咆皇哮唱ラウルサーガ   作:ジャス、キディン

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ただの息抜き程度なので、更新頻度は低めです。アンチヘイトは念の為です。主人公の立場上、そのような描写になってしまうやもしれないので。


邂逅。

『響ちゃん、何があるか分からないから気を付けてね』

「大丈夫ですよ、あおいさん。そんな危険なんて、そうそうにありゃしないです!」

 

 

 快活な笑みを浮かべて、制服の少女は人通りの欠片も無い荒道を歩いていた。

 

 その日、少女立花響(たちばなひびき)は特異災害対策機動部二課に所属するシンフォギア装者としての任務で、彼女の登校している私立リディアン音楽院高等部の元校舎兼二課本部の跡地にしてカ・ディンギルの残骸――少女の実感からして少し前の出来事の残留――が聳え立つそこに訪れていた。

 

 今は海中の潜水艇へとその拠を移した二課のセンサーに、この地点での何らかの痕跡が反応したが為に、その調査へと彼女は駆り出されたというわけである。

 

 

『それにしても、二課の記録にないシンフォギアなんて⋯⋯』

「珍しいことなんですか?」

『それはそうよ。だって、シンフォギアはその絶対数こそ少ないんだから。見つかっていない物を含めた聖遺物の欠片とかならともかくとして⋯⋯ね』

 

 

 二課のセンサーに反応したのは、前例無し(UNKNOWN)の聖遺物から放たれる未知なるアウフヴァッヘン波形。それも、恐らくは完全聖遺物の類ではなく、FG式回天特機装束(シンフォギア)から放たれた物。それが意味するところは、二課の把握外のシンフォギアが存在しており、それを動かせる存在が居るということに他ならない。

 

 櫻井了子、先史文明期の巫女フィーネを主犯とする一連の出来事のこともあってシンフォギアという装備の有用性は確実なものとなった。

 そして、フィーネの協力者でもあったシンフォギア装者雪音(ゆきね)クリスが加わったことで、二課の有事の際の戦力は高いものとなった訳ではあるが、把握外のシンフォギアがあるというのは、シンフォギア装者を三人抱えて居ようともそれだけ恐ろしいことなのは自明の理。

 今回は偵察及び調査が主目的だが、あわよくば、少女立花響の力で件のシンフォギアの装者を味方に引き込めないかという打算もある。少なくとも、二課の司令である風鳴弦十郎は柄にもなくそんな心算を秘めていた。

 

 

 

「それにしても、本当に何も無いですね」

『⋯⋯そうね。反応があったのは数時間前のことだから、そこに留まっている可能性は低いのは分かっていたけど⋯⋯』

 

 

 カ・ディンギル残骸の周囲を歩き回りながら、響は何も異常が無いことを確認する。無線の向こう側、響の問いに答える友里(ともさと)あおいの言うように、反応があったのは数時間前。システムが微弱な反応を捉えていたことを二課が把握したのが二時間程度前であったことを考えても、そこに反応の大元が留まっている可能性は限りなく低かった。

 

 

 はずであった。

 

 

 

「貴様が彼の槍、ガングニールのシンフォギア装者か」

 

「っ!?」

 

 

 

 突如、響の視界より上方から聞こえた少女の声。

 響は、その場から飛び退いて距離を取る。それは師と仰ぐ風鳴弦十郎との修行の成果か、奇襲などを避ける為の後退。そうして、ある程度距離を取った後、その声の大元を見上げた。

 

 

「⋯⋯ふん。その程度の身のこなしでは⋯⋯我を倒すには遠く及ばないな」

「え⋯⋯私が、君を倒す? 何で、私が⋯⋯」

「貴様の知るところではない」

 

 

 そこに居たのは、響よりも一つか二つ歳が下であろう容貌の少女。

 適当な長さに短く切りそろえた黒髪に、空の色のような薄い青の眼を持つその少女は、得心のいかぬ様子の響を鼻で笑うと、白のロングスリーブのワンピースに包まれた右手で空を切る仕草をする。そして、響へと指を指して勝気な相貌にニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

