さらに初のお気に入り2,000件越え。
本当にありがとうございます。
皆様のご期待に応えられるよう、これからも頑張ります。
アーチャー。
第五次聖杯戦争にて遠坂凛が召喚した、弓兵のサーヴァント。
その名が示す通り、射る事について卓越した技量を持つ。
だが弓兵の名を司りながらも、双剣での白兵戦や、投影魔術を用いた魔術戦もソツなくこなす。
その正体は、世界と契約した守護者にして、衛宮士郎の未来の可能性の一つ。
「来たか」
「ああ」
長い石造りの階段を上り切る。
重なった雲。月明かりが遮られた空。光源の覚束ない世界。それでも、足は自然と前へ。
歴史を感じさせる門をくぐり、解放された敷地内に足を踏み入れると、そのすぐ傍から声が掛かった。
何度も聞いた声だ。
時に憎らしく。
時に頼もしく。
時に――羨望を。
抱いた、その声。
「変わらないようだな」
「お互いにな」
まるで友人に呼び掛けるような気安さだった。第三者が聞いたらそう思うだろう。だが2人は決してそういう関係では無い。互いに顔を合わせれば皮肉の一つでも出てくる。仲が良いとは決して思わない。何なら殺し合った仲だ。
それでも。
感情でも無く、理屈でも無く。
全てを超越した、確かな信頼が。
2人には、ある。
「……ついてこい」
目前にて生じる、赤光の粒子。
赤い外套が靡き、長身の男が姿を現す。
浅黒い肌。
色素が抜けたような白髪。
そして眼。感情を排した、機械を思わせる、鋼色の、眼。
一瞬だけ士郎にその眼を向け、彼はそのまま歩き出した。士郎がついてくることを疑わない歩みだった。
■ こんなふぇいとはいやだ ■
PM9:30
柳洞寺居住スペースの空き部屋。
「……あら、もう戻って来たの? 無事に会えた様で何より」
「ああ。少し部屋を借りる。……すまないな」
「構わないわ。……少し席を外すわ。何かあったら――――」
「分かっている。コレと、貴様の想い人は、必ず逃がす」
「……そう、話が早くて助かるわ」
疲れを隠すことなくキャスターは溜息を吐いた。珍しくも彼女はローブを身に纏っている。外気に晒されているのは口元だけで、その表情を窺い知ることは叶わない。
アーチャーと少ない言葉でやり取りを済ますと、彼女はその場から去った。空間転移の魔術。魔法級の魔術ですら、彼女の手に掛かれば再現は難しい話ではない。
「アーチャー。キャスターは――――」
「貴様の想像通りだ。数少ない、マトモな存在。……だが、長くは持つまい」
アーチャーは重々しい息を吐き出した。明確な言葉こそ省かれているが、大方の状況はそれだけで伝わった。
即ち。マトモなのは士郎とアーチャーと、キャスターだけ。
但しキャスターは近い将来どうなるか分からない。
「どうにかできないのか?」
「戯け。出来るなら、とうの間に実行している。……今の俺たちでは、術がない」
アーチャーは感情を押し殺して、そう言った。一人称が私から俺に変わってしまっている辺り、士郎に問われる前から、彼自身相当この件は苦慮しているのだろう。
「あ奴は魔術を駆使して、今の状況に抗っている。だが、それも時間の問題だ」
「……いずれは、皆と同じようになるのか」
「だろう。そうなれば、後は貴様と私しかいない」
「今の原因ってキャスターでも分からないのか」
「今はまだ、な。あ奴なら時間さえあれば原因は突き止められよう。……時間さえあれば、な」
言外に、キャスターは頼れない、とアーチャーは言っていた。決壊寸前のダムのような物。彼女の力を当てにする事は不可だ。
士郎は正しく意図を理解して、ため息を吐き出した。逃げる幸せがあるのなら教えて欲しいくらいだった。
「頼る意味の薄い議論をしても仕方あるまい。……ただ、例えおかしくなったとしてもアサシンやランサーを頼るよりかはマシだ」
「アサシンって、ハサンか?」
「違う、ここのアサシン――だった、モノだ」
「……どういうことだ?」
「私たちの知る2人は、もういない」
乾き切った声だった。感情を切り捨てた声だった。アーチャーはアーチャーで言葉に出来ない何かにあったのだろう。そこをこれ以上問う事は躊躇われた。と言うか男どもが揃ってダメになっている現状とはこれ如何に。
「……そういえば、門にアサシンがいなかったな」
「気にするな。世界が変わると同時に存在も変わり果てている。今のアレは、解き放たれた野獣だ」
