イタリアン・シルバー 作:湯麺
第5部新OP「裏切り者のレクイエム」、めっちゃ良い。全てにおいてディ・モールト良いです。
丁度スクアーロも登場してきたので、大した推敲もせずに投稿します。
またもや完全戦闘パート
「あ-!も-雨振ってる!」
建物のせり出した屋根の下に走り、雨水を払う。振り返ると直ぐにこちらに気づき、嬉しそうに目を見開いた。
「………あ?」
「あれ?ポルナレフ!?……じゃあ、自己紹介しないとね!我こそはピラウ、親衛隊の隊長さ!」
離れた位置で腰に手を当て、声を上げている。
ピラウの口調は180度一変しており、表情も豊かで、明るい印象を急に抱かせる。さっきまでの高尚な少女はどこへやら。見た目はそのままただが、そこにいたのは全く別人の、天真爛漫な少女だった。
その陽気な性に照らされたのか雨が止みはじめ、ピラウは頭を振り、水滴を拡散させる。
「あれ?……もう「僕」から聞いてた?」
その姿に仰天したホル・ホースとポルナレフは顔をしかめ、後退するように身を寄せる。
「お、おい……なんだ?イカれちまったのか?……別に俺はウェルカムだけどよォー」
「……」
この時、どのような反応が適切なのか。そんな気遣いはすぐに消え果てる。
スタンド能力のヒントになるのではないかと、瞬きを忘れるほどに考え込む。
ポルナレフにはアテがあった。以前のピラウの与えてくれた情報からは、レネートのような推理が可能である。深読みは苦手な彼も、今回の推理ばかりは容易かった。
「…………多重人格……」
そう呟く。先のピラウはその自覚があり、理由は分からないが注意し教えてくれたのだ。
人の精神は時に、幼少時代に受けた衝撃などが原因で「心」に亀裂が生じる。そしてその部分が年齢とともに別の「人格」へと成長することで、複数の人格を内包する人間が誕生するのだ。
先の冷静なピラウも今の無邪気なピラウも、一人の人間であるのならば、今のピラウが嘘をついているとは余り思えない。今の性格には表裏が無いのならば。
「…ピラウ・ビアンクは親衛隊……隊長!」
「何ッ!?」
復唱して追加で驚く。
「キアーロ!(その通り)他の人とは違って、僕はボスに直接任されてるのさッ!」
貧相な胸を張り、笑顔を満たす。しっくりこない子供っぽさには眉をひそめざるを得ない。
ボス直属部隊の中で、長を任命されたのがこんな咲いたばかりの華とは誰も思うまい。
下っ端達がチームをつくり、リーダーを決めるように、「親衛隊」にも「隊長」が存在するのは組織として当たり前。だが親衛隊は下っ端とは違い、その名に恥じない精鋭部隊。つまり親衛隊隊長という存在は、パッショーネの中でもトップ帯を争う実力者である。
人格が変わったとしても、敗北が濃厚という状況に変わりはない。親衛隊隊長を堂々と宣言するあたり、ボスの正体を探るポルナレフ達に友好的なはずもない。
「刀かぁ……ふーん」
何かを察し、アヌビス神の刀を水溜まりへと乱暴に投げ捨てる。
アヌビス神が洗脳をしないのは、ピラウやボスの強さ故。DIO死した今、忠義を尽くすべきなのは組織のボス。そしてピラウのスタンド能力を最大限に引き出せるのは、本人だけなのだ。
ホル・ホースはニヤリと笑った。
右手に
「今が好機ッ!この俺、当てる自信はねーが撃つ自信はあるッ!覚悟はできてんだぜーーッ!!」
なぜ刀を捨てたのかという疑問は当然ある。だが、ここはあえて早撃ちで勝利を納める。
バカな、という言葉を咄嗟にのみ込む。ポルナレフも賭けるしかない。
「…!」
