イタリアン・シルバー   作:湯麺

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ジョジョっぽさが足りないのはご愛嬌
戦闘はないです


ヴァーチャル・インサニティ その4

 

 

 

 路上駐車の車に寄りかかり、ピラウは機関銃を片手で担いでいる。対極、アパートの玄関の前で、レネート・ダフトパンクは角張ったスーツケース片手に佇む。

 

「「ポルナレフを見逃せ」なんてお願い、君じゃあなきゃ認めてないよ?この僕に感謝してね!」

 

「……………ありがとう」

 

 気のこもっていない感謝を告げながら、濡れた地面やマナーなどお構いなしに、コツン─と矢の入ったケースを足下に落とす。

 

 今のピラウは組織への忠誠心が比較的弱い。その点では救われたのかもしれない。

 

「敵として相対する覚悟……今のお前にはそれが無い。その証拠に、その物騒な銃は飾りか?ボスがお前に下した命令を遂行してみろ」

 

「………」

 

 レネートは、ピラウが迂闊に自分を攻撃できないことを知っている。それ故の挑発的な言葉遣いに、少しだけむくれるも、レネートの左手が真っ赤に染まっていることに気づき、ハンカチを取り出す。

 

「…血?……その手……」

 

「これか………「父親が殺されていた」……銃弾をくらって、俺が見にいったときは既に遅かった。その時触った血だ……と言ったら、信じるか?」

 

 人の死を騙っているというのに、冷血漢としか思えないほどの、すこぶる落ち着いた物言い。

 

 ふと思い返す。

 父が抵抗した形跡や犯人の痕跡は無く、完璧な暗殺だった。加えて血は固まっておらず、机の上のコーヒーも温かかった。つまり数十分前に父親は殺されたということ。これは奇跡でもなければ、確実に組織が絡んでいる。ピラウが殺したという線もあり得る。

 

「…君の言うことなら信じるよ。レネートはいつでも僕の味方じゃん」

 

「………今でも……俺はお前の味方、と?」

 

「違うの?」

 

「…………………………」

 

 呆れて物も言えない。状況をわかっているのかいないのか、子供心が抜けきっていないピラウには、何を言っても通じない気がする。どうにかして、一発大きな喝を入れてやらなければ。

 

「だって「今」君は、僕に銃を向けていないよ?しかもしかも!二人きり……ね?戻ってきてくれるんだよね!」

 

「…そうか……そうだな…良い機会だから一つ言っておく………「テメーをぶっ殺す!」…それだけだ…「信じない」とは言わせない」

 

「…………え…?」

 

 頭蓋に指をさされ、正真正銘の殺意がこちらを睨んでいる。ピラウは大きく目を見開く。

 

 遠い宇宙に突き飛ばされたような途方もない悲しみに包まれて、一気に言葉を失う。一点の曇り無きレネートがそこにはいて、行き場のない憤りが深淵から昇ってきている。

 信じていた相手からの無慈悲な通告は、人の心を簡単に傷つける。特にピラウの場合は、言葉であれど、精神を大きく一変させる致命傷となる。

 

 レネートはポルナレフがいないことを再確認し、自身のスタンド『ステップ・アウト』を待機させる。いわばそれは、宣戦布告。ピラウの敵意に発火を始める。

 

「…………昔、2人で『ゴッドファーザー』を見ただろ?…復讐に次ぐ復讐劇……」

 

 過ぎし日々の記憶を掘り返し、あえて話題を変えることで、なにかと盲目的な今のピラウの反応を見る。

 

「それは僕が、ただマネ事をしていると思ったの?………他人に頼る事しかできないと思ったの?まあ…どっちにしても、確かに君といたときはそうだった。君が僕の「全て」だった。でもね、君は消えちゃった……それで僕は…変わったのさ」

 

「…………」

 

「君を頼らない……君を手に入れる。僕が求めるものは「4年前の延長線上にある関係」……それだけなんだよ。僕を拾ってくれたボスには感謝しているけど、ボスは単なる「生みの親」……でもねレネート、君は「育ての親」だ!愛する人なんだ!」

 

 心からの訴え。レネートは傾聴しているが、眉一つ動かさない。まるで話に偽りがあるように。

 

「……なら今すぐ攻撃をやめろ……お前は無敵だ。組織を辞めて俺の元へ来い」

 

「「頼らない」って言ったよ…「今」のまま、僕は君を手に入れる……!レネート!」

 

 レネートは思い出す。今の人格が重要視するのは「現在」だ。現在の結末である未来、現在が積み重なった過去。今の人格は新興宗教の信者のように、現在が森羅万象を創造すると信じている。

 

 奴は今、自分と決着をつけることばかりを考えている。それが必ず良い結果をもたらすと思い込んでいるからだ。そんな風に現在にばかりに目がいって、先のことを考えない楽観的な性格であることが今の人格の欠点。今の状況ではそれがまずい。

 

「お前は「今が大事」という言い訳にすがりついて、組織に依存しているに過ぎない。俺の創った「今」が手放せないでいる………二つ目の人格……お前はな…邪魔なんだよ」

 

 愛も容赦も存在しない冷酷な一言。

 もう一方の人格だけであれば、おそらくこんなことにはなっていない。未来を重要視するピラウだけならば、すぐにでも組織を脱退してレネートと逃避行でもしていただろう。

 

 説教をするつもりは毛頭無い。ごく稀にだが、ピラウは大きな衝撃を受けると、人格が引っ込んでしまうことがある。つまり強制的に人格交代を行うのだ。狙うのはそれ。

 

「…うるさい………」

 

