不思議なチカラがわきました   作:キュア・ライター

7 / 8
七話 お料理勝負

 湿原の中、お互いの顔を見合っているのは片やピエロで片や魔女。ふざけた格好をしている双方ともにまるでハロウィンのような装いだが、二人を囲う雰囲気は真剣そのものである。ラジカとヒソカの間に見えない壁でもあるかのように一定の距離を取っていた。

 

「邪魔だな」

 

 可愛らしい声で乱暴に言い切ると、ラジカは箒を軽く振る。すると豪と音を立てて風がうねり、ヒソカの周囲の受験者のみを選別して吹き飛ばす。風に呑まれて飛んだ受験者たちは悲鳴をあげながらもこの場から離脱することに成功した。

 

「器用なものだ♣︎ それに優しい♠︎」

「うるせぇな。誰のせいでこんなことしなきゃならないと思ってんだ」

 

 苛立ちを交えながらも箒を掴み、大きな帽子を少し上げながらラジカはヒソカを睨みつける。

 

「殺しがしたいなら金でももらったほうが得だろう」

「んー♦︎ ボクが求めているのはそういうことじゃないんだけど、ね♣︎」

 

 言葉と同時に軽い調子でトランプが飛んでくる。念が込められたことによって刃物のごとき切れ味を持ったそれらは殺意とともに放たれた。その攻撃を風で拾い上げ、無効化する。本来ならば適当に弾いて防ぐが、周囲の人間を巻き込むわけにも行かず、流れ弾を出さないためにも丁寧に防いでいく。対するヒソカもトランプに付随する【伸縮自在な愛】がラジカにくっつくことも周囲の地形につくこともなく機能しない。

 

「ッチ、面倒だな」

 

 短く舌打ちして箒をより一層力強く振るうと暴風が吹き荒ぶ。先ほどまでよりも比にならないような衝撃に受験者たちの体も軽く浮かび上がった。それと同時に周囲一帯の霧も晴れ、湿原の姿が露わになる。

 

「こんなところで躓いてた烏合の衆ども!! 耳の穴かっぽじってよーく聞け!」

 

 大声を張りながらラジカは連続して箒を振ることで暴風を起こし霧を晴らしていく。まるで奇跡でも起こしたような少女。彼女をまるで信じられないものを見たかのように受験者たちは目を瞠る。

 

「これでここら一帯は霧が晴れたはず。んでもって死にたくねぇ奴は今すぐ逃げろ! てか俺の前でだれかが死ぬのは許さん! さっさと尻尾巻いてこの場から立ち去れ!!」

 

 罵りに近い内容であるが発言の裏には優しさがあるように思える。中には感動してる者もいた。ただ自分のためだけである、という真実は知らぬが仏だろう。

 

 ラジカの発言を受けて我先にと一人、また一人とこの場から逃げ出していく。ヒソカはもうラジカにのみ集中しており、他の人間には興味が失せたのか手を出す様子を見せない。かといってラジカは安心することなくいつでも干渉できる準備をする。

 

「んでグラサン、パツキン、ゴン。お前らも逃げろ」

「グラサンってまだ言うか! 俺はレオリオだ!」

「私はクラピカだ」

 

 なかなか去ろうとしない3人に声をかける。もっとも名前は知らなかったけども。

 

「俺たちも一緒に戦うよ!!」

「そうだ! 女に任せて逃げるなんてできるか!!」

「アホか、かえって足手まといが増えるだけだっての」

 

 箒で地面を掃くような仕草をすると、突然三人の足元から風が吹く。先ほどまでの暴風と違ってこちらに対する衝撃はなく、まるでそよ風のようであった。やがて風は地面から彼らを覆うような巨大な空気の流れとなり彼らの体を宙に浮かせる。その様子はまるで繭のように彼らを包み込んでいた。

 

「うわぁぉ!?」

「オエッ」

「目が、まわっ」

 

 もっとも居心地は一切配慮されておらず内側にいてもぐるぐると渦巻く風に翻弄されているが。

 

「そんじゃ、まぁ、意固地な三名様ご案内ってな!」

 

 まるでバットでボールを打つかのように箒で風の球体を打つ。瞬間彼方へと三人は悲鳴をあげながらも飛んで行った。ラジカは普段煩わしくてしないが、リリコルの場所を感知することができるので座標はそこを目的地として彼らを吹き飛ばした。

