イタリアン・シルバー 作:湯麺
そんな感じで始めました。初心者の中の初心者なので創作力も文章力も無いです。
復習と導入部分的なものです。
『『────────』を見た者はすでに……』
ギロリと睨む魚の眼は「深紅の王」。歯を食いしばり、その顔は憤怒を表す。背から感じるそいつの比類無き気迫は、絶望を叩きつけるためにある。
「この……能力は…!「時」を…きさま!!」
眼球は裂傷により飛び出し、意思に反して大気を浴びている。そのまま二度と戻らぬ旅に出るのだろう。今の自分に何が出来るのか、その答えは遠い未来に置いてある。時の流れに身を任せ、答えに辿り着くまで虚ろなまま泳ぎ続ける。ただ今の彼の中の時の流れは、特例として遅くなっている。走馬灯を見るも良し、秘策を考えるも良し、時間はある。
『……もうこの世にはいない!!』
その一撃は身を崩し、痛みすら感じない重傷をつくる。潮風の匂いが鼻につき、自分の事など眼中に無い岸壁は上へと流れていく。全てが遅々とした世界の中心で、彼は瀑布のような血液と海の底へと落下する。
「希望は…ないのか………」
紛れもない敗北。超然たる力を目前にして、負けを認めざるを得なかった。犠牲を重ねて辿り着いた「奴」の能力は、自身の想像を遙かに邪悪に超越していたのだ。
彼自身、この戦いは戦いではない、一方的な蹂躙だと感じた。為す術無く傷ついた身体が呻き声を上げ、神はいないと叫んだのを感じた。
終曲ではない。曲の始まりですらないのかもしれない。だが1つ、確かに分かることは、魂を鎮める曲へと進行していること。矢の謎を暴く時、それが必然的に最終節となるであろう。
これは黄金の旋風吹き荒ぶ前の、誰も知らない物語。ジャン=ピエール・ポルナレフと、誰も知らない男の数奇な運命は、やがて眠れる奴隷の道しるべとなるだろう。奴隷達が解き放たれるまで、彼等は藻掻き苦しむであろう。巨躯なる闇に立ち向かった2人の物語に、勝利の追い風が吹くことはない。
*
1986年
サルディニアにあるオルビア=コスタ・スメラルダ空港から、その男は発とうとしていた。
円柱状に逆立てられたシルバーブロンドの髪型、ハートマークを左右に割った形のピアスを両耳に着けている。骨格のハッキリと現れたフェイスに、青色の鋭利な眼差し。特殊な形状の黒いタンクトップに、カーキ色のズボンと黒のハーフブーツという衣装。それすら難なく着こなす筋肉質な体。片手で軽々と担がれたバッグ。
「イタリアにも「ヤツ」はいない……のか」
ジャン=ピエール・ポルナレフは溜め息をつき、広大なフロアで1人、地図を睨む。彼はある事情で、ヨーロッパを中心に世界中を旅していた。
「ヨーロッパだけではダメだ……妹シェリーの命を弄んだ両右手の男、奴は今どこにいるのだ!」
数年前に愛する妹シェリーを惨殺した、両手が右手の男。妹の仇討ちのため、ポルナレフは何年も一人でその男を捜しているのだ。手助けなど不必要。途方も無い旅路ではあるが、それでも自分を納得させるために突き進む。
気持の昂ぶりを深呼吸で抑え、一歩前進しようとしたその時──
「きゃっ!」
「……おぉ~っと、大丈夫かいお嬢さん」
地図の陰にぶつかり尻餅をついた少女に、ポルナレフは反射的に手を差し伸べる。
「い、いえ。前を見てなかったのは私です……ごめんなさい」
手を取り立ち上がる少女の凜とした目に高い鼻、軽く揺れる跳ねた後ろ髪。見た目は若く、手に持つバッグが大きく見える。ポルナレフとは真逆で、物騒という二文字とは縁遠い。
その可憐な姿がポルナレフに雷を落とした。
「ムッ!……お嬢さん可愛いね~ッ!特にその輝く瞳ッ!今度どこかでお茶しなァ~い?」
頭を打ったのかと思うほどな笑みを浮かべる。
紳士的かと思えば鼻の下を伸ばし、雷に打たれるというのも毎度の事。仇討ちにも口説きにも熱意を込める、それこそポルナレフ流だ。
「あ、ありがとう……でも恋人が待ってるの」
「オ~ウ!それは残念、チャオ」
少女の行く先には深い桃色髪の、ポルナレフに劣らない主張の激しい男がいた。
「……どうしたんだ、ドナテラ」
「ううんソリッド、何でもないわ」
「……そうか……よかった」
*
1992年 9月15日
フランス パリ
たゆたえども沈まず。そんな言葉を掲げるパリは世界有数の都市であり、歴史の生き証人でもある。未だジョースター一族の百年戦争は続いている、だが巻き込まれたなどとは思っていない。これが運命というもの。
故郷フランスの麻薬犯罪とその死者数が驚くほどに急増していることに、ポルナレフは黙っているワケにはいかなかった。ポルナレフと空条承太郎が2年前に回収した「一本の矢」以外に、イタリアのどこかに存在する「矢」とは一体なんなのか。それと共にポルナレフは、故郷の犯罪に目を光らせたのだ。
