イタリアン・シルバー   作:湯麺

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ホル・ホースVSスクアーロ

こんな謎の対戦カードになるとは自分も思わなかった。



ザ・クラッシュ

 

 

 

 ローマ テヴェレ川付近

 

「遠距離型のスタンドはよく知ってるぜ……なにかと隠れたがりなヤツが多い。分かるか?…チキン野郎が多いってことさ………そもそも、魚が銃に勝てるわけねーがな……それよりお前さん、喋れねーのか?」

 

 笑い混じりの返事なき会話は、静まった小さな河川敷の中を流離う。クラッシュに表情の変化などあるわけもなく、水紋は止まりつつある。

 一般人から見れば川に話しかける狂った男。彼らからすれば、既に戦いは始まっている。

 

「…だんまりってか。まあ、所詮は砂上の楼閣……本体がダメなら敗北よ」

 

 皇帝(エンペラー)の銃口をクラッシュに向け、鋭角的な目線を合わせる。その様はまるで別人のように雄々しい。

 引き金にかけた指に力を込める。

 

「ドタマに風穴、空けてやるぜ」

 

 軽い銃声──二発の弾丸が空間を抉り進む。

 そしてクラッシュはホル・ホースの予想通り、川から瞬時に消える。少しの飛沫を上げ、水が弾丸を優しく包み込んだ。

 

 やはりか。鮫の能力は「液体中でのみの瞬間移動」。弾丸が当たる可能性は薄いし、はなっから当てるつもりはない。クラッシュは一度の瞬間移動でそう遠くまで移動することはできない。直ぐ近くにいるのだ。

 

「この俺の皇帝(エンペラー)の能力を見たお前さんなら、横に回避することはしねぇ。監視の目を常に向けてるんなら……どっかにいるんだろよォー!」

 

 先程の弾丸一発が弧を描き川を脱する。異常な軌道でホル・ホースの真横を通過して、後方に突き進む。

 狙いは、葉先の水玉に潜むクラッシュだ。

 

 しかしまたも、クラッシュは消失する。弾丸は空振り。これでは、軌道操作と瞬間移動のイタチごっこだ。

 

 クラッシュは再び川の中に移動し、視線を陸にやる。

 

「!」

 

 しかし既に視界にホル・ホースはいなかった。

 

 

 少し場所は変わる。

 ルネサンス様式の豪邸にも見えるシンプルかつ美しい建物の、十字路に面した玄関口の上、ベランダにスクアーロはいた。そこからはテヴェレ川はおろか、クラッシュの姿が拝める。

 青黒いバンダナから溢れるような橙色の髪は若さの証。細身の体を汗が通り、左手に持ったコップ一杯の水の水面は揺れている。

 

「マズい……ヤツを見失っちまった!なぜなんだ……ヤツの能力は単なる暗殺銃(ハジキ)…!弾丸に気をとられていたとはいえ、この俺の『クラッシュ』から逃げられるはずがねぇ!」

 

 顔面蒼白で、わかりやすい焦りを浮かべる。

 親衛隊に入って初の任務が失敗に終われば、信用を失ってしまう。その先に何が待つかは知らないが、最も怒りっぽい時の隊長に始末されるか、もしくは組織に居場所が無くなるなんて事もありうる。

 

「必ずどこかにいるッ!探し出さなければ!」

 

 

「(ここだぜ……)」

 

 ホル・ホースは川底に潜っていた。

 ものの見事にクラッシュの後ろをとっている。

 

 水中は自分の独壇場と思い込んでいる点をついた、灯台下暗し。好都合なのは、相手は戦い慣れていないために、全体を捉える能力に欠けていることだ。

 波打たぬよう、ゆっくり確実に狙いを定める。

 

「(やはり戦闘においては素人だ……こいつ。嬢ちゃんがいないからかは知らねーが、能力を使いこなせてねぇ………スクアーロとかいったな…オメーの負けだぜ)」

 

 常に二人一組で歩んできたホル・ホースには分かる。相棒となる協力者がいないと、途端に自信を失い、小鳥の羽音にさえ驚くようなタイプだ。ならばここでは経験が物を言う。

 

