不思議なチカラがわきました 作:キュア・ライター
鮮やかな桃色の髪を揺らして構えをとると、相対するウボォーギンも呆けた態度をやめ臨戦態勢へと移行した。がしかし、ラジカが真っ先に向かったのはリリコルのもとだ。そしてリリコルの抱える男性に触れると、桃色の柔らかい光が花びらのように包み込む。
「……う……?」
先ほどまで意識のなかった人間が唐突に意識を取り戻す。注意してよく見ると細かい傷も癒えていた。
これがピンクの【
「私は一体……? 君は? いやその前にここは?」
「黙ってくれ」
今回、ラジカが男性を助けたのはMPが溜まりそうであったから。倫理よりもその理由のほうが強い。もともと人の命なんぞ軽く消えるような世界で生きていたのだ。身内ならともかく今更見知らぬ大人一人の命に拘泥することはない。
だが、今のラジカは魔法少女。ここで助けられる命を見捨てたことによりMPが減ることは避けたい。
「リリコル、その人を安全な場所に持ってけ」
「コル!!」
リリコルが再度短い手足で力強く掴み、小さな羽で飛んで行った。その様子を視界の隅に入れながら、光の花びらを自身にまとわせ、次いで自分の怪我を癒す。光が収まると敵である盗賊二人を見据える。可憐な容姿であり、衣装や髪型の変化によってその印象が強調されていると同時に圧力も増していた。
「フッ!!」
ラジカを窺っていた二人に向かって走る。ヒールで床を鳴らしながらも爆発的な加速力であった。桃色の閃光と化したラジカはウボォーギンに向かって拳を握り、全力で振り抜く。あまりの威力に衝撃波が起き、ウボォーギンの体が床から離れ宙に浮く。
「ごぁ!?」
小柄な少女が自身の倍以上の身長である筋骨隆々な野獣のような男を殴り飛ばす。何も知らない人間からしたら信じがたい光景である。念という常識外を知るシャルナークからしてもそうだ。
先ほどまでも目の前の少女が幻影旅団随一の怪力を誇るウボォーギンと正面から押され気味とはいえ殴り合えることは驚きであったが、現在の光景は更に度肝を抜いた。
宙に浮いた大男の体めがけて歯を食いしばり、拳を、脚を振るって次々と猛攻する。そして大きく一度右脚を振り回してまるでボールのようにウボォーギンは吹き飛んだ。
この怪力は全てのドレスに共通する効果である。オーラの量自体を増やし、なおかつ強化率を上げる。シンプルで強力な能力である。
「ウボォー!!」
「余所見してる暇あんのか!!!」
「しまっ」
「喰らえパツキン!!」
驚愕に染まるシャルナーク。そんな隙だらけの様子を見逃さず、肉薄し豪ッと音を立てながら華奢な腕で殴る。ウボォーギンに対する攻撃ほど重くはないが、正確さと速さに重きを置いた一撃だ。防御することも間に合わず、まともに鋭い攻撃が急所に入り肺から空気が漏れる。受けたシャルナークは抵抗できずに一撃で意識を失う。別段さっきの変身のセリフに対するリアクションを根に持っているわけではない。
「っしゃあ!」
崩れ落ちるシャルナークを受け止め、肩に担ぐ。幼気な少女が金髪の成人男性を軽々しく持ち上げるというシュールな光景。しかし、そんな不思議な光景を気にする人間はここにはいない。拘束のためロープや網などを探そうと辺りを見回す。が、次の瞬間ラジカはシャルナークを離し大きく首をそらす。すると元々頭があった位置に丸太のような豪腕が横切った。首をそらすと同時に後転し、曲芸のような動きで距離を取る。
「オイオイ、あんなんで俺がやられると思ってんのか」
「ゲ、まだ意識あんのかよ、タフだなロリコンゴリラ」
自身の変身後の怪力であれだけタコ殴りしたというのに意識を保ち、その上実に興奮した様子でこちらを見るウボォーギンに軽く引くラジカ。
大概の念能力者ではあれだけ殴れば意識は失うし、病院送りにできるはずなのだ。