 

「これで良しっと」

「準備はいいかい♣︎ もうヤりたくてウズウズしてるんだ❤︎」

 

 そういうヒソカの顔には強者との試合、それを目前とした興奮から上気しているのが目に見えた。同時に体の一部も上向きになっている。正直普通の少女であれば見るだけで卒倒しそうな様子である。もちろん中身が違うラジカは怯えることもなく、正面から見据える。まぁ、上向きになった体の一部から目をそらすが。

 

 ラジカが起こしたわけではない、自然発生した生ぬるい風が頬を撫でた。瞬間二人は行動に移す。ヒソカはトランプをばら撒きながら前へと進む。それを宙に浮くラジカは突発的に上昇気流を起こしてカードを全て上空へと飛ばし、同時に泥や小石などを巻き込んだ小さな渦を作り上げる。

 

 基本的にこの【彩色の鎧・緑】は攻撃力が低い。操るのは風。人を吹き飛ばすことや、乱気流の弾丸を当てることができても念能力者の防御力を突き破るにはよほどのオーラを込め研ぎ澄まさなければならない。基本的に高速移動や人や荷物の運搬、人命の救助などをメインに使われる能力だ。

 

 高くはない攻撃力を補うために自然物や人工物を渦に巻き込み攻撃力を上げる。泥や石に周を施し、貫通力を上げて放たれる風の槍が放たれた。ヒソカはそれをわざと大げさに避ける。着弾直後、槍は内包した風を解放し、小規模に爆発的な風を起こして衝撃が辺りに走った。それを見越して大きく回避したヒソカは着実に距離を詰めにかかる。

 

「もっと近づかせてほしいんだけどなぁ♦︎」

「お前みたいな変態、視界に入れるのも嫌だわ!!」

「釣れないなぁ♠︎」

 

 言葉でこそ残念がっているが、その表情は強者との戦いによる喜び一色だった。

 

【彩色の鎧・緑】は攻撃力こそ低いものの、防御力は高い。吹き荒ぶ風は発生する位置もラジカのオーラが届く範囲であれば自在。無色でなおかつ念による速度の調節も素早い。正直もし元に戻ってもこの能力だけ(ドレスはいらない)は残して置きたいくらいには便利な能力だと判断している。

 

 ヒソカはこの闘いを楽しんでいるものの、このままでは近づくこともできずジリ貧になるだけだと判断する。攻撃速度と防御力、それにオーラの絶対量はラジカのほうが優れていると考え、次の手に出た。

 

「キミは魔法少女、ボクは手品師♣︎ 似てると思わないかい❤︎」

「死んでも思わん」

 

 ヒソカが飛ばしてきたトランプは先ほどまでの攻撃よりも広範囲。それらを全方位に風で吹き飛ばすと、トランプからヒソカに向かって伸びるオーラの線が視えた。注意してみると薄くカード同士にもオーラがつながっている。今の所ラジカからするとヒソカの能力は不明。それゆえに警戒心を高める。

 

 ヒソカが再度こちらに向かいかける。足場の悪い湿原とは思えない速度で距離を詰めにかかった。ラジカはそれに風の槍や弾丸で丁寧に迎撃。足取りから先読みして辺り一帯に絨毯爆撃。しかし、着弾するタイミングで今までにないほどの速度でヒソカの体がブレる。

 

「な!?」

「こっちだよ❤︎」

 

 背後から声が聞こえ慌てて風で壁をつくるが、凝によって先ほどよりもオーラのこもった拳は壁を貫き、ラジカを地に落とす。何が起きたと困惑するも、すばやく空気のクッションを用意し着地の衝撃を和らげる。すぐさま立ち上がり、立とうとすると体勢が不安定なまま体が強制的に宙を舞い、ヒソカのもとへと引き寄せられた。

 

「怖がらないでこっちにおいでよ♣︎」

「っ!!」

 

 ぞわりと走る鳥肌を無視し、全力で風を放出。ヒソカとラジカは拮抗状態に陥る。凝をして目を凝らすとラジカの殴られた頬とヒソカの拳の間には隠で隠していたオーラの線があった。

 

「なるほど、テメェの念か。察するに粘着性と伸縮性をもつようにオーラを変化させるってとこか」

「ご名答♠︎」

「厄介な能力だな、おい」

 

