結城リトの受難   作:monmo

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第七話

 明くる日の晩。今日は何のToLOVEるもない、久しぶりの平和な日常になるのかと思っていたが、そうでもなかった。

 

 

 

 ピンポーン♪

 

 

 

 「リっ、リト……」

 

 一度見た事がある光景だった。夕食を作ろうとしていた美柑は、エプロン姿のままインターホンのモニターを見るなり、恐る恐る俺の名前を呼んできたのだ。彼女の顔は、変な物でも見ているかの様な表情だった。

 いったい何がやってきたのだろうか。俺とララはテレビを見ていたソファーから立ち上がると、彼女の見ているそれを覗き込んだ。

 

 あぁ……よかった。別に、ToLOVEるになる様な面倒臭い奴が来たとか、そんな事ではなかった。ただ、彼を知らない人は大概美柑の様な表情をすると思う。

 モニターを見たララが嬉しそうに指をさした。

 

 「あっ、ザスティンだ!」

 

 そこに映っていたのは、あのザスティンだったのだ。もちろん服装は数日前と同じ、バケモノの鎧姿である。デビルーク星ならどうなのかは知らないが、地球の一般人である美柑が見て驚くのも無理はない。

 

 「あぁ……美柑、大丈夫。こいつは良い人だから」

 

 困惑する美柑を落ち着かせ、俺は玄関へと向かう。ついて来なくていいと言ったのだが、ララは楽しそうにザスティンの事を話しながら、美柑を引き連れてきた。まぁ、彼とはこれからも何回か会う事になるだろうから、彼女を紹介しておいた方が良いかもしれない。

 そこまで考えると、俺は思考を切り替えた。彼が何の用事でここに来たのかは、ある程度わかっているつもりだったから。

 

 「ザスティン……どうした?」

 

 ドアを開き、そこにいるザスティンを招き入れようとしたが、彼はそれを断り、前に会った時とは全く違う、真剣な表情で俺に向けてきた。

 

 「リト殿。君に、ララ様のお父上、デビルーク王直々のメッセージを持ってきた」

 

 「……!」

 

 俺はゆっくりと生唾を飲み込み、冷静に思案する。

 とうとう『この日』が来てしまった。やはり自分の中に募るのは、何を言われるのかどうかと言う事で仕方のない不安。原作同様、ララの婚約者候補になってしまったり、シャレにならない様な運命を背負わせられたりしてしまうのだろうか。

 しかし、俺は「結婚する気はない」とザスティンにはっきり告げている。メッセージの内容など変わってもおかしくない。だが、彼の事を考えると、手違いで何かミスをしているのではないだろうか?

 そんな不安も考えている間に、彼は懐から悪趣味なデザインの置物の様な物を取り出した。

 

 「そのメッセージがここにあるのですが……」

 

 「あっ、あのっ! そのメッセージって私も聞いていいんですか?」

 

 「私も聞く!」

 

 知らない人と話すからなのか、やけに言葉が丁寧な美柑に、俺は驚いた。と言うか、突然ザスティンの言葉を遮ってきた時点で、俺は驚いていたが……

 

 美柑って……こんな事する娘だっただろうか?

 

 「おや、君は……?」

 

 ザスティンは目を丸くして、美柑の方を見た。確かに、彼はこの時点では、まだ美柑を知らないのだから、話に割り込んできた彼女を「誰?」と思うのも無理はない。

 そんな美柑は、慌てながら自己紹介をして顔を真っ赤にしていた。気まずくなってしまったのだ。ザスティンも「は、はぁ……」と言った感じで、彼女の言葉を聞いていたから、たぶん純粋に、恥ずかしかったんだと思う。

 

 場の雰囲気が悪くなってきたので、俺が話しを本題へと戻した。ザスティンは真剣な表情に戻ると、二人に弁明を始める。

 

 「ララ様、美柑殿、申し訳ございません。私とリト殿のみ聞いて良いとの命令を受けております故、どうかお引き下がりを……」

 

 「そっか……」

 

 「えぇ〜〜!? なんで!!?」

 

 美柑は残念そうに引き下がったが、ララは猛烈な勢いで、ザスティンに理由を求め始めた。だが、彼はそれを一切語らず、彼女を落ち着かせようとしている。

 こんな真面目なザスティンは原作でも見た事がない。もしかしたら、メッセージの内容は俺の想像より変化してしまったのではないのだろうか。

 

 「すまぬ、リト殿。場所を変えてもよろしいだろうか? かなり重大な内容が入っているのでな……」

 

 とにかく、聞かなければ何もわからない。断る理由などなかった。

 

