こんなふぇいとはいやだ   作:くまー

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執筆時は、これだけは絶対に描写したいって言うのを決めてから執筆しています。
そんな執筆をしているから更新が遅いんだよなぁ……申し訳ございません。

※20/5/10 誤字脱字修正


なな

 こんな世界になって一週間が経過した。

 怒涛と言えば怒涛だった。振り返ってみて、士郎はそう思う。

 様変わりした世界観。おかしくなった皆。知らない人と、行方不明になった人。そして全力で抗っている者。

 唯一変わる事無くマトモなのはアーチャーとキャスターくらいだ。だが、柳洞寺での情報共有以降、キャスターは引き篭もり外へ出なくなった。そしてアーチャーは姿をくらましている。電話しても出ない辺り、個人で動いているのだろうか……そうであることを士郎は祈るしかない。

 

 

 

 

 

「お兄ちゃんのお尻って形が良いのよね。引き締まっているけど、固すぎず、それでいてほど良い弾力があるの」

「私はお尻より胸ですね。シロウの胸は非常に魅惑的だ」

「先輩は無防備すぎなんですよ。この前もTシャツ一枚で出歩いていましたし……」

「士郎は自分の魅力を分かっていなさすぎね。あの姿で汗だくで筋トレしているところ見るたびに、タガが外れそうになるわ」

「汗でシャツが肌にへばりついて……うなじが光って……うへへ……」

「……むしゃぶりつきたいですね」

「……吸いたい」

「舐めたい」

「触りたい」

「揉みたい」

「挿れたい」

 

 

 

「「「「……襲う?」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■ こんなふぇいとはいやだ ■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……夢か」

 

 悪夢で目を覚ます。いや、夢で良かった。現実も充分悪夢だが。というか悪夢と同程度の現実とはこれ如何に。

 寝起きから阿呆みたいに痛む頭を押さえつつ、士郎は目を開閉する。少しずつ意識が明瞭になり、現実に追いついていく。比例するように世界が色と喧騒を取り戻した。

 

「衛宮、大丈夫か!?」

 

 誰かの焦ったような声。大丈夫だ。そう言って身を起こそうとし――――酷い眩暈に邪魔をされる。上げかけていた身体が重力の鎖に引っ張られる。

 ぐわんぐわん。視界が揺れている。はて、何があった? この頭痛と関係があるのか? 前後の記憶がない事に士郎は焦りを感じる。

 

「衛宮、あまり無理をするな! 落ち着け! 俺が分かるか!?」

「あ、ああ……一成だろ?」

 

 なるべく落ち着いた口調で言葉を返す。返しながら、少しずつ周りの状況が見えてきた。

 運動着姿の一成。場所は体育館。士郎を見る心配そうな目の数々。そう言えば体育の授業だったな。確か外は雨だったから体育館で女子はバスケ、男子は見学だったか。トンでいた記憶のピースが少しずつ埋まっていく。

 

「……すまん、少し意識がトンだみたいだな」

「ほ、本当にそれだけか?」

「ああ。まぁ、少し頭は痛むが……」

 

 ごめんなさいいいいいいい。すぐ傍で泣き叫ぶような声。そしてゴツッと何かがぶつかるような音。視線を向けると、土下座している女子が数名。なんとなく士郎は状況を把握した。

 

「避け損ねた、のか?」

「半分正解。ま、正確には避ける素振りすら無かったけど」

 

 呆れを大きく含んだ声。慎二。彼の発言を推測するに、飛んできたボールに気づかなかったのだろう。この日常に疲労を覚えていたとはいえ、ボールに気付かずに、あまつさえ失神までするとは、士郎にとっては不覚ともいえる失態だ。

 

「ったく、今日は一段と抜けているじゃないか――――痛って!」

「口を慎め!」

「……痛いじゃないか、柳洞」

「間桐が悪い」

 

 パシン。一成が慎二を軽くではあるが叩いた。変貌前では中々見ることは無い光景。どうもこの世界線では、一成が取り乱しやすい傾向にある。

 取り急ぎ、士郎は傍で土下座しているクラスメートへ声を掛ける。

 

「顔上げて。俺は大丈夫だから」

「で、でも……」

「平気平気。大したことないって」

「だったらせめて立ち上がれよな」

 

 確かに慎二の言う通りである。彼の口調は人によっては冷たさを感じるかもしれないが、言う事は間違っていない為、多少無理してでも士郎は起き上がろうとする。土下座されているのは、精神的によろしくない。

 だが、

 

「……む」

「え、衛宮! やはり具合が悪いのか! しっかりしろ! 落ち着いて掴まるんだ!」

「柳洞の方が落ち着け。衛宮。ほれ。これ、何本に見える?」

 

