不思議なチカラがわきました   作:キュア・ライター

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六話 試験開始

 ナビゲーターであるキリコの案内により、ゴン、クラピカ、レオリオのルーキー3人組は無事にハンター試験会場へとたどり着いていた。

 ハンター。その活動は様々であり、幻獣や犯罪者、美食などオーソドックスなものを探す者から一体何を追い求めているのだという者まで。多種多様なハンターが存在しているが、この世で最も儲かり、かつ名誉ある仕事というのが世間一般による認識だ。その分ハンターになるための試験の難易度は高く、毎年多くの不合格者を出している。中でもルーキーの合格率というのはかなり低いことで有名だ。

 

 会場にいる人々の雰囲気は鋭く、町や港ですれ違った志望者とは一線を画していた。緊張しながら周囲を見渡す三人はナンバープレートを受け取ると人の良さそうな笑みを浮かべたトンパという男に声をかけられる。トンパはなぜか顔に大きく腫れた痕があり、なおかつ所々服にも傷があった。おそらくここまでたどり着く道中での怪我だろうと当たりをつけ、クラピカとレオリオは触れなかった。かえって不審に思うほど親切にトンパは他の受験者の説明をゴンたちに施す。

 

「ねぇ、トンパさん。あそこの人たちは?」

 

 ゴンの指摘から淀みなく流暢に話していたトンパの言葉が詰まる。四人の視線の先には帽子と眼鏡をつけたボーイッシュな服装に身を包んだ少女と、派手なアイメイクに星と涙のペイントを施したピエロのような男がいた。それだけだとまるでサーカスに来たかのようだが、二人は苛烈に激しく殴り合っていた。

 

「44番奇術師ヒソカ。あいつは去年合格確実と言われながら、気にくわない試験官を半殺しにして失格した奴だ。他にも20人の受験生を再起不能にしているし、極力関わんねぇ方がいいぜ」

「マジかよ。そんな奴が今年も堂々と試験を受けてんのかよ!」

 

 そうこう話しているうちに獣のように素早く動きながら少女がヒソカへと鋭い蹴りを繰り出す。見た目とは相反する重たい一撃をヒソカは避けたが、避けた先にあるコンクリートの床は音を立ててひび割れた。

 

「おいおい、あの嬢ちゃんとんでもねぇな」

「凄まじい身体能力の高さだな」

「100番のラジカだ。ご覧の通りあの容姿から想像できないくらいの怪力の持ち主だ。さっき絡まれて殴られてるやつもいた。見た目に騙されると痛い目みるぜ」

 

 先ほどの受けた暴行を思い出しながら内心の恐怖と苛立ちを抑えながら解説するトンパ。そんなことをされているとも全く思っていない二人の戦いは苛烈を極めていく。遠巻きに見ていた人間たちも一層距離を置いた。まるで二人を中心に闘技場でもあるかのようだ。

 

 容姿や服装から奇妙さが溢れ出ているヒソカはともかく、一見すると何処にでもいる少女のように見えるラジカまでもかなりの実力者であると知り、レオリオとクラピカは更に緊張を高め、ゴンは世界の広さに心踊らされていた。

 

 ***

 

 とても面倒な奴に目をつけられてしまった。

 

 そう思ったのは自称ハンター試験のベテランという小太りの男、トンパを怒りに任せて一通り殴って軽く満足した後だった。

 

 続く怒りの対象はさっきの銀髪少年である。あいつ普通に飲んでたからな。何か入ってるってわかったんなら教えろや。てかこんな美少女が見知らぬおっさんから飲み物を受け取ろうとしたんだ、止めろよ。

 

「ッチ、あのクソガキも殴りたくなってきた」

「そんなことしたらMP下げるコル。それに信頼して飲んだラジカも問題コルよ」

「もともとテメェが受け取るように促してただろ、あぁ!?」

「ほ、ほめんこりゅ、ひっひゃらないでほひいこりゅー」

 

 リリコルを引っ張りいじり、【彩色の鎧】から元のボーイッシュな格好に戻すと、トランプが襲ってきた。

 

 慌てて避け、攻撃してきた方向を見るとそこにはピエロがいた。奇抜な衣装にふざけたメイク。まさしくピエロと呼ぶのが相応しい男。奇妙で不気味な薄ら笑いを浮かべるそいつに警戒し、相対した。男はこちらを見て満足げな表情をしている。

 

「うん、やっぱり美味しそうだね、キミ❤︎」

 

 興奮した表情とその台詞に俺は背筋に冷たいものが走った。

 

 こいつ!ガチのロリコンだ!