 

 

 ・・・♡・・・♡・・・

 

 

 

 家を出て歩く事、数分。俺とザスティンは家の近くの公園、それも広場から離れた人目のつかない茂みの奥へと来ていた。

 日はすでに暮れているので、周りにある光と言えば、街灯の明かりぐらいしか見当たらなかったが、ここに来てしまうとその小さな光さえ薄れ、自分の歩いている道なき道は、地面も見えないほど真っ暗な場所だった。

 

 でも、何となく思ったのだ。『結城リト』も、ここでザスティンと話をしていたのかもしれない、と。

 

 「この辺でいいだろう」

 

 ザスティンは立ち止まると俺の方へと振り返り、さっき家の玄関で俺に見せていたあの置物を再び取り出すと、少し距離をとっていた俺の正面に放った。

 置物は地面に落ちていない。フワフワと空中に浮かんでいる。何とも不思議だ。

 

 「では……心して聴くように」

 

 そう言ってザスティンが黙ると、その置物は怪しく光り始めた。微かに聞こえるノイズが俺を不安を煽り立てる。

 

 『……よォ、結城リト』

 

 ドスの聞いた声。軽く脅しをかけているのか、とにかく話の主導権を自分側にしようとているのがわかる。まぁ、メッセージなのだから、一方的に話す物なので、どうでもいいか……

 

 『ザスティンから話は聞いてるぜ。てめェの出した要求……オレ様が飲んでやる』

 

 「っ!」

 

 予想外だった。原作を悪い方向に崩壊させたくなかった俺は、ワガママでしかない様な要求をザスティンに申し込んでいる。正直、メチャクチャに怒られるのかと思っていたのだが……

 

 ひょっとして、ザスティンがフォローしてくれたのだろうか。だとしたら俺は彼に感謝しなくては。

 

 『地球人は貧弱らしいが……どうやらおめェは少し違うらしいな……。それにあのララが初めて好意を抱いた程の男だ。お前がララをどうするつもりなのか、どれ程の器を持った男なのか、少し興味が湧いたぜ。クックックッ……』

 

 最後の笑いが、俺の頭に引っかかっていたが、そこまで考える間も無く、ララのオヤジは小さく咳払いすると、話を続ける。

 

 『だが、オレもそこまで甘い男じゃねェ……。てめェはもう知ってるな? 他の婚約者候補共の事だ』

 

 前述、ララのオヤジは俺の要求を聞き入れてくれた。だが、それで俺は安心する事が全くと言っていいほど出来ていなかった。何故なら今言った通り、ララの婚約者の数は本人曰く、数えきれないぐらい存在するからである。

 

 果たしてコイツは……それを他の婚約者候補にどう説明した?

 

 嫌な予感がするが……

 

 『ヤツらがお前の条件に納得すると思うか?』

 

 そんな事考えるまでもない。答えは、

 

 『当然、んなワケがねぇ。そこでだ……

 

 間が開いた。いったい何を言うのか。俺は更に強く集中して聞き耳を立てる。すると、

 

 

 

 『てめェの事は、新しい婚約者候補として銀河中に知らせておいた』

 

 

 

 「あぁ!?」

 

 なんてこった。結局原作と同じ、ララの婚約者候補になってしまったではないか。俺を怒らせようとしているのか、わざわざ『銀河中』って言っている事に悪意を感じる。

 

 だが考えてみればコイツにとって都合の良いって言ったら都合の良い方法だ。「娘が花嫁修業してくるから婚約者争いは一旦中止」なんて理由など、銀河中に話が進みすぎていて、もう止める事が出来ない。あるいは面倒臭いのだろう。

 

 『これだけオレ様が優遇してやってんだ。これくらいの事、なんとかなるだろ?』

 

 挑発した声で、時折笑い声を混ぜてくるララのオヤジ。過保護なのはララから聞いていたが、流石は王様。実にイライラしてくる喋り方だ。

 

 『いいか、いつか俺が決めていた『婚姻の儀』。その時までララを守ってみろ。てめェの事はすでに銀河全体に知れ渡っている。他の婚約者候補どもは必ずお前のもとに現れるぞ。てめェからララを奪い取るためにな……!! わかっていると思うが! もし、途中でララを奪い取られちまった場合は! ……俺の興味と期待を裏切ったっつーー事で……』

 

 えっ? オイ……そんな理由でまさか……

 

 

 

 『お前の命……そのちっぽけな惑星ごとぶっ潰す……!! ……覚えとけ』

 

 

 聞こえた声の中で、一番凄みがきいていた。だが、俺はその声に震え上がっはいない。

 

