小話置き場   作:白千ロク(玄川ロク)

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【 まえがき 】

■『勇者の隣の式神さん』のバレンタイン小話となります

少しでも楽しんでいただけたら幸いです

2017.02.18


[2017バレンタイン]チョコレート・ラプソディー(勇者の隣の式神~)

 どうやらこの世界にも“バレンタインデー”があるらしい。あ、いや、オレがバレンタインデーと言っているだけで、バレンタインデーという呼び方ではないのだけれど。

 この世界においてバレンタインデーにあたる日は、“ショコラ・デュ・ショコラ”という呼び方らしい。チョコレートが大好きなショコラ公爵が考案したという。暇をもて余した公爵様――肖像画を見させてもらった分には、犬井と同じくらいにかっこよかったです。ムカつくぐらいに――が、この日に自分にチョコレートを配るよう街の人に周知しろやとお菓子屋さんに言いつけたことから始まる。なぜ買いつけなかったのかといえば、貰う方が百倍うまいということだ。そりゃあ、あんなにかっこいい人がチョコレート欲しがったら送るよね。送ってしまうよね。いやはや、どの世界でもチョコレートは人気だなあ。なんていったってうまいもんなー。

 そんな“ショコラ・デュ・ショコラ”の前々日からは慌ただしいと魔王様に聞いていたとおり、二十人前後のメイドさんが集まった食堂――オレたちが使う食堂の方ではなく、使用人さんたちが使う広い方である――では端から端までお菓子屋さんから買いつけた箱が積まれ、並べられたテーブルのいくつかにはチョコレートが広がっている。要は、バラエティーパッケージをばらしてラッピングする義理チョコを作っている最中なのだった。ほのかに甘い匂いが食堂に広がっているのはそういうことである。

 まあ、どのみちオレは外野側ですけども。しかも、相変わらず犬井に抱きしめられていたりもするのですよー。テーブルの端の方に座って、というか、座らされて、きれいにラッピングし終えたものが増えるのを眺めるだけである。狐ちゃんたちはちゃんと手伝っているというのに、オレが傍観者のままでは変だろう。ついでに言えば、狐ちゃんたちはやる気に満ちた顔でしっぽをふりふりさせながら、余ったリボンをちょん切っていたりしますよー。

 

「そろそろオレも参加したいんですがー」

「ダメだ」

 

 「犬井、犬井」と袖を引っ張って見上げた先のひとことに返るのは、全然変わることのない言葉であった。お伺いを立ててもずっとこれだよ。いい加減聞き飽きたっつの。

 

「義理チョコ作るぐらいいいだろうが。義理なんだしさあ」

「義理だろうがなんだろうが関係ないと何度言ったら解るんだよ」

 

 むすっとした声のあとに、オレの方も機嫌が悪そうに「解んねーよ、犬井の嫉妬魔神っ」と返す。犬井さん曰く、『悠希が作ったものがほかの人間に渡るなんて考えるだけで気分が悪くなる』ようだが、お前の心は狭すぎると思うんだ。オレはちゃんと犬井と一緒にいるんだし、もう少し寛容でもいいだろうに。

 「ユウは俺のものだからな」とわしゃわしゃ頭を撫でてくる手――最後にネコミミの付け根部分を揉んできやがった――を「うるせー」と払い落とし、向かい合わせに座り直して犬井の胸倉を引き寄せる。もはやオレには最終手段(あれ)しか残されていないのでね。

 なにか言いたげな唇に自身のそれを押し当てたあと、今度は首に手を回して「犬井、お願い」と囁く。そうすれば、犬井は顔――顰めっ面――を逸らしつつも、口元に手を添えた。考えを吐き出すように動かしたであろうあとにそれを外し、首に回した腕に指先を絡めてくる。

 

「……手袋をするなら許可をしないこともない」

「手袋ってゴム手袋か?」

「いや、布手袋の方だな。ゴムは手作業には向かないだろ。まあ、とにかく、手袋をしなさいってことだ」

「はーい。ほかには?」

「俺から離れるな」

「はいはい。ほかはもうない?」

「いまはな」

 

