藤丸立香は夢を見る。
それは、
そこには悲劇があった、嘆きがあった、悲しみがあった、憎しみがあった、怒りがあった。
そこには、光を犯し、蹂躙し、恥辱の限りを繰り返す畜生と、それを見て笑う燃える三つの目を持つ暗黒の神がいた。
その神はある目的のため、舞台を、
そのために世界を廻し、白と黒の王を生み出し、永遠輪廻にも思える試行を繰り返し、世界を、宇宙を、
――だがしかし、神の目論見は失敗する、ほかならぬ自身が生み出した王の手によって
憎悪の空より現れ、正しき怒りを胸に、魔を断つ刃を振り下ろす白の王が神を打倒したのだ。
――それは、荒唐無稽な
――それは、ありきたりな英雄譚。
――それは、誰もが望んだ
魔を断つ刃、最弱にして最強の機械神、マスター・オブ・ネクロノミコン
人と機械と魔導書の三位一体の旧き神。
魔を断つ刃に終わりはない、ありはしない。
彼らの存在はいまだ健在である。
だがしかし、何度打倒されようと、何度倒されようと、あの神は――ナ■■ー ラ■■プはその邪悪なる願望をあきらめることはなかった。
藤丸立香は夢を見る。
魔を断つ刃、最も新しき旧神が、邪神と相対する光景を……
無数の触手が鋼鉄の人型へと迫る。
その数は、視界がそれで埋まるほど膨大で、鋼鉄の人型に逃げ場などありはしなかった。
一つ一つの触手には漆黒なる殺意が濃縮されており、ひとたび触れてしまえばどんな存在もひとたまりもないだろう。
だが、この光景を見ても、鋼鉄の人型は逃げも隠れもしなかった。
瞬時に己が右手に
しかし、ただただそれを観客のように見ている邪神ではなかった。
常人が聞いてしまえば、即座にその心身を食い尽くされるであろう言霊を、触手に無数の口を生み出し紡ぎ始める。
紡がれた詠唱は、魔術となり、
世界を犯す闇の言葉によって放たれるその技は、どれもこれも一撃必殺。
並みの存在では、掠っただけでその存在を無に帰すだろう。
四方八方逃げ場をなくすように迫りくる無数の悪意に、鋼鉄の巨人は魔術で対抗する。
先ほど出現させた
攻撃が命中する。
一撃目、無数の刃を結界が防ぐ。
二撃目、無数の爆発により結界に
これに鋼鉄の巨人は並行世界より無限の魔力をくみ上げる心臓部を全力稼働、あふれ出る魔力によって即座に罅を修復、三撃目である閃光を防ぐことに成功する。
すべての攻撃を防ぎ切り、一安心することもなく鋼鉄の巨人は反撃を開始する。
鋼鉄の巨人は、邪神が紡いだ言霊ににた呪文を紡ぐ、それにより召喚されるは二挺の魔導拳銃。
結界用に召喚した複数の
鋼鉄の巨人が二挺の力を構え、人と魔導書が謡う。
「「イア クトゥグア イア イタクァ!」」
二丁拳銃から、弾丸が発射される。
クトゥグアから発射された六発の弾丸は周囲の触手を灰燼と化しながら迫り、その間をイタクァより発射された弾丸がすり抜けるように飛んでいく。
この攻撃に、邪神は時の力によって対処する。
ド・マリニーの時計。
それは、世界を何度も回す際に使用された術式。
効果は至極単純、時間の操作である。
それの効果により、邪神へと向かっていた弾丸は巻き戻るように鉄の巨人へと帰っていこうとする……が、それを予測していた鋼鉄の巨人は己も同じ術式を発動させ、無効化する。
そうして弾丸は邪神の肉へと着弾する。
周囲には焼けた肉のような悪臭が広がっていき、触手の動きも鈍り邪神は気味の悪い声を出しながら悶えている。
これを好機と見た鋼鉄の巨人は、脚部の術式を展開、空間を歪曲、その際に発生する反発力を持って急速に加速し強烈な蹴りを叩き込んだ。
「アトランティス・ストラィィィク!」
それにより吹き飛ぶ邪神。
だが、邪神は突然に急停止した。
停止する邪神をよく見ると、そこには糸のようなものが邪神を拘束していた。
それは、鋼鉄の巨人が新たに紡いだ拘束の魔術であった。
