イタリアン・シルバー 作:湯麺
説明がややこしいですね。ですが私の文章力ではどうしようもない!完全戦闘パート!
敵は恐らく2人、人質をとることも可能。大してこちら側は1人。しかしそこで尻尾を巻いて逃亡などという考えはカケラも無い。
遠距離ながらも互いに張り詰めた不調和な空気が、人気を払っているようだ。橙色の鮮やかな空が終わりかけ、日が没するのは時間の問題。
「ポルナレフさん……あんたはお人好しすぎる……簡単に僕を信用し、囮や作戦に使わず逃げろと命じた……僕ならおそらく真逆だった」
『組織の裏切り者が!また裏切るのかァ!?』
「…僕は組織を裏切ってはいない……元からな…かつての仲間なら、ただ失望させただけだ。未練はあるが………関心は無いッ!」
地面を思いっ切り蹴り、彼は戦場である空き地へ突っ走る。放たれた矢のように素早く的確に、見えない敵ではあるが、謎を解かねば明日は無い。敵は、攻撃か何かに影響されている。それを知るための全力疾走。
『ギャッハァァァアーーーッ!!!』
再び緑のスタンドが前方に現れる。瞬間移動や幻覚ではなく、一瞬で奴の体躯が人間サイズになったのを肉眼で捉えた。風船のように、元々は小さかったヤツが巨大化したのだ。これでスタンド像の大きさも変動させることが出来るという情報が増えた。
「『ステップ・アウト』ッ!!」
そして敵が視界に入ったと同時に、レネートの身体から「4つの腕」が飛び出した。オーラを纏い、それらは宙に浮いている。各々違う色と装飾で、体を持たない前腕から先だけのホラーチックな見た目。これこそが、直隠しにしていたレネートの『ステップ・アウト』。かつて矢に射られ、身につけた正真正銘レネートのスタンド。
「音……?距離……?いや!」
『来い!来てみろ!ウシャオァァァ!!』
両者目前に到達し、ブレーキと共に連打で攻める。音速にも等しき速度で打ち合う2つのスタンドだが、今は4つの拳と2つの拳。戦力差故か緑スタンドは少しずつ『ステップ・アウト』の拳から退いている。
『拳2つ分ッ!有利ィッ…!………』
「…………」
ピタッ、とレネートは拳を下げて相手の様子を静観する。追い風が体を圧し、奴は歯軋りする。
もう一度思考を巡らせる。何故、緑スタンドは攻撃しないのか。スタンドを後退させて体がガラ空きの今こそが、最大のチャンスだろう。ステップ・アウトのスピードはチャリオッツには及ばない、ならば最高速度のチャリオッツと互角であった奴が攻撃しないのはなおさら不自然。勘繰っている?否。「互角以上」の戦いをすることが不可能なのだ。
「……対象の「速さ」に応じてスタンドエネネギーが増減する能力…かな。ちっとも謙虚じゃあない。上にも下にも立たずに同じラインで威張る。タチの悪いそれが、真実だな」
ヤツの能力。相手の攻撃が速ければ速いほど、緑スタンドのエネルギーは同じ分増加する。相手に合わせてパワーもスピードもスタンドの大きさも変化する、本来は「絶対互角」の能力。そのため、単体では勝利は不可能。本体やその他のスタンドのサポートが必須なのだ。
「だからお前は他人無しでは力を発揮できない、だろ?僕が止まれば、再び元の無力となる。あとはゆっくりと押し潰せば良い………!」
『………大正解だ!この『ノトーリアス
レネートの推測通りならば、先程のようにノトーリアスB・I・Gは縮んでいくハズ。だというのに
「サイズが戻らない……?」
『ポルナレフと同じ立場だぜ!……俺の能力には少し…!ほんの!少しだけ「余韻」がある!オメーの速度がゼロになっても!俺は数秒だけなら最大エネルギーを維持出来るッ!どういう意味か!オメーなら分かるだろォッ!』
「!」
レネート自身の影法師が実体となる。
『……お前も…再点火したな!』
この戦闘に眠るヒントの中で、サイズに起因する何か。それは一つ、「影」である。彼は昔からIQが人並みを越え、いつも周囲とは思考がズレていた。だがそこから周囲と思考を合致させる事と同じで、その答えを導き出す事はレネートにとって造作もない。
だからといってブラック・サバスに抗うのは難問だ。瞬きをしている間に其奴は影から全身を出し、レネートの首を掴み上げている。
『俺の影は海峡に掛かる橋!その橋をお前へ繋げてやったッ!あとは「ブラック・サバス」が!とことんオメーをぶっ殺す!』
ノトーリアスB・I・Gが後退していたのは、空き地に落ちる影を踏むためでもあったのだ。
「………お前の欠点は油断が過ぎる事だな。忘れたのか?……スタンドには各々能力がある」
呼吸さえ難儀なパワーに首を把持されているというのに、レネートは無抵抗のまま、縮んで消えたノトーリアスに向かい流暢に話し出す。足下で、ステップ・アウトの掌が地面にへばりついている。
