イタリアン・シルバー 作:湯麺
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カラー設定はアニメ基準。
水の都、ヴィネツィア。最盛と衰退を経験したこの水上都市は「アドリア海の女王」の別名を持ち、近年世界遺産に登録されるなど、風光明媚な観光地として知られる。しかしこの地にも、万人が感じる暗影はある。その代表とも呼べる建物は見窄らしい外観で、空き家と言われても文句は言えない。観光とは疎遠なこの建物は常に恐怖心を煽り、出入りを許される者は数少ない。
左右対称に黒いソファとテーブルだけが揃えられた薄暗い一室。札束がゴミのように投げ捨てられており、乱雑に宝石類や高級ブランドの品々がテーブルに置かれている。窓は無く、3人の男達がそれぞれソファに座っている。
端のソファには、パソコンに似たコンピュータを抱え、左目のみ露出させたアイマスクを付けている薄紫髪の少年が、無言で席に着いていた。
「「リゾット・ネエロ」…1974年生まれの18歳……シシリー出身………ワイン、飲めるかい?…今日はトスカーナ産のものがあるんだけどね」
奥にいる男の名はモルテ。濡羽色のコートに四つのベルトを巻いており、黒革の手袋が二の腕まで被さっている。全身真っ黒ながらも髪は赤く肌は雪のように白い。手には背中に綺麗な穴の空いた一匹のカメを抱えている。
彼は手に持っていたワイングラスの底と何気なく睨み合い、とても温厚な口調で喋った。彼は誰とも視線を交わそうとしない、会話しながら意識がどこかに飛んでいるのかと疑うほどに。
「いや……結構だ」
入り口側のリゾットという名の彼はフード付きの上着のみを羽織り、白黒の横縞の入ったズボンを履いている。白い髪を伸ばした、黒目が赤く白目が黒い若者。
彼のシシリー弁はバッチリ矯正され、一般的なイタリア語を話している。だがこの場所にいる以上、それを律儀や真面目とは言い難い。
「……失礼。では一つ問おうか……この組織……我が「暗殺者チーム」に入るにあたりとても大切な質問だ……「この世に最も必要なもの」は何だと思う?リゾット君……」
言い終わる寸前に手から離したワイングラスはドロドロと融解し、生命を持たずとも蛇行しながら変形を始める。その現象が何なのかは、互いが理解している。嘗てグラスだったモノは精巧な剣士のガラス細工に形成され、机にコツンと音を立て置かれた。他にも多様なガラス細工達がズラリと並んでおり、それらはチェスの駒であった。
「……安心感、だろうか…」
不可思議な質問に戸惑わず、リゾットはポーカーフェイスをする。動揺など1ミリも感じさせない、彼は落ち着いている。
まだリゾットの読み取ったモルテの思考はあやふやで、重い空気が支配人となって雰囲気をどんどん暗くしている。常人には解しがたいこの状況、彼は内心驚いていた。暗殺者ではなく異常者の集いではないか、と。
「悪くない答えだ………始めに言っておこう…私は参謀でありリーダーである故、常日頃から自覚と誇りを持って行動している………私たち暗殺チームは「人類の敵」だ。スタンド使いばかりの組織で、誰でも可能な「人殺し」をあえて専門としているのだからね……」
パッショーネに設立当初から設置された、要人殺害を専門とした暗殺者チーム。そのリーダーであるこのモルテは、自らを悪と呼称するほど達観している。
暗殺者チームは麻薬チームや賭博管理チームのようにチームの直接的な収入源となることはないが、少数精鋭でありながらも仕事が早く、ミスは一度としてない。そしてとある事情も相まってボスからの信頼は厚く、チーム1人の報酬は平団員でも並の幹部に値する。現時点では……
何故かモルテは冬のナマズのように黙りこくっているので、ふとリゾットは薄紫髪の少年を横目で見る。
すると偶然か、それとも彼にずっと見られていたのか、目が合った。依然としてコンピュータを膝の上に置き沈黙を貫いているが、顔を見る限り年齢は14~16歳程で、ただの常識人に思える。人殺しにはない奇妙な物静かさは、モルテのクレイジー具合を打ち消している。皆目心情の読めない集団だと、リゾットは呆れかけていた。
「……おっと失礼、私の答えは「悪」…うん、君は見た感じ菜食主義者でもなさそうだ……まずは覚えてほしい……個人という存在は、他の存在を「犠牲」にして成り立っている事をね………」
「………………」
「そして人の行動の原動力は「私欲」だ。他人からすれば「迷惑」……それを悪と呼ぶか必然と呼ぶかは人それぞれだが………人は己のために他者を救い、愛し、生きている。この組織においてそれは「要」となる……覚えておくと良い」