これぞ上の空、あらぬ方向へと弾が飛ぶ。ピラウを狙いすましていたつもりが、レールに乗った車輪のように弾丸は散っていた。
二度目だ。深層にある女への敬意が邪魔をしているのか?それ以外に考えられるのは1つ。
「やっぱしなッ!おそらく奴の能力は「攻撃をズラす能力」ッ!だが、ホル・ホースと会ったのが運の尽きだったな嬢ちゃん!嬢ちゃんの能力で幾ら軌道が変えられてもよォーー、俺の能力だって軌道は変えられるんだぜ!!!」
二発の弾丸が宙を舞い、1回転して再びピラウに向かっていった。
もう一発は2人の真正面を横切り、アパートの壁面に突き刺さっていたチャリオッツのレイピアの刀身を弾き飛ばした。
「受け取りなポルナレフッ!」
「ああ!」
相棒として同調し、見事に刀身をはめ込む。
自称銃の達人であるホル・ホースにとって、物を狙った場所に弾き飛ばすなど単純作業。そして刀を拾う動きを見せない今こそ、ポルナレフの磨き上げられた技が輝く時。ピラウへ向かう弾丸は単なる牽制に過ぎない。
「メルシーボークー!畳みかけるぜッ!!」
「アイアイサー!!」
地面を一蹴り。無力な女に男二人でかかる、というものは最高にプライド違反だが、既に覚悟はすわっている。彼女は敵だ。
ずっとホル・ホースを不思議そうに見ていたピラウは、不敵な笑みを浮かべ、息を整えた。
その呼吸法は、ポルナレフがよく知っていた。
「コォォォ…………」
人差し指を前方にかざすと、電気に似た山吹色のエネルギーが、指先から放出される。そのエネルギーは全方向から小雨を磁石のように引きつけ、空中に「雨水の塊」を形成している。
あのエネルギー…あの効力…やはりボスの右腕は格が違う。予想を遥かに超えていた。ジョースターさんも使っていた「波紋」を扱えるとは…。
徐々に塊は膨らみ、テニスボール大になった。
「スクアーロッ!」
声を高らかに上げる。
雨水の塊の中から突然、蛇腹状に甲殻を重ねた小さな鮫が顔を出した。その口には、身の丈に合わぬ短機関銃が咥えられている。
「!」
鮫のスタンド能力は2人目の敵に間違いない。わざわざ雨水の塊から出現し、物資を運んだのは「水から水へと移動できる能力」だからに違いない。
ピラウは短機関銃を受け取り、鮫は刀を咥えて水たまりへと潜っていった。いくら浅くても、水であれば移動は可能なのだ。
「!……ありゃあトンプソンだッ!だがこんなところでぶっ放すってのかッ!嬢ちゃんもろとも全員死んじまうぜ!」
「何かヤバい!あいつには「ここでぶっ放しても無傷で済む理由」があるッ!覚悟があるッ!」
地面を蹴り、飛び込むように車の陰に身を隠す。
こんな場所で短機関銃を撃たれたら、凌ぎきれる可能性は薄いし、建物や人々へ被害が及んでしまう。しかも車が爆発する危険性がある。レネートと合流して逃げられればいいのだが。
ローマの空には鮮やかな青い蓋が被さり、乾いた雨が鳥肌を舐める。
「隠れなくてもいいのに………じゃあスクアーロ!君の初仕事、頼んだよ!コテンパンにしちゃってね!」
ピラウの晴れ晴れとした表情と仕草は、いつになっても慣れない。短機関銃を構えようとはせずに、常にニコニコしている。
鮫は顔を出している。
「…イッデェッ!こいつ水たまりからッ……!」
足首に鮫が食らいついていた。しかし噛み切ろうとはせずに、ガッシリと歯で肉を掴んでいる。アキレス腱から全身へと激痛が走り、ホル・ホースは膝を崩す。
首をひねって鮫を睨んだ。攻撃ではない、捕まえられている。
「この野郎ッ!まさか、「人間」も連れていけるのか!……なんてこったッ!!」
「ホル・ホース!」
「……刺身になりなァッ!