『与えよう!「向かうべき2つの道」を!』
「…問題はこの「矢」…一般人が喰らえば「死ぬ」か「スタンドの発現」かの二択…だとしても!スタンド使いが喰らったらどうなる……!?こればかりは並の知識じゃあ推測出来ないッ……!」
『ひとつは!「選ばれるべき者」への道!』
ポルナレフの時と同様、大きく開かれた深淵から矢が顔を覗かせる。黄金に煌めく矢は、未だ細かい解明の出来ていない未知の存在。刺されたらどうなるのか、どんな可能性を秘めていても奇異ではない。
「……やむを得ないッ!『ステップ・アウト』!」
レネートは自分をステップ・アウトの2つの拳で殴り飛ばす。唐突に自身の胸を容赦なく殴り抜けたことで、無理矢理ではあるが難を逃れることができた。
これは逃亡ではなく戦略的撤退。全身を風を切っている間にも、彼の頭脳はフル稼働している。一手二手先どころではない、何十手先をも読み動く。相手が2体いるとしても、その頭脳を使い再起不能へと導かなければいいだけの話。
「……ガハッ………!」
低空飛行しながらレネートは血を吐き、肋骨が折れたと察する。そのせいか風を受けるだけで鈍痛が生じてしまう。
命を賭けた戦いに休憩は無い。
不運なことに脱出さえ予測され、ノトーリアスB・I・Gは既に彼の背中を睨んでいた。
『ボケがァッ!オメーが動けばどうなるかッ!!分かってるだろォォーがよォオ!!!』
彼が吹っ飛ぶ事によりパワーを得たノトーリアスB・I・Gは背後で拳を振りかざしている、ガードは間に合わない。完全互角の能力といえども、こちらが対抗しなければただ攻撃を食らうだけ。
「『ステップ・アウト』は「ダメージ転移能力」……触れさえすれば犬の糞でもドブでも……そして「自分の体」でも!移すことができるッ!」
1つの拳がレネートの首筋に触れただけで、そこから多量の血が間欠泉の如く噴き出す。血液は後方にも噴出し、真紅のカーテンを作り出した。
能力を使い、胸への拳2つ分のダメージを、首に一点集中で「転移」させたのだ。激痛はやがて消えるという確約の下、ひたすら耐える。
『血で前が見えねぇ!…クソッ!……これじゃあ!テメーが!「目の前」にいる事しか分からねぇじゃあねぇかよォォオー-ー!!!』
華麗なキック。それは併せて血の膜を薙ぎ払い、ノトーリアスの眼前に3つの情報を提示した。1つは高く再跳躍するレネート、2つは点火されたライターを握るステップ・アウトの拳、そして3つはまったくの予想外ッ!それに尽きる。
──お前も……「再点火」を見たな!
今にも掴みかかる『ブラック・サバス』を、避ける隙は無い。
『なッ……!何イイイイイイイ!!!』
首が圧倒的パワーで捕らえられ、ノトーリアスB・I・Gの力では振り解けない。さながら大蛇に飲み込まれる小動物のよう。
ブラック・サバスに大したスピードは無い。しかも突然敵と見做された理由が把握できなかった。元から味方でもなかったが、倒すべき敵は同じだったハズ。
宙から見下すレネートの視線が更に苦しめる。
「………僕がブラック・サバスに掴まれている間、縮んだお前が油売ってるとは思えない。……お前のちっぽけな脳は「背後に回って殺す」と考えた……「ライターの回収」を後回しにしてな……代わりに僕が…ライターを貰って点火した」
『……はッ!…『ブラック・サバス』は!オメーの影の中に……!スデに潜んでいたのかッ!』
「そう。そいつは「再点火を見た者」かつ「影を踏んだ者」に襲いかかる。目を瞑っていたのかは知らんが……お前は攻撃の対象外だった。だから、点火を見せて……「同類」になってもらったよ…」
『………そうか……クソ!……自分の影で橋渡しを…!そして今ッ!!……影を踏んでいるのはこの……!『ノトーリアスB・I・G』だけッ!!』
「……似た者同士……消えてみせろ」
偶然か、ポルナレフもレネートも敵にライターを取らせる時間を与えなかった。
吹っ飛んでいる際は影はあれども宙に浮いているため、ブラック・サバスがレネートに手を出すことは能力上不可能。次に浮いたままの彼の影とノトーリアスB・I・Gの影を接触させれば、予め彼の影に潜行していたブラック・サバスは、先に自分の影を踏んでいるノトーリアスB・I・Gを襲うという計画だ。
レネートはやっと接地し、2体のスタンドがイチャついている時間で手っ取り早く距離をとる。彼の一連の行動はある程度の速度を伴っているため、ノトーリアスB・I・Gのエネルギーは依然大きいまま。
「当分縮む事は無いだろう…それが十分な影を作りアダとなる。……あとはノトーリアスが攻め殺されれば、自動的に共倒れ……」