 シンプルながら強力な能力だ。バレたところで対処するのも厄介であるし、応用もしやすい。先ほどの高速移動もカードからカードへとオーラを伝っての移動であるはずだ。防御も面倒だし、逸らすにしても相手が利用できない位置を考えなければならない。さて、どう対処したものかとラジカは思案する。そこで一つの案を思いついた。

 

「なぁ、ピエロ。こんな話を知ってるか? 少女が台風に巻き込まれて魔法の国に迷い込むって話さ」

「!!」

 

 ラジカ自身の体を中心にどんどん勢力を増していく竜巻を作り出す。それは【伸縮自在な愛】をすぐさま解除したヒソカも巻き込んだ。最初は足と地面の間に【伸縮自在な愛】を取り付けて抵抗したもののやがて耐えきれず、体が宙に浮く。その様子を確認したラジカは竜巻を丸めて先ほどゴンたちを乗せたよりもなお大きな球体を作り上げた。今度の風はそよ風なんてレベルではなく外に出ようとすれば擦り切れるような風速である。

 

「さぁ、吹き飛べ間抜けなピエロ!! もっともお前の行き先は魔法の国じゃなくて黄泉の国だろうがなァ!!」

 

 遠くなっていく球体を見ながら、箒を片手で持ち脇に抱え、反対の手は中指を突き立て、嘲るようにラジカは笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 とはいってもあれくらいでは死なないだろうが。

 

 そもそもあんな殺人ピエロとはいえ殺してはMPが消え去るのでこと戦闘において俺は多大なハンデを背負っているといっても過言ではないのだ。おそらくあいつの能力で全身をくるんで風の檻を突破し着地すれば大きな怪我はないだろう。あわよくば試験から退場させたかったが、なんらかの手段で二次試験にはあのピエロはたどり着いてきそうである。

 

 にしても俺が着く前に何人か死んでたけど、結構な人数を助けたためプラス収支で落ち着いてほしいものだ。そしてリリコルの反応を辿りながら二次試験の会場に向かう途中あることに気がついた。

 

 予言全く守ってない!! 

 

 あ、やばい! 完全に忘れてた!! たしか内容は

 

『霧に身を潜めなさい

 さもなければ死神に見つかってしまうから』

 

 というものだった。霧に身をひそめるどころか霧を晴らして大立ち回りである。完全に真逆の行動をしてしまった。この『死神』というのはあの殺人ピエロのことを言ってるはずだ。あれ以上に厄介で死神と称されるような人間がまだ試験にいると思いたくないし。

 

「あー、やべぇーめんどくせぇのに目をつけられたぁ……」

 

 いくら今の俺が可憐な少女とはいえ大概のストーカーは俺より物理的に弱いし、金銭的にも俺の方が優っているので、だいたいのストーカーは物理的、社会的に抹殺してきたのだが、あの男はそうはいかないだろう。あーやだやだ。

 

 ネガティブなことを考えて霧が溢れる湿原の上を飛ぶこと数分。ようやく建物と人の集団が目に入ってきた。俺は近くの茂み目指して降りて、【彩色の鎧・緑】を解除し、元のボーイッシュな格好に戻る。

 

 さて、あの自称マスコット、外見キメラの小動物は一体どこにいるんだ? 

 

 反応を追いながらそれなりに人のいる会場を歩く。

 

「おーい!! ラジカ! こっちだよ!!」

「お! ようやく来たな!」

 

 ゴンとレオリオが俺に声をかけてきた。周りにはキルアとクラピカもいる。俺が飛ばした三人には目立った外傷もなく、何も問題なさそうであった。

 

 良かった、途中で墜とされたり、落下したりすることなく無事に着いたのか。もし落ちて死にましたとかだとMPがなくなっていただろう。

 

 ほっとした表情をすると、向こうも笑顔で俺に近づいてくる。

 

「よかった! ラジカ無事だったんだね!!」

「おう。お前らも無事着けたんだな」

「お陰様でな! 何だあれ!? ぐるぐる回されて俺なんぞ着いた瞬間吐いたぞ!」

「魔法だって何回も言ってんだろ。いい加減理解しろや。それとこんな可憐な少女に助けてもらったんだからありがとうぐらい言え」

「……それはそうだな、すまない、ラジカ。助かった。我々では束になったところで助からなかっただろう」

「ん。まぁ俺も助ける為とはいえ雑に運搬したけどな」

 

