「ん・・・」
朝日が部屋に差し込み、自然と目を覚ます。いつもは目覚まし時計と共に目を覚ますが、今日は違った。
むくりと上半身のみ起き上がり、軽く伸びをする。その拍子に、小さい欠伸も出てしまった。
「くぁ・・・」
寝ぼけながらも立ち上がり、障子を開き、窓を開いた。本物の朝日が瞳に食らいついた。少しだけ眩しさを覚えながらも、気持ちのよさは否めなかった。
「・・・そろそろ桜が来る。早く準備しないと」
少年、衛宮士郎は少しだけ得をしたなぁと感じながら、部屋の襖を開き、洗面所へと向かった。
■
「くはぁ・・・!!」
同時刻、この青年もまた、冬木の地へと降り立っていた。
成田から電車などを乗り継ぎ、走ること数時間、和な街へと到着した。
「しかし、ニッポンは本当に人が多いな」
明らかに不機嫌そうにそう呟いた。英語でそう言っているので、周りは全く気にもとめていない。
「取り敢えず、冬木。まずは宿探しだけど、外国人が行っても不思議に思われないような所はどこか」
これから、戦争が行われる。すでに戦士が揃いつつあるため、緊張状態だと言われても否めない。
故に、金髪で蒼い目の男が、辺りを散策、もとい探索しながら歩いていれば、分かる人間には分かってしまう。
「少しだけ考えすぎかもしれないな。・・・まったく。師匠ってば、宿くらいとってくれてもいいのに」
少しだけぼやきながら、歩みを進める。
戦争には参加しない身だが、用心にこしたことはないだろう。
■
士郎は朝食を終え、三人分の食器を洗っていた。
「ごめんなさい先輩。洗わせてしまって」
「これくらいいいさ。それより、桜は朝練があるんじゃあないか?」
桜と呼ばれた少女が申し訳なさそうに言ったが、士郎は気にしているそぶりを見せなかった。
「そうよそうよ、遠慮しないで座ってなさい、桜ちゃんは」
藤ねぇがそう呟いた。一人食卓でくつろいでいるが、自分が一番急がなければならないだろう。
藤ねぇは穂群原学園の教師なので、そういう結論にいきつく。
「まったく・・・。取り敢えず藤ねぇ、桜を学校まで送ってってくれよ。俺は少しだけやることが・・・っ痛!」
皿を洗いながら話していると、急な手の甲よ痛みに襲われた。その拍子に、皿を床に落としてしまった。落ちた衝撃で、皿が割れ、辺りに大きな音が響いた。
「だ、大丈夫ですか!?先輩!」
「大丈夫士郎!?」
桜も、くつろいでいた藤ねぇも、士郎の身を安じ、そう言った。
「大丈夫大丈夫。少しだけ手が滑っただけだって。あ、大丈夫だから桜。怪我するぞ」
そう言いながら、砕けた皿の破片を拾う。その最中、手の甲に奇妙な痣があることに気がついた。
「大丈夫です先輩。先輩こそ、怪我を・・・」
どこかで打ったかな・・・?
そう考えながら拾っていると、一緒に拾ってくれていた桜が、手の甲を一直線に見つめていたのに気が付いた。
「どうした?桜」
「いえ、その痕」
「これか?知らないうちに出来てたんだ。多分、ガラクタでも弄ってたときにでも出来たんだろう」
そう士郎が言うと、桜が悲しそうな表情を士郎に向けていたのに気が付いた。
「心配するなって。二、三日でもすれば消えるさ」
「・・・はい」
皿を拾い終えると、桜は身支度を始めた。時間にして七時半。朝練は八時からなので、まだ間に合うだろう。
「じゃ、行ってくるね士郎!遅刻しちゃだめだぞ?」
「行ってきます」
「分かってるよ藤ねぇ。桜も、行ってらっしゃい。また、学校で」
そう言って、玄関の扉を開く。二人が門から出ていくまで、士郎は見送っていた。
「ふぅっ・・・・・」
二人が居なくなって一息吐くと、士郎はそのまま敷地内にある倉へと向かった。
まだ登校まで時間はある。取り敢えず鍛錬だ。
士郎は、倉の重い扉を開いた。
■
戦争の参加者なら、監督役に助けを求めることができる。しかし彼は参加者ではないが故にそれは出来なかった。出来ないが、歩みの先はその監督役がいるであろう、教会へと進んでいた。
「まずは遠坂の邸宅の場所を調べないと。師匠はそこまで教えてくれなかったからな。遠坂を訪ねろとだけしか言わなかった」
故に、監督役である言峰を訪ねるのである。大変癪ではあるが。
太陽が燦々と輝く道を、ゆっくりと歩く。日本の町並みというのは、中々に綺麗なものであると感じていた。
ロンドンの町並みに引け劣らない。