 川にいるクラッシュは巨大化している。つまりは的が大きい。急所に当てるのは容易だ。水を含んだ服は重く、そう長く息も持たない。

 

「(終わりだ…!)」

 

 バン、と籠もった破裂音が勢い良く鳴る。水中でも弾丸は失速しない。

 

 当たる直前──クラッシュは瞬間移動し、弾は水だけを引き裂いた。

 ヤツはまるで気づいた様子が無かったというのに、奇跡的なタイミングで雲散霧消、弾丸を回避したのだ。

 

「何ッ!?」

 

 形勢逆転。

 

 

「魚だ!川魚の動きが一変したということは、誰かが川にいるということだ!魚にスタンドは見えないからな……そしてこんな時に川に飛び込むヤローは1人しかいねぇ!」

 

 予想外を解決した自らの機転に感服し、スクアーロは笑みがこぼれる。目の前で高笑いをしてやりたい気分だ。

 弾丸による軌道操作はもうない。あとは背後に瞬間移動させたクラッシュで食らいつき、その大口で首を千切ればいい。

 

「クラッシュ!!食い破れェェエーーッ!!!」

 

 

「マズいッ!」

 

 真後ろからの突撃はさすがのホル・ホースでも間に合わない。ましてや水中、動きは鈍くなっている。

 巨大化しているクラッシュのパワーは、もうバカにできない。

 

 ニヤリ、と口角を上げた。

 

「……なんて言うと思ったか、甘っちょろいな。俺はホル・ホースだぜ」

 

 皇帝(エンペラー)の弾丸一発は川底を突き破って現れた。こんなこともあろうかと、一回目の銃撃で保険をかけておいたのだ。

 

「二発撃ち込んだのを忘れたのか?ずっと地面を掘り進んでいたのさ………お次は、テメーを掘り進む予定だぜ」

 

「!」

 

 水を彷徨う微光を切り裂き、弾丸はクラッシュの腹から頭までにめり込む。

 疲れ切った赤子のように闇雲に体をくねらせると、やがてクラッシュは姿を消し、ホル・ホースに川から抜け出る時間を与えた。

 

 だが這い上がってもなお、悠長に構えていられない。追い詰められたスクアーロの次の目的、最適解となる行動とは。

 

「俺の体中の水滴の量じゃあトドメはさせねぇ…無理にでも、十分な量の水を用意するだろーよ。そう、次のオメーの予定は……」

 

 ホル・ホースが顔を上げると、予想通り、スクアーロはいた。

 

 滝のように細身の体を血潮が通る。彼は息を荒らげ、茂みの中をかき分けて来た。片手に持ったコップの水の中には、小さくなったクラッシュがいる。

 

「…………ハァ…ハァ………テメー!!」

 

「一人で来る!なあ、スクアーロさんよォー!」

 

 スクアーロは戦闘においては甘ちゃん、そして致命傷寸前の怪我を受けている。かといって油断はできない。ホル・ホースはすかさず銃を構える。

 ヤツが姿を見せたとしても、ホル・ホースが有利なことに変わりはない。2人の視線は火花を散らせ、環境音だけが耳に入る。

 

 火事場の馬鹿力なのか死を恐れる本能なのか、スクアーロの脳内は今まで以上に研ぎ澄まされていた。

 

「……………」

 

 このコップの水の量ならば、ホル・ホースの喉を突き破ることぐらい造作もない。水をかけさえすれば、勝てる。しかし、弾速よりも速く水をかけ、クラッシュを食いつかせられるか……。

 タイミングを間違えれば、負ける。

 

「!?………………うッ………!!」

 

 突如として、スクアーロは白目を向いて卒倒した。その場で眠っているようにピクリとも動かない。

 

 ホル・ホースはその数秒後に睨み合いが終了していたことに気づき、顔を歪める。

 出血性ショックか何かで気絶したのだろう。スクアーロの顔をのぞき込むと、不意打ち目的ではないと納得し、半信半疑ではあるが勝利に笑う。

 