 

 佇まいや纏うオーラのねっとり感、不気味な雰囲気や奇抜なメイク。それらを総評して俺の直感が告げる。この男はやばい。何が危険かわからないがガンガンと派手に警告が頭に鳴り響く。この男よりも強い相手と戦ったこともある、奇特な趣味を持った猟奇的な殺人鬼を追い詰めたこともある。だが、しかしこの男はほかの何よりも俺に危機感を覚えさせた。

 

「……何しやがる、変態ピエロ」

 

 少し距離を取るように構えながら、正面の変態に意識を向ける。何をされるかわからないのでオーラを全体的に増やし警戒を怠らない。

 

「美味しそうだったからちょっと味見をね♠︎」

「ッ!!」

 

 獲物を狙うようなねっとりとした視線と粘着質なオーラをこちらに向けられてぞくりと悪寒を感じて全身の鳥肌が立つ。思わず全身にオーラをみなぎらせるとより気色悪さを増した。

 

「へぇ♠︎ 凄いオーラだ、素晴らしい❤︎」

 

 狂喜しながら舌なめずりする変態に反射的に思う。

 

 こいつはここで沈めねば!

 

 そんな使命感から俺は気がつくと地を蹴り変態めがけて拳を振っていた。顔めがけて振り抜いた拳は見事変態の顔面を捉える。完全に無防備な状態から殴られたときの男の表情は夢にでも出てきそうなほど恍惚としており気色の悪いものだった。一刻も早く記憶から消したい。

 

「君の方から来てくれるとは♦︎ 嬉しいよ❤︎」

「黙れ、死にさらせ変態!!」

 

 それなりにオーラの篭った拳であったはずだが、この変態は自分からわざと同じ方向に跳び威力を和らげた。その瞬間のオーラの移動や身のこなしから察するにこいつ、強いな……変態のくせに!!

 

「いい♣︎ 悪くないね、キミ♦︎」

「気色悪いんだよ! そのオーラこっちに向けんな!!」

「さぁ、ボクと楽しくヤろうか❤︎」

「ひぃ!!!」

 

 その後、気色の悪いピエロ相手に数分間の殴り合いをすることになった。こんな美少女の顔面を躊躇なく狙ってくるわ、殴られても悦ぶわでやりづらいことこの上なかった。流石に【彩色の鎧】まで使わないもののかなりのオーラを籠めた拳で殴ったはずだが、ピエロはいやに頑丈でなかなか倒れない。天空闘技場でもお目にかかれないような苛烈な殴り合いへと思わず発展する。

 

 ハンターってもっとまともな人間が多いと思ったんだが、志望者がこんな人間という段階でプロのハンターも狂ったような人間が多いのかもしれない。

 

 変態ピエロとの殴り合いは一次試験開始のベルが鳴るまで続いた。こんな変態と戦ってこれ以上体力を浪費するのも馬鹿らしいので俺は思い切り顔を踏み台にして跳躍。試験監督のほうへと逃げた。

 

 全くトンパといいピエロといい、無駄な体力とオーラを使わせないでいただきたい。「いちいち怒らなきゃいいコル」とか余計なことを言うキメラマスコットは全力でぶん投げた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 そして始まったハンター試験。一次試験の内容は至ってシンプルで二次試験の会場に向かうこと。

 

 しかし、行き先は示されず、なおかつ時間も教えられない。単純な面では持久力を試され、同時にどこにいつまで走るのか不明なままの持久走というのは精神力も試される。

 

 持久力と精神力。ハンターとしての基礎となりうるものを持っているかどうか、それが一次試験である。

 

 試験監督の足が速くなれば自然と全体の動きも上がり、最初は歩いてついていける速度も自然と走らなければ置いていかれるほどに変化する。ゴンたちの3人の足取りもそれに追いつくべく走り出した。