全長115メートルもあるこのアレクサンドル三世橋には、天使や精霊の像や天馬といった時代を感じさせる美麗な装飾があり、四隅にある柱には各々の意味を成す女神像が構えている。日が沈みかけたこの時間帯の人通りはまばらで、黄昏れるには適した場所と言えるだろう。
ポルナレフはこの橋を渡りながら、横目で清流を眺める。この川の流れはポルナレフの人生とは程遠く静かで穏やかだ。人を待つ者が上の空というのは無礼に近いかもしれないが、このような時だけがポルナレフが闘争世界から脱け出せる唯一の時間なのだ。
イタリアのギャング組織「パッショーネ」が現れた途端にイタリアを中心として犯罪件数が増えているのは調査済。気の遠くなるような時代の流れを見てきたイタリアは、もはや手を付けられなくなった一大ギャング組織の暗躍を見守りつつある。そこに一石を投じ、仲間と共に崩壊させようと乗り出す事はなんら不自然ではない。しかし、今やヨーロッパ中に勢力を伸ばしつつある犯罪組織パッショーネは、
橋を渡りきり、少し歩いた所に位置する高級レストランに入店し、注文無しに悠々と居座る。
「お客様…ご注文は」
「すまないが、人を待っている」
目線を動かさずに、店員を追い払う。今はただ待つ。その姿は我が家で寛ぐ亭主のようだ。
2年前の調査の際にSPW財団から届いた書類に入っていた情報は、エジプトの遺跡調査の盗難事件。イタリアの地方新聞社の失踪事件。グリーンランドの鉱物調査隊の感染事件。そして発見した矢に内包されていたウイルスについて。それらを焦燥感なく頭に思い浮かべていると、噛み合わないパズルを組み立てている感覚になる。
瞬間。後頭部に、氷水で濯がれたように冷えた銃口が張り付く。思考の暇は無い。
「………感心できねーな。テメー」
刹那。拳銃が寸分の狂い無く、真ん中で真っ二つに切断され、重い落下音が店内に響いた。あまりに速すぎた事象にも関わらず、それが日常的でもあるかのように両者は一切驚きを見せない。
ガラクタを回収し、その男はポルナレフの横に立つ。まるで何も起こらなかったみたいに。
「玩具ですよ、どうも狙われている身なもので……申し訳ない。万が一を探ってるんです」
「『スタンド』の存在だけを認知している……つーことか。……」
「レネート・ダフトパンク。あなたと同じ……一匹狼ってやつです。……今は…」
「ジャン=ピエール・ポルナレフだ」
丁寧に手を差し出したレネートに、ポルナレフは立ち上がり握手を交わす。男の掌は乾ききっていて、ポルナレフとは違い男の姿に清潔感はあまり無い。
標準的イタリア人顔の若者。オールバックにまとめたハズの青髪からは束が抜け出している。全身真っ黒のスーツの袖はめくられ、裾は何故がボロボロに破れている。更にネクタイには中心に尾を飲む蛇の絵が描かれている。
「一匹狼っていうのは推測です…悪しからず」
「……言っておくが…まだ信用したわけじゃあねーぜ。レネートとやら、雑談は後にしな」
信用したわけではない。その一言を聞いてもレネートは顔色一つ変化させなかった。その言葉に慣れているかのような純然たる気迫を放っている。怪しい──彼に対する第一印象は、単純かつ重要なことだった。だが所詮は一期一会であり、ポルナレフの抱いた第一印象は普遍的である。
SPW財団が特定し、危険性を案じてポルナレフが邂逅するという手筈は正しかったのかもしれない。
「…心得ておきます……では早速、僕のいた新聞社「ミリオン・ミリ」についてお話ししましょう」
レネートは倚子に腰を下ろし、1つの封筒をテーブル上に置く。
1986年に僕はイタリアの地方新聞社であるミリオン・ミリに入社しました。その時、同期に「カミーユ」という男がいたのです。
2年後の1988年に泥酔したカミーユが夜中のネアポリスという街を歩いていたところで、それは起こりました。ある一人の男が倒れているのを見つけたのです。泥酔して道端で寝てしまっていると思ったのでしょう、カミーユはその男に話しかけてみるも全く返事がないのです。
これで終われば良かったのですが、カミーユはその男の横に座り、ふと自分の手に付いた液体を舐めていたそうです。カミーユ自身はその液体は赤ワインだと思っていたらしいのですが、もう分かるでしょう?その液体は血液で、男は既に死んでいたのです。
「彼は偶然持っていたカメラで写真を撮ったのですが、それが問題で……」
「こ……これは!」
レネートが封筒から出した1枚の写真には、半笑いで笑うだらしない男と、白目を向いて血塗れになっている男が照らし出されていた。血塗れの男の額にはポッカリと丸い穴が空いており、手には銀色のライターが握られていた。