噛まれている以上、とうに遅い。
控えめの銃声だけが重く鳴り、雨上がりの空の下でホル・ホースは消失する。残された弾丸は水を貫いた。
どこへ行ったのかというのは愚問だろう。
手助けも間に合わず、ポルナレフはその場に屈んだまま、水たまりに映った自分の顔を見る。
「液体から液体へと瞬間移動する能力」。モノに噛みつけば、そのモノも共に移動先へ連れていける。それが親衛隊の新人スクアーロの遠隔型スタンド『クラッシュ』である。
「ね~ポルナレフ、レネートはどこ?君たちを始末するのも大切だけどさ……肝心のレネートがいないじゃん!撃っちゃうぞ!」
「…………」
「ね、ね!聞いてる?」
少女の問いかけは、異常者の見境無き暴力にしか感じられず、ポルナレフは歯をかみしめる。脚の筋肉は震え、耐えきれない悲痛を恐れている。訪れたチャンスは謎によって食い尽くされた。
しかし「攻撃をずらす能力」だけならば、まだ勝ち目はある。更に「形見」とも言うべきそれは、再びチャンスを与えた。
「…………やかましいぜッ!撃ってきな!その銃がハリボテじゃあねぇならなァァアーッ!!」
「オッケー!」
短機関銃を構えると同時に、チャリオッツの甲冑を全て脱ぎ捨て、銃弾の雨に対抗する覚悟を決める。
ホル・ホースの最後の弾丸は、車体後部にあるガソリンタンクに穴を空けてくれていた。揮発したガソリンは酸素と交ざりあい、非常に爆発しやすくなっている。
「…体に当たる弾を最大限減らし、流れ弾で爆発させればいい……って考えてるでしょ?……でもね、僕を爆死させても八つ裂きにしても無駄だよ!スクアーロ!」
三度目の号令が耳に届く寸前に、タンクの穴を広げて、クラッシュが飛び出す。
穴が裏目に出た。
「やはりオメーには「撃てない理由」がある」
刹那──超高速の乱撃は、既に鮫を串刺しにしていた。まさに銛で突かれた魚。
「そうくると思ったぜ……どうやらこの鮫のスタンド……大したパワーはねーみてーだな。ガソリンタンクの蓋を食い破るほどの……な。だからコイツにとって、穴が空くのは好都合だった」
ポルナレフに最も近い距離にある液体はガソリン。しかし塞がれている以上、クラッシュのパワーではポルナレフへ辿り着くことは不可能。だからこそ、ホル・ホースが穴を空けてくれていたのは敵にとって都合が良かったのだ。
そんなことはお見通し。
爆発を読んだクラッシュの攻撃を読んだチャリオッツの剣撃が、敵を1人撃破した。
鮫の造形美に舌打ちせんばかりに、睨みながら傷穴を掻き回す。笑うほどの自信はまだ無い。
用無しになった鮫から視線を外そうとすると、ガソリンの臭いが強く鼻につく。
何気なく視線を戻すと、視界を流れていく恐怖の来訪者が、そこにいた。
「なん……だってッ……!!!」
「…それも読んでいたよ」
親に腕を引かれる子供のようにタンクの中から体を出している。クラッシュに連れられて、ガソリンで全身を濡らしている。
剣は鮫ごと、ピラウの腕を貫通していた。
穴はフルートのようで、鮮血はシャワーのよう。希望を打ち砕く。死の宣告と共に。
「痛いなあ……スクアーロはちゃんと甘噛みしてくれたのに、君ときたらこんなに穴空けるなんて……ここままじゃあ…………血が無くなって死んじゃうなぁ」
「なッ………!」
「死ぬと思えば…僕は死なないよ、最強なんだ。僕たちは……無敵さ」
───────────
「え……?」
気が狂ったのかと、疑わないわけにはいかなかった。なぜならば──チャリオッツは自らの脳天を穿っていたからだ。こんな時に自殺を図ろうなんて事は、バカでも考えない事だからだ。
あくまで顔はピラウに向いている。しかし、腕は奇妙に曲がっている。
ピラウと鮫を突いていたと思ったら、自分を突いていた。何を言っているか分からないと思うが、自分も何をしたのか分からなかった。ピラウは無傷だ。時間停止だとかダメージ反射だとか、そんな茶々なものでは断じてない。
「…」
叫びは出せなかった。
自分の中でのスクアーロは2001年時点で二十代後半です。
書きためてから投稿していますが、ピラウ戦はかなり長引きます。