「……ギャングのくせに肝が据わってねー野郎だぜ…………まあよく分からんが、物事の終わりってのは案外呆気ない幕切れよのォー」

 

 親衛隊のスクアーロ撃破、と胸に刻み、見下して余裕をかます。

 

「ふぅ、体中びしょ濡れだぜ。さっさと合流し」

 

 思わず口が途切れ、視界の隅に人影が入る。真の恐怖はこれからだ、と言わんばかりの雰囲気。

 横に目をやると、それは橋の陰を被っており、笑いかけているように見えた。

 

「あ?………ジロジロ見てんじゃあねーぜ。誰だテメーは」

  

 「その男」を見た途端、ホル・ホースは強張り、濡れた身体でも暖かい汗を感じた。顔を合わせると恐怖は更に増した。

 

 老人。という二文字には収まりきらない、無機的な穏やかさを持った風貌。顔全体にシワが刻まれ、襟足は跳ねている。

 お世辞にも背丈が高いとは言えないものの、若者以上に背筋が伸びており、老齢を打ち消しているよう。手に持つ蝙蝠傘が不気味なアクセントを加える。

 そしてホル・ホース達のやってくるずっと昔から、その場にいたような慎ましさ。

 

「……………」

 

 歩き出す。

 

「君は、君だけは情報が非常に少ない。恐らくは、レネート・ダフトパンクやJ・P・ポルナレフとは動機が違う……乗りかかった船のようだね」

 

「誰だ……と聞いたんだぜ、爺さん」

 

 本当にその通りだった。スクアーロなどとは違う、圧倒的な風格を漂わせている。その老人の名前よりは、何者かを知りたかった。

 老人は足を止め、静かに言った。

 

「私はヴラディミール・コカキ…………この名前を聞いても、君にはわからないだろうがな。組織の人間なのはわかるだろう」

 

 皮肉っぽい喋り方が不安をかきたてる。

 ポルナレフ達から聞かされた名前といえば、一部の幹部やスタンド使いの可能性が高い構成員のみだ。コカキ、などという名前は耳にしたことがない。

 

「……ホル・ホース。俺の名だぜ」

 

 息を整えつつ、皇帝(エンペラー)を出して背に隠す。

 

「なぜ組織に因縁の無い君が、彼らと行動を共にするのか……?ポルナレフもレネートも、ここにはいない。しかし君は逃げ出さない」

 

「…………何が…言いてぇ」

 

「なんてことない質問だ。これに答えても答えなくても私は敵だと、言っておこう」

 

 敵同士だというのに質疑応答を始めるとは、1ミリも意味が分からない。老人特有の浅はかな過信があるようにも見えないし、スタンドを出した気配も無い。

 ホル・ホースは今すぐ銃をぶっ放したい気持ちを押さえ、ため息交じりに口を開く。

 

「……俺は今、大海原のド真ん中にいるんだぜ。船を飛び降りるよりは、終着までついて行ったほうが安全ってものよ」

 

「自分のため……ということか」

 

「…………いいかジジイ!俺たちはオメーらほど暇じゃあねぇ!説教ならゴメンだぜ!戦いてーならそうと言いやがれ!」

 

 疑問はつのるばかり。

 

「君を始末するためにローマへ来たのではない。ただ、「組織の敵対者は殺す」……これがパッショーネでの共通認識。ルールではない、常識だよ」

 

 ボスの正体を探る者は組織の敵対者、とは普通はおかしな話だ。もしかしたらボスの正体が、組織を転覆させられる事に繋がるのでは、とホル・ホースはポルナレフ達のやっている事の恐ろしさを再確認した。

 それでも疑念は尽きない。

 

「…君の体は濡れているようだ」

 

「……………なに…?」

 

「そのせいで君は気がつけなかった………既に私の能力、『レイニーデイ・ドリームアウェイ』の射程距離内にいることに……」

 

 

 




 
1話だけです。

あと自分の中では、ホル・ホースが戦っている場所の近くにはティッツァーノ通りっていうのがあって、ティッツァーノとの出会いでも書こうかなーって思ってたりした(適当)
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