【完結】ハリー・ポッターは邪悪に嗤う   作:冬月之雪猫

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第四十五話『妹は思春期』

 結局、ノルウェーのドラゴンの生息域にはしわしわ角スノーカックは姿を現さなかった。

 四六時中、ドラゴンに囲まれる生活はスリリングを通り越していたけれど、ジェイコブの指導の下、みんなでパンを焼いたり、チャーリーの同僚の仕事を間近で見せてもらったり、貴重な体験をいくつも出来たハリー達はそれなりに満足していた。

 特にドラゴンの餌やりを体験させてもらった時には誰もが無邪気な子供になっていた。悲鳴や笑い声を上げながら心から楽しんだ。

 そして、一行はチャーリーとの別れを惜しみつつ、ノルウェーからスウェーデンへ移動した。

 目的地は迷いの森。ここは成人した魔法使いであっても、迂闊に踏み込めば戻って来れないと言われている。

 

「みんな、僕から離れないように」

 

 ニュートは魔法の綱を全員の体に結んだ。

 

「ここは調査が完了していない秘境の一つだ。僕は何度か来ているけれど、完璧に安全というわけじゃない。くれぐれも用心して」

 

 ニュートの言葉に頷きながら、ハリー達は森へ踏み込んだ。

 すると、入って直ぐの場所に雪だるまの大群がいた。なんと、彼らは生きていて、ハリー達の周りを踊り始めた。

 

「ジャック・フロストだ!」

 

 ロルフは興奮したように叫んだ。

 

「氷雪の妖精だったな。悪戯好きで、怒らせると恐ろしいと本に書いてあった」

「でも、可愛い!」

 

 ルーナはジャック・フロストの真似をして踊り始めた。すると、ジャック・フロスト達は嬉しそうに笑顔を浮かべた。

 

「よし、僕らも踊ろう!」

「え? 踊るのか!?」

「ああ! 彼らの機嫌を損ねると怖いからね。どうせなら一緒に踊りを楽しもう!」

「よし! 踊るぞ!」

「はい!」

 

 ハリーとロルフも踊り始める。ニュートも軽快に踊り始めた。ジェイコブは最初こそ腰を気にしていたけれど、若い体である事を思い出してからはノリノリで踊りだした。

 

「ヘヘッ、結構いけるだろ?」

 

 ジェイコブがウインクすれば、ジャック・フロストもウインクした。

 

「フッハッハ! どうだ、ボクの踊りは!」

 

 器用にムーンウォークをしつつ、ところどころでカッコつけようとするハリー。そんなハリーの踊りをジャック・フロストも真似る。

 

「ロルフ!」

「へ? わわっ!」

 

 ルーナはロルフの手を取ると、タンゴを踊り始めた。

 振り回されるロルフを見て、ジャック・フロスト達は笑う。

 

「僕も負けていられないな!」

 

 ニュートは大きなジャック・フロストと手を繋ぎ、情熱的に踊った。

結局、そこでもしわしわ角スノーカックは見つからなかったけれど、ハリー達はジャック・フロスト達との交流を存分に楽しんだ。

 

 第四十五話『妹は思春期』

 

 クリスマス休暇も半分を過ぎた頃、ドラコ・マルフォイはウィーズリー邸である隠れ穴を訪れていた。

 

「ドラコ!?」

 

 彼の来訪にいち早く気がついたのは六男であるロナルド・ウィーズリーだった。

 

「やあ、ロン。ちょっと遅いが、メリークリスマス」

「メ、メリークリスマス」

 

 いきなり現れた癖に普段と変わらない態度のドラコ。

 ロンは戸惑いつつも来訪の目的を聞こうと思って口を開きかけた。ところが、彼が何か言う前に家から妹が飛び出してきた。

 

「待っていたわよ、ドラコ!!」

 

 ドラコは深くため息を零した。

 

「気軽に約束なんてするもんじゃないな、ロン」

「待て待て待て待て! 君、まさか、ジニーに呼ばれたのかい!?」

「ああ、そうだよ」

 

 ロンがショックを受けている間にジニーがドラコの下までやって来た。

 

「ドラコ! とりあえず、わたしの部屋に行くわよ!」

「ちょっ!?」

 

 目を白黒させるロンを尻目にジニーはドラコを家に向かって引っ張った。

 その光景にロンはノルウェーの画家のエドヴァルド・ムンクが描いた《叫び》の如き表情を浮かべた。

 そして、その光景を見ていたのはロンだけではなかった。

 

