなら万々歳である。のだが、
「お客様ハ神さマだロうがよォ!?」
「んだよ!急に逆上かよ!?」
どこに隠していたのか知らないがナイフを取り出して俺に向かって襲いかかってくる。
よくわからない言語化できないような声で絶叫しながら襲いかかる奴に対し、俺は迎撃に躍り出た。風を切る音ともに振られるナイフの軌道を見切り躱す。
足を可能な限り開き、回し蹴りをして意識を刈り取る。遠心力も加わり鞭のようにしなる蹴り。それを受けて吹き飛んだ酔っ払いは壁に叩きつけられる。と同時に微動だにしなくった。おそらく気絶したのだろうし、そうでなくとも感触からして骨は折れた。同様に内臓にも相応のダメージがあったはずだ。
軽やかに足を下ろして飛んで行った男を見遣る。
「いきなり暴れやがって危ねぇな」
「人を呼ぶコルか?」
俺が戦っていたときだけ器用に肩の上でバランスを取っていたリリコルが提案する。短い足でどう頑張っているのか知らないが戦闘中でも俺にひっつけるのは純粋に凄いと思う。
「おう、そうしよう。まさかコイツが盗賊ってわけじゃないだろうが一応捕まえてもらう」
盗賊でもないただの酔っ払いであったが、ここで暴れたのは事実だ。どういった身分の人間か知らないし、どういう扱いにすればいいかわからないので責任者を呼んでもらおう。横たわる酔っ払いに警戒は緩めず近づいていく。
にしてもすごい瞬発力であった。オーラを見たところ能力者には見えなかったが、まるでリミッターが壊れたような身体能力を持っていた。もしや酔っ払っているのではなくラリっていたんじゃないだろうな。
近づいて鼻を利かせてみると違和感を覚えた。この男からアルコールの匂いがしない。ましてや薬物の匂いも感じない。
「大丈夫ですか?」
疑問に思っていると俺と酔っ払いの戦闘を見ていた他の警備員が駆けつけてくる。
「すまないが、こいつを責任者のところまで連行してくれないか?」
「私がですか?」
「俺は正規に雇われたわけじゃないからな。あんたの方がいいだろう」
「わかりました」
完全に脱力した酔っ払い(仮)の肩に腕を回し、警備員に受け渡そうとする。が、その瞬間俺は一気に距離を詰めて蹴りを放った。
***
「は?」
きょとんと警備員は目を丸くするが、それも一瞬。蹴りを目の前でかすめながらラジカとの距離を取る。そして眼前の少女へと視線をやると爛々と敵意に満ちた瞳をしていた。
「テメェ俺に今何しようとしやがった」
鈴のような声。だが野獣が唸るようである。声と口調のギャップに驚きながらも警備員は震え声で疑問を投げかける。
「何、と言われましても。私はただそちらの男性を運ぼうとしか」
「とぼけんな。俺に何かしらの能力をかけようとしただろうが」
外見上は可憐な少女だというのに放たれるプレッシャーは獣のそれである。警備員、否、変装していた人間は諦めたように息を吐く。乱雑に髪を掻き先ほどまでいじっていたケータイを再度取り出す。
「殺気もオーラも上手く隠してたと思うんだけどどうやって気づいたんだい?」
「アンテナ」
金髪の男、シャルナークがケータイを持つ手と反対の手のひらを開くとそこにはラジカの言う通りアンテナがあった。彼の能力発動の媒体で刺すだけで人を操作できるのだ。彼は幻影旅団という盗賊団のメンバーの一人。この豪華客船に展示された宝を目当てにやってきた盗賊である。
「上手く隠したつもりだったんだけどなぁ」
「ハン!オレの凝のが上手だったってことだろ。それにそんないやらしいオーラ見逃さねぇよ」
軽口を叩きながらも挙動に隙はなく、ラジカとシャルナークは一定の距離を保ちながらもお互いがすぐさま行動に移れるように体勢を整える。
今のラジカは発は使えないものの放出系。対するシャルナークは操作系。正面戦闘だけならラジカが有利である。シャルナークの考えとしてはアンテナが刺さりさえすれば勝利と思っている。が、能力のタネが割れてしまった状態での成功率は低いだろう。
「それでキミはオレをどうするつもりだい」