 立ち眩み。視界が揺れて、思わず士郎はしゃがみこんだ。

 焦る周囲。女の子の悲痛な声。

 そして目の前に人差し指と中指を出される。

 

「2本、だな」

「まぁ、強がっているわけじゃなさそうだな」

「うむ……しかし、やはり診てもらった方が良いのではないか?」

「それには僕も同意見だね。ほら、立てるか?」

 

 差し出された手。この期に及んで意地を張る事に意味は無い。

 士郎は自身の失態を自覚すると、素直に好意を受け入れた。慎二の手を掴んで立ち上がる。

 

「思ったより疲れているみたいだ。心配かけるのも悪いし、一旦保健室に行って来る」

「そうしろ。付いて行くよ」

「その必要は無いさ。大丈夫」

「申し訳ございません!」

「いや、本当に大丈夫だから。君は何も悪くないから」

 

 此処にいると別の意味で疲れてしまう。

 どんな形であれ、邪魔をされずに大手を振って休める時間を得られたのはプラスだろう。

 そう士郎は自身に言い聞かせる。疲れているのは実際のところ事実だ。頭も体も重い。休息の地であるはずの家ですら、何だか気が休まらない。自覚している以上に疲労が溜まっているのは明白だ。

 

「うぅ……寒っ」

 

 呻き声を零しつつ、ゆっくりと歩く。大雨のせいか、外廊下は異様に寒い。だが大雨のおかげで、無遠慮な視線の数々はシャットされている。誰も見ていないので気を張る必要も無い。

 見られる。言葉にすればたかだか4文字のその行為が、積み重なればいやに負担になる事を、改めて士郎は思い知った。

 そして改めて思う。年中ああいった視線を浴びて、ストレスをおくびにも出さずに振る舞っていた遠坂って、すごかったんだなぁ、と。

 

「馬鹿言ってんな」

 

 自身を叱咤しつつ、誰もいない廊下を歩く。授業中だからか、或いは雨のせいか。校舎内は昼前だと言うのに静かなものだ。……静かすぎて、逆に不気味である。まるで異世界を思わせる。

 

「……頼むから、何も起こるなよ」

 

 まぁ、無理だろうけど。口に出した言葉を脳内で否定する。悲しいかな。素直にこの願いが聞き届けられる可能性を信じるには、士郎の心はこの世界に汚され過ぎてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言ってしまえば、士郎の予測はいい意味で裏切られた。

 保健室には誰もいなかった。本当に、誰も。特にどこかに行っているなどの書き置きも無く、無人。

 まぁいないならいいか。これ幸いにと、士郎は空いていたベッドに横になる。思いとは裏腹に身体は疲れていたのか、眠りに落ちたのはすぐだった。

 この世界で、無防備にも寝こける。

 それは腹をすかせた猛獣がいる檻の中になんの装備も無しに入るに等しい所業。

 それでも、生理的欲求には抗えない。

 ヤバいかも、と思わなくも無かったが。それよりも先に、意識が落ちた。

 ……で。起きても何も無かった。

 

「あ、16:00……」

 

 いや、何も無いと言うのは間違いだ。問題はあった。16:00。普通に今日一日の授業が終了して、もう放課後の時間帯。体育は4時間目だったので、そのまま残りの授業は全てサボタージュだ。やってしまった、と。思わず士郎は頭を抱えた。

 ……まぁ、頭を抱えても仕方が無い。

 士郎にとっては幸いと言うか、体調不良である事は皆の周知の事実だ。休んでしまった授業の分は、一成なり慎二なりにノートを見せてもらえば問題は無い。

 自らの失態にそう折り合いをつけて、士郎は溜息を吐き出した。

 

「……帰るか」

 

 カーテンを開けると、傍に士郎の持ち物が置いてあった。そして書置き。『置いておくぞ』。一成の字だ。

 親友への感謝とありがたみを噛み締めつつ、緩慢な動きで士郎は戻る支度をする。体操服を脱ぎ、制服姿へ。それにしても身体が重いなぁ、なんて。眠ったにも関わらず変わらない調子に辟易する。

 

 特にその後も、問題は起きない。

 

 別に着替え中に誰かが入って来る事は無く。

 帰りの校舎内で誰かに会うことも無く。

 ざぁざぁと降り続ける雨の中、1人ゆっくりと帰路に着く。

 雨のせいか人の外出も殆ど見えず、あれほどにストレスに感じていた視線も無い。

 至って――――平和だ。

 

「……寝ている間に、全部元に戻っているとか」

 