なんだったら変身が可能になった時期、力加減がわからなかった当初では殴りすぎて殺しかけ、危うくMPがリセットされかけたため、自身の能力で自分で殺しかけた相手を治療するという矛盾したこともやっていたほとである。
しかし、そんな前例たちと違って目の前の大男はずば抜けて頑強らしい。
「最初はふざけた格好しやがってと思ったが、容姿なんか関係ねぇ。ここまで殴られたのは久々だ」
「殴られて喜ぶとは大した変態だな。ロリコンでなおかつドMとは救えねぇな」
「吠えてろ、ガキ」
そう吐き捨て、ウボォーギンは獣のように俊敏に距離を縮める。見た目とは裏腹に目が眩むほどの速さだ。残像すら起きそうな速度で迫り来る大男に対して両脚を開いて迎撃の構えを取る。
先ほどまでのお返しと言わんばかりに激しい拳撃。足捌きや腕を器用に使って躱し、逸らし、いなすラジカであるが、一発だけ顔面に入り回転しながら吹き飛ぶ。目まぐるしく回る視界に混乱しながらもなんとか受け身をとった。
「ハッハー!! やっといいの入ったな!!」
「ックソ! こんな少女に手をあげるったぁ、ドMなのにドSも入ってのか! 屈折した倒錯野郎め!!」
ぺっ!と血を吐きながらも光の花びらが湧き、顔を癒す。そのほかの細かい傷も同様に光が湧いて、癒されていく。瞬間、傷跡は綺麗さっぱり消え、元どおりの愛らしい顔の上に獰猛な表情があった。
これがこのドレスの恐ろしく厄介な点である。【
ラジカの指針は自身の生存最優先。どれだけ負傷してもその怪我をすぐさま治し、まるでゾンビのごとく立ち続ける。相手が消耗していくのに対し、ラジカはオーラが尽きぬ限り、傷を負った先から治っていく。だいたいの相手はこの特性を見抜き、戦うことをやめる。がしかし、今回の相手、ウボォーギンは――
「いいな、その能力! もっとやろうぜ!!」
「この戦闘狂が!! いいぜ、徹底的にぶちのめす!」
普通ウボォーギンとここまで肉弾戦ができる相手はいない。そもそも正面切って戦える相手という人物自体そうそういないのだ。頑強な肉体と優れた念能力。拳銃やライフルの弾丸すら皮膚で弾き、並みの念能力者の剣撃では体が切れることはない。
そんなウボォーギンと殴り合いができる久々の存在。自身の半分にも満たない身長に、冗談のような服装、華奢な四肢、愛らしい容貌と今まで戦ってきた相手とはほど遠い外見。しかし、容姿は関係ない。
ウボォーギンにとって正面切って殴り合い、戦える相手というだけで十二分に重要な相手なのだ。
対するラジカにとっても、魔法少女と化してから純粋に戦闘を楽しむということはなくっていた。そんな中に現れた強者ということでヒートアップしていく。
お互いに防御を捨て原始的な殴り合いへと移行する。ウボォーギンは持ち前の頑強さ、ラジカは回復能力のみで立ち続けていた。技巧も駆け引きも存在しない純粋な暴力の応酬。お互いの体から真紅の花のように血が吹き飛んでいく。
激しい殴打によって、血が、体が、どんどん熱を持っていき、熱く滾るのを感じた。が、永劫にも続きそうな殴り合いもそうはいかない。お互いにオーラと体力を消耗しあい、やがて終わりへと近づいていく。
「【
「!!」
戦況を変えんとウボォーギンは渾身の一撃を放つ。硬によって一点に集められたオーラ。それが右拳に集中して破滅的な威力でラジカに迫る。放たれた瞬間、ラジカはオーラの量や相手の様子から必殺の一撃であると判断できた。
流石にその一撃を喰らってはいくら回復能力があるといっても致命傷になりうる危険性があり、慌ててラジカは片腕と下半身にオーラを集め、直撃を全力でそらす。
拳撃の軌道を床へと導き、ウボォーギンのは炸裂した。瞬間、床だけでは留まらず部屋全体が爆ぜるように吹き飛んだ。