 まぁ、あれ荷物の運搬には向くけど人の運搬には向かないしな。人を複数人運ぶなら俺がそばにいて丁寧な風の操作が本来なら必要だし。しかも今回は念のため打ち落とされないように防御のために風の速度をアホほど上げたので、乗り心地は最悪だったはずだ。

 

 クラピカとレオリオは未だに若干青い顔になっていることから流れが激しかったことが窺えた。でもゴンだけケロっとしてるのは何故だろう。

 

「ラジカ、ほら」

「むきゅー」

「ん? あぁ、ありがとな、キルア」

「ぐぇ!」

 

 ぽいと投げ捨てられた人形を受け取る。よく見るとリリコルだった。わー全く気がつかなくて握りしめちゃった★(棒)

 

「く、苦しいコル。中身が飛び出してきそうコル」

「お前そもそも中身ないだろ。それともぬいぐるみらしく綿でも詰まってのんか」

「ぬいぐるみじゃないコル! リリコルは妖精コル!」

 

 ちらりと首元の宝石を見ると目に見えて輝きが増していた。どうやら確かに人命救助によってMPはたまっているようだった。よかった。これで溜まってなかったらまたこのメルヘンキメラを八つ裂きにしたい衝動に駆られるところだった。

 

 ***

 

 そして始まった二次試験。試験官は美食ハンターの二人組。そして課題は料理。

 

 これを聞いた瞬間、俺は勝利を確信した。そう! 俺は料理が得意なのである!! 正確には【憧憬乙女】の能力の一つ、【台所の天使(クッキングアイドル)】によって料理、特にお菓子はボケーっとしてても勝手に手元が動いて作ってくれるのだ!! 

 

 なんと便利な能力だろうか。しかしこの能力若干のギャンブル性がある。基本的にはボケーっとしてるだけで料理が終わってるが、たまに恐ろしく料理が下手な日があるのだ。誰だ、おっちょこちょいな方が魔法少女っぽいとか考えてる製作者!! もしも元に戻ったら是非とも覚悟してほしい。

 

 それとこの能力はあくまで作ることには対応しているがその前後には対応していない。具体的に言うと、材料の買い出しや調理器具の洗浄、食べ終わった後の後片付けなど、料理好きの人間でもたまに面倒と思うようなことは自力でやらなければならないのだ。

 

 それに俺の体はもともと【夢幻少女(インストール)】によってどんな暴飲暴食をしようとも姿形が完全無欠な美少女から変わることはない。ゆえに自分で手間暇かけるよりも簡単な料理、例えばカップラーメンや冷凍食品、デリバリーや出前などになりがちで全く活躍の場面のない能力であった。

 

 そんな理由から俺はこの能力をほぼ使っていなかったが、今日こそ解禁しよう。

 

 さてお題はなんだろうか。是非ともこの能力を活かしてささっと受かってしまいたい。

 

「オレのメニューは豚の丸焼き!! オレの大好物」

 

 豚の……丸焼き……? 果たしてそれは料理なのだろうか。仮にも美食ハンターが出すお題にはふさわしくない気がする。もしやブーダッノマルーヤーキなる俺の知らない料理とかではないのか。

 

「この森林公園に生息する豚なら種類は自由。それじゃ、2次試験スタート!!」

 

 あぁ、もうこれ完全に豚の丸焼きだわ。いや、美味しく作らなければいけないのかもしれない。まだ能力が日の目を浴びる可能性は消えてない。とりあえず豚を捕まえよう。

 

 ***

 

 近くの森の中を円で探りながら走る。すると突然なんらかの生物の群れを見つけた。それなりに巨体で四足歩行。おそらく豚だろうと思ってそちらに向かう。

 

「うわ、キモ!」

「すごい造形コル」

 

 鼻だけが肥大化した巨大な豚が群れをなしていた。どういう進化を遂げたらこんな形に落ち着くんだろうか。

 

「とりあえずサクッと捕まえよう」

 

 木々を足場にして跳ぶように動き、群れの前方へと到着。そこから一層強く足場である木の枝を蹴って、蹴りを放つ。肥大化した豚の鼻と正面からぶつかり衝撃が走った。

 

