【完結】ハリー・ポッターは邪悪に嗤う   作:冬月之雪猫

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第百三話『結成、蛇王の騎士団(Order of the Basilisk)

 ゴドリック・シャドウの襲撃を受けて、葬式は翌日に回された。

 闇祓い局局長、ルーファス・スクリムジョールは三大魔法学校対抗試合の最終戦から始まった一連の事件の関係者を空き教室の一つに呼び集めた。

 一日の間に、あまりにも多くの事が起こり過ぎた。一度整理する必要があると判断した為に、そして、集めた関係者には情報を共有するべきだと考えたが為に、多忙な中で時間を割いたのだ。

 

 第百三話『結成、蛇王の騎士団(Order of the Basilisk)

 

「まず、三大魔法学校対抗試合の最終戦の段階で動いていた勢力について確認するぞ」

 

 スクリムジョールが杖を振ると、教室の中央に配置された大きな机の上に巨大な羊皮紙が現れた。

 

「まずはヴォルデモートの分霊だな」

「分霊は二人同時に動いていた。一人は……、ニコラス・ミラー」

 

 ハリーは暗い表情を浮かべながら杖を振るった。すると、羊皮紙にはニコラスの顔と名前が浮かび上がった。

 彼の正体を明かす事はダフネに対する不義理に感じたが、これほど事態が悪化した今では隠しておくわけにもいかなくなった。

 情報の隠蔽は無益な混乱を引き起こす。一応、スクリムジョールには可能な限りの配慮を頼んであった。

 

「ニコラスか……」

 

 ダリアの水薬の開発に大きく貢献した彼に対して、スクリムジョールは複雑な表情を浮かべた。

 彼の最期についても、ハリーから聞かされている。直接、言葉を交わした事もあった。

 

「あるいは……いや、仮定の話をしても時間の浪費だな。ニコラスと同時に動いた分霊は……」

 

 スクリムジョールは更に複雑そうな表情を浮かべた。

 

「……宇宙空間まで蹴り飛ばされたのだったな」

「ああ、大気圏外まで確実に打ち上げたぞ」

 

 ハリーの隣で人化した状態のエグレが言った。

 やらかした事に対して、あまりにも滑稽な最期にスクリムジョールは頭を抱えそうになった。

 

「とりあえず、この二人に関しては問題ないな」

 

 スクリムジョールが杖を振るうと、二人の顔にバツ印が付けられた。

 

「……次にゲラート・グリンデルバルドね」

 

 ハーマイオニーが杖を振るうと、羊皮紙にグリンデルバルドの顔と名前が浮かび上がった。

 

「彼は……、ダンブルドア先生を殺害した後、わたしをロンドン郊外の教会跡地に連れて行ったわ。ハリーを殺す為の人質として」

 

 彼女はその時のグリンデルバルドの言葉を正確に伝えた。

 

「……《死》に魅入られているか」

 

 ハリーはハーマイオニーの口から語られたグリンデルバルドの言葉を反芻している。

 

「《その者は死の呪文や分霊箱、血の呪いを考案した者でもある》……、そうだったな?」

「ええ、そう言っていたわ」

 

 ハリーが確認を取ると、ハーマイオニーは頷いた。

 

「だとすると、《死》はロウェナ・レイブンクローという事になる。それらの呪文の考案者は彼女だからな」

 

 エグレに聞いた話に加えて、サラザールの肖像画に見せられた過去の映像も彼女がそれらの呪文の考案者である事を示していた。

 

「俄には信じ難い事だが……」

 

 一通りの話は聞いていたスクリムジョールだったが、彼がそれでも話を整理する為に全員を招集したのはこれが一番の理由だった。

 

「千年も前の人間だぞ」

「あり得ないとは言えないでしょう。特殊なケースだけど、ニコラス・フラメルは600年を生きている」

 

 ニュートの言葉にスクリムジョールは唸り声を上げた。

 ニコラス・フラメルは賢者の石を作り出した魔法使いだ。現存する魔法使いの中では最高齢と言われている。

 

「賢者の石以外に不老不死を可能にする魔法など……」

「我々には考えつかなくとも、分霊箱を生み出すような魔法使いならば可能かもしれませんぞ」

 

