「さぁて、いよいよラスボスと行きましょうか」
布団をかぶり、その中でお菓子を食べながら携帯ゲーム機でゲームをする。
それは、私にとって何事にも代えられない至福のひとときである。
ゲームはとてもいい、15の年月を過ごしてきた私に潤いを与えてくれる。
私と同年代であろう者たちは、外のコロシアムやテレビで血沸き肉躍るという戦いというものを見ているのだろうが私には関係はない。
私にはゲームとお菓子、それと寝床さえあればそれでいいのだ。
我ながら女として終わっている気がしなくもないが、まあ、いいだろう。
ゲームの局面はいよいよハイライト、今まさに赤い帽子をかぶった髭の配管工のおっさんが、囚われたピンク色のお姫様を救うために、ラスボスである亀のような魔王を倒すというシーンだ。
「当たる当たる、あっぶなあと少しで死ぬとこだった」
魔王の攻撃でおっさんが小さくなってしまって、あと一撃食らえばゲームオーバーという瀬戸際。
私は意を決してボタンを押して魔王の攻撃をかわし、とどめを刺そうとした。
その瞬間であった。
私がかぶっていた布団が、引っ剝がされてしまったのだ。
「あっ」
それに驚いてしまって、魔王の攻撃に当たってしまい、髭のおっさんは燃えてしまった。
画面に映るはゲームオーバーの文字、軽く呆然とする私に男の声が聞こえてきた。
「マスター、いい加減布団の上でお菓子を食べるなと何度も言っているだろう」
視線をこえの方向へ向けると、華やかなエプロンを身に着けた、白髪の男が私の掛布団を手に持って立っていた。
普通であるならば、仮にも女である私の部屋に勝手に入ってくるであろう男は犯罪者だろうが、残念だがこの男は違う。
なぜなら、
「アーチャー! 今いいところだったのに何するのよ!」
「何度も呼び掛けたのに反応しなかった君が悪い、朝食ができた。 今すぐに部屋から出てきたまえ」
アーチャーがそう言うと、ドアの向こうからいい匂いがやってくきた。
私が、壁にかかっている時計を見るとその針は朝の7時30分を指していた。
「うっわぁ……ほんとだもう朝だ」
「はぁ……わかったのならば早く着替えたまえ」
アーチャーはやれやれとため息をつく。
ぶっちゃけため息をつきたいのはこちらなのだけど、夜通しやっていたせいで疲れているしおなかもすいているので、観念して着替えることにしよう。
「……はーい、じゃあ着替えるから部屋から出て行って」
「了解した、ああ」
「どうしたの?」
部屋のドアから出ようとしたときアーチャーが立ち止まった。
なんだろうか。まだ何か言われるのだろうか。
「マスター、下着はクローゼットの下の段に入れておいた。 いつものところには置いてはいないから気を付けたまえ」
そう言うとアーチャーは部屋から出ていった。
私は扉を閉めてからクローゼットの下の段を開ける。
そこにはきれいにたたまれた下着たちが鎮座していた。
今着ている寝間着を脱いで渡井は着替え始めた。
……冷静に考えると、長年暮らしているとはいえ男に下着を洗ってもらうのはどうなのだろうか?