 

 各々が真剣な顔をして走る中、スケボーに乗り滑るように動く銀髪の少年、キルアが三人の視界に入った。息を切らしながら自身が走っている横で悠々と前へ行くキルアにレオリアが文句をつける。

 

「おい、ガキ! 汚ねーぞ! そりゃ、反則じゃねーか!」

「何で?」

「何でって、おまっ……。こりゃ持久力のテストなんだぞ!!」

 

 指摘されてもいけしゃあしゃあと返答するキルア。レオリオの言葉に、周りの受験生たちは深く同意するように頷いたりキルアに批判するような視線を向ける。しかし当のキルアはどこ吹く風。それに加えレオリオの最も近くにいるゴンとクラピカはこれに同意しない。

 

「違うよ。試験官はついて来いって言っただけだもんね」

「ゴン!! てめぇ、どっちの味方だ!?」 

「どなるな、体力を消耗するぞ。それにうるさい。テストは原則持ち込み自由なのだよ」

「〜〜!!」

 

 声にできず憤るレオリオに苦笑気味のゴンと呆れるクラピカ。そんな様子から各々が自分の名を名乗り自己紹介する。そして、キルアはゴンの年齢を聞くとスケボーを蹴り上げて走り始めた。

 

「というか、俺のこれで文句言われるくらいならアイツはどうなんだよ、俺はもう使わないけどよ」

「アイツ?」

 

 キルアは無言でやや後方を指差すとそこには少女がいた。見るものが思わず息を飲むような美少女である。しかし、注目した理由はそこではない。

 

 エメラルドのような緑色をしたマントに丈の短いスカートワンピース。鮮やかな黄緑の髪。そしてマントと同色の大袈裟なまでにツバが広い三角帽子と手首にモコモコが着いた手袋。彼女はそんなコスプレめいた格好で他の受験者と並走していた。

 

 否、並走というのは正しい表現ではない。なぜなら彼女は箒にまたがり、空を飛んでいたのだから。

 

「ハァ!?」

「うわぁ!! 凄い!!」

 

 レオリオはあまりに信じがたい神秘的な光景に目を剥き、ゴンは目を輝かす。クラピカはあまりに現実離れした風景に走りながらも思考はフリーズするという器用な真似をしていた。そんな三者三様な視線に気がついたのか、少女はすぅーと重力を感じさせない動きで近づく。

 

「んだよ、ジロジロ見やがって」

「いや、冗談だろ!? どうなってんだ、それ!?」

「んなどうでもいいこと気にしてる余裕あんのか、グラサン」

「グラ!? 可愛い顔してんのに口悪りぃなおい!!」

「へぇ、何だ、可愛らしい女の子と楽しくおしゃべりでもできるとか期待してたのか? 残念だったなザマーミロ」

 

 ゲラゲラと小馬鹿にした様子で愉快そうに笑う彼女は一行を見回すと一人を見て視線が止まる。ぱっちりと大きな瞳で射抜かれた少年は怪訝そうな顔をした。少女は端正な顔立ちを怒りで歪める。

 

「テメェ! キルア! あの飲み物に何か入ってるんってわかってたんなら止めろや!!」

「ハァ!? いきなりなんだよ!! てか誰だお前!!」

「あーキルアコル!! やっほーさっきぶりコルな!!」

「リリコル!? はぁ!? じゃあお前ラジカか!? お前髪色も服装も全然違うじゃん!!」

 

 先ほどキルアと軽く喋ったとき、ラジカは桜色の髪にボーイッシュな服装をしていたはずだ。トンパから飲み物を受け取ってしばらくしてから姿が見えなくなり、気になってはいたが試合開始まで会うことも見かけることもなくなっていた。そして今再会するとなぜか髪は黄緑、緑のローブとワンピースと大幅に変化している。しかし傍らには奇妙な人形リリコルがおり、そんなぬいぐるみをつれたハンター試験受験者が二人もいるとは考えにくい。

 

「これは魔法コル! 愛と希望と夢の力によってラジカは魔法が使えるコル!!」

「またそれかよ」

 