「……野獣?」
嫌な言葉だ、と士郎は思った。つい昼間に似たような言葉を聞いた覚えがあった。
……が、
「……いや、本題を先に済まそうか」
それ以上を考える事を本能が拒否したので、士郎は話を無理矢理に戻した。訊くのは本題が終わった後でも良い。つまりは現実逃避である。
「ああ、そうだな。……衛宮士郎。貴様は、この世界の異常性に気づいている筈だ」
「……まぁな」
初めての同意。この狂った世界でも変わらない人物。
それがよりにもよってこの陰険ガングロ白髪野郎であることは甚だ気に喰わないところではあるが、それでも皆が狂ってしまっているよりはマシである。
「セイバーも遠坂も桜も……皆おかしくなっている。そもそも世界の常識からして変わっている」
「その通りだ。歴史も認識も常識も全てが改竄されている。あり得ない事だ」
「……歴史も?」
「ああ。織田信長や……宮本武蔵が女になっている」
それはまたショッキングな話である。士郎の頭が本日何度目かも分からぬ痛みを訴え始めた。
とは言え、身近にはセイバーと言う前例がある。まぁ、そんなこともあるか、と。壊れた価値観で士郎は受け入れた。回復は存外に早い。
「現状への心当たりはあるか」
「無い。アーチャーは?」
「同じく、無い」
つまりは原因が分からない、という事だ。
ガシガシガシ。士郎は頭を乱暴に掻き毟ると、昼頃に抱いた疑問を口にした。
「ここが平行世界って可能性はないのか?」
要は、世界が変わったか、自分たちが変わった世界に来たか、の違いである。
「……可能性はある。だが、私たちとキャスターだけという理由への回答に繋がらない」
加えてキャスターは抗っている状態。つまりは士郎の案が正だとしても、平行世界に来た、或いは無理矢理に来させられた真意が不明だ。
ならば世界が変わったと言う方が、よっぽど辻褄が合う。
だが、
「何よりも目的が不明だ。このような世界にした目的の見当がつかん」
アーチャーは忌々し気に言葉を吐いた。
世界を歴史事変えてしまう程の変革。
それは聖杯を使おうとも、容易には達成できるものではない。
そしてそこまでして変える事の目的が2人には想像できなかった。
「……そもそも何で俺たちだけが無事なんだ?」
この場合の無事の定義は置いておいて、前の常識を保持しているのは、キャスターを除けば士郎とアーチャーだけである。
だが、何故自分たちだけなのか。
その理由が分からない。
「客観的に考慮をするなら、怪しいのは貴様だ」
「俺?」
「そうだ。私と貴様だけが無事な時点で、原因が貴様にあると考えるのが自然だ。……だが貴様は腐ってもエミヤシロウだ」
「こんな状況を望むはずがない、ってか?」
アーチャーは世界と契約している。だが他にも契約した者は多数おり、何れも彼自身よりも高次の存在だ。
にも関わらず、無事なのは彼だけ。
そして常識を保っている衛宮士郎。
となれば、式を導き出すのは容易い。
……だが、
「貴様の存在自体が、無罪の証明だ。『エミヤシロウ』はこんな世界を望まない」
「解決に動く、と」
「間違っているならば正す。それがどれだけ幸福で、何も失われていない理想郷であっても……それが貴様と言う存在だ」
アーチャーの言葉は事実だ。
例えこの世界がどこまでも士郎に都合よく働き、敵も障害も何もなくとも……士郎は正すだろう。その為に動くだろう。
泡沫の夢であっても。
幸福な幻影であっても。
伽藍洞な日常であっても。
エミヤシロウは、受け入れられない。そうあることを許せない。
「いいか、衛宮士郎。貴様だけが正常な事には、必ず理由がある。ただの偶然ではない。……それを解き明かせ。それが可能なのは、癪な事にお前しかいない」
「俺だけ? アーチャーは動けないのか?」
「動けないわけでは無い。だが、いつこの世界に飲み込まれるか分からない」
「どういうことだ?」
「これはあくまでも推測だが……私がまだ無事なのは、私が貴様の可能性の一つだからだろう。だが起点が一緒であっても、既に私は別物。今の状態を何時まで維持できるかは分からない」
「……キャスター程じゃないが、影響は出るのか」
「恐らくは、だがな。……まだ出てはないが、だからと言って座して待てるほどの余裕はあるまい」
己の掌を見つめ、感情を押し殺して。いずれ来る未来を想像したのだろう。今までで一番の重々しいため息をアーチャーは吐いた。