 なんて幼稚で身も蓋も無い願望だろうか。口に出して、すぐに士郎は否定した。そんな簡単に戻ることを期待できる状況だったらこんな苦労はしていない。

 世界の変貌。

 一個人の魔術程度では無しえないクソみたいな奇跡。

 それこそ聖杯を用いてまでしなければ決して叶うはずも無い。

 いや、例え聖杯を用いたとしても、そう易々と叶うはずが――――

 

「……いや、待てよ」

 

 足を止める。思考を戻す。

 聖杯。

 冬木市には、本物では無いが聖杯がある。

 冬木の大聖杯。聖杯戦争に用いるために用意された、人工の願望機。

 だが冬木の聖杯は汚染され、最悪の願望機と成り果てた。まともに願いが叶えられることは無い。

 だけども、例えば。その聖杯に世界の変貌を願ったら――――どうなる?

 

「最悪の形で願いが叶うなら、こうなるのか?」

 

 いや、それはどんな願いだ。世界を混沌に満たせとか、そう言う事だろうか。

 だがそれならば、士郎とておかしくなる。この世界に染まるはずだ。なら、冬木の聖杯を使った所業では無いのだろうか。……いや。否定に否定を重ねるが、士郎が無事な理由が分からなくなる。

 士郎が関わっている時点で、冬木市に何かが起きたのだ。そう考えると、汚されたとはいえ、あの聖杯も関わっていないとは言い切れないところがある。

 

「……行くか」

 

 踵を返す。

 幸いにして大雨。今なら人目に付く可能性は低い。

 目的は柳洞寺の、大聖杯。

 柳洞寺となるとあのアサシンに出会う可能性はあるが、リスクを恐れては手に入る物も無い。

 ……とは言え、

 

 ――――必ず迎えに行くわ!

 

 脳裏にアサシンのあの宣言が過り、思わず身震いする。あのアサシンは士郎に対してマイナスなイメージを持っていない。寧ろかなり好意的だ。士郎が引くくらいに、彼女は好意をぶつけてくる。

 なら、それに応えたらどうなるのだろうか。……いや、無理だ。すぐに士郎は己の考えを否定した。人の好意を利用できるほど、士郎は賢しく、或いは利己的に立ち回れない。士郎は自身が不器用な人間であることを理解している。

 かと言って、出会った瞬間に拒絶するのも問題だろう。何せ世界はこんな状況だ。逆上して何をされるか分からない。

 捕えられ、監禁され、最悪人形として……と、恐ろしい想像ばかりが膨らむ。

 

「セイバーかライダーについてきて……いや、ダメだろ」

 

 頭を振って選択肢を消す。彼女たちは願えば喜んで助けてくれるだろう。士郎の為に動いてくれるだろう。

 だが確証も無いままに連れまわし、危険な目に遭わせることを士郎は良しと出来ない。聖杯戦争中とは違うのだ。あの時はサーヴァントによる被害を出さないと言う考えで夜の冬木市を歩いたが、今回は違う。士郎が余計な動きをしなければ、特に問題は起きない……仮に問題が起きたとしても、被害は衛宮士郎に向かうだけだ。それで死ぬような目に遭う可能性は低いだろう。……多分。

 故に。彼女たちに頼るのならば、自分一人ではどうしようもないという確信を持ってから。

 そうでもないのに無暗に連れ回すことは出来ない。

 

「どうしたもん……っ!?」

 

 悪寒。

 言葉にすれば、ただのそれだけ。

 だが指向性を持ったそれは、充分な異常だ。

 何より。この観察するような、舐める様な。そんな感覚を幻視してしまう時点で、相手が友好的ではない事は確定だ。

 この世界で他者より浴びるものとは違う。決定的に異質。

 ――――喰われる。

 それは酷く端的な表現だ。イメージの一部。だがハッキリと。士郎は幻視した。捕食者と被食者。勿論……ここでの被食者とは士郎の事。

 

「ほう、気付くか」

 

 耳元での声。女性の声だ。だが振り返っても姿は見えない。しかし士郎に語り掛けているのは間違いない。

 遠方からの魔術行使。

 撃鉄を落とし、魔術回路に魔力を流す。体内に循環する魔力。しかし目視できる範囲で、目立った魔力は見つからない。士郎は誰よりも魔術的な異常に聡い。結界や姿を消す程度であれば、師である凛よりも先に察知できる。それでも分からならなければ、察知外の遠方からとなる。

 何にせよ、相手は士郎とは比にならない力量を持つ。普通に戦っても敵わないのは明白だ。

 なら、どうする?