「お、おい、我が妹が遂にドラコを部屋に連れ込んだぞ!」

「ボスを呼ぼう!」

 

 フレッドとジョージは大急ぎで一階の暖炉に向かった。時は一刻の猶予もない。

 フレッドは魔法の粉を暖炉に投げつけた。すると、炎がエメラルドグリーンに輝き始めた。

 

「グリーングラス邸!」

 

 そう叫びながら、フレッドは顔だけを暖炉に突っ込んだ。すると、彼の視界には暖炉の壁ではなく、落ち着いた調度品が並んだ屋敷の一室が現れた。

 

「きゃっ!? な、なに!?」

 

 そこにはダフネ・グリーングラスが大量の本と敬愛するニコラス教授が修正してくれた研究書に囲まれていた。

 

「ボス……じゃなくて、アステリアはいるか!?」

「ア、アステリアに何の用なの!?」

「緊急事態だ!」

「き、緊急!?」

 

 ダフネが目を白黒させていると、部屋の扉がバタンと開いた。

 

「その声、フレッドね!」

「ボス! 大変です! 遂に妹がドラコを部屋に連れ込みました!」

「なんですって!?」

「え? え? え?」

 

 混乱するダフネを完全に置いてけぼりにして、アステリアは煙突飛行粉を掴んだ。

 フレッドが暖炉から退くと、迷うことなく暖炉に粉を投げつけた。

 

「隠れ穴!」

「あ、アステリア!?」

「お姉ちゃん! わたし、ドラコ様を助けてくるわ!」

「ほあ!?」

 

 暖炉に飛び込むアステリア。ダフネは混乱した。そして、それでも妹のただならぬ気迫が心配になり、後を追った。

 

「か、隠れ穴!」

 

 そして、暖炉に飛び込むと、ダフネはアステリアがホグワーツで生徒の中では(・・・・・・)ハリーやハーマイオニーに次ぐ問題児と有名な双子を傅かせている光景を目撃して目眩を感じた。

 

「行くわよ、野郎共!」

「イエス、ボス!」

「サーイエッサー!」

 

 三人は階段を駆け上がっていく。あまりの衝撃に追いかけるべきか判断できずにいると、近くの扉から見覚えのある顔が現れた。

 

「フレッドとジョージは何を騒いで……って、ダフネじゃないか! いらっしゃい! どうしたんだい?」

「パーシー!」

 

 ダフネは時々、ハリーを中心とした勉強会に参加している。その時、よくハリーはパーシーにアドバイスを貰っていて、ダフネも少なからず交流を持っていた。

 

「あの、妹がフレッドとジョージになんか、ボスとか呼ばれていたんですけど!?」

「ん? ん? んん?」

 

 どんな難問に対しても的確な助言をくれるパーシーが困惑している。

 

「それに、ドラコが緊急事態で、妹が部屋に連れ込んだとか連れ込まれたとか! もう、わたし、意味が分からなくて!」

「ご、ごめん、ダフネ。僕も理解出来ない! ちょっと落ち着こうか!」

 

 パーシーは杖を振るった。すると、キッチンからカップとスプーンが飛んできて、そこにパーシーは近くのテーブルに置いてあるティーポットから紅茶を注いだ。

 

「さっき淹れたばかりなんだ。とりあえず、これを飲んで落ち着いてくれ。ちゃんと聞くからさ」

「う、うん」

 

 紅茶を一口飲むと、その芳醇な香りと温かさにダフネはホッとした。

 

 ◆

 

 一方その頃、ジニーの部屋の前でアステリアとフレッド、ジョージの三人組は息を殺しながら扉に耳を当てていた。

 

『……から、もう……まん、出来ないの!』

『おち……け! ……ちはわか……けど、あせり……ぎだ』

『い……よ! わた……、……とが、好きなの!』

 

 はっきりと、ジニーの《好き(ラブ)》というワードが耳に届き、三人はあまりの衝撃に吹き飛ばされそうになった。

 

「い、言った!」

「さすがはジニー!」

「だ、大胆……!」

 

 三人は戦慄の表情を浮かべながら更に詳しく中の様子を探ろうと扉に耳を押し当てた。

 

『わか……るだろ? ……は……が好きなんだ』

 

