「肉じゃができまちたよ、次の注文は何でちか?」
「天むすだそうだ! 紅先生!」
「了解でち!」
「相も変わらず生が出るわねー、閻魔って名前のやつは真面目じゃないとだめってルールでもあるのかしら?」
カルデアの食堂で、ゆったりと緑茶をすする少女がいた。
大きな赤いリボンに脇を露出した紅白の巫女服という奇抜な服装をした彼女の名は、博麗霊夢。
ここカルデアに、サーヴァントとして呼ばれた少女だ。
まぁ、正確に言えばサーヴァントではないのだが、それは置いておくとしよう。
そんな彼女にしゃべりかける影があった。
カルデアの制服に身を包んだ青年である。
名を藤丸立香、カルデアに存在する唯一のマスターである。
「ん?、霊夢がいたところにも閻魔様がいたの?」
「ええいたわ、めんどくさい奴がね……」
眉をひそめながら霊夢はそういった。
「霊夢がそんな顔するってことは、そんなに?」
「ええ、会うたび会うたび説教されて大変だったわ……」
霊夢はそのことを思い出したようで、うんざりした顔になっていた。
そんな霊夢のもとに、調理場で料理をしていた赤髪の少女がやってきた。
紅閻魔と呼ばれるセイバーサーヴァントである。
「おや、幻想郷の閻魔様の話でちか? 興味ありまちね、あちしも聞いてみたいのでちが、いいでちか?」
やってきた紅閻魔の顔は、興味津々なようだった。
「紅閻魔さん、もう食堂のほうはいいの?」
急にやってきた紅閻魔に立夏がそう聞くと
「エミヤ殿と変わってきまちた」
紅閻魔はそう答えた。
「それで? 幻想郷の閻魔様はどのような方だったのでちか?」
紅閻魔にせかされて霊夢は話始める。
「名前は四季映姫・ヤマザナドゥ。 能力は……白黒はっきりつける程度の能力だったかしらね」
「程度の能力って霊夢の空を飛ぶ程度の能力みたいな?」
「そ、幻想郷のやつは大体能力を持ってるわ、で、映姫の能力は名前の通り白黒をはっきりつける能力のこと」
「白と黒?」
「いいか悪いかって意味よ。で、自分の中に絶対の基準があるらしくて、地獄の裁判では浄瑠璃の鏡と合わせてすぐに判決が出るそうよ」
「すぐに判決が出るということは、幻想郷では十王裁判はしないのでちか?」
「あー幻想郷ではしないらしいわよ? なんでも映姫の決定は絶対だからって三途の川の橋渡しのサボり魔の死神が言ってたわね」
霊夢の脳裏には、三途の川のほとりで眠る死神の顔が浮かんでいた。
「死神がサボりとは……幻想郷の閻魔様は苦労されているでちね……」
霊夢の言った死神のことで紅閻魔は呆れている。
「幻想郷ってところは平和そうだね」
立香は霊夢にそう言った。
霊夢は少し考えてから答える。
「うーん……平和っていえば平和だけど、たまーに面倒ごとを起こす奴らが多くてねぇ……解決する身にもなってほしいっての」
「へぇ~どんな人たちがいるの?」
立香は幻想郷で騒ぎを起こす者たちに興味を持ったようで、霊夢にそう聞いた。
すると、霊夢は顔を少ししかめながら口早に答えた。
「そうねぇ……紅魔館の吸血鬼でしょう、白玉楼の亡霊に妖怪のところにある早苗んとこの神社。ほかにも旧地獄のヤタガラスに鬼、妖怪寺とか……あと不良天人とか、色々いてほんとに大変なのよ」
「吸血鬼に幽霊に神の使い、亡霊に天人……幻想郷とは本当に様々の者たちがいるようでちね」
「ほんとに大変なのよ、この間だって、吸血鬼のレミリアのやつがまた異変を起こそうとしたりして……」
霊夢が幻想郷でのことを語り始めると、やれ吸血鬼が、やれ天人がと、その口は止まることを知らず、そのまま十分ほど話し続けた。
「それで天使のやつが……って何笑ってんの立香!」
途中、霊夢の話を聞いていた立香が笑っていることに気づいた霊夢は立香に詰め寄った。
立香は少し身を引きながらこう答えた。
「いやだって、霊夢楽しそうだったから」
立夏の言葉に霊夢は口をひらき、一瞬ぽかんとした顔になった。
「は? 楽しそう? 私が? いや……いやいやいやそんなことないわよ!? だってあいつらのせいで私がどれだけ疲れたことか!」
「でも、嫌いじゃあないんでしょ?」
「そんなわけないでしょ!? 大っ嫌いよあんな奴ら!」
霊夢がそう否定すると紅閻魔が
「嘘、でちね」
と霊夢の言葉を否定した。
「嘘じゃないわよ! 私のゆっくりとした時間を毎度毎度ぶち壊すのよあいつら」
否定された霊夢は口早に弁明する。
「この紅閻魔に、嘘は通じないでちよ? でも、このあちきでなくともすぐにわかったことでちょう」
だが、嘘を見抜く紅閻魔は、真実を看破する。
紅閻魔の名の通り、閻魔の前では嘘は通用しない。
「そうだよ、だって霊夢そんなこと言ってるけど――笑ってるじゃないか」
霊夢の顔は先ほど話始めたときとは打って変わって、頬を緩めていた。
「はぁ!? ななな、なにを言って」
「だって、ほんとうに嫌いだったら、笑いながら話続けられないでしょ? 十分も」
「ぐっ」
押し黙る霊夢に、紅閻魔が追撃をする。
「嫌よ嫌よも好きのうちってことでちね」
「んぐ!?」
「こういうのをツンデレっていうのかな」
「ぐお!?」
怒涛の立夏と紅閻魔の言葉に、霊夢は机に突っ伏しプルプルと震えていた。
「あれ? 霊夢?」
「どうしたでちか?」
何も言わなくなった霊夢に、二人が心配の声をかける。
何かあったのかと二人が思う中、突如として霊夢は叫び声を上げながら立ち上がった。
「ああああああああああああ」
「うわ!?」
「なにごとでちか!?」
二人が驚き戸惑う中、霊夢は二人を置いて足早に食堂から出ていってしまった。
……顔を真っ赤にしながら。
「悪いことしちゃったかな?」
「でちかね」
さて、これはカルデアでの安らぎの一場面。
幻想の都よりやってきた少女と星詠みの最後のマスターの優しげな日常。
楽園の素敵な巫女は、異邦の世界でもふわりふわりと空を飛ぶ。