 死魚目。静けさから遂に怒りが溢れる。

 爪が食い込み血が出るほどに拳を握り締め、脳が耐え難い悲哀の一色に染まる。

 

「僕の理解者は君だけだったのに!どうしてそんなこと言うんだよ!僕は僕だッ!二つ目の人格でも邪魔者でもないッ!!」

 

「…お前が変わったなら……俺も変わるさ。「時間の中心」に縛られたお前の心は、俺にはどうやら分からなくなったらしい……それが、時の流れだ」

 

「ふざけるなッ!何でなのさ……!レネート……!僕はッ……ピラウ・ビアンクだァアアア!!!」

 

 激昂に任せて機関銃の引き金を引いた。

 レネートは『ステップ・アウト』で辛うじて弾丸を弾き、距離を詰めようとするピラウから後ずさりした。

 ぶっ殺すと意気込んだのはいいものの、勝てる見込みは無い。もし自分が死んだら、それで何かを学んでほしいと思うだけ。

 

「違う……お前は…!」

 

 レネートは口走る。

 

 

 *

 

 

 晴れ空は閃々と澄み渡り、視界一杯の細長い光は目を痛めた。それほど呑気にいられるのは、体の痛みを感じないからだ。

 体中を濡らしているのは血ではなく水だった。ぶちまけられたペンキのようだった血は、爪の間まで綺麗に消えている。その代わりの水は少し生臭い。

 

「き、傷がない……?」

 

 上半身を起き上がらせると、恐怖と驚愕が同時にやってきた。夢の世界か、はたまた死んだのか、ピラウとの戦闘を振り返ると、そうとしか思えない。

 ハッキリとしない意識の中、首を横に捻る。

 

「よぉポルナレフ」

 

 ホル・ホースは風に揺られて、目だけ黄昏れながら、禁煙用タバコを口にくわえていた。

 鮫に連れていかれたホル・ホースがこの場にいるということは、一つの結果を意味する。

 

「なッ!………じゃあここはやっぱり…!」

 

「生きてんだよッ!あの世じゃあねぇぜ。まったく……しっかしよぉ、ここはどこなんだ?」

 

 なんの変哲も魅力もない橋の下。旧市街とは打ってかわって、河川敷のコンクリート道の上だ。川の流れは緩やかになりつつあり、血腥さとは縁遠く、生い茂る木から落ちる陰は寒気を運ぶ。 

 空気が湿っぽく、木の葉が濡れている。天気は晴れだが、ついさっきまで雨が降っていたのだろう。

 

「…ここは…まだローマか……?」

 

 低パワーや広射程距離ということから、鮫が遠距離型スタンドなのはわかりきっていたが、驚くほど遠方に移動させられた訳ではないらしい。

 まあそんなものか、と独りでに納得する。

 

 問題は山積みだ。レネートを助けるために、一秒でも早く戻らなければならない。

 

「鮫野郎は俺が倒し……たのか?まあいい、厄介なのはピラウが波紋を使えるっつーところだ」 

 

「波紋…?あの電撃のことか?」

 

 ピンときていない。

 「波紋」とは、波紋法や仙道などとも呼ばれる、特殊な呼吸法により体内に生命エネルギーを発生させる技術である。

 厳しく長い鍛錬によって得られ、使用方法は多種多様。太陽のエネルギーと等しく、液体に流れやすいという性質もある。

 

「まあなんだ…万能エネルギーってやつだ。ジョースターさん以外に波紋とスタンドを両立している奴がいるなんてな…かなりデンジャラスだぜ」

 

「ほへぇー」

 

 波紋の恐ろしさを分かっていないようだ。

 

「それよりも……だ。再戦になるってのはいいが、優先すべき仕事ができたみたいだぜ」

 

「!」

 

 川の中央──背びれだけが露出し、既にクラッシュはいた。その憎たらしい姿は目を疑うほどに巨大化しており、映画『ジョーズ』を彷彿とさせる。

 飛びかかってくる様子はなく、じっと我々の方向を向いている。

 

「水量に応じてサイズが変化するっつー情報も追加か。といっても、奴にかまう必要はない。液体がなきゃあ拝むこともねーんだからな」

 

「……甘ーぜポルナレフ、あの陽気な嬢ちゃんと鮫野郎は連携がとれてる。必ず何かを用意してるだろーよ……俺はここで戦うぜ」

 

 皇帝(エンペラー)を構え、歴戦の勇士の如く意気込む姿は、ポルナレフにとって意外だった。

 ピラウと鮫のコンビは確かに強い、分散して戦えばチャンスがあると考えたのだろう。だとしても、一人になると弱気になるホル・ホースが、この場に残って戦うというのは性に合っていない。

 

 ハットを深めタバコを吐き捨てる。

 

「いいか!オメーらを見捨てて逃げようとしてるだとかじゃあねーぜ!」

 

「………」

 

「レネートはスタンド使いじゃあねぇ、だから奴らはこの俺とオメーを見失いたくねぇはずだ。おそらく鮫野郎はこのまま監視を続けるさ………そもそも俺ぁ女を撃てるかも…分からねーんだぜ」

 

 元は関係のない話、なんて戯れ言は言っていられない。難しい事なんか考えちゃいない。ただ今まで通り飛びこむだけのこと。

 

「それに、オメーの相棒はレネートだぜ」

 

「………ハっ、らしくねーな」

 

 激励は不必要。覚悟さえあればいい。

 

「俺はレネートと合流する。鮫はオメーに任せたぜ!ホル・ホース!」

 

 

 

 





次回は誰得な人たちの戦闘回です。
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