「いやー、にしても凄かったなあのパンチ!あの他校生1発で伸びてたぜ」
先程の見知らぬ人物はどうやら他校性らしい
あの他校生が何故睡蓮高校にいたのかは分からないが、きっと誰かが彼の恨みを買ったのだろう
睡蓮高校では何の変哲もない放課後だ、他校性がいることは珍しいが喧嘩なんて日常茶飯事だ
「おい転入生、少しいいか」
「あ?誰だよ」
蒼は話しかけてきたほんのり赤い髪の三年が強いことを察した
この一言しかない会話だけでも場の空気が重くなる
誰一人空気の重さに苦しそうな顔をすることは無いが、藤島恭一だけは面倒くさそうな顔をしていた
「自己紹介がまだだったな、藤島から聞いたとは思うが沢田晶だ、後ろの青髪のやつが浅倉で黒髪の奴が矢田だ」
「ここの頭張ってるような野郎が何の用だよ」
「おめぇらもさっき相手にしたとは思うが最近他校性が睡蓮に乗り込んでくることが多くてな。俺やお前みたいなやつらからしたら雑魚だろうが他の奴らからしたらそうはいかねぇ」
目をつけられた訳では無い、だがそれも最初の話だ
蒼の物怖じしない態度は良くも悪くも印象に残る
圧倒的強者である沢田を前にして、普通なら少しは恐怖心を抱くものだが蒼にはそれがない
それ故に沢田に目をつけられたのだ
藤島恭一も恐怖心こそ抱かないが警戒はする、自分では精々後ろの2人と相打ち程度しかできない
実際はそれを出来る人間は睡蓮には藤島恭一しかいないのだが、彼は本気を出すことを嫌う
何故なら本気を出したら自分の限界を知られるからだ
それなのに警戒すらしないこの蒼の態度は沢田からしたら自分と同じ強者であることの証明なのだ
「結局何が言いたいんだよ」
「手を貸せ転入生、こいつは早い所ケリつけなきゃ面倒になる」
「興味ねぇな」
そう言うと蒼は背を向けて歩き出す
それを追いかけるように藤島恭一も着いていくが面倒くさそうな顔をしている
「本当によかったのか?目付けられんぞ」
藤島恭一はこれから起きるであろう面倒事を想像し面倒くさそうな顔をしているのだ、沢田晶に目をつけられるということは学校の頭に目をつけられるということ、つまりは面倒事や喧嘩が何もせずとも降り掛かってくるのだ
蒼だけならばまだしも、一緒にいた藤島恭一も目をつけられただろう
だがそれでも蒼と居るのは少なくとも藤島恭一は蒼の事を友人だと思っているからだ
「知らねぇよ、俺は俺だ」
彼とてそれは理解している、だが目をつけられて面倒事になろうともそれは仕方ない、自分から首を突っ込むよりマシだ。そう考えた彼は沢田の誘いを断ったのだ。
それ以上話すことも無く2人は帰路に着いた
所変わって沢田達の溜まり場
「なぁ晶、あんなに簡単に諦めてよかったのか?」
「いいわけねぇだろ、転入生もそうだが藤島も強えぞ」
「あいつが?転入してきたばかりの奴はともかく藤島は話も聞かねぇぞ」
「そりゃ単にあいつが本気だしてねぇだけだ、その気になればお前ら2人相手に相打ちくらいには持ち込める」
「マジかよ、あんな奴がか?」
「……狂犬という名に覚えはあるか雄二」
「お、飛鳥が珍しく口を開いたな。狂犬は知ってるぜ、中学の頃他所にすげぇ強い奴がいるって聞いた事がある。で?それがどうしたんだ?」
「……藤島がその狂犬なんだよ」
「おいおいマジかよ、高校入ってからは聞かねぇからてっきり遠い所にでも行ったのかと思ったぜ」
「藤島は仲間に出来たら心強い、だがそれは転入生にも言える…恐らく藤島より強いだろうな」
彼らは藤島恭一のことを知っていた、若干1名知らない者もいたがその強さは知れ渡っている
藤島恭一はその名を隠すために手を抜きながら睡蓮で生きてきたのだ
だが蒼について行ったのが運の尽きだったらしい
彼らは蒼に声をかけると共に藤島恭一の事を調べていたのだ
沢田を軽くあしらった後の蒼
彼は藤島恭一と別れ、一人で帰っていた
どうやらめんどくさい事になったとでも考えているのだろう、その表情は浮かない
家に着いた蒼は着替え、シャワーを浴びるとこれ以上面倒事にならないようになどと考えている
「…少し藤島について調べてみるか」
そう言うと彼は行きつけの飲み屋へ向かった
1年ほど離れていたため、彼からしたら新鮮な気持ちだ
蒼の行きつけの飲み屋はそこまで遠くなく、すぐに着いた
「よぉ蒼!久しぶりだな、今日はいつものかい?」
「あぁ、それで頼む」
ここでは未成年飲酒やタバコを禁止していない、人も少なく蒼にはこれ以上にない場所だった
「あいよ、スコッチとビターチョコだ…で、今日は何が聞きてぇんだ?」
「そんなに顔に出ていたか?」
「長いことお前の相手してりゃわかるってもんよ」
「そうか」
そう言うと彼はスコッチを1口のみ、少し間を開ける
藤島恭一について聞くのは決まっているが他になにか気になることはあるか考えているのだ
「藤島恭一を知っているか?それと睡蓮に乗り込んでくる他校性の事もだ」
「質問は1つずつにしてくれ。そうだな、藤島恭一は一時期名の通った野郎だった」
「その話を詳しく頼む」
「狂犬だよ、お前さんも知ってるだろう?」
狂犬の噂は彼も耳にしたことがある、ここの店主が1度だけ蒼に話してくれたのを思い出す
「あいつが狂犬か…どうやらそれを知っている人物は少ないようだがそれは何故だ?」
「たしかにここ1年は聞かなくなったな、多分喧嘩辞めたんじゃねぇか?」
「そうか」
「んで、睡蓮のとこに乗り込んでくる他校性の話だが…すまねぇな、それは知らなんだ」
「そうか、藤島の話を聞けただけで十分だ」
そう言うと蒼は金を置いて店を去る
蒼は何故藤島が力を隠しているのか分からなかったが、それでも俺には関係ないと考えると静かに歩き出した