 今度はドラコの《好き(ラブ)》という言葉が飛んできた。

 アステリアは吹っ飛んだ。

 フレッドは危うく階段から落ちそうになった。

 ジョージは地面を転がった。

 

「あ、甘酸っぱい匂いがぷんぷんするぜ!」

「こんな情熱的なラブはこれまでお目にかかった事がないほどだ!」

「ああ、これから中で何が始まってしまうの!?」

 

 イヤンイヤンする三人。その騒ぎに、さすがに中の二人も気がついた。そして、階下から登ってくるダフネとパーシー。

 

「だぁぁぁ、うっさい!! 人が真剣な話をしてる時に外で何してんのよ!?」

「ジ、ジニー、女の子が浮かべちゃいけない表情をしてるぞ……」

「なにしてるの……、アステリア?」

「フレッド、ジョージ、今度は一体何を……」

 

 ごちゃごちゃし始めた廊下。ロンや母親のモリーも何事かと階段を登ってきた。

 そして、アステリアは爆弾を落とす。

 

「ジ、ジニー・ウィーズリー! あなた、いくらドラコ様を愛しているからと言って、未成年の内から自室でエッチな事をするなんて、よくないと思います!!」

「はぁ!?」

「ほあ!?」

「なぁ!?」

「えぇ!?」

「ちょっ!?」

 

 ジニーは激怒した。ドラコは口をあんぐりと開けた。ロンとモリーは目玉が飛び出そうになるほど驚いた。ダフネは妹の蛮行に頭を抱えた。

 そして、更なる爆弾がジニーの口から飛び出した。

 

「誰がこんな色白なもやしを好きになるのよ!? わたしが愛しているのはハリー・ポッター唯一人よ!!」

「い、色白もやし!?」

「は、ハリー!?」

「うっそだろ!?」

「えぇ……」

「正気か!?」

「まじで!?」

「ジ、ジニー!?」

 

 大混乱だった。

 色白もやしと罵倒されたドラコは項垂れ、ダフネは口をポカンと開け、ロンとジョージ、フレッドは妹の正気を疑い、パーシーは自分の耳を疑い、モリーはあたふたしている。

 そして、アステリアは……、

 

「ほ、本命が別にいるのに……、あなた! ドラコ様の純情を弄んだのね!?」

「はぁ!?」

 

 アステリアは項垂れているドラコを抱きしめた。結構豊満な胸を押し付けられたドラコ、その感触に一ミリも動けなくなった。というか、動きたくなかった。

 ドラコ・マルフォイ、13歳。この瞬間、彼が思春期に突入した事に気づいた者は一人もいなかった。

 

「ああ、可愛そうなドラコ様。あんな事やこんな事をされたのに……、当て馬にしたのね!」

「わけの分からない事言ってんじゃないわよ!! っていうか、アンタ誰よ!?」

「わたしの名前はアステリア・グリーングラス! あなたの淫らな野望を打ち砕くものよ!」

「淫らって何よ!? わたしはどうやったらハリーを手に入れられるかドラコに相談してただけよ!」

「そ、そんな!? 男の人の敏感な場所を識るためにドラコ様の体を……! 不潔だわ!」

「不潔なのはアンタの頭の中でしょ!!」

 

 二人が言い合っている中、ドラコは更に強く抱きしめられた事で胸の感触とは別に、アステリアから香る甘い匂いに気づいてしまった。

 二人の醜い争いなど耳に入らず、ただ只管にドキドキしていた。

 そして、

 

「二人共、お黙りなさい!!!!」

 

 モリーの雷が落ちた。

 

「若い娘が大声でなんて言葉を口にしてるの!! こっちにいらっしゃい!!」

「マ、ママ!? わ、悪いのは頭の中がピンクなこのバカよ!」

「何を言いますか、この淫乱ジニー!」

「淫乱ジニー!? この桃色アステリア!!」

「いい加減にしなさい!!!!」

 

 再度の雷によって、二人はようやく大人しくなり、一階に連れて行かれた。

 

「……おふくろ、マジギレじゃねーか」

「あそこまで怒ってるとこ、僕らでも見た事ないぜ」

「ま、まあ、仕方ないんじゃないかな……」

「ああ、恥ずかしい……」

「あ、アステリアっていうのか、あの子……」

 

 その後、一階からはモリーの怒声と二人の泣き声が響くのだった。


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