「そんなわけで、いつまで無事でいられるかは分からん。希望的観測は持つな」
「……ああ」
「どうした?」
「いや……何故、俺なんだろうかって」
一方で。
士郎が抱いたのは、純粋な疑問だった。
何故自分なのか。
何故自分だけが影響を受けていないのか。
「それが分かれば苦労はしない。ただ、現時点では貴様と私だけが影響を受けていない。それだけが事実だ」
「……そう、だな」
「私は私が出来る事に尽くす。貴様は貴様で尽くせ」
話は以上という事だろう。
アーチャーは傍の襖を開いて、顎で外を示す。早く帰れ。態度と言い仕草と言い、士郎からすれば一々が癇に障る奴である。言っている事は間違っていないのが、これまた癪である。
「……飲まれるなよ」
「戯け」
鼻で笑う様な、気障な語調。
だが士郎を見る眼は。侮蔑も何も無い。真剣そのもので。
この世界の変容に、心から苦慮している面持で。
それ以上は何も言わず、士郎は柳洞寺を後にした。
■
「衛宮」
情報の共有は終わった。現状の推察も終わった。
となれば後は帰るだけである。PM10:00過ぎ。夜も遅い時間帯。幾ら腕に覚えがあるとは言え、この冬木市は人知を超える存在が存在する人外魔境。士郎程度の腕では、どんな目に遭うかも分からない。
という訳で。
早々に帰宅しようした士郎だったが、居住スペースを出る前に声を掛けられる。
振り向いた先には――――眼が窪み、頬がこけた、幽鬼の如き長身痩躯の男性。
……悲鳴を上げなかったのはこれまでの経験の賜物か。或いは、理解の方が早かったか。
「……葛木先生?」
葛木宗一郎。穂群原学園の教師であり、キャスターのマスターである、いつかの夜に争った相手。
その彼が、今にも倒れそうな虚ろな瞳で、士郎の背後に立っていた。
「ど、どうし――――」
「すまない」
謝られる。真摯な響きを持った謝罪の言葉。
だが士郎には思い当たる節が無い。
「えーと、何が……?」
「教師でありながら、教鞭を執れず、外出すらもままならなくなってしまった事だ」
ああ、そう言う事か。
発言のタイミングがタイミングなので、あらぬ誤解が生じそうになったが、すぐに士郎は誤解を破棄した。そもそも冷静に考えて、彼がこの世界の変容を引き起こしたと考えるのは、かなり無理がある話だ。
己の戯けた思考を塗りつぶす様に、士郎は言葉を重ねた。
「仕方が無いです。それよりも、具合はいかがですか?」
お兄様は引き篭もっておられる。それは一成の言葉。
あの時は混乱故に軽く受け流していたが、引き篭もっているというのは、かなりの大事だ。
キャスターの手によって、無数の魔の手から護られたと考えるのが自然だろうが……世界が変容してしまっただけでなく、過去すらも変わってしまった状況では、過去に彼がどんな目に合ったのかもわからない。
「問題は無い。……ただ、思いの外疲れて、止まった。それだけだ」
虚ろな目。虚空を彷徨う視線。言葉の端々から疲労の色が見え隠れしている。士郎の想像できる最悪は、大凡経験済みという事か。
「衛宮。逃げる事は、間違ってはいない。……私はその意味を、漸く学んだ」
「は、はい……」
「……柳洞から話は聞いている。その先には艱難辛苦が待つかもしれない。だが進むことに疲れたら……無理はするな。足を止めて休むことは……恥ではない」
果たして一成は宗一郎に何を言ったのだろうか。そう言えばああも言っていた。必ずあの女狐を退治してお前を救ってやる。一成の中での評価が士郎としては気になって仕方が無い。
「いずれは復職しよう。……すまないが、もう少し待ってほしい」
「いえ、お気になさらず……」
「何かあれば……来い。キャスターと共に、出来得る限りの事はする」
何も言えない。世界の残酷さに、1人の尊い犠牲者に、士郎の涙はちょちょぎれそうだ。
では、な。それだけを言って、宗一郎はフラフラと覚束ない足取りで暗闇へと消えた。
後に残されたのは士郎1人。
故に、暗闇で1人思う。
「……帰ろう」
それは正しい判断だ。
高校生が出歩くには遅い時間帯。
葛木宗一郎ですらこう成り果てた世界で、士郎が今まで通りにいられるとは限らない。
今更ながらに危機感を抱き――――士郎は駆けた。
敷地を、門を、そして階段を。
駆け抜けた。
ただ残念なことに。
