イタリアン・シルバー 作:湯麺
遅れて申し訳ないです。戦闘構成が難しかった(こなみ)
オリキャラvsオリキャラはなるべく避けてたんですが、今回はすいませェん。
賽は投げられている。
ピラウの指は引き金から離れず、ローマの旧市街地は苛烈なる戦場と化す。弾切れを待てるようなパワーはレネートにはない。
『ステップ・アウト』の4つの拳は弾丸をかろうじて弾き飛ばしてはいるものの、後退を強いられているのはレネートの方。
「くっ……!」
100パーセント防ぐことはかなわず、何発かが体に命中していく。
鉛の雨を防御する。対抗策も思案する。両方やらなくてはならないところが、今のピラウ・ビアンクと立ちあう時のツラいところだ。
「オオオオオオオオオ!!!!」
彼女は口端が裂けそうなほどに口を開き、その身に似つかわしくない叫びを轟かせる。
ピラウはわかっていた。たかが機関銃ごときで彼は破れないと。『ステップ・アウト』のダメージ転移能力はどんな傷でも無に返す。しかも相手はあのレネートだ。そう易々と即死してくれはしない。そこで重要となるのが、自らのスタンドだ。
1つ説明すると、ピラウのスタンド能力『ヴァーチャル・インサニティ』は他人からの攻撃を受けない限り発動させることは不可能。無論、自ら攻撃を受けにいく手もある。
そして一度発動してしまえば、ピラウの勝利はほぼ確実。
「危害を加えるのではなく…「停止」させなければならない……無傷のまま。俺に出来るのはそれだけ……肉体と精神の2つを止めなくてはッ!」
地面や車体に存在する弾丸によるあるゆるダメージを空気中に転移させる。空気中へ放たれた衝撃は衝撃波に変わり、破城槌のようにピラウの胸を突く。
「…!」
足を浮かせて後ろへ蹌踉けた。予想外に威力があったようだ。
「マズい!強すぎたかッ……!?」
頭を打ちでもしたらお終いだが、敵を救う戦いとは…考えるだけで胃が痛くなる。
地球を縦回転させる勢いで地面を蹴り、敵のもとへ向かい、スレスレのところで、滑り込むようにしてピラウの体を抱えた。
「ハァ……ハァ……」
「ううん、全然強くない……弱すぎ。ハエが止まったみたい……実はレネートもわかってたんでしょ?弱いのも、倒れたのが演技だったのも。でも敵の僕を助けた…「万が一」に恐怖しちゃった……教えて、それは本心?」
「……………それは…」
「覚悟なんてできない……誰も」
首を掴み、一回り大きい男を押し倒し、持っていた拳銃を突きつける。レネートは驚いたのち、顔を険しく変える。
押し倒せたのは怒りのおかげなのか、彼女自身にもよく分からない力だった。それ以前に、レネートに牙をむくなど、脳裏を過ぎりさえしなかった事だった。
「『ステップ・アウト』ーーッ!」
しかし接近することはスタンドの射程距離内に入るということ。
ステップ・アウトがピラウの白い肌に触れると、彼女は冷えた石畳に叩きつけられた。巨大な鉄球か何かが背中に落とされたように、体がめり込んで指一本動かない。
「ウガッ……!」
「…地面のダメージを転移させた……蓄積された車の重みだ。お前は死ねない…調整はしている」
レネートは緊張感もなく体を起こすと、あぐらをかいてピラウを見る。呆れ果てるわけでも攻撃するわけでもない。澄み切った空を少し見上げて、包み込むように優しく拳銃を握った。それは拳銃を破壊するため。
彼女を横目に悠然と息を整える。
「お前には似合わないな…親衛隊隊長だったか……というやつは。妄執に取りつかれすぎたんだ……」
勝つために行うのは「人格交代」。今の人格に精神にショックを与えることで、無理やり、もう一方の冷静な人格を呼び出す。その後、対話による平和的解決を目指せばいい。
説教ではなく、事実をつきつけて絶望の底に叩き落とすのだ。
「もう……相容れない。この俺を負かそうが……何も変わらない。理解できないのだ……俺が諦めない性格なのはとうにわかっているだろう」
「……何をッ…!」
「たった今だ…………覚悟はできた。残りはもう…もう殺すしかない……俺も、お前もな」