 

「……強化、開始」

 

 脚力の向上。

 三十六計逃げるに如かず。

 戦闘行為になるか、あるいは隠れるにしても。こんな住宅街で、無暗に人を巻き込めはしない。

 何れを選ぶにせよ、せめて誰も居ないところへ行かなければならない。

 

「抗うか。その意気や佳し」

 

 またも耳元で声。士郎の狙いは完全にバレているらしい。この分なら、例え令呪を使おうとも即座に察知するだろう。効力が実を結ぶ前に潰されるのは想像に難くない。

 ぬかったか。自身の失態に悪態を吐きたくなる。こんなことなら余計な事を考えずに帰るべきだったか。……だが相手が問答無用でぶちのめしに来ないのなら、まだやりようはあろう。

 士郎は己を無理矢理に奮い立たせると。傘も鞄も全てを放り投げ、そのまま全力を以て住宅街を走り抜ける。

 

 

 

 目標は――――悪寒の先。

 即ち、敵の懐。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 別に士郎には確信があったわけでは無い。

 だが無暗に手を出してこないのなら、情報の招集が出来るかもしれない。

 それは余りにも分の悪すぎる賭けだが、逆を言えばこの世界の膠着状態を穿てるかもしれない千載一遇のチャンスでもあった。

 ベットするのが己の安全のみなら、士郎は躊躇わない。

 

 

 

 辿り着いたのは、冬木大橋。

 いや、正確には悪寒はその先だったのだろうが、相手が出向いてきていた。

 大雨のせいで誰も居ない歩道。そこで士郎は、1人の女性と対峙をした。

 士郎と同じくらいの身長。女性的な魅力と、戦士としての鍛え上げられた体躯。黒い戦装束。

 そして眼。何もかもを見通すような、深紅の眼。

 

「アンタか」

 

 疑問の体ではない。断定だ。士郎はあの悪寒の正体が彼女であると確信していた。それ故に、余計な問答挟まない。

 

「何の用だ」

 

 くくっ。何が面白いのか、相手は笑った。僅かに身体を震わせ、目に喜悦の色を宿した。それは絶対的な余裕から来るものだった。そしてそれが分からない程士郎は愚鈍ではない。

 

「中々どうして、面白い者がいる」

 

 女の手には、いつの間にかに一振りの槍が握られていた。

 深紅の魔槍。

 士郎は知っている。その槍を。正確に言えば、士郎が知っている槍よりも古いようだが、いずれにせよ同系統であろう。

 つまり。彼女は士郎が良く知る人物に、ゆかりのある人物。

 ――――アサシンやランサーを頼るよりかはマシだ。

 1週間前の柳洞寺で。アーチャーはそんな事を言っていた。

 

「ランサーか」

 

 黒と白の夫婦剣を投影する。士郎自身にとって、一番手に馴染む武器。元はアーチャーの武装だが、未来の自分が辿り着いた最適解だ。

 敵う、敵わないじゃない。

 全力で抵抗しなければ、殺される。

 殺気も敵意も無いのに。ロクに言葉を交わしていないのに。士郎はそう直感した。得体のしれない目前の相手に、全力での抵抗の意を示した。それは見ようによっては過ぎたる警戒も知れないが、

 

「力を見せるがよい、勇士よ」

 

 だがその士郎の判断は、全く以って正解だった。相手はにこやかに目尻を下げながら、しかして流れるような所作で槍を構えた。その穂先が士郎の心臓へ向けられている。ピタリと、ブレることなく、向けられている。

 それが意味する事は、即ち。

 降伏は認めない。全力で抵抗しろ。

 

 

 

「出来なければ、お前の命を貰うまで」

 

 

 




おまけ(と言う名のNGルート)


 士郎は己を無理矢理に奮い立たせると。傘も鞄も全てを放り投げ、そのまま全力を以て住宅街を走り抜ける。
 向かう先は――――

 悪寒の先
⇒柳洞寺

 士郎は当初の予定通り柳洞寺へ向かう。柳洞寺には土地に根ざした優れた結界が張ってある。加えてそれはキャスターの能力で強化済みだ。
 相手が自分よりも格上なのは間違いない。ならば、まずは迎撃が出来る様な地の利を確保する。

「し、士郎君!?」

 ……自身の名前を聞き、思わず立ち止まった彼を誰が責められようか。そこは士郎自身の人の好さが出てしまった。だが今は異常事態。名前を言われたということは顔見知りだ。俺はいいから早く家に帰れ、と。そう言おうと振り返り、

「な、なんでびしょ濡れなの! 誰かに襲われたの!? もももしかしてサービス!? 据え膳喰わぬは女の恥ね。ありがとうございます!」
「……っ!」
「に、逃げなくても大丈夫! この宮本武蔵! 天に誓って何もしないわ! ちょっと一緒に人肌で暖め合おうってだけ! 布団の中で! 平気だよ! 本当に! 何もしないから!」
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