モルテは片手でカメを撫で回し、パッショーネの黄金のバッジを親指で弾く。それを追うリゾットの大人びた眼差しは木で鼻を括っているようだ。バッジはテーブルに音を立てて落下し、その周りをガラスの駒達がレールの上を走るようにグルグルと回り始めた。
「車の免許は持ってるかな?もし持ってなかったらナポリにでも行って偽造してくれ。どうも私は運転が苦手でね……」
「……………さっさと本題に入れ…」
その返答を鼻で笑い、遂に顔を見合わせる。
7日間睡眠をとっていないような生気の感じない顔に、リゾットはちょっとばかり恐怖した。人々が言う猟奇的殺人犯などという言葉では表せぬ、柔らかい表情。
「………君へ課す「入団試験」は「怨敵の殺害」……判定と追跡はそこにいる「メローネ」がやってくれる………ただ、それだけだ」
モルティッノ・ラッファダーリ。通称モルテ。彼は1986年に現在のボスと出会い、共にパッショーネを創りあげた創始者の1人である。
*
これで何度目か、彼女はレネートを遠目で見つめながら爪を噛む。手に持つ電話は繋がったままで、何者かの声が漏れ出している。
「レネート…………あぁ……レネート…!」
海岸沿いの岩場に座る1人の少女。
彼女の足下からは絶え間なく山吹色の電流が放たれ、海面は激しく波紋を広げ、波打っている。岩に立てかけられた刀は、彼女のエネルギーが止まるまで水飛沫を浴びることだろう。それが一体何のエネルギーなのかは彼女自身、見当もつかない。
『オイ!聞いているのかピラウ!』
「……ハイハイ………ごめんねドッピオ」
ヴィネガー・ドッピオ、それが電話の相手。彼の怒鳴り声は幼く、ピラウという名の少女は気怠く返事をする。
ドッピオの正体を、彼女は知っている。
彼自体は組織のごく一部の者だけが存在を認知し、若くしてボスに信頼されている参謀であるが、それだけではない。彼女が人に「その事」を訊ねたわけでも見たわけでも無く、ただ「同じ」だからこそ、彼がボスにとっての「何なのか」を自然的に分かっていた。
共通の何かを持つことは力を持つということ。ドッピオの存在はピラウにとって、安心感という大きな力を与えてくれる指揮者の代理なのだ。
『お前は数少ないボスが認めたスタンド使いだ!裏切り者のことなど考えるな!』
「……数少ないって…3人しかいないじゃない」
『…………親衛隊の立案者であるお前に、ボスは強い信頼感を抱いている……お前は「親衛隊隊長」として十分な成果を上げているし、信頼度はもしかしたら僕と同等かもしれない』
「………………ふーん……」
素っ気ない態度ながらも、内心は嬉しかった。それほど嬉しくなかった。二者の感情が交差し、次いで三者目の感情はどうでもいい、だった。
ボス直属部隊である親衛隊。正体不明のボスへの忠誠心と高い戦闘能力が無ければ、門すら拝めない少数精鋭部隊だ。発足が4年前のため人数はごく僅かで、ボスからの直接命令でないと召集にすら応じない者もいる。少女はまだ未成年でありながら、親衛隊隊長を任されているのだ。全ては、自分を救ってくれた恩を返すために。
「でも、信頼だけじゃあ話にならない。「未来」のためにも、戦力増強してくれない?……いっつも人員が枯れかけてる」
『親衛隊の加入者はボスが直接見定めしている、文句は無しだ。つい最近「スクアーロ」という男が入っただろう、そいつを使え』
「………彼の能力、地味なのよね。もっとこう…ローマを丸ごと壊せるような……そう、ド派手な能力がウチらには足りないの」
『全く……まあ、他ならぬお前からの要求だ……ボスには伝えておこう』
電話の向こう側にいる彼は、彼女の能力に一目置いている。彼女の歪んだ人生が生み出した能力は、誰にも破れない。おそらくボスでさえ苦戦を強いられるほどに、敵に回せば空恐ろしい人材。
死にたくないという彼女の意志が創った、絶対不死の能力。『ヴァーチャル・インサニティ』は「彼女ら」によって使い方が異なり、まさに無敵という言葉に相応しい能力。ただ剣を振るうだけの男など、雑魚ですら無い。加えて、「彼女ら」にはそれぞれの戦法と武器がある。
都市を破壊できる逸材。ドッピオはそれを頭に留め、ボスからの指令を彼女へ伝達する。
『ピラウよ、J・P・ポルナレフとレネート・ダフトパンクを迎え撃ち親衛隊の尊厳を示せ!生死は問わないとの命令だ!ボス自らの!』
リゾットって1974年生まれで2001年で28歳なんですよね。ド低脳な私にはこれがよく分からない。
アニメでリゾットの回想をやらないと信じる。