【完結】ハリー・ポッターは邪悪に嗤う   作:冬月之雪猫

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第十一章『死者行軍 ー ワイルド・ハント ー』
第百一話『究極バトル』


「どこだ! どこにいるんだ!?」

 

 ロン・ウィーズリーは行方不明になっている妹を血眼になって探していた。

 他の行方不明者は既に見つかっている。全員、試合を観戦せずに寮に居残っていたのだ。けれど、ジニーは会場に居た。目撃情報もある。

 ヴォルデモートの悪霊の火に呑み込まれてしまったのではないかという声から耳を塞ぎ、彼は泣きそうになりながらジニーの名前を呼び続けている。

 

「ジニー!! あっ……」

 

 足元を見ていなかった。小石に躓いて、ロンは転んでしまった。 

 

「大丈夫か?」

 

 すると、近くに居たらしいエグレが手を差し伸べた。

 

「……うん」

 

 ロンはエグレの手を借りて立ち上がると、情けない気持ちでいっぱいになった。

 

「ハリーはハーマイオニーを連れて帰ってきたのに……。なんで、僕は妹を見つけられないんだ!」

「貴様のせいではない。彼女の痕跡を追ってみたが、忽然と消えていた。死んではいない筈だが、妙な事になっている」

「えっ!?」

 

 ロンは目を見開くと、エグレの肩を掴んだ。

 

「死んでない!? 本当に!? 嘘じゃないよね!?」

「ほ、本当だ。我は嘘などつかんぞ」

 

 ロンの威勢に気圧されながらエグレは言った。すると、彼の顔には喜色が浮かんだ。

 

「よし! よし! よし!」

 

 不安だったのだ。もしかしたら、みんなの意見は正しいのではないかと、心のどこかで思っていたのだ。

 けれど、彼女は生きている。

 

「絶対に僕が見つけるぞ! ジニー!」

 

 ロンが気合を入れた、その時だった。

 

「すまん、頑張って受け身を取れ」

「え?」

 

 いきなりエグレはロンを突き飛ばした。

 

「えええええええ!?」

 

 数メートルもふっ飛ばされたロンは地面をゴロゴロ転がった。

 あまりの痛みに気を失いそうになったけれど、直後に鳴り響いた音と振動が彼の意識を覚醒状態に保った。

 

「なに、何事!?」

 

 痛む体をがんばって起こすと、そこには信じられない光景が広がっていた。

 

 第百一話『究極バトル』

 

 ロンを突き飛ばすと同時に、エグレは地面を蹴り上げた。すると、猛スピードで迫って来ていた襲撃者は跳躍した。

 透明化している彼女の姿をエグレはピット器官によって感知していた。

 

「……ジネブラ・ウィーズリー。兄が探していたぞ」

「あっそ」

 

 そっけない返事と共に繰り出される斬撃をエグレは回避した。

 

「……ああ、なるほどな」

 

 その剣を見た瞬間、エグレは理解した。

 その身に宿る桁外れな戦闘能力を全開で行使する時が来たのだと。

 鳶色である筈の瞳を黄金に輝かせ、魔剣を構えるジニー。腕にバジリスクの鱗を表出させるエグレ。

 一人と一匹の戦闘は二人が大地を蹴った衝撃と爆音によって始まった。

 

 エグレは戦闘の規模を予測して、戦場を禁じられた森に変更する事にした。

 ケンタウロス達を筆頭に、警戒心の強い禁じられた森の住民達はとっくに避難している筈だ。

 一息で三百メートル先の禁じられた森へ到達したエグレは既に追いついているジニーの斬撃を、剣の腹を鱗で叩く事で弾き、彼女の腹に渾身の蹴りを繰り出した。

 木々をなぎ倒しながら吹っ飛んでいくジニー。けれど、剣の加護が彼女を守っている。

 

「……やはり、完全に使いこなしているな」

 

 すぐに体勢を立て直し、エグレに向かって踏み込んで来ているジニー。

 さっきのエグレの防ぎ方から学んだのだろう。剣の周囲に光が纏わり付いている。触れただけでダメージを受けそうだと判断したエグレは回避に専念する事にした。

 すると、それを見越していたジニーは剣ではなく、蹴りをエグレの横腹に叩き込んだ。

 禁じられた森を飛び越え、ホグワーツの城壁まで蹴り飛ばされたエグレは苦笑した。

 どうやら、防ぎ方だけではなく、蹴り方まで学んでいたようだ。

 

「ッチ」

 

 既にジニーは眼前まで迫って来ていた。剣を振りかぶっている。

 エグレは壁を蹴り、間一髪で斬撃を回避した。すると、修繕したばかりのホグワーツの塔が綺麗に切り裂かれてしまった。落下していく塔に、周囲もエグレとジニーの戦いに気付き始める。