 初対面から言われてるそれに、真実を頑なに言わないと判断したのかキルアは諦めた。しかしリリコルは事実を言っている。正確に言うならば、魔法ではなく念であるが。

 

【彩色の鎧・緑】。身体能力はそこまで伸びないものの、箒を具現化し風を操れるようになる。その能力をもって空をこうして駆ることも可能なのだ。

 

 そもそも念の存在を知らない者からすると手品のように何かしら仕掛けがあるのではと思われる。がしかし文字通りタネも仕掛けも存在しない。純粋なラジカの能力によるものだ。

 

「へぇ、凄いね!! 魔法が使えるんだ!」

「いや、きっと何かタネがあるはずだ」

「ま、試験頑張れよ」

 

 純粋に信じたゴンと対照的に全く信じてないクラピカ。念を知らないひよっこたちの様子とキルアの気持ちの良いリアクションに満足したのか、にやにやと笑うと先頭の方へと颯爽と去っていった。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 ただ走るのはつまらなかったので空を飛ぶ練習をかねて、【彩色の鎧・緑】を使用していた。この色のドレスは最近使えるようになったドレスだ。というのも【憧憬乙女】の能力はMPが溜まっていくことによって新たに能力が解禁されていく。そうして先日の沈没船の一件以降新たに使えるようになったドレスがこれである。まぁ、結局は慣れて、終盤は半分箒の上で眠りながら進んでいたのが。

 

 そうして地下道を抜けるとそこはヌメーレ湿原。通称詐欺師の塒と呼ばれる人間を騙して餌にする動物の巣窟。地下道を抜けた受験者たちを待っていたのは深い霧と罠だらけの湿原であった。

 

 といっても俺からすると飛んで、なおかつ円を使えば障害物や罠なんてあってもないようだが。なんだ、思ったよりも簡単だなと考えながら試験の再開待っていると、刃物並の鋭さを持ったトランプが四枚飛んできた。

 

 慌てて風を起こし、トランプの軌道を地面に向かってそらす。弾かれたトランプから逃げるように周囲の受験者は俺の周りから距離を取る。

 

「おい、またか変態ピエロ。一体何度俺の神経を逆撫ですれば気がすむんだ」

「ククク、つれないこと言わないで欲しいな❤︎」

 

 苛立ちを覚えるも再度喧嘩してここで無駄に体力を消費してももったいない。溢れ出そうになる殺意をぐっとこらえる。

 

「さすがラジカ、モテモテコルな」

「オマエ、アトデ、キザム」

「カタコト!?」

 

 リリコルの処刑方法を考えている間に試験は再開し、霧の濃い中、できるだけ変質者から距離をとろうと、移動に移動を重ね、先頭の方へと躍り出た。自然と前の方へと出ていたキルアと黒髪の少年、たしかゴンという名だった、と行動を共にする。

 

 にしてもこの子供達末恐ろしいな。念も覚えてないのにこの実力と身体能力の高さ。これで念の才能もあったら嫉妬しまくる自信がある。

 

 そうして走り出して数分でまず初めに受験生を襲ったのは、人面猿のような狡猾な獣ではなく、濃霧という自然現象だった。数十センチ先を走る相手さえもシルエットしか見えない霧に辟易しながらも円で捕捉しつつ俺は飛んでいく。

 

「って────!!」

 

 しばらく飛んでいると霧の向こうから悲鳴が聞こえる。おそらくあの変態ピエロの被害者だろうか。この湿原に入ってしばらくしてから殺気と興奮をひしひしと感じたからな。

 

「あんなのに絡まれるなんて厄介だな」

「今の所一番絡まれているのはラジカコル」

「うるせぇ、思い出させんじゃねぇよ」

 

 ピエロのオーラと視線を思い出しちまったじゃねぇか。気色悪い。どこの誰でもいいから代わりにあの変態殺してくれないだろうか。無理か、見た感じ念能力者ほとんどいないし。非念能力者であのレベルの能力者を殺せるなんてよっぽど運がなければ無理だろう。

 