結論を言ってしまえば。
士郎の判断は、遅すぎたのだ。
■
階段を駆け降りる――――否、落ちる。
重力に従い、彼の鎖に絡めとられながら。
勢いをつけるが如く、力を込めて。
地に向けて、跳ぶ。
バランスを崩せば、そのまま激しく身体を打ち据えるだろう。打ち所が悪ければ死ぬかもしれない。
だが士郎は。結果として無事に入り口まで降り立った。
入口までは無事に降り立った。
「いやいや、偶には戻るのも悪くは無い、ってね」
女がいた。
士郎が止めた自転車のすぐ傍に、女がいた。
但し、只の女ではない。
薄桃色の髪の毛、蒼天を思わせる眼、女性らしさを隠しきれない豊満な双丘に細い腰、息を呑むような美貌。セイバーやライダーに勝るとも劣らぬ美しさと凛々しさ。
そして太刀。腰に差すは4本の太刀。
サーヴァント。
咄嗟に士郎はそれだけを認識し、大きく後方に飛んだ。
それは正しく、彼我の実力差を認識した故の行動だった。
「あちゃー、そんな反応されると傷つくなぁ」
反応は驚くほどに迅速だった。
判断は正しく最適解だった。
だが嫌な予感が、想像が、士郎を捉えて離さない。
目前の女。街灯の灯りを受けて露わになる女。
段違い。圧倒的な力量差。
見ただけで、それを士郎は認識する。
「……サーヴァント」
「え!?」
何故か驚いたような、そして傷ついた顔をする目前の美人。それが士郎の発言にある事は状況的に間違いは無いが……
「え、ちょっと待って!? なに、え、うそ!?」
それは士郎のセリフである。何故自分は知らない女性に此処まで驚かれなければならないのか。
士郎はゆっくりと後退を始める。本当ならすぐにでも逃げ出したいが、背を見せると何をされるか分からない。生物としての、本能的な行動だった。
「待って待って! もしかして、私の事……忘れ、たの?」
先ほどの凛々しさはどこへ。一転して涙目になり慌てる美女に、士郎は不覚にも絆されそうになる。
ぶんぶんぶん首を横に振って煩悩は消し飛ばす。今はソレに惑わされている場合じゃない。
「あ、良かった! そうだよね、違うよね!」
一方で。
士郎の首振りを自身の問いかけへの否定と受け取ったのか、女性は安堵の言葉を漏らした。目元を拭ったあたり、相当ショックだったらしい。……残念ながら、士郎は事の次第をまだ分かっていない。彼女とは初対面の筈であり、名前も存在もまだ分からない。
「士郎!」
そんな士郎を救う様に。
2人の間に突き刺さる剣。
士郎の背丈ほどもある剣が、コンクリートの地面を抉り、突き刺さり、2人を分断する。
そして降り立つ、紫色の影――――ライダー。
「ライダー!?」
「士郎、遅くなり申し訳ございません! ……そしてすいません!」
バッ! 反転したライダーが士郎に抱き着いたかと思うと、そのまま大きく跳躍した。
鼻孔に広がる芳しい香り。
一瞬の浮遊感。
そして柔らかな衝撃。
眼を開けると、そこはどこかの家屋の屋根。
「申し訳ございません、士郎! しかし暫しの間無礼をご承知いただきたく……ッ!
「いや、俺は大丈夫。えーと、寧ろ、ありがとう。助かった」
気が付けば士郎はライダーに横抱きにされていた。つまりはお姫様抱っこである。
とは言え男の沽券等今更の話である。抱かれた状態のまま士郎は周囲に視線を走らせた。
剣を射出した当人――恐らくはアーチャー――の姿は見えない。
一方で、女性は――――
「待ってよ、ライダー。彼を、どうするつもり?」
声は、背後から聞こえた。
ライダーと共に振り返ると、そこにはあの女性がいる。同じ屋根の上にいる。
加えて、彼女は抜刀していた。月の光を受けた太刀が、鈍い輝いている。
士郎もライダーも、彼女から視線を切ったのは一瞬。だがその一瞬で、彼女は状況を把握し、ここまで追いかけてきたのだ。
「……貴女の知るところではありません」
「……へぇ」
冷徹な目だ。先ほどまでの好色が混じった眼ではない。サーヴァント同士が相対する時の、敵意を含んだ、眼。
それがライダーに向けられている。
「一つ教えてあげるわ。ライダー」
女性は抜刀した大太刀を、ライダーに向けて構え直した。
「私には嫌いなものがあるの。人の矜持を自分の楽しみの為に踏みにじるヤツ。あと、お腹減ってる時に襲い掛かってくるヤツ」
「……」
「そして……私好みの美少年を奪うヤツよ!」
ドンッ!