「未だ弱い内に、貴様を倒させてもらう。この我、レーナ・アーレ=アフティオの大願の為に、貴様のガングニールは放っておけぬのでな」

「私を⋯⋯倒す⋯⋯?」

「ああ、そうだ。さあ、貴様の歌を歌え。最後の歌声を響かせろ」

 

 

 先程までとは打って変わって強い敵意を向けるレーナ・アーレ=アフティオと名乗った少女の言葉に困惑しながらも、響は言われるがままに(・・・・・・・・)シンフォギアを纏うべく口を開いた。

 

 

 

「────gungnir tron」

 

 

 瞬間、響の全身が眩い光に包まれた。そして、光が晴れたそこには黄色と白の装束───ガングニールのシンフォギアに身を包んだ少女の姿が。

 そこまで見届けて、レーナは尚もその笑みを深くした。そして、それに呼応するかのように歌を口にする。

 

 

「────fragarach tron(全てよ、これが我が答えだ)

 

 

 響を包み込んだ光と同様のそれがレーナを包み込み、光が晴れる。

 中から現れたのは、白に鈍い青緑()の色の装甲装束を身体に纏った少女。

 

 

『響くん! 気を付けろ! 彼女は君を殺すつもりで来ている!』

「⋯⋯そんな⋯⋯!?」

「当たり前であろう、戯け。我は、我が目的の為に貴様を倒し、それを足掛けにして邪魔となる存在を、先ずはシンフォギア装者共を始末させてもらうとする!!」

 

 

 吠えた少女は、ガントレットを装着した両の手を挙げて響を見据えた。無手。武器を持たず、しかしてその握り締めた拳からは人を殺し得るほどの力が滲み出ていた。

 そこで、ふと響は己がシンフォギアを纏い、少女と戦わんとして拳を握り構えていることに気が付く。慌てて構えを解くと、響は訴えかけるかのようにレーナへと声を掛けた。

 

 

「ほう、意志を通せるか。申せ、許す」

「私は⋯⋯レーナちゃんと戦いたくない!」

「⋯⋯なに?」

「レーナちゃんがどうして私を倒したいのかとか、私がどうしてレーナちゃんを倒すのかとかそういうことは気になるけど⋯⋯兎に角、私はレーナちゃんとお話がしたい!」

 

 

 怪訝そうに眉をしかめたレーナを気にせず、尚も響は己が少女と戦いたくない旨を伝えんと言葉を紡ぐ。

 

 

「我が言の葉の威光に背けるからと、耳を傾けてやったが⋯⋯貴様、とんだ馬鹿だな。我は、貴様を倒す⋯⋯殺すと言ったのだぞ?そんな我と話がしたいだと?」

「うん⋯⋯!」

「⋯⋯はっ、道理も通じぬ阿呆であったか。ならば、貴様を殺すついでに、その阿呆も治してやろう!!」

「っ!?」

 

 

 構えも取れていない響へと、レーナは足場のカ・ディンギル残骸を蹴り飛ばして接近。その腹部へと、ガントレットを纏った拳を突き刺す。

 

 

「がっ⋯⋯!?」

「先手必勝⋯⋯!」

 

 

 よろける響へと追い討ちをかけようと薙ぎ払われた蹴りは、彼女がなんとか体勢を立て直したことで防がれた。腹部からの痛みの訴えを我慢して、響は歌を歌うレーナへと目を向ける。

 

 

「──────」

「戦う以外に方法は無いの!?」

「ッ!!」

「くうっ!?」

 

 

 殴られても尚、そのようなことを宣う響へと、その形相を歪めたレーナは突貫と共に憎しみにも似た怒りを伴う拳を突き出す。威力が出せるように変形したガントレットから繰り出された一撃は、風圧を伴って響を襲った。それは、防御を崩して彼女の体勢を揺らがせる。

 

 だが、立花響とてただの少女ではない。

 その力で苦難を乗り越え、世界さえ救って見せた少女の力は伊達ではない。

 

 

「はっ⋯⋯あッ!!」

「⋯⋯っ」

 

 

 響の反撃に対応して、その一撃を受け止めるためにクロスした両腕からの衝撃を逸らすために方向に従って飛ぶ。それなりの修羅場をくぐり抜けてきたレーナからすれば、それは容易いことであった。

 

 