 「おう、解った」と返して、「リリネルさんのところにいくぞ」と犬井の両肩を叩く。一度口づけられたあと、「はいはい」と抱き上げられた。苦笑しつつも。

 

 

    □

 

 

 様子を眺めていたであろうリリネルさん――ものすごい満面の笑みだったよ――から「では、猫さんと勇者様は使い魔さんと一緒にお願いします」と言われたとおり、狐ちゃんたち――天ちゃんと空ちゃんは向かい合わせに座っている――の隣に腰を下ろした。オレが空ちゃん側で、天ちゃん側は犬井だ。いやほら、抱きしめられたままではやりにくいし。渋面を見るに、犬井は納得していないんだろうけどね。我慢させた分の想像はしないでおくのが吉だろう。

 座ってすぐに「悠希」と投げ寄越された綿の手袋をはめたあと、握って開いてを数回繰り返して手に馴染ませ、ようやく作業に取りかかる。「ユウキ、どうぞー」と空ちゃんに渡されたラッピングの材料と一口サイズのチョコレートを見よう見まねで袋に詰めた。最後に袋の口を青い――深い夜の色のリボンで留める。ちなみに、チョコレートは六個、いや、六粒の方が正しいのかね? まあ、とにかく、六つでひとまとめらしい。

 

「よしっ、できたぞっ」

 

 出来上がった義理チョコを眺めて言えば、「それはよかったな」と犬井の手が伸びてきた。ふたたびわしゃわしゃ頭を撫でられるなか、「おう」と答えてやる。

 自分で言うのもなんだが、なかなかいい出来映えではないかと思うんだよねー。完成品に積んでも、狐ちゃんたちの分と見劣りしないし。

 ラッピングって、簡単に見えて意外に難しいしね。皺が寄ったりとか、ずれたりとかさ。

 よし、遅れを取り戻すために頑張らないと!

 いまだに頭を撫でる犬井の手をやんわりと外して作業に集中していれば、今日の分は終えたようだ。積まれた完成品は箱に戻され、「明日もよろしくお願いします」との挨拶とともに解散になる。

 すぐさま犬井が「ユウ」と抱きしめてくるが、今回は突き放すことなく「はいはい」と受け止めておいた。狐ちゃんと一緒に顔を緩ませては、逆らえまいて。

 

 

    □

 

 

 そして“ショコラ・デュ・ショコラ”の前日。今日は手作りとラッピング班に別れるという。どうやら一部の人――それなりの地位にいる人には手作りを渡すことが恒例となっているらしい。美人さん方に手作りチョコを貰えるとか羨ましい限りだ。オレなんて……、いや、なにも言うまい。たとえ家族以外からは貰えなくとも、貰えるだけ十分なのだから。

 ラッピング班たるオレたちは、昨日と同様に義理チョコを作り続けていく。違うところと言えば、数個床に落としてしまったことだろうか。休憩時間にエプロンのポケットに入れて避けておいたものを報告すれば、リリネルさんから「そちらは食べても大丈夫ですよ」とお墨つきを貰ってしまった。「ありがとうございます!」という期待に満ちた声とともに一礼したあとは急いで席に戻り、オレと狐ちゃんと犬井――は「いらん」と言ったが、まあ、一応ね――とで別けて食べたのだけれど、口に入れた瞬間から溶ける上品な甘さがなんとも言えず、幸せな気分になりましたよ。メイドさんたちの顔がこちらに集中するなか、「ほら」と犬井の分が口に放り込まれる。人前で抱きしめられるのはなんとか慣れたけれど、食べさせられるのはまだちょっと恥ずかしい。しかし、うまいものには勝てませんて。“羞恥がなんだ!”という気持ちになってしまうんだから。

 

「ん~! うまー」

「残りの時間も頑張れるな?」

 

 チョコレートを味わうオレを抱き直した犬井は、ネコミミに頬を寄せるとそう囁いた。嫌だと言いながらも、なんだかんだで責任感を持っている奴だからかな、最後までやり通せるか気になるんだろう。

 