漫画なら、こんな擬音が彼女の後ろに描かれたに違いない。
仁王立ちになって、己の矜持を宣言する様は、そうなるに相応しいシーンだ。
だが、これは現実である。
この人は何を言っているんだろうか。
士郎は混乱した頭で、まずそれを思った。状況に、現実に、頭が追い付いていなかった。正直気分的にはドン引きである。
「……1つ、ではなく3つですね」
そしてライダーは何処までも冷静である。ともすれば馬鹿にするような煽り口調で、女性の発言に指摘を挟む。口調こそ静かではあるが、士郎はこれが彼女がブチ切れている時の様子であることを知っている。
「大丈夫よ、士郎君。君は必ず救うから」
女性はライダーの発言に全く反応しない。とびっきりの笑顔とウィンクを士郎に投げて寄越す。今のライダーを目の前にしてそう振る舞う辺り、相手も相当な賜物である。
だがそれは、決してただの虚勢ではない。
士郎の眼は聖杯戦争のマスターとして、相手サーヴァントのステータスをしっかりと映し出していた。
――――強い。
士郎は真っ先に、そんな感想を抱いた。
ステータスは軒並みBを超えている。魔力だけEだが、それはこの場においては些末事である。
余裕綽々で得意満々のその姿は、確かな実力に裏打ちされた姿と言うことだ。
「士郎」
「了解した。で、何だ?」
即答だった。用件を聞く前の即答だった。
驚いたのはライダーだ。この短いふた呼吸だけの会話。強敵を前にした、無駄を省いた返事、と言うわけでは無い。破格とも言える信頼に、彼女は面食らい、思わず苦笑を零した。
「人が良すぎます……だから、勘違いをしてしまうのですよ」
「む?」
「いえ、此方の話です。……ああ、本当に心地の良い夜ですね」
さっ。士郎を下がらせ、魔眼殺しの眼鏡を外し、彼女は自身の髪の毛をかき上げた。
一瞬。
まさに、瞬きの間。
その間に彼女は自身の装いを変えていた。
紫色の眼帯。黒色のボディコン。そして両手には釘剣。鎖の付いた、釘剣。
「そこより前に進めると思わない事ですね。……今この身は、彼の為だけにある」
ライダーがその身を低く落とした。蜘蛛の様に低く、低く、だらりと。鎖が地面を這い、音を鳴らす。重力に従って、彼女の長髪も地面を這う。
一方で。相手はもう一本の太刀を抜いていた。構えるは2本の刀。つまりは二刀流。但しアーチャーや士郎の様な双剣用の二刀流ではない。日本刀での二刀流。
長い歴史を紐解いても、二刀、それも日本刀を扱う剣士は、そうはいない。
狙いは必中にて必殺。
求めるは一太刀。
二の打ち要らずの、ただの一撃。
勝負はきっと一瞬だろう。
夜は、まだ、終わらない。
おまけ(と言う名のNGルート)
「……飲まれるなよ」
「戯け」
鼻で笑う様な、気障な語調。
だが士郎を見る眼は。侮蔑も何も無い。真剣そのもので。
この世界の変容に、心から苦慮している面持で。
それ以上は何も言わず、士郎は柳洞寺を――――
後にする
⇒キャスターに挨拶だけする
「……お礼ぐらいは言わないとな」
アーチャーの見送りは無い。振り向けば、既に霊体化して消えた後だった。
まぁ、白髪ガングロ気障野郎の見送りなんて、最初から期待していない。それよりも、別に挨拶をしなければならない相手はいる。
キャスター。
いつ此方の世界に呑まれるかもわからない、仲間。
「ええと……」
キャスターの居場所なんてのは知らないが、おそらく結界がいくつも重ねられた先だろう、との予測は立てられる。
士郎はそこら辺の構造解析が得意だ。ましてや今のキャスターは、若干魔術の張り方が荒い。起点を探し、潜り抜けるのはそこまで苦労しない。
そうして。
目前には灯りのついた部屋。
最後にもう一つ結界を越えれば、多分着く。
挨拶だけして帰ろう。
そう考えて、最後の一つを越え、
「んほおおぉぉおおおおおおおおおおお!!! 宗一郎様ああぁぁあああああああああああああ!!! しゅきしゅきしゅきいいぃぃいいいいいいいいいいいいいいいい!!! んあっ♡ んあっ♡ んほ、んほおおぉぉおおおおおおおおおおおお!!!」
「……」
「んんんんんんんんんんんん!!! んんんんんんんんんんん!!! んんんっ!」
「……」
「んっ♡ んっ♡ んっ……ん?」
「……」
「……」
「……」
「……ぼ う や ?」