「流石に、あの程度では苦でもないか」

「⋯⋯まだ、やるの?」

「当たり前だ。貴様が死ぬか、我が死ぬか。そのどちらかのみ、どちらかの結末を迎えるまでこの戦いは終わらぬものと知れ」

 

 

 そう言って、再度拳を構える少女。響は、どうにかしてこの戦いを終わらせようと頭を捻りながら、渋々ながらに己も拳を構える。

 

 

 

「人と人が戦うなんて⋯⋯間違ってるよ!!」

「今更、そのようなことを宣うか!! その減らず口、今すぐにきけなくしてやろう!!」

 

 

「───それ以上、私の仲間に手を出すのはやめてもらおうか」

 

 

 

 ――千ノ落涙――

 

 

 レーナ目がけて、いくつもの青い刃が迫る。彼女は、その全ての内の己に当たる物を拳で突き砕いた。

 そうして、彼女はその下手人を睨み付ける。当の本人である青と白のシンフォギアを身に纏った少女風鳴翼(かざなりつばさ)は、レーナへと刀を向けて静かに見据えた。

 

 しばらくの間続いた睨み合い。最初に動いたのはレーナの方であった。

 

 

「ちっ⋯⋯二対一⋯⋯。やはり、拙いな」

「退かせるとでも⋯⋯!?」

「ああ、退かせてもらおう」

「待て⋯⋯っ!」

 

 

 レーナは、取り出した赤い結晶のような物を地面に叩きつける。すると、すぐさま彼女の足元に奇妙な陣が発生。それは、光を放って彼女を描き消した。

 

 

「きえ⋯⋯た⋯⋯?」

「レーナちゃん⋯⋯」

 

 

 後に残った二人は、その光景に驚くと共に消えた件の少女レーナ・アーレ=アフティオへと思いを馳せるのであった。

 

 

 

 ▽

 

 

 

 自我が確立した時から、何かを憎いと思うことがあった。

 

 それがなんなのかは分からなくとも、果てしなく憎しみだけが募り続けた。見る物全てが憎くてたまらない。我以外の全てが憎たらしくて直視し続けていればどうにかなりそうな程に。

 

 そして、ある日、親のようなモノの死を目の当たりにしたことで、募り続けるだけの憎しみが少しだけ晴れたことを鮮明に覚えている。

 悲しみはなかった。

 ただ、心の中に透き通るような感覚が芽生えただけ。我は、俗に言う非人間などと呼ばれるような類の人種に当てはまる精神性をしているのやもしれぬが、それは我が両親とて同じこと。その親にしてこの子供ありといったところか。

 

 

 我は、血の繋がった他人から獣を植え付けられた。

 

 その獣こそが、この得体の知れぬ憎悪の根源だということが分かったのはそれから少ししてのこと。

 

 我の両親は異端技術(ブラックアート)を研究する研究者であり、その中でも特に禁忌に触れるとして、その道の研究者共の界隈から追放されるような異端者。つまりは屑であり、我もその屑共から生まれた屑。

 彼らは、我の身体に聖遺物を埋め込むことで無理矢理にでも聖遺物と人の融合症例を作り出そうとしていた。その成果がこの我ということなのだろう。

 

 

 はっきり言って良い迷惑だ。

 

 

 そのせいで、我はどこまでいっても一人でしかない。同じ状態の立花響という名の少女にも多少は興味があったが、あの感じでは、分かり合うことなど到底有り得ぬだろう。

 やはり、我に理解者など居ないし、必要などないということ。

 

 だから、我は仲間など求めはしない。全てを力で従えることで一人無窮の世界を作り上げる。我が、その世の皇帝となる。

 

 その為に、我は止まるわけにはいかぬのだ。

 

 

 

「セシリア、これから忙しくなるぞ」

「はい、マスター」

 

 

 いつか、一時の協力関係を結んだパヴァリア光明結社から譲り受けた錬金術の粋、セシリアという名を与えた自動人形(オートスコアラー)の返答に頷く。

 

 

 さあ、これから忙しくなる。FISも動き出すだろう。錬金術師もだ。

 

 だが、その全てに、我の邪魔などさせはしない。邪魔をするなら潰すだけだ。

 

 

 

 ───我を止められるものなら止めてみせろ、立花響。

 




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