「さて、絡まれる前にさっさと行くか」

「へ?」

「は?」

「いや、悲鳴が聞こえたコルよ」

「おう、だから危険ってことだろう。早く逃げよう」

「しかも友達の悲鳴コルよ」

「友達っていうか、さっきのグラサンだろ」

 

 名前も知らないし、友人とも言い難い。それに奴の実力からするとたどり着く頃には死んでる可能性も高い。

 

「助けてって声が聞こえたコル。ここで行かなきゃ魔法少女が廃るコル」

「いやいやいやいや。その解釈は無理あるだろ!! ふざけんな悲鳴が聞こえたら全部救えってか!?」

 

 何ちゅう無理のある解釈だ。横暴すぎる。そもそもこの悪魔は俺に善行をさせるために手段を選ばない傾向がある。はたしてこれは本当のことを言っているかどうかも怪しい。が、しかしここで本当にMPが下がって飛行能力を失うのは惜しい。今後も使える能力だし、空中戦ができるというのは貴重な能力だと思う。

 

「あ──ー、クソッ! 行けばいいんだろう行けば!!」

「それでこそ魔法少女コル!! さぁ助けを求める声のもとに飛んでいくコル!!」

 

 

 ***

 

 

 レオリオの悲鳴を聞きつけたゴンはなんのためらいもなく逆走していった。その様子をキルアは引き止めることもできず、ただ背中を見送ることしかできなかった。どこか虚しさを抱えながら走っていると、霧の向こうから高速で飛んでくるシルエットがあった。

 

「お、キルア! いいところに!」

「ラジカ? なんでお前前から来てんの?」

「ちょいと人助けだよ!」

「お前もかよ」

「ん? もってことはゴンもか。まぁいいや、コイツ持っといてくれ」

 

 ぽいっと投げられた何かを掴むとむぎゅうと悲鳴が聞こえる。手元をみるとそこにはぬいぐるみ、リリコルがあった。

 

「それ、GPS代わりになるから持っといてくれ! あ、待て、お前も一緒にくるか?」

「いや、俺は別に……」

「あ、そう。んじゃそれよろしくな! これでさっきの飲み物に関しちゃチャラにしてやるよ」

「それじゃなくてリリコルってちゃんと言って欲しいコル!!」

 

 知るかバカヤローと吐き捨ててラジカは濃霧の奥へと姿を消した。文字通り飛んで行ったラジカと走り去ったゴンの方向を気にしながらもキルアは走り続ける。友達のために戦う。自分にはない感情であった。それをキルアは理解できない。ずきりと思わず走った頭痛に顔をしかめた。

 

「キルアも大変コルな」

「うわぁ!?」

 

 手の中にいたリリコルが口を開き、キルアは思わず声を出して驚く。それもそのはず、リリコルは人形であり、あくまでラジカがキャラ作りというか設定で腹話術を用いて喋っていたぬいぐるみのはずだ。ラジカはとうに霧の向こう。声は届いたとしてもよほどの大声でもないかぎり言葉にはならないはずだ。そのはずの人形が言葉を流暢に紡ぐ。

 

「キルアにはお友達が今までいなかったコルか」

「っ!!」

「だいぶ、複雑な家庭環境のは何となくわかったコル」

「……そりゃそうだ、暗殺一家だからな」

「そうじゃないコル」

 

 ささやくような優しい声でリリコルは断言する。小動物を模した目は霧のせいか光を失い色を深くし暗く見えた。女児向けのおもちゃのようなリリコルから言いもしれぬ不気味さを感じる。

 

「職業なんて関係ないコル。大丈夫、敵組織の人間でも救われることがあるコル」

「何言って……」

「関係あるのは愛情コル。その歪んだ愛から解放する役目は是非ともラジカにとっておいて欲しいコル」

 

 リリコルの声は優しい。しかしその声に潜んだ裏側にある何かがとても恐ろしい。キルアの頭の奥が、その本能が、ガンガンと警報を鳴らしていた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 濃霧が視界を遮る湿原の中、レオリオの怒号が響く。

 

「てめェ!! 何をしやがる!!」

「くくく♦ 試験官ごっこ♥」

 