「頑張れるよ」

 

 ――犬井が折れてくれた分は。そう滲ませた声は重なった唇に溶かされるが、チョコレート効果で羞恥もない。かと思いきや、それとこれとでは話が違うようで、やっぱりちょっと恥ずかしくなってきてしまうんだから解らない。いやもう本当に。

 「ううー」と唸るオレは熱くなった頬を撫でられるままであったが、「狐も!」「狐も!」とやたらとしっぽを揺らす狐ちゃんたちに意識を集中させた。頬が熱いからなんだというんだと考えを改めながら、差し出された頭頂部を撫でてやれば「へへ~」と嬉しそうに笑う。狐ちゃんに癒されたオレには怖いものなどなにもないぜ。さて、残りも頑張らないとな!

 

 

    □

 

 

 リボンの余りを切ったハサミを置いて形を整えた刹那、「お疲れ様でした」とのリリネルさんの声が間近で聞こえてきた。よほど集中していたためか、近くにいるなんてまったく解らなかったようだ。

 

「あ……、リリネルさん、お疲れ様です」

「こちらはお力添えに対するお礼となります。どうぞお受け取りください」

「え、いや、いいんですか……?」

 

 やりたかったからやっただけだというのに。困惑ぎみにそう言えば、リリネルさんは「問題はありません」と笑みを浮かべた。ああ、かわいらしいなあ。

 

「では、お言葉に甘えることにします」

 

 差し出されたままの封筒――どうやらポチ袋の大きさである――を「ありがとうございます」と受け取れば、感極まった――というよりかは、我慢が切れたであろうリリネルさんに抱きしめられてしまう。ちゃんと数秒後に離されたけど。

 

「片づけなどはこちらでしておきますので、どうぞお休みください」

 

 「ちなみに、時間の変更はありませんのでご安心くださいね」と続けられるが、要は“解散”だということか。ふたたび「お疲れ様でした」と紡いだオレは背後に佇んでいた犬井に軽々と抱き上げられ、寝室へと運ばれていく。狐ちゃんたちは犬井の肩からぶら下がりながら、「狐は今日も頑張った~」とやりきった顔をしていた。洗濯係は明日まで免除されているので、手伝いを終えたあとは時間が余っているわけだ。しかし、あの犬井がなにをするでもなく、昼寝を決め込んだのには驚いたさ。いや、なにも手を出せと言っているわけじゃないぞ、オレは。許すわけじゃないからね、いくら力で負けていても嫌なものは嫌ですから。しかーし、あとでなにがくるのか解らないから怖いんですって! びくびくしながらも、結局眠気には勝てないんだけどね!

 布手袋とポチ袋のふたつを犬井に預けて、みんなで横になる。集中したあとに背中を撫でられながらでは、眠気が襲うのも近い。解ってやっているんだから、犬井啓という人間は本当に頭がいいと思いますまる

 夢に旅立つ間際、犬井の唇が「愛してる」と動いたような気がした――。

 

 

    □

 

 

 とうとうやってきた“バレンタインデー”ならぬ“ショコラ・デュ・ショコラ”の当日。オレたちは幻想的なものを目の当たりにした。縦二列横三列に並べられた、総計六つの箱に魔王様が魔法――どういう系統の魔法かはオレにはさっぱり解らないが――をかけた瞬間、チョコレートたちが動き出したのだ。洞窟を飛び出すコウモリのように。龍といえばいいのか、すぐに一列に並んだチョコレートたちは、開けられた窓から飛び立っていく。

 

「おおおー!」

 

 「すげえ!」「すげえ!」と興奮ぎみに繰り返すオレとともに、狐ちゃんたちも「すごーい!」と両手を広げてはしゃいでいる。だが、犬井だけは「ふぅん。転移魔法の応用か」と冷静に分析していた。雰囲気が悪くなるからやめれ!