何とか逃れようとする邪神だったが、それを許す鋼鉄の巨人ではない。
邪神をを倒すために、邪神に尊い光を犯させないために、鋼鉄の巨人は――
その背には、巨大に輝く五芒星。
「光刺す世界に、汝ら暗黒、住まう場所無し」
掲げる右手に動力部、
本来は周囲に被害を出さないようにする結界は張ることはせず、掲げた右手を邪神へと向かわせる。
「渇かず、飢えず、無に還れっ!」
それは、
「レムリア・インパクト!!」
逃しようがない無限熱量が邪神を襲い、魔導書が終わりの言霊を叫ぶ。
「昇華!」
その瞬間、邪神を中心に大規模の爆発が発生する。
発生した無限熱量の大爆発によって周囲を埋め尽くしていた触手は跡形もなく消え去り、
「この世界で悪事を働いていた悪鬼は打倒したな、九朗」
「ああ、これでこの世界は大丈夫なはずだぜ……アル」
これでこの世界は安心だ、そう思っていた二人であったが、邪神がいた場所から突如として漆黒と呼ぶにふさわしい色の穴が発生した。
「なんだ……!?」
「これは……奴の最後の悪あがきか!?」
黒い穴からは複数の黒い手が現れた。
現れた手は
「バルザイの偃月刀!」
再び鋳造した偃月刀でその手を切り裂こうとするが、偃月刀は手をすり抜けてしまう。
「何ィ!?」
手は
「九朗から離れろ!」
そばにいた紫髪の少女、アルと呼ばれた少女が抵抗しようとするが、ほかの黒い手が彼女を一冊の本へと変えてしまった。
『なんだと!?』
少女が驚くのもつかの間、九朗と呼ばれた青年は、デモンベインをすり抜け黒い穴へと引きずり込んでしまった。
「アルーーーーー!」
『九朗ーーーーー!』
九朗が穴に消え、そこには一冊の本とデモンベインだけがそこに残った。
「今のは……夢?」
カルデアのマイルームで藤丸立香は目を覚ました。
なにやらとてつもない夢を見ていた気がするがとても現実的ではなかった。
カルデアにやってきてサーヴァントと呼ばれる英霊や特異点、人理焼却など、超常的な事柄には慣れた立夏ではあったが、この夢のようなものに関しては未知の体験であった。
「ん?」
ふと、立香は寝ていたベットに目を向ける。
すると、ちょうど立香の腹部のあたりに何やら膨らみが見える。
肌から感じる感触から、長方形の何かのようだった。
意を決して掛布団を剥ぐと、そこには先ほど夢で見た一冊の本があった。
「これって夢の……?」
立香が本を手に取り表紙を見ると、そこには何やら文字が書かれてはいたが立夏には読むことができなかった。
試しに中身を読もうと表紙に手をかけようとした瞬間、突如本が光りだし喋りだした。
『このうつけが!? 汝のような人間が妾を読もうとするでない!』
「うわっなに!?」
光が晴れると、そこには先ほど夢で”アル”と呼ばれていた紫髪の少女が現れた。
「おのれぇ……邪神めぇ……何とか九朗を追っては来たものの、このような場所に出てしまった……」
「い、いったい何が……」
混乱する立夏、ぶつぶつと何者かに恨み言をつぶやく紫髪の少女、カルデアの一室で何とも混沌としている空間が形成されていた。
そこに、一人の少女がマイルームへやってきた。
「先輩! 大丈夫ですか!? 先ほど何やら強大な魔力反応が発生したのですがって……あの子の方は?」
それは、デミサーヴァントと呼ばれる存在の少女、マシュキリエライトだった。
「じっ自分にも何が何だか……」
「おい! そこの汝」
「はっはい!?」
困惑する立香に、紫髪の少女が話しかけてきた。
「妾の名はアル・アジフ。 軽く見たところ、汝らも魔術に所縁があるようだ……ちょうどいい」
「ちょっちょうどいいって?」
すると紫髪の少女は、意を決したようにこう言った。
「妾の伴侶を助け出したいのだ、どうか協力してほしい!」
これが魔を断つ刃とカルデアの初の会合の瞬間であった。