 納得いかな気なスクリムジョールにスネイプが言った。

 

「なにしろ、彼女が生み出したとされる術はどれも我々の理外にある。もっともポピュラーな死の呪文さえ、我々は真に理解などしていないのですからな。ただ、最強の呪文として存在しているから使っているに過ぎん」

「……確かに」

 

闇祓い局の新たな副局長に任命されたエドワード・ウォーロックが呟いた。

 

「我々の理解を超えた知慧によって生み出された術が他にもあるのかもしれないな。それこそ、完全なる不老不死の術が……」

「……そうであるなら絶望的だな。我々は理解の埒外にある存在と戦う事になる。ヴォルデモートやグリンデルバルドが可愛く思えてくる程の難敵だ……」

 

 スクリムジョールは苦々しい表情を浮かべた。

 

「ま、まだ、ロウェナ・レイブンクローと戦う事になるとは限らないじゃない! グリンデルバルドが変な勘違いをしているとか、妙な妄想に取り憑かれているだけとか!」

 

 闇祓いのアネット・サベッジの言葉に「でも!」とロンが立ち上がった。

 

「実際にジニーはゴドリック・グリフィンドールに操られていた! 創設者の一人が関与していたんだ!」

 

 ロンが言うと、エグレが「少し違うな」と訂正した。

 

「正確にはゴドリックの影だ。本人ではない」

「……その辺りがよく分からないんだけど、どういう意味なの?」

 

 闇祓いのニンファドーラ・トンクスが聞くと、彼女は答えた。

 

「そのままの意味だ。分霊ですら無い。アレはゴドリックの一面を写し取って作られたものだ」

「人造のゴースト……、という事か?」

 

 闇祓いのダリウス・ブラウドフットが言うと、エグレは肩を竦めた。

 

「ゴーストというより、肖像画の方が近いな」

「肖像画?」

 

 ダリウスが首を傾げると、ハリーは「なるほどな」と口を開いた。

 

「アレは生前のモデルのオーラを汲み上げて、その人格を投影している物だ。要するに、あのゴドリック・シャドウもそういう存在だったのだろう。生前のゴドリックの一面を汲み取り、影に人格を投影したもの。違うか?」

 

 ハリーの言葉にエグレはニヤリと笑みを浮かべた。

 

「完璧な解答だ、マスター」

「……なるほどな。だが、そうなるとゴドリック・シャドウには彼を生み出し、操っていた存在が居た事になる。それがロウェナ・レイブンクローなのか?」

「グリンデルバルドの考えを参考にするならそうなるわね」

 

 ハーマイオニーが言うと、一同は唸った。

 

「……奴の言葉を鵜呑みにするのは危険だが、僕達の知らない情報を握っている事は確かなようだね」

 

 ドラコの言葉にハーマイオニーは渋い表情を浮かべた。

 

「グリンデルバルドの真意をもう少し探るべきだったかもしれないわね……」

「ジニーにも、ゴドリック・シャドウはハリーを危険視していて、倒すべきだって囁きかけていたみたいなんだ。……いや、あれ? 《死》がロウェナ・レイブンクローで、それがゴドリック・シャドウを操っていて、それが《死》に魅入られているハリーを危険視していたって……、んん?」

 

 ロンは首を傾げた。

 

「これ、おかしくない?」

 

 ロンの指摘にハーマイオニーは「そっか」と気づいたように言った。

 

「違うわ。ゴドリック・シャドウはモルドレッドに剣を与えた《カウンター》の方なのよ。つまり……」

「ここに新たな勢力が存在するわけか……」

 

 スクリムジョールは杖を振るった。

 すると、《死》という文字とロウェナ・レイブンクローの名前が浮かび上がり、その隣に《カウンター》と《謎の人物(Unknown)》の文字が浮かび上がる。更に、その下にはゴドリック・シャドウの名前も浮かび上がった。

 

「四つの勢力が同時に動いていたわけか……」

「けど、これはグリンデルバルドの話を真に受けた場合の話だぜ。全部、奴の仕込みって可能性もある。ゴドリック・シャドウもひょっとしたら……」

 