 ただ呆然と、声のする置き物を眺めていた。

 

 『せいぜい、オレを失望させるんじゃねぇぞ? 結城リト。じゃあな……』

 

 最後にあざ笑う様な声が聞こえ、メッセージは終わった。光が消え、辺りは再び真っ暗になる。

 

 地球の運命を背負ってしまった。俺の心も真っ暗だ。これだけは何とか避けたいと思っていたし、避けられると思っていたのだから。

 

 いや……ララが結城リトに出会っちまった時点で、地球の運命は決まっていたのだろうか……? こればかりは、知る由もないが……。

 

 呆けていた俺に、ザスティンが頭を下げてきた。

 

 「すまない、リト殿……。まさか、こんな結果になってしまうなんて……」

 

 謝罪してくるザスティンを「気にすんな」と慰めて「ありがとう」とお礼を言った。やはり彼は自分なりにフォローしたのだろう。結果としては悲惨な物になってしまったが、彼は頑張ったのだ。ならば今の俺にできる事はこれぐらいしかない。

 なけなしのお礼を述べると、ザスティンは何だか嬉しそうに照れていた。褒められ慣れていないのだろうか。あの王様の下で働いているのなら、考えられなくもない。

 しかし、そう思った直後に、彼の眼は真剣な眼差しに変わっていた。

 

 「気をつけるのだぞリト殿。ララ様の婚約者候補と言っても、必ずしも戦闘に長けた者ばかりではない。『戦いに優れる事』が婚約者の条件ではないからな」

 

 ララの婚約者候補の中に強い奴がいたかどうかは忘れてしまったが、確かに彼の言う事に一理ある。

 だが、銀河系の頂点に立つ王様になるなら、これだけでは済まないだろう。たぶん『器』とか『カリスマ』とか言うものが求められるのではないのだろうか。

 

 俺には無縁のモノだな……

 

 そもそも、ララのオヤジが真面目に婚約者候補を選んでいたのかも怪しい所である。天然で素直なララが、嫌がって家出するぐらいなのだから……

 

 そんな事を考えていた俺に、ザスティンはまるで最後の希望の様な眼でこちらを見てきた。

 

 「ララ様を……よろしく頼む」

 

 相当期待……違う。俺に、ララの運命を賭けたんだな……

 

 正直言って、ザスティン……お前の望み通りに希望が繋がる事は……たぶん無い……。が、それでも……俺はやるだけの事をやるつもりだ。

 なぜなら、俺も……『彼女』には……幸せななってほしいと思っているのだから……

 

 たかが十八年程度しか生きていない人間がいったい何を言っているのだろう。だが、そんな事でもしていないと、俺はこの世界に居て良い『意味』を失いそうで、とにかく恐かったのだ。

 

 「わかった……」

 

 俺はザスティンの眼を見た。闇夜に紛れ込める様なマントを羽織った彼の顔がゆっくりと綻んだ。

 

 

 

 ・・・♡・・・♡・・・

 

 

 

 (ザスティン視点)

 

 

 

 彼の眼は酷く困惑している。無理もない。先程まで聞いていたメッセージの内容は、あまりにも深刻なものだったのだから。

 

 デビルーク星へと戻った私は、すぐさま彼の事を我らのデビルーク王『ギド・ルシオン・デビルーク』様に伝えた。「ララ様のお心を理解する男が現れた」と……。

 ギド様はその話に大変興味を持ってくれたのだが、「まだ結婚する気は無い」と言う彼の言葉に顔をしかめた時、私の内心は焦った。もしこのままギド様の機嫌を損ねれば、ララ様をまたデビルーク星に連れ戻さなければならなくなる。そんな事をすれば当然、ララ様は前のお見合い詰めの生活に戻されてしまうのを私は知っているのだから。

 

 しかし、ギド様は数分の沈黙の後、口元をニヤリと歪ませ、リト殿の要求を飲んでくれたのだ。私はようやく一安心できると思った。

 

 思っていたのだ……

 

 その後、彼に返答のメッセージを届けると言われ、私は内心ウキウキでその用意をしたのだが……

 内容はもう言う必要はあるまい。原文の通りである。

 

 申し訳がなかった。さすがに婚約者候補の回避は困難だと思っていたのだが、まさか地球の運命までもを背負ってしまうとは……。

 