「決まってんだろ、とっ捕まえるんだよ」
本音を言うとラジカとしては殺してしまっても構わないんだが、それをやると今までコツコツ溜めていたMPがゼロになってしまう。
無力化を目標に戦闘するつもりだがオーラの様子を見る限りかなりの手練れ。おそらく操作系ということもあって正面戦闘が専門ではないだろうが、そう上手くはいかないだろう。気を引き締めて神経を尖らせる。
そしてラジカは駆け出した。足へと回すオーラの量を増やし直線的に爆発的な加速力を持って突き進む。一般人から見ると姿が霞んで見えるほどの高速移動。
搦め手が多い操作系に対し、何かをされる前に潰そうとオーラを集中させた右ストレート。それを振り抜かんと拳を握りしめた。短期決戦。先手必勝。一撃必殺。そんな思いが込められた小さな拳に莫大なオーラを込められ必殺の一撃としてシャルナークに迫る。
「死ねゴラァ!!」
「ッ!!」
念能力者は見かけによらない。シャルナークはある程度予想は立てていたものの、想定を軽々しく上回る拳撃。攻撃の体勢、体の動かし方、体を覆うオーラの量と拳に込められたオーラの密度。どれを取っても一流といえる攻撃である。シャルナークの背に思わず冷や汗が走る。
しかし、その攻撃が当たる直前、突然ラジカの視界がブレた。直後に足が床から離れて視界が回転し全身に衝撃が走る。ラジカは異常を感知した瞬間、オーラを倍増し全身の防御力を高めたものの、軽い体はまるでボールのように跳ね飛ばされ壁と衝突。壁を崩して瓦礫の山ができあがり、ラジカはその下敷きとなった。
死——とまで言わなくともかなりの重傷を覚悟した状況から一転。シャルナークは呆れたように頭を抱える。そして、ラジカを攻撃した方向、出入り口を見ると野獣のような大男がそこに立っていた。
「あのさウボォー。助けてくれたのは嬉しいんだけどもっと穏便にできなかった? 後少し気づくの遅れてたらケータイお釈迦だっんだけど」
ウボォーギン、そう呼ばれた男はシャルナークの仲間である盗賊である。彼は先ほどシャルナークに利用された男を投げることによって、ラジカの攻撃を妨害したのだ。周によって込められたオーラは多く、ウヴォーギンが強化系というのも相俟ってまるで砲弾でも発射されたかのようであった。たとえ念能力者であったとしてもそこらの人間では一溜まりもない一撃である。
出来上がった瓦礫の山と砂埃に不快そうに眉をひそめるシャルナーク。対して悪びれもせずにウヴォーギンはゲラゲラと笑う。
「せっかく助けてやったんだから、そういうなって。にしてもあのガキなかなかのオーラだったな」
念能力者としてかなりの実力を有している幻影旅団の2人から見ても、中々の実力を有しているように見えた。子供の念能力者というのはいるにはいるが、得てして戦闘向きの能力ではなく、また先天的な人間が多いので基礎のなっていない人間ばかりだ。
「確かにあの一撃はやばかったよ。喰らってたら両腕くらいは覚悟したほうが良かったと思うし」
「そう思うなら俺にもっと感謝しろって」
「はいはい。どうせなら展示品巻き込んで瓦礫の山なんか作らないで欲しかったけど」
ちらりと出来上がった瓦礫の山を見ると、その山を構成しているのはもちろん展示品等を巻き込んでおり、少なく見積もっても二億の価値はあるだろう。
「あーあ、もったいない」
「悪りぃって」
「…………いってえな」
声と強烈なオーラを感じて会話を中断する2人。すぐさまに発生源を特定した。2人の視線の先には瓦礫の山。先ほどの攻防で生まれたものである。すぐさま原因に思い当たった2人はそれぞれに感想をもらす。
「うわ、マジか」
「いいね! そう来なきゃつまんねぇよ!!」
引いたような感想をもらすシャルナークと対照的に楽しげな笑みすら浮かべるウボォーギン。瓦礫はやがて震え、爆発するように吹き飛んだ。弾丸のごとく吹き飛んでくる瓦礫の破片を避ける。