***
ウボォーギン、そう呼ばれた大男の一撃によって部屋は爆ぜ、まるでミサイルでも放たれたかのように部屋は破壊された。
あの右ストレート(【
さて、どうここから戦略を練るか。だいたいドレスを着ればとりあえず殴っておけば相手は倒せるはずなんだが、今回はそう簡単にはいかなかった。
ならばより近接戦闘に特化したドレス、もしくは火力に特化したドレスに着替えるか。ドレスはピンク以外にも数種類あり、それぞれ能力が異なっている。ピンクは回復や浄化といった能力がメインでどちらかといえば支援型である。
相手は歴戦の猛者。なおかつ純粋な力で生き抜いてきた相手だ。このままのドレスでは負けはしないが、おそらく勝てない。千日手に陥るだけだ。
どう対処するか考えながら重力に従って落下していく中、辺りを見渡すと衝撃の事実に気がつく。
ただでさえ壊滅的だった展示品が散り散りになっていく様が見え、闘いの熱で上気していたことが嘘だったかのように冷や汗が走る。
飛び散る宝石、割れた壺、欠片へと姿を変えた皿、裂かれた絵画。高級そうな絨毯は跡形もなく千切れており、豪華なシャンデリアも最早見る影もないほど割れている。
え、やばくね。
不味い不味い。これは本当に不味い。今回の依頼内容は展示品の保護であり、盗難防止。しかし、結果はご覧の有様。MP云々の前より俺の財産が吹き飛びそうな未来しか見えない。
その上、不幸はこれだけにとどまらない。崩れた部屋の向こうからヒビが入るような音が聞こえ、周囲を見渡すと上下左右の部屋にまで戦闘の痕跡が伝わり、酷い所では浸水してきており、上には青い空が見えた。
あ、これ船沈むのでは?
思った時にはもう遅い。ありとあらゆる部分が決壊し、勢いよく海水が流れ入り、部屋が崩れ落ちていく。
「絶対室内で使う技じゃねぇだろ脳筋ロリコンゴリラ!!!」
「お前だけに当てるつもりだったってーの!!」
目の前のゴリラに悪態づくも、そんなことをしても何一つ意味もない。一刻も早く貴重品の回収、いや今更間に合うか? 大半が壊れている展示品の数々よりも優先すべきものがここにはある。
「仕方ない!」
崩れ落ちていく瓦礫を足場に飛び跳ね、先ほど昏倒させた金髪が落ちていくのを見つける。空中戦へと様変わりしたがお互いの両手両足による攻撃は全く衰えず、ひたすらにしのぎを削る。その間攻撃の合間を縫って意識のない童顔ムキムキ金髪(たしかシャルナークという名だった)を拾う。
「シャル!!」
「吹っ飛べゴラァ!!」
掴んだ童顔金髪を全力で投げる。方向は目の前のロリコンゴリラではなく壊れた天井から覗く青い空。遥か上空に消えていく仲間にウボォーギンも流石に視線が逸れた。普段なら好機と見てドレスの色を変え、攻撃に打って出るところだが、今回は違う。正面のゴリラに中指を立て嘲るように笑う。
「お仲間助けたいならさっさと追うんだな!」
「クソ! お前の顔は覚えた! 絶対にもう一度やるぞ!」
ウボォーギンは吠えるように叫び、野生の獣じみた動きで瓦礫を踏んで、青空の彼方に消えたシャルナークを追いかけて去っていった。正直意識のない人間というのは重たい上に、あの金髪は無駄に筋肉質で思ったよりも重く想定ほど遠くにはいかなかったはずだが、まさか沈みゆく船を追いかけには来ないだろう。
***
予想外のことが起きた。咄嗟には行動できずただ呆然とするだけであった。
突然部屋が決壊し、海水が流れ込んできた。私は何もすることができず、突然の事態に呆然とし、海水の奔流に巻き込まれ一瞬で思うように動きが取れなくなる。すぐに思ったのは近くにいたはずの家族。娘と妻がどこにいるのか、無事なのか、困惑しながらもその事実にのみ意識は囚われた。