 メッセージを聞き終えた彼に、私はただ謝る事しかできなかった。

 だが、彼は私を一切咎めなかった。それどころか、私が話を伝えてくれた事に対し、「ありがとう」とお礼を言ってきたのだ。

 良い人だ。私の周りで親切な人は、ギド様こと、デビルーク家は当然として、我らデビルーク星王室親衛隊の部下達と、王国の家臣達ぐらいしか思いつかない。仕事で出会うヤツ等など、銀河系の平和を乱す悪党どもばかりなのだから。

 

 異星人との交流も……良いものだな……

 

 やはり彼が王になってくれれば、こちらとしても嬉しいのだが……これは彼の問題である。しばらくの間、彼を観察し、様子を見たいと私は考えたのだ。

 

 さて、本来はメッセージを伝えに来ただけの事なのだが、実はもう一つ、私は彼に会う目的があった。

 

 「リト殿……もう一度、私と勝負をしてくれないだろうか?」

 

 彼は目を大きく広げて私を見た。悪いが、これは何度断られても要求するつもりだった。が、彼は何かを考えるかの様に黙り込んで数秒経つと、

 

 「あ、あぁ……」

 

 と、小さく頷いてくれた。

 

 私は勝負の説明を軽く済ましながら、場所を公園の広場へ移すと、背中にあるいつもの剣ではなく腰にぶら下げておいた剣を手に取り、リト殿の足下に向かって放り投げる。地面に突き刺さったその剣は、昔と変わらず不気味に光輝いていた。

 

 これは『イマジンブレード』と言う。まだ銀河大戦が起こっていた頃、私が終戦まで使い続けていた愛剣だ。

 大戦が終わった後、私は使い古したこの剣を鞘におさめ、新しい剣『イマジンソード』を持ち、新たな時代と共に銀河系の治安活動に貢献していたのだ!

 

 しかし、私はその剣を使ってリト殿に負けてしまった。それも彼は剣など、武器を一切使用せずに……!

 

 久しぶりの敗北感だったが、同時に私は驚いていた。まさか地球人にこれほどの能力があったとは! もし、銀河大戦で兵士として存在していたら、さぞかし強力な部類に分類されていたであろう!!

 

 むっ、話が少しズレてしまったな。

 敗北した私に、リト殿は近付いてきた。最初は「私に勝ったのだから、ララ様を連れてさっさとどこかに行ってしまえ」と思ったのだが……その数秒後、自分の思いは実に愚かなものだったのだと痛感した。

 

 

 

 彼は……ララ様の事を理解していた……

 

 

 

 嬉しかった! 他の許嫁候補共は『デビルーク王の後継者』すなわち『銀河系ほぼ全域の支配』という事にしか目を向けず、ララ様の事など次の次……中にはララ様を『道具』としか思っていない様なヤツまで存在したのだぞ!

 

 だがリト殿は違う。彼はララ様の気持ちを私へと伝えてきた。ようやくララ様の事を最優先に考えてくれる男を私は見つけたのだ! それだけではない。あそこまでララ様にはっきりと「好き」と言わせた男を、私は初めて見た! だから私は、この素晴らしい青年をギド様に報告する事にしたのだ。

 

 しかし、同時に思った。私もララ様の事を理解していた立場としてなのか、戦士としてのプライドだろうか……「もう一度この男と戦ってみたい。それも、今度は真剣勝負で!」と言う欲望が、私の中で燃え始めたのだ。

 

 だが、地球に我々の持っている剣を作る様な技術は存在しない。そこで私は、この『イマジンブレード』を持ってきたと言う事だ。

 まぁ、剣は他にも色々とあったのだが……ララ様を「守ってみせる」と言った男。本人は「結婚はしない」と言っているが、もしかしたら次期デビルーク王にもなるかもしれぬ男だ。なるべく高貴な剣を用意したかった。

 

 リト殿は、地面に刺さった剣を引き抜くと、ブンブンと数回振り回す。この剣は見た目より軽いので、しっかり持たないと、手からすっ飛ぶ恐れがあるのだが、彼は剣を両手でしっかりと握り、いびつな構えをとると、私に刃を向けた。

 

 私は自分の剣をスタン(電撃)モードへと変更する。リト殿に渡した剣は最初っから変更しておいた。これなら万が一、刃と接触しても死ぬ事は無い。私も彼も、本気で刃を交える事ができる。

 

 全ての準備を終えた私も剣を数回振り回し、構える。

 

 「では……ゆくぞ……」

 

 リト殿は答えなかったが、その眼は先程とは違い、あの時と同じ……私と初めて戦った時と同じ眼をしている。

 本気だ。戦士としての勘なのか、そう感じたのだ。

 周りには私と彼以外、誰一人としていない真っ暗な空間。闇夜の中には光り輝く二本の剣。時折、近くの電灯が、パチ……パチ……と光っては消えを繰り返し、私の視界を、集中力を鈍らす。

 

 張り詰める空気が裂けたのは、バチン! と電灯が完全に切れた瞬間。私とリト殿は、同時に突撃していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果は、私の勝ちで終わった。

 

 私の振り下ろした渾身の一撃は、爆発と共にリト殿を数十メートルと吹き飛ばし、公園のベンチへと激突して終わった。

 あまりにも予想外な結果に、私はポカーンと口を開けっぱなしにしていたと思う。リト殿は「ラブコメじゃなかったら絶対に死んでた……」と呟きながら、砂煙の中から出てきたが、一体何の事だ?