幸い奴らは日光の射す広場の中心にいる。そのためノトーリアスB・I・Gが消えれば影も消え、行き場の無くなったブラック・サバスも消える。にしても人手が足りないのか本体の人望が無いのかは知らないが、自動操縦型の不便なスタンドを味方にする事が既に間違っていたのだ。だからノトーリアスB・I・Gは敗北した。
レネートはあまり嬉しくはなかった。この戦闘は彼にとっては「過程」、なくてはならないものではあるが無くても気づかれないのだから。
『………チャンスをやろう!』
『WOOOOGGGGGYYOOOHHHHッ!GGYYYYYYYAAAAHHHHッ!』
『「向かうべき2つの道」をッ!!!』
締め付けられる首から捻り出された断末魔は言葉にあらず、無様でしかなかった。
*
とある空き家の一室。
もう日は暮れ、月の光が窓から射し込む。
「
屈んで見つめるレネートは、新品の高級車のように無傷で爽やかだ。一方でポルナレフは腕を組み威圧している。
ポルナレフには、2体のスタンドは自動操縦型の制約で、見えなかったが多分勝手に消えたと伝えておいた。まだレネートが非スタンド使いであり、ただの一般人という事になっているためだ。窮屈かもしれないが、信頼のためなら安いもの。
「……………」
遠隔操作型スタンド「ノトーリアスB・I・G」の使い手、カルネは驚きの余り声も出ない。いや、声が出ないのは性格のせいだ。
座り込む膨れた体。デブというよりは、まるで全身腫れ上がったかのような体型をしている。顔は厚化粧をしたマスコットキャラクターのようで、デッキブラシに似た髪にバンダナを巻いている。
「やけに寡黙なヤローだな。スタンドはあんなに喋ってたのによォー。ハッタリかましやがって、情けねーぜ」
「……戻ってきた時に、ポルナレフさんが気絶していたのには…驚きましたけどね」
「あっ、あれは寝てただけだ!疲れてたんだ!」
「………まあそれはいいです…こいつはどうしましょう?ドゥーノみたく死なれちゃあ困りますし」
起きてそうそうスタンド使い2人が目の前にいる。冷静に考えなくても、勝てないことは明確だ。それに自殺するにも、カルネのスタンドではパワーが足りなさすぎる。
「もし口のきけない奴でも、文字くらいは書ける……いや、書いてもらわねーと困るな。さあ答えるんだ、ボスの情報をッ!」
言い終わりと同時に、その無慈悲な一発は不意に訪れた。次なる宣戦布告ではない、戦闘継続の狼煙。
カルネの頭を斜め横から銃弾が貫いた。突然の連続。バランスを崩したテディベアのように彼は倒れ、血の池が広がる。
「!」
彼らに助っ人を呼んだ記憶は無い。ドゥーノの時とはまた違い、今度は組織の人間が同じ組織の人間を射殺したのだ。残忍、非道、そんな者共が蔓延るパッショーネは存在すらしてはいけない。
弾痕は山吹色の電撃のようなものを帯び、窓ガラスは割れている。ポルナレフは身を隠し、裏の世界はなんて銃の好きな世界なんだと思った。もはや家ごと蜂の巣にされてもおかしくない。
「情報が漏れそうになったら即殺害……まったく、組織らしいですね」
レネートは昂然と窓の前に立つ。
「オイ!頭を隠せレネート!!」
「……大丈夫ですよ、信じてください…僕を」
角度的に見れば外れにある丘から狙撃したのだろう、そこからであればレネートの頭は正確には狙えない。加えて堂々と窓の前に立つことで、勝てる自信があること、スタンド使いであることを会話が無くても相手に警戒させる事が出来る。
何故そんなことをするか?いくら撃たれようとも、即死しなければ『ステップ・アウト』の能力でダメージを消せるからだ。無論、ポルナレフは知らない。
「…狙撃………まさかな…」
数年前の記憶にマッチするものがある。先の戦闘の会話も踏まえれば、そうとしか思えない。信じたくはないが、事実としか考えられない。
丘の上、背丈に見合わぬスナイパーライフルを持った少女が風を受けて立っている。
妙に刺々しいの灰色のロングヘア。淡い緑色の瞳に、凜とした顔立ちはレネートを見つめている。肩より上と腹を露出させた際どい衣装。一流モデルのようにスリムな体型が、貧しい胸を補っている。そして禍禍しく控えめの装飾が付いた両刃の「刀」が腰には差されている。
「あれれ?もう一発かな?うーん……発動させたいんだけどなぁ、カルネの『ノトーリアスB・I・G』の真の能力……ま、レネートいるし後でいっか!」
流行りの歌を口ずさみ、上着を羽織りながら陽気に去っていく。月に向かって歩いていく後ろ姿に、人を殺した罪悪感など微塵も感じない。
「これでやっと「僕」の任務!……はまだまだ続いちゃうのかぁ……もー、こっちの苦労も考えてほしいよ。ボスの分からず屋!」