部屋を冷たい海水が満たし、体温が奪われる。その上、呼吸もできずに酸欠に陥り、意識がなくなっていく。何が起きたかも把握できないままこのまま息絶える。そう思った直後だった。
部屋の壁が破壊され、桃色の少女が入ってきたのだ。水中になびく桃色の髪、揺れるドレスに仄かに光る桜色の光。幻想的でその姿はまるで海の妖精である。
彼女は儚げなその容姿に加え、優しげな微笑を携え、力強く海水に満ちた部屋を泳ぐ。その華奢な姿の一体どこからそんな力があるのか、彼女は部屋にいた人間全員を巨大な布で包み、外へと泳ぎだした。布に包まれると同時に花びらのような光が湧き上がり、すると不思議なことに突然息苦しさや倦怠感が薄れていく。
溺れた王子を助けた人魚姫のように彼女は居合わせた人間をまとめて救いあげた。やがて鮮やかな海水とは違う爽やかな青、すなわち青空が見える。勢いよく海面から飛び出し、そして近くの救助船へと運び込まれた。
***
陸に上がると同時にゴホゴホと咳き込み、呼吸を整え大きく息を吸う。大きな布を使い、大人数を牽引して泳ぐということは想定したよりも疲れた。その上、オーラも枯渇しかけている。40人の協力による無尽蔵とも思えるようなオーラが、だ。そもそも戦闘だけならここまで疲れていない気もする。
アンバランス金髪をぶん投げ、それをロリコンゴリラに追わせることまではうまくいったのだ。が、その後の豪華客船が沈没したのは予想外。盗賊どもが消えたあと、今までどこに隠れていたのかリリコルが飛び出してきた。
女児に媚びたデザインをした腐れマスコットいわく「このままではMPが消え去るコル」とのこと。俺と盗賊による戦闘によって船が壊れかけ、その影響で大量に死人が出かけている。このまま大量の死者が出た場合、今までに溜めたMPが全て吹き飛ぶレベルの損害が発生するとのことだ。
その言葉を聞いて俺の顔色は真っ青に変わった。それから早速自身ができる限りの円を展開し避難できていない人間を探索。人を運ぶようにシーツなどの布を拝借しオーラを込めて強化した。それから沈み始めた場所に向かって全力で潜降。人を拾っては能力で回復させ海面まで上げると待機している救助船へと引き渡す。
それをオーラが枯渇しかけるまで何度も何度も繰り返し、ようやく生存者の反応がなくなったころには俺は疲労からか意識を手放していた。
***
後日、目を覚ますと見たこともないほど豪華な花束に囲まれており、病院のベッドの上であった。その上名の知れた企業や財閥からの感謝状が殺到。これでもかというほど大量の手土産や贈り物が置いてあった。
テレビをつけるとニュースで『海上の悲劇と奇跡』『桃色の人魚姫』など大きく取り上げられている。ベッドに備え付けれたテーブルの上ではリリコルが満足そうに高級菓子を頬張っていた。なんとなくムカついたのでとりあえず投げる。
「むぎゅ!?」
「うわ、これいくらすんだよ。盛大に頬張ってただろお前。ふざけんなよ」
菓子に対して無関心な俺ですら知っているような店名が包装には記載してあった。そしてそんな菓子のゴミが柔らかいベッドの上に散乱している。おい、どんだけ食ったんだこのメルヘンキメラ。
ちらりと首輪を見ると輝きが目に見えてわかるほど増していた。なんだろう、嬉しいはずなのだが、自身で起こした戦闘による被害者を助けたのだ。完全にマッチポンプであった。
ニュースではなくてネットではカルト的人気が生まれ、魔法少女として人命を見捨てないという比重が強くなり、人の命を一層見過ごせなくなったことを俺はまだ知らなかった。
オチは投げ捨てるもの。
ちなみに溺れた人を見つけて微笑んだのはMPを下げる要因を排除できることに安心したからというのが大きな理由です。
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