「まぁ、いっか」
着替え終えた私は、扉を開けてリビングへと向かった。
かつて戦争があったらしい。
名付けられた戦争の名前は、聖杯戦争。
魔術師と呼ばれる者たちが行ったらしい。
らしいというのは、その戦争は私が生まれる前に行われたからだった。
その戦争のおかげで、世界は再構成どこもかしこも大変なことになったらしいが、ぶっちゃけ私はどうでもいい。
昔と今、どちらを優先するべきかなんて明白なのだから。
さて、私とアーチャーはリゾート地であるここ、臨海都市《秋葉原》に存在する高級マンションの一室に住んでいる。
住んでいる言ったけど、基本的には部屋でぐーたら過ごしているので引きこもりということになるのだろう。
聖杯戦争の影響で、全人類の心臓には聖杯と呼ばれ者が宿っている。
それは、全人類を老衰や遺伝子劣化、感染症、ウイルス、悪性腫瘍などを防止するとと共に不老不死の効果をもたらしたのだった。
まぁ、不死といっても大きなけがを負えば死んでしまうのだけれど。
それともう一つ、心臓にある聖杯はある効果を持っている。
それは、サーヴァントと呼ばれる者たちを召喚することができるようになるという効果だった。
(でも……とても英霊って呼ばれる存在には見えないんだよなぁ……)
アーチャーが用意してくれた朝食を食べながら思う。
見事な包丁さばきでデザートであろう果物を切っているその光景は、歴戦の戦士というよりは書府のように見える。
――英霊
英霊の座と呼ばれる場所に刻まれた超人、今から何年も何千年も昔を生きていろいろ成し遂げた存在のことだ。
例えば、おそらく世界で一番有名な武器だろう聖剣エクスカリバーを振るった騎士の王、アーサーペンドラゴン。
例えば、ウルクと呼ばれた国を治めた王、ギルガメッシュ。
例えば、ギリシャの十二の試練と呼ばれる難題をこなしたヘラクレス。
私が、英雄と呼ばれる存在を表す中で最初に浮かぶのはこの三人である。
といっても主に私がよくやるゲームに出てくるという理由が一番強いのだけど。
「デザートだ」
「ありがとう」
切ってくれた果物を食べる。
みずみずしい果肉が私の口の中へと入っていく。
アーチャーは私が食べ始めると、先ほど食べた朝食の後片付けを始めていた。
ちなみに朝食は、トーストとサラダにスクランブルエッグ。
「さて、今日はどうするんだね? マスター」
アーチャーが片付けながら私にそう聞いてくる。
「うーん、どうしようかな」
またゲームをする? いやいや、アーチャーにまた何を言われるかわからない、彼は何というかゲームにも出てくるオカンと呼ばれる人なのだ。
そんなことをすれば、きっと口からは止まらないお小言が来るだろう。
ならどうしようか……そう思った時、私の脳内にある人影が浮かんできた。
「うん!決めた カレンさんのところ行ってみようか」
カレン、その名前を出すとアーチャーは決まって少し顔をしかめる。
何かカレンという名前に嫌な思い出もあるのだろうか。
遅れて了承の返事が返ってきた。
「じゃぁ、いこっか!」
片づけを終えて霊体化アーチャーと共に目指すは秋葉原中層部にある、繁華街から離れた場所の教室だ。
教室につくと、そこには独特な服装の銀髪の女性が立っていた。
教室の席に目を向けてみれば、空いた席がよく目立った。
それでも椅子に座っている人たちの年齢は様々で、この教室があまり人気ではないことを示していた。
ここで行われているのは旧人類史講座、戦争前の歴史とか間違ったこととかを学ぶ講座だ。
といっても私の目的はこの講座ではない。
ここの講師であり、この秋葉原を統治している管理AI、カレン・フジムラに用があるのだ。
でも、最初ここに来た時に彼女の名前を聞いたアーチャーが何だかひどく驚いていたのはなぜだったのだろうか、いまだに教えてくれないのだが、まぁ、今は置いておこう。
私は、元気よく挨拶をする。
「おはようございますカレン先生!」
「おはようございます、レイナさん。 今日もいつものですか?」
「はい」
「では、今日の講座が終わるまで近くで待っていてください」
「わかりました」
私は少し離れた場所にある椅子に座った。
すると、小声で霊体化したアーチャーの声がした。
(マスターは相変わらずゲームが好きなのだな)
「当り前じゃない、ゲームは人類が生み出した叡智の一つよ」
小声でそう返す。
そう、私の目的はいまだに知らぬゲームを知るということだ。
というのも、カレン先生は昔の歴史だけではなく、それ以外の知識持っているのだ。
そこには当然サブカルチャーの知識も存在する。
それに目を付けた私は、たびたびカレン先生と雑談をしに来るのだ。
(平和でいいことだな……おや珍しい、彼女が遅れてくるとは……ん?後ろにいるあの金髪の少年は)
アーチャーがそう言うと、教室のドアを開けてやってくる少女の姿があった。
いつもなら一人でやってくる彼女なのだが、今日は金髪の少年と一緒だ。
珍しい、来るたびに必ず彼女は時間通りに席に座っていたのに今日は少し遅れてやってきた。
後ろに連れているあの金髪の少年が原因だろうか。
彼女は慌てて席へと着いた、金髪の少年と共に。
(まっ私には関係ないか)
そう思っていると、カレンさんの講座が始まった。
――これが、何気ない彼女と私の見えない関係であった。
彼女エリセと私レイナの道筋が交差するとはこの時夢にも思わなかった。