 

 それよりも、不思議だ。最初彼と戦ったときは、隙を突かれてしまった瞬間、軽々と投げ飛ばされてしまい、私の敗北に終わった。だが、今の勝負は私の圧倒的な様にも感じたパワーで、リト殿を吹き飛ばしてしまった。

 武器によって強さが変わるのか、私のまぐれだったのか、どうなっているのだ地球人は……?

 

 我慢できなかった私は、リト殿に地球人の戦闘能力を問いつめてみた。

 どうやら、地球人そのものとしては、力は貧弱で銀河系では弱い分類に入る様だ。

 しかし、彼らは『ジュードー』と言う相手の力、動き、を受け流し、利用し、投げ飛ばすと言う、パワーで攻めるデビルーク星人とは全く違う体術を持っていたのだ!

 リト殿も詳しくは知らないらしいのだが、沢山の技と流派があるらしく、中には小さな人が大きな人を投げ飛ばす為の技もあるらしい。

 

 なんだ、この『対デビルーク人用』の様な体術は……

 

 ちなみに地球、それもリト殿の住む日本の警察官は全て『ジュードー』または剣を使う『ケンドー』と言うものを覚えているらしい。

 

 ……私が迷子になった時、道案内をしてくれたあの警察の方も『ジュードー』が使えたのか……恐るべし……地球……

 

 と、そんなこんなで数十分。私はリト殿と『ジュードー』について話をしていたのだが、彼は「これ以上遅くなると、ララと美柑に心配どころか怒られる」と言った。

 しまった。リト殿は『学校』というものに通っているから、朝は早い筈なのに、私はすっかり話に夢中になっていたのだ。謝った私はもう一度リト殿に、「ララ様を頼む」と告げ、今度は「さらば」ではなく、「また会おう」と言って、闇夜の公園を飛び立った。

 

 

 

 そして今、私のいる場所は自分の宇宙船、それも運転室で地球の様子を見守っている。

 常に日本が真っ正面になる様に、船は巡航しているのだが……

 

 うむ……綺麗な星だ。地球。今、日本は夜のため、太陽の届かない真っ暗な影の中、小さな光が広がっている光景しか見えないが、朝の部分は違う。

 青い……海が青いこの星は、全体の60〜70%を青色で埋め尽くしている。それ以外の地表は、緑、茶色、そしてうごめく雲の白。

 その絶妙なコントラストのついたこの星は、少なくとも今まで私の見た星の中では、一〜二を争う程の美しさを持っていたのだ。

 

 まさか辺境にこんな綺麗な星があるとは……しかもそこには、我々デビルーク人を凌ぐかもしれぬ、『ジュードー』という武術が存在した。

 

 考えてしまう程、ますます増えていく好奇心。この仕事のついでに、地球……それも日本の文化を調べてしまおうか……

 

 そんな事を考えていると、突然電磁モニターが大きく開き、小さな警告音と共に一台の宇宙船を表すマークがこちらに……いや、地球に近づいて来るのが画面に映った。

 

 「ザスティン隊長! レーダーが識別不能の宇宙船を探知! まもなく地球の大気圏に突入します!!」

 

 私の信頼できる部下の一人、マウルがモニターを見ながら叫ぶ。早くも現れたか……いや、これでも遅い方か……

 

 「そうか……」

 

 私があまりにも冷静な返事をした為か、彼らは「隊長?」と私の方を不可解な表情で見ていた。

 

 フッ、そんなに心配にならなくても良い。既に私のやるべき事はやっている。あとは……

 

 「彼を信じよう。今、我々がやるべき事はそれだけだ」

 

 「「はっ!」」

 

 私の力強い声に、彼らも負けぬくらいの大きさで、了解の返事をした。ここからは、婚約者候補の激しい戦いが始まるに違いない。

 

 上手くやるのだぞ。リト殿!




 まぁ、正面からデビルーク星人に突っ込めばこうなります……
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