 

「犬井は楽しむ姿勢が足りない! ぜんっぜん足りない!」

「そうは言ってもな、ポルターガイストの類いは見慣れてるんだよ」

「うわあああああ! 黙れええええ! 魔法であってポルターガイしゅトじゃねーだろうがああああ!」

 

 詰め寄ったオレに対して犬井が変なことを言うもんだから、動揺しずきて噛んでしまったじゃないか。この世界に幽霊なんていないんだからな! 見えないんだから解らない! そう、いないんだ!

 心が落ち着くまでの間、オレが苦手な心霊関係を平然と――それはそれは普通に――宣った犬井の肩を揺すってやっていたが、ダメージはないだろう。「悠希」といつもの調子で手を伸ばして、抱きしめてくるのだから。

 

「幽霊関係は禁止だからな。本当の本当に禁止だからなぁっ」

 

 胸板に頭を押しつけたオレは、宥めるように背中を撫でられる。と同時に「承知しました」と囁かれるが、次はないと思えよ。本気で。とは思っても、犬井のことだからまたからかってくるんだろうけどさ。そのときは動揺せずに大人の対応だと決め込んだ瞬間、足元にいる狐ちゃんたちが「ユウキ、ユウキ!」とスカートの裾を引っ張った。「チョコレートが来る!」と。

 

「んん?」

 

 なにを言っているのかと犬井の胸板越しに顔を出せば、四つの箱が目の前に浮いていた。ふわりふわり上下するそれは手作りの証であり、既製品のようにきれいにラッピングをされている。

 

「えっと……?」

 

 どういうことだと首を傾げるオレの横から、魔王様の声が届いた。「ご苦労であったな」という労りの言葉が。

 

「それは感謝の意だ」

「あ、ありがとうございます。けど、オレたちも受け取っていいんですかね?」

 

 狐ちゃんたちは当然として、オレと犬井は半日はなんにもしてないというのに。困惑していたオレに魔王様は「無論だ」と頷いた。

 

「メイドたちを癒したのは猫にほかならないだろう?」

「癒したかどうかは解りませんが、ありがたくちょうだいします」

 

 はにかんだその言葉に、四つのうちの二つの箱が狐ちゃんたちに向かう。蝶々が飛ぶように緩やかに上下しながら。

 

「わあー!! ありがとうございます!」

 

 キラキラ輝く瞳でしっぽを振りまくる狐ちゃんたちは、きちんと一礼してから箱へと手を伸ばした。小さな躯で嬉しそうに箱を抱きしめる姿は言葉にできないかわいさだ。

 オレの方はといえば、犬井から「ユウ」と手渡された箱を大事に抱きしめていた。手作りに加えて、初めて家族以外から貰った大事な大事なチョコレートだし! 自然と頬が緩んでしまうが、気を引きしめ直して犬井に視線をやる。まさかチョコレートに嫉妬なんてしてないよな? それを確認するために。

 見上げた犬井は無言で頬をむにむにしてくるが、数秒後に「いくぞ」と抱き上げてくる。これは大丈夫か、な……? ほっと胸を撫で下ろしたあと、首に腕を回す。もちろん箱を離さずに。

 いやー、やっぱり犬井さんでも“物”に嫉妬はしないかー。

 ――その認識が間違っていたと解ったのは、六粒入りの生チョコをみんなで仲良く食べたあとである。犬井の分は二粒ほど食わせてやって狐ちゃんと別けたのだけれど、その前から嫉妬の炎が燃えていたらしい。おそらくは、オレが手伝いたいと言ったそのときから嫉妬が渦巻いていたんだろう。

 日付が変わる直前にベッドに押し倒した男は、それはそれはきれいに笑っていたのだから。

 たとえ“バレンタインデー”でも――いや“バレンタインデー”だからこそ、犬井はやっぱり犬井なのだと、その身を持って知ったわけである。

 「愛してる」という囁きとともに。

 

 

 

 

(了)

2017.02.18




【 あとがき 】

14日に間に合うように6日から書き始めましたが、全然間に合いませんでした。(白目)
4日遅れのバレンタインデー小話です!
ホワイトデー小話があるのかどうかは私にも解りません。

2017.02.18

◆ 執筆時期 ◆
執筆開始 : 2017/02/06 - 執筆終了 : 2017/02/18
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