 ダリウスの言葉に「それはない」とハリーが断言した。

 

「たしかに、奴ならばシャドウを生み出す事は可能かもしれない。死の秘宝の一つ、命の石にはそういう能力もあるらしい」

 

 これは肖像画に見せられた過去の映像から得られた情報だ。

 ロウェナはレベッカの影を命の石によって生み出していた。

 

「だが、グリフィンドールの剣の説明がつかない。アレを取り出せる者は真のグリフィンドール生のみらしい。奴に取り出せる筈がない」

「どうして?」

 

 ロンが聞くと、ハリーはガクッとなった。

 

「君が証明した事だろ。あの剣は君が示したような勇気を持つ者に与えられる物だ。人質を取るような臆病者に取れる筈がない。そもそも、奴はダームストラング専門学校出身だ。条件を満たしていない」

「な、なるほど!」

 

 ロンは腰に提げたグリフィンドールの剣を撫でた。

 

「……情報が少な過ぎるな」

 

 シリウスは呟いた。

 

「仮に《死》がロウェナ・レイブンクローであり、《カウンター》なる存在が別に存在すると仮定して、我々はどう動くべきなのだろうか……」

 

 ルーピンは難しい表情を浮かべている。

 他の誰もが彼と似たり寄ったりな表情を浮かべていた。

 

「決まっている」

 

 そんな中で、ハリーは言った。

 

「グリンデルバルドだ。奴から情報を吐き出させる。それ以外に無いだろ」

「……それは、奴を生け捕りにするという事だぞ」

 

 エドワードは厳しい表情を浮かべた。

 

「殺すだけでも困難なのだ。生け捕りにするとなると、更に難易度は上がる。それを分かっているのか?」

「分かっているとも。その上で、それしかないと言っているんだ」

 

 ハリーはスクリムジョールを見つめた。

 

「ああ、その通りだな」

 

 スクリムジョールは立ち上がった。

 

「グリンデルバルドを生け捕りにする! その上で、持っている情報を洗いざらい吐かせる! それが第一歩だ!」

 

 スクリムジョールは言った。

 

「これより我々が挑む者は理解の埒外にある存在! だが、恐れるな! 我々は勝つ! 勝たねばならない! さもなければ、我々の……いや、すべての人々の世界を得体の知れない者共に好き放題にされてしまうかもしれないからだ!」

 

 スクリムジョールはハリーの下へやって来る。

 

「ダンブルドア亡き今、世界を救える者は君しかいない。わたしはそう強く確信している。頼む、力を貸してくれ」

 

 スクリムジョールが手を差し伸べてくる。

 

「言われるまでもないぜ、局長」

 

 ハリーはその手を握り返した。

 それしかない。そう言ったが、グリンデルバルドやゴドリック・シャドウの行動から、ハリーが死ねば事態が収拾する可能性もある。

 けれど、スクリムジョールはその可能性を分かっている上で無視して見せた。

 安易な道ではなく、険しく困難な道を選び取った。

 それは世界の命運を背負う彼にとって、とても覚悟の要る選択だった。

 

「だが、一つ訂正させてもらう」

 

 ハリーは言った。

 

「世界を救う者。それはあなたの事だぜ、局長。あなたが倒れれば、その時点で詰みだ。その事を忘れるな」

「ああ、お互いにな。まずはグリンデルバルドを捕らえるぞ、ハリー」

「ああ、ルーファス!」

 

 スクリムジョールとハリーは交わした手に力を込め合った。

 

「これより、この場にいるメンバーを一つのチームとする!」

 

 スクリムジョールは宣言した。

 闇祓い局の精鋭、ホグワーツの教師陣、不死鳥の騎士団のメンバー、ハリーを筆頭とした一部の生徒、エグレやマーキュリー達人外も含めた全員を彼は見つめた。

 

「チームの名前はあるの?」

 

 トンクスは挑戦的な眼差しをスクリムジョールに向けた。

 

「ああ、《不死鳥の騎士団(Order of the Phoenix)》の名に因み、ハリー・ポッターを中心としたチーム。名は、《蛇王の騎士団(Order of the Basilisk)》とする!」


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