「………!」
心の中から、微かな希望さえも消え果てた。レネートの言葉を全て信じてしまう性だからこそ、殺すしかないという定めは絶望の絶望の更にどん底に、少女を迎え入れた。様々な思考の矛盾は脳内を刹那的に白紙に戻し、改めて考える時を与える。
「……………」
自分は今まで何のために生きていたのか。誰のために忠誠を捧げていたのか。親衛隊隊長になったのは、放棄の連続によるその場しのぎか。もしかしたら、今の私は他の人格達の邪魔になっているのではないか。
今の人格は、他の人格達の思いの丈を知らない。他の人格達も同様だ。他のピラウが何を考えたのかは知らない。僅かな記憶の共有だけが可能。
立ちはだかる峰に挑まぬ人間は、狭い範囲で欲望を満たすしかない。
歯を食いしばって涙をこらえる。
「まだ………大丈夫…まだッ…!」
「!」
突然──そばにレネートがいるということは『ステップ・アウト』の射程距離内にいるということ。レネートの意思がない限り、スタンド能力が解除されない。
だというのにピラウは平然と立ち上がった。
「…なッ……?」
現状で、彼自身以外が能力を外す方法はただ1つ。『ヴァーチャル・インサニティ』の「事実を歪曲させる力」だけだ。
レネートはピラウの能力を熟知している。大体の場合、1時間以内に死亡が確定していることが能力の発動条件。そしてどれ程のダメージで発動条件を満たすのかも知っているし、『ステップ・アウト』の能力を使えばダメージの調節も行える。
この状況、1時間以内に死ぬことはあり得ない。しかも指一本として動かせるはずがない。
「………………」
「……どうやって…能力を使った……どう俺の能力を「すり抜けた」!答えろピラウッ!!やはり……お前は一体…誰なんだッ!」
レネートは跳び上がってゆっくり距離を置く。
あれは単なる生存本能から来る馬鹿力か、それとも違う何かなのか。いや、今はそれよりも人格交代を優先すべきだろう。
そんな思いが神にでも届いたのか、彼女の行動に変化が訪れる。
瞳孔は開きっぱなし、口の開閉を繰り返し、小刻みに体を震わせている。その様子から推察するに、もう一方の人格へと入れ替わる最中に違いない。
「僕………はッ…!」
頭に爪を立て、ツヤのある髪の毛を掻き乱す。数十分前までの陽気な少女からは想像もつかない、ただならぬ様相を呈している。
その異様な緊迫感など関せず、レネートは真正面に立ちはだかる。
その時丁度、ピラウはカタツムリが進むよりも遅く顔を上げ、何よりも速くレネートを睨みつけた。
人格交代が完了したのだろう。
表情に輝きは無く、下手な操り人形のようにフラフラとしている。突然呼び出されたことが不満なのだろうか、しかしどこか笑っているようにも見える。そして生後間もない赤子のように指を向けた。
「レネート………か…」
「……」
「………なあ……?…オイ……」
「…?」
おかしい。
「そこのテメーだよッ!クズのよォーー!まあ、テメーからすりゃあ初対面だからなァ~~、ご丁寧に聞いてやってんだぜッ!挨拶しろよなぁ!」
際限なき晴れ空は「新たなる少女」を照らし出していた。レネートの頭は真っ白になり、らしくない驚きと共に尻込みした。
急に一変した口調は、どのピラウにも当てはまらない荒々しさを感じさせる。
「予想以上に…ピラウの人格はッ!「完成」していたのかッ!さっき『ステップ・アウト』をくぐり抜けたのも『ヴァーチャル・インサニティ』には「その先」があるからッ!……まさか……まさかこいつはッ!」
真実はそう複雑ではなかった。
そもそも「それ」が起こっている可能性は高かったのだ。穴だらけの心を持つピラウなら、情緒不安定になるよりもあり得る事だった。彼女が内心「レネートに裏切られた」と感じていれば、なんらおかしくはない事象なのだ。
最悪の事態。これから起こる全ての事柄が、ドス黒い色に塗り替えられた気がした。
「……………『第三人格』……!!!」
鳥肌が全身を囲った。
「羽虫よりみみっちい頭でよーく覚えておけよ!「俺」の名はピラウ・ビアンクだ!!!」