それではどうぞお楽しみください
「チッ、くだらねぇ」
彼は村崎蒼、つい先日父親の転勤が決まりここ、睡蓮高校に転入してきた2年生だ
2回の廊下から窓の外、中庭を見下ろすと2人の男が喧嘩していた
睡蓮高校ではよく見られる光景だ、蒼自信それはわかっているのか止めることはしないが心底つまらなそうに見ている
眼下で広げられる喧嘩を見て期待とは違ったとでも言いたそうな表情で彼はつぶやく
「睡蓮は最強…なんて所詮は噂話か…」
「おっ、おめー見ねぇ顔だな?転入生か?」
そんな蒼に話しかける彼は藤島恭一、睡蓮高校2年生である
喧嘩が強い訳では無いが決して弱い訳では無い、明るい性格で面白いことが好きな人間だ、髪は蒼の銀髪とは反対の金髪でオールバックだ
「誰だテメェ」
「あぁ、悪ぃな。俺は藤島恭一ってんだ…で、おめぇは?」
「村崎蒼、転入生だ」
「じゃああおっちだな!よろしく!」
「変なあだ名で呼んでんじゃねぇよ…もういいだろ」
「ちょちょちょ、待てよあおっち!」
「変なあだ名で呼ぶんじゃねぇ」
「えぇ~?いいじゃんあおっち!」
「よくねぇよ」
藤島恭一は睡蓮高校じゃない普通の高校にいればその性格から一躍人気者になれるであろう、いわゆるムードメーカーというものだ
だが睡蓮高校では喧嘩の強さが何よりも優先される、性格の良さだけで生きて行こうなんてここでは不可能なのだ
それでは何故藤島恭一が絡まれないのか?放課後ということもあるだろう、ただそれ以上に彼の本気を誰も見たことがないのだ
「そんでさ、あおっちはなんでこんな所に来たんだ?喧嘩が好きって訳でもねぇんだろ?」
「あだ名を改める気はねぇんだな…親父の都合で引っ越すことになってな、ここしか入る場所なかったんだよ」
「ほーん、あおっちも色々大変なんだな」
蒼は喧嘩が好きって訳では無い
だが好きじゃないから弱いって訳でもないのだ
彼は相当強い、ただ好きじゃないだけなのだ
そんな彼だからこそこの睡蓮高校に転入してきたのだろう
学校はそこそこ広いが廊下と教室はそれほど離れていないため直ぐに目当ての教室へ着いた
「ここが俺の教室か」
「おっ、俺と同じクラスか!楽しそうだな!」
彼らは2年5組、荒れてこそいるもののまだマシな方なクラスだ
蒼は今日、学校の下見のため放課後に来ているのだ、そのため教室には彼らしかいない
「で、この黒板に書いてあるのはなんだ?人の名前なのはわかるが誰だよ」
「あぁ、それはここの強ぇ奴らの名前だよ。この沢田晶ってのがここのトップだ、そんで沢田晶の下に書いてある2人はナンバー2とナンバー3だ、ナンバー2が浅倉雄二でナンバー3が矢田飛鳥だ。浅倉と矢田も沢田程じゃねぇがこいつらも強ぇ」
「そうか」
「まぁこの3人にはなるべく関わらねぇのが一番だ」
彼はそういうが蒼は転入生、それも目立つ髪色をしているから目を付けられるのは時間の問題だろう
ガシャン!!そんな音が彼らが入ってきたドアの方から聞こえる
「まじよえぇw所詮睡蓮もこんなもんかよw」
「チッ、めんどくせぇな…俺は帰るぞ」
いきなりクラスに入ってきた倒れている同じ睡蓮であろう少年とそれを見下ろす見知らぬ人物を見て、彼はボコボコにされた少年の骨が何本か折れていると察した
彼は喧嘩を好まないが故に危機察知能力が高いのだ
「おっ?ビビっちゃった?ん?w」
だが見知らぬ人物の方が見逃すとは限らないのだ
今この教室にいるのは彼と藤島恭一と少年と見知らぬ人物のみ
睡蓮高校に金髪は多いため藤島恭一はさほど目はつけられなかったのだろう
その代わりに彼が目を付けられた
肝が据わっているのかそれでも彼は臆することなく態度を変えることも無い
「無視してんじゃねぇよ!」
見知らぬ人物は蒼の肩を掴み、振り向かせた後に頬に一撃を入れる
振り向かせた勢いに自身のパンチの勢いが重なるのだから威力は相当だろう
その証拠に蒼は少し仰け反る
だが、逆にそれだけなのだ
仰け反るだけで痛みに蹲ることも無い、それどころか眼には恐怖ではなく怒りが宿っている
「痛てぇな!」
そう言うと彼は仰け反った体制から一撃を加える
その一撃で彼を殴った見知らぬ人物は立ち上がれなくなる
それもそのはずだ、言葉通りぶっ飛ばされたのだから
比喩でもなんでもなく、自動車に撥ねられたかのように飛んだ
この一撃で蒼がどれだけ強いかわかるだろう
「ヒュー、やるねぇ」
そんな彼の一撃を見たら普通は驚くだろう
だが藤島恭一はそんな様子を少しも見せない
それは彼の周りが強いのだろう、睡蓮高校にそれだけの事をできる人間が何人いるのだろうか
決して数は多くないだろう
だだ、逆に言えばそれだけの事をできる人間が少ないとはいえ何人かいる訳だ。もしかしたら本気の藤島恭一もその1人なのかもしれない
彼はそんな藤島恭一の様子を見て言った
「こんなやけくそパンチなんでどうってことねぇよ」
実際彼のパンチの威力が高いのもあるが見知らぬ人物が立ち上がれないのは打ちどころが悪かったからだ
見知らぬ人物のパンチが頬に当たったのに対し、彼のパンチは顎に当たったのだ
正確に言えば三日月に当たる部分だ、見知らぬ人物はそこを殴られ脳を揺さぶられて脳震盪を起こし立ち上がれないのだ
彼は転入したばかりで学校の下見中なのに早速喧嘩になってしまう睡蓮の治安の悪さに溜息を漏らした
「これで目をつけられたらたまったもんじゃねぇな」
彼は機嫌悪そうに独り言をポツリと呟き、教室から出た