 どうやら豚の自慢の武器らしい鼻は巨大なだけではなく頑丈であったが、正面から俺の蹴りをまともに食らって耐えられるわけもなく、巨体が軽く吹き飛んで木にぶつかりなぎ倒した。

 

 豚は衝撃に耐えかねたのか意識を失ったので、それを両腕で抱え上げて攻撃してくるほかの豚から逃げる。無益な殺生は避けるに越したことない。

 

 早速試験場に戻ると俺が一番乗りだった。すると【台所の天使(クッキングアイドル)】が発動した。早速火を起こし、豚を貫いて焼き始める。半ば意識が朦朧としながらも調理する手つきはスムーズである。

 

 ハッと意識がはっきりと醒めると、目の前から香ばしい匂いが鼻をくすぐった。一切れ切り、口に含む。うん、どうやら今日は【台所の天使(クッキングアイドル)】がきっちりと機能する日らしい。

 

 さて、あとは出すだけだ。試験官の元に運ぼうと準備を始めるとゴンたちが現れた。

 

「ラジカ! もう終わったの!? 早いね!」

「流石、観察眼にも秀でているのだな」

「観察眼?」

「ん? この豚の弱点が額っていうのを見抜いてそこを叩いたんだろ?」

 

 …………。そんなこと全く考えずに思い切り蹴飛ばしただけである。

 

「お、おう! 当たり前だろ!」

「……見栄っ張りコル」

「黙れメルヘン。お前も丸焼きにしてやろうか」

 

 なお豚の丸焼きの味なんぞ一切考慮されなかった。

 

 ***

 

 ムニエル。素揚げ。塩焼き。ホイル焼き。アクアパッツァ。燻製etc …………。

 

 用意された皿に並べられた料理はどれも彩り豊かで視覚からも大変食欲を唆る。漂う匂いも風味豊かで、嗅いだ者の食欲を刺激した。

 

 それらのプロ顔負けの料理を調理した受験生、受験番号100番、見た目は少女中身はチンピラなラジカは審査員の前にそれらの料理を並べた。

 

「ねぇ、あたし、課題は寿司っていったわよね」

「……おう」

 

 二次試験の二つ目の課題はスシ。といってもラジカの認識では聞いたことがあるというだけだ。昔、仕えていたネオンが「お寿司食べたーい」と駄々をこねていた記憶しかない。結局他の物で妥協してもらったので現物は拝めなかったのだ。

 

 クラピカとレオリオのコントのようなやりとりから食材として魚をつかう料理というのはわかったため、乱獲してくるのは成功した。が、問題はそこからだった。いざ調理場に立つと【台所の天使(クッキングアイドル)】が発動。しかし、この能力レシピから最適な料理を作ることや自分が調理法を知っている料理を極上に仕上げることは可能なのだが、全く情報がない料理を作ることはできないのだ。

 

 苦肉の策として【台所の天使(クッキングアイドル)】は考えうる限りの魚料理を作り上げるが、どれもラジカが見知った料理ばかりでおおよそ試験官が求めるような料理ではないことが見て取れた。

 

「これは?」

「川魚とキノコのムニエルです」

「これは?」

「山菜と川魚の煮込みです」

「……これは?」

「川魚の塩焼きです」

 

 次々と目の前に並べられた皿を指差して、料理の説明を求める試験官のメンチ。それにスラスラと答えるラジカ。が、その態度にメンチはキレる。

 

「あたし寿司って言ったでしょ!!?」

「うるせぇ! もっと情報寄越せやキテレツ頭!! 何テールだそれ!!」

「逆ギレしないでくれる!! これは情報収集能力や推察力を判断する試験なの!! 失格にするわよ!?」

「ッチ!!」

「あ、料理は美味しそうだから置いといてね」

「調子乗んなよお前!!」

 

 その後崖から卵を回収する試験に変わり余裕をもってラジカはクリアした。なお、ラジカの作った料理は美食ハンターのメンチをしても美味だったそうだ。

 

 

 




台所の天使(クッキングアイドル)
操作系能力。
自動で体を動かして手元にある材料から料理を作り上げる。レシピを知っていると精度が増し、味も向上する。料理に対する情報がない、もしくは少ない場合発動しない。
〈制約〉
一定の確率で発動しない日、もしくは発動しても悲惨なものが出来上がる不幸な日がある。

感想評価お待ちしてます

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。