 けれど、彼らに見えるものは空気が破裂する光景のみ。ジニーとエグレの姿は、そのあまりのスピード故に視認する事が出来ていない。

 塔が落ち切る寸前に止まったかと思えば、その塔が空に向かって飛んでいく。その塔が縦に裂かれ、また空気が破裂する。禁じられた森で土煙が上がったかと思えば、湖で水柱が上がり、かと思えば雲に切れ目が生まれ、ホグワーツの壁が粉砕する。

 何が起きているのか理解出来ている者など一人もいない。

 

「そ、葬式の準備をしていたのに、何事だ!?」

「湖がまた抉れたぞ!?」

「何が起きてるんだ!?」

「いや、この規模はハリーのエグレじゃないか? 他に考えられないよ!」

「でも、じゃあ、エグレは何と戦っているの!?」

「またホグワーツが壊れていくぞ!」

「折角直したばっかりなのに!?」

「っていうか、ジニーは見つかったの!?」

「まだ、探してるところだよ! でも、この状況じゃ……」

「一体なんなんだ!?」

 

 悲鳴が響き渡る中、エグレは徐々にジニーの動きが研ぎ澄まされていくのを感じていた。

 このままでは敗北する。

 魔眼を使っても、手加減をしていては抵抗(レジスト)されてしまう。けれど、全開で発動すればジニーを殺してしまう。

 ジニーはハリーにとって大切な後輩だ。彼女を殺せば、彼は苦しむ事になるだろう。故に、エグレは魔眼を使う事が出来ない。

 

「これも計算の内か……」

「死になさい、バジリスク!」

 

 ジニーが剣を振り上げる。

 

 ―――― 避けきれない!

 

 エグレは死を覚悟した。

 その時だった。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!」

 

 雄叫びと共に炎が二人へ襲いかかった。

 シーザーだ。彼はエグレの危機に立ち上がった。

 彼には容赦などない。ジニーが炎で焼け死のうがお構いなしの本気の炎だ。

 けれど、エグレはもちろんの事、ジニーもその程度の炎ならば火傷一つ負う事はない。

 

「しまっ!」  

 

 けれど、ジニーは咄嗟に剣で炎を斬り裂いてしまった。大丈夫と分かっていても、人間としての生存本能が優先順位をエグレからシーザーの炎に切り替えてしまった。

 その隙をエグレは見逃さなかった。

 

「ちょっと痛いぞ!」

 

 エグレはジニーの腹部に渾身の一撃を放った。

 地面に向かって勢いよく落ちていくジニー。エグレは彼女を追いかけて地面に向かっていく。そして、立ち上がろうとするジニーを抑えつけた。

 魔眼を発動し、それをレジストさせる事で他の行動を封じ込めている。

 

「マーキュリー!!」

「ここに!」

 

 エグレが叫ぶと、マーキュリーは既に控えていた。

 

「マスターを呼んできてくれ! あまり保たん!」

「か、かしこまりました!」

 

 バチンという音と共にマーキュリーは去った。

 顔を歪めるジニーにエグレは言う。

 

「好きにはさせんぞ」

「は、離しなさい!」

 

 ジニーが叫ぶと、駆け寄ってきたドラコに治療されていたロンが飛び上がった。

 

「ジ、ジニー!?」

 

 ロンはジニーを取り押さえているエグレに目を丸くした。

 

「なにしてるの!?」

「ジネブラは操られている。対処出来るのはマスターだけだ」

「操られてる!?」

「操られてなんていない!」

「……って、言ってるけど?」

「そう思い込まされているのだ」

 

 ロンは困惑した。探し求めていた妹が漸く見つかったのに、状況があまりにも奇妙だった。

 

「っていうか、ジニー! 君はどこにいたんだ!? ずっと探してたんだよ!?」

「……っ、うっさい!」

「ええっ!?」

 

 ジニーの罵声にショックを受けるロン。

 

「これは、そうか、ヘルガの! ロナルド、もっと話しかけろ!」

「エグレ!?」

「彼女の精神は薄い膜に包まれているような状態だ。呼びかけ続ければ、今ならば彼女自身が洗脳を振り解けるかもしれん!」

「え? え? えっと、よく分からないけど……、ジニー! とにかく、どこにいたのか教えてよ! みんな心配してたんだぞ!」

「うるさい! 黙って! 邪魔しないで!」

 

 顔を歪ませるジニー。

 その顔が、突然落ち着いた。

 

「大人しく斬られてくれよ」

 

 彼女の姿が忽然と消えた。

 

「しまっ!?」

 

 咄嗟に振り返るエグレ。そこには剣を振り下ろすジニーの姿があった。

 その刃の先がエグレの胸に当たり、そして――――、

 

「エグレ!?」

 

 ロンが叫ぶ。ドラコも、コリンも、ハーマイオニーも、アステリアも、ルーナも、ニュートも、その場にいた他の人々も悲鳴を上げた。

 ジニーの持つ剣がエグレの胸を貫き、彼女を串刺しにした。




次回、『真のグリフィンドール生』

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