「その後、写真は掲載しませんでしたが、新聞の隅にこれに関する記事を載せたんです。すると……数日としないうちに、本社に「パッショーネ」と名乗る男達が姿を見せたのです……」
その後の話は大体予想していた通りだった。写真が血塗れの男と映っていたせいか、カミーユは快楽殺人犯の汚名を着せられ逮捕。更に額の傷について黙秘するように脅された社員達は全員がしっぽを巻いて夜逃げしたという事らしい。
「パッショーネ……やはり奴らが関わっていたか」
ポルナレフはその言葉を聞き、眉間にシワを寄せる。故郷にかける思いは拳を握らせた。
驚異的な速度で魔の手を伸ばす組織パッショーネ。麻薬を売り捌くなど言語道断。イタリアを支配しているのなら、どこかに矢やDIOとの結びつきもあるはず。
「僕にとっては大した問題じゃあありません。手紙でも伝えましたが……本題は」
「「取引」……だったか」
「ええ、新聞社と写真のことは前金とでも思ってください。……僕の渡すモノは「情報」とそれに基づく「推理」。主観ですが、ポルナレフさんは頭の回転が良いとは言えない……」
「…………」
ここで癪に障ると言って、機会を逃すワケにもいかない。まだレネートという男を知り尽くしたワケではないが、ポルナレフは幾多の修羅場を潜り抜けてきたタマだ、反論する自信はたっぷりとある。
「それで、俺は何を差し出すんだ?ご要望には最大限応えてーがよォー」
急にだらけたポルナレフは、表情筋を器用に動かしてレネートを見つめる。
「僕を「仲間」にして欲しい」
「何?」
当然のように放たれた予想外な一言に、ポルナレフは長年共に生きてきた耳を疑う。全くもって底知れない性格、というよりは至極積極的な自信家だろう。
「信頼しろとまでは言いません。パッショーネの調査に僕も参加させる……ね?問題ないでしょう」
「……何故…そこまで組織に固執する?……その取引には応じたいが、先に理由をお聞かせ願おう」
「…………1986年……1人、サルディニアで暮らしていた僕の「妹」は原因不明の村を呑み込む大火災で死んだ。パッショーネが現れたのは同年、時期もほぼ同じ……僕は「睨んでいる」」
「!」
感情の起伏が少ないレネートも堪えきれない怒りを見せる。真剣に他ならないそれと、「妹」という言葉はポルナレフの心を動かせる。妹の仇討ちのために出た旅で起こった出来事を、忘れることは決して無いであろう。それほどに妹を想うポルナレフは、同じ境遇にあるレネートの意志が心で理解出来た。それが嘘かもしれないと思っても、少しでも真実だという可能性があるのなら救わない手は無い。自分の命が他者の犠牲で成っている事を経験したポルナレフだからこそである。
いつしか、ポルナレフは彼を信頼していた。
「…一人では力不足、仲間が必要だ……そのためにフランスなんて田舎に来たんですからね。全く、故郷のピッツァが恋しいですよ」
「………オメー…フランスとイタリアの食論争がしたいなら寿命が足りねーぜ。ピッツァはそっちが本場だが……ワインなら、こっちのもんだ」
「本当にするんですか?マジに干からびますよ」
「………」
近隣国でありながら食文化やファッション、観光や過去の歴史まで啀み合っている関係と言っても過言ではない。そんなポルナレフとレネートは違う土地の出身ではあるが、志は一致している。
「と、とりあえず……取引成立だレネート。SPW財団にはオメーの素性は探らないよう手配しといてやる、俺からの信頼の証だぜ」
「…………ありがとう御座います。あと、頭の回転が良くないって言葉、撤回しておきます」
素性を探らない。レネートは自分に秘密があると暗喩したつもりもないが、どうやらお見通しらしい。
結局、2人は何も注文しないまま店を立ち去る。この時の彼らには、自分達が考える以上に恐ろしいものに手を出していることなど、到底知る由は無かった。自分達の身に降りかかる火の粉がどれほど強大なものかを、知る術はないのだ。
一番奥の席。肉料理を汚らしく頬張りながら電話を肩と耳で挟む者が一人、ハンチング帽を深く被り顔は確認不可能。不穏な気配は身近にとっくのとうに迫っていたのだ。危険の回避など、こいつとレネートがいる以上はどう足掻こうとも逃げられない。
「……ドッピオか………ボスに伝えろ。組織を調べてたSPW財団の例の男が本格的に動き始めた……レネートと接触したみてーだ。「俺」が追跡する……」
1992年ってヴォルペまだ組織入ってないんですよね…多分。なので1992年時点では、アニメ設定でもある「アジアから麻薬を輸入してる」という設定にします。