 霧の中から現れた狂人、ヒソカはトランプを鮮やかにシャッフルしながら、死体や致命傷を与えてもらえなかったことでのたうちまわって苦しむ受験生たちの中心で、相変わらず気色の悪い殺気を上機嫌で振りまき続けている。

 

「二次試験くらいまでは大人しくしておこうかと思ってたけど、一次試験があまりにも退屈でさぁ♦ 選考作業を手伝おうかと思ってね♣ 僕が君達を判定してあげるよ♠」

 

 ニヤリと不気味に笑いながらヒソカは周囲にいる受験者達を見渡しながら宣言する。

 

「判定ぇ? はっ。馬鹿め! この霧だぜ? 一度試験官からはぐれたら最後、どこに向かったか分からない本隊を見つけ出すなんて不可能だぜ!」

 

 受験者の1人がやけになったのか、それとも集団であることに安心感を覚えたのか、ヒソカを小馬鹿にしたように笑って嘲る。

 

「つまりお前も取り残された不合格者なんだ―きょ!?」

 

 喋っていた男は額にヒソカの投げつけたトランプが人面猿のように突き刺さって言い切る前に息絶えた。躊躇いのなさと攻撃の鋭さに思わず周囲も息を呑む。

 

「失礼だなぁ♠ 君と一緒にするなよ♦ 奇術師に不可能はないのさ♥」

 

 ヒソカは余裕を保ったまま自信たっぷりに言う。携える笑みは不気味であり、凄みがあった。ぞくりと受験者たちに悪寒が走る。すると、受験者達は武器を構えてヒソカを囲む。

 

「殺人狂め! 貴様などハンターになる資格はない!!」

「二度と試験を受けれないようにしてやる……!」

 

 20人近くに囲まれたヒソカ。これが通常の一般人では戦いにすらならず、一方的な暴力、リンチとなるだろう。いくら強者でもこの人数比なら勝ち目はあるはずと判断し、ヒソカを囲う受験者たちは各々構える。

 

「そうだなぁ~……君達相手なら、この1枚で十分かな♣」

 

 しかし、相対するヒソカは1枚のトランプを出して自信たっぷりに言い切った。取り出されたのはハートの4。たった一枚のトランプ、それを取り出して自信満々に嗤うヒソカ。

 

「ほざけぇ!!」

 

 それを挑発と受け取った受験者達は一斉に攻撃を仕掛けようと動き出した。瞬間ヒソカの体が動く。しかし、それは攻撃のためではなく回避のため。体を大きく仰け反らして横合いから来た攻撃を避ける。

 

「釣竿!?」

 

 凄まじい速さで振られたのは釣竿。ヒソカはそれを軽々と避けて、攻撃が来た方向を見る。

 

「ゴン!?」

「クラピカ! レオリオ!! 大丈夫?」

「へぇ♣︎ 友達を助けに来たのかい♠︎」

 

 ゴンの行動にヒソカは笑みを深める。が、次の瞬間、オーラを感じて体をわずかにずらすと地面が爆発した。それから断続的に不可視の何かが降り注ぎ、ヒソカを攻撃しながら湿原の霧を晴らしていく。

 

「キミも来てくれたんだ❤︎」

 

 ピエロは狂気と歓喜が言葉から滲みでる。その表情の先には一人の少女。緑のスカートワンピースに大袈裟なまでにつばの広い三角帽子。顔を隠すその帽子を片手に持った箒の柄でクイッと押し上げ、にやりと可憐な容貌に似合わぬ悪役(ヒール)のような笑みを浮かべる。

 

「見た目は美少女!! 中身はチンピラ!! 魔法少女ラジカル☆ラジカ!!」

 

 箒をくるくると手の内で回しながら、ポーズを決めて宣言する。霧の中に雄々しく笑う少女の声が響く。

 

「来いよ殺人ピエロ。俺が掃除してやんよ」

 

 

 

 




【彩色の鎧・緑】
具現化・操作系がベース。スカートワンピース、つば広の三角帽子、箒を具現化する。身体能力の強化率は他の【彩色の鎧】に比べて低い。風を操り、空を飛ぶこともできる。

<制約>
風を操るには箒を持っていなくてはいけない。

切りどきがわからず冗長になった気がします……。

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