吹き飛んだ山から出てきたのは傷だらけになったスーツを身に纏ったラジカ。瓦礫を吹き飛ばしたのか右腕は上に構え、何処にそんな余裕があったのか、左腕で投げ込まれた男を保護していた。
「あれ喰らって無事なのか」
「面白ぇ! 暇つぶしくらいに来てなかなかの奴に会えるとはな!」
「だぁー!! クソ!! 展示品ボロボロじゃえねか!! これ俺の責任になんのか!? 最悪じゃねぇか!!」
ラジカは辺りの惨状に思わず頭を抱えたい気持ちに陥る。被害総額を計算したら一体いくらになるのだろうか。ラジカの総資産を軽々しく飛び越えて行きそうである。というか、これは誰の責任になるのだろうか。背中に冷たいものが走ると同時に激しい怒りが湧く。
「チッ! 大人しくボコられてお縄につけ、盗賊ども!!」
「いいぜ! 相手になってやる!」
「ウボォー任せたよ。正直骨が折れそうだし」
三者三様、それぞれ構えを取り一気に動き出す。シャルナークは距離を取るように後ろに、ウボォーギンとラジカは距離を詰めるように前に。
ウボォーギンの拳がラジカへと伸びる。意識のない男性を抱えたままのラジカは長い華奢な足でそれをいなして懐に潜り込もうとするが、そこへ左脚が強襲。慌てて避けると距離を詰められ右足が来る。回避が間に合わず、男を抱えて腕を交差し、衝撃に耐えようと全身に力を入れるが、押し負けて上へと吹き飛んだ。
ラジカは飛ばされながらも器用に回転し体勢を整え、猫のごとく柔軟に衝撃を和らげ、天井に足を着ける。同時に爆発的に蹴り出して弾丸のような勢いで蹴りを放った。
「喰らえゴリラ!!」
「フン!!!」
鋭い蹴りはウボォーギンの胸を貫かんばかりに刺さるが、オーラと筋肉でせき止められ、逆に足を掴まれた。ぐるりと回され壁へと投げ飛ばされる。
展示品にぶつかる直前にオーラを噴射して勢いを弱めて、なんとか着地する。
「クソ! やりづれえな!人抱えたままだと!」
「そんな奴ほっとけ! 俺と楽しくやろうぜ!!」
「その言い方やめろ!ロリコンゴリラ!!」
軽口は叩き続けるものの、正直ラジカとしても意識のない成人男性を抱えたまま戦うのは少々無理があると判断していた。その上、それを抜きにしてもウボォーギンは強い。万全の状態でも負ける可能性がある。もしも魔法少女になる前のラジカが戦ったら負けていただろう。
このままではいけない。そう結論を出して、ラジカは腹を括る。
「リリコル!!」
「コル!!」
ラジカが愛らしい声を張り上げると、リリコルが何処からともなく現れた。突然出現した念獣にウボォーギンは用心する。その隙にラジカは抱えていた男性をリリコルに投げた。小型犬ほどの大きさしかないリリコルであるが、男を短い足で掴み宙を飛ぶ。
「使いたくなかったけどしゃあねぇなキャストオン!!【
叫ぶと同時に瞬間ラジカの体を柔らかな光が覆う。まるで繭のように包み込むと、光は桃色へと色を変えた。そして光は輝きながら飛び散り、中からラジカが現れる。
桜色の髪は鮮やかな桃色へ。傷だらけの高級スーツから花のような装飾が施されたピンク色のドレス。ボーイッシュな少女から可憐な魔法少女へと姿を変えたラジカは桜色のヒールで音を響かせながら歩む。
「見た目は美少女!! 中身はチンピラ!! 魔法少女ラジカル☆ラジカ!!」
盗賊二人を前にしてラジカはポーズを決め、大声を出して決め台詞(最近決まった)を言う。
「…………」
「…………」
とても嫌な沈黙だった。あれほど乗り気だったウボォーギンも熱が冷め、ひっそりと展示品を回収していたシャルナークも手を止めた。ただ理解不能なポーズを決めた少女が一人、半壊した展示室で立っていた。
「す、すごいコル! 決め台詞と決めポーズだけで一試合分以上のMPが一瞬で溜まったコルよ!!」
「今シリアスだから黙っててくれねぇかな!リリコル!!」
「それ君の制約と誓約?可哀想だね」
「黙ってろ童顔パツキン! 顔と筋肉のバランス狂っててキモいんだよ! 髪毟るぞゴラァ!!」
【
これも【
「さぁやろうぜ盗賊ども! 第2ラウンドと行こうか!!」