イヴちゃんさえ生きてくれたらいい 作:イヴちゃん凶愛者
車のクラクションの音がひっきりなしに音がする。まるで何かを防いでいるようだ。
苦しい?寂しい?そんな音ではない。当たり前をそこに置いてきた景色が広がっている。
信号がずっと青だということは赤だけになっている場所も当然ある。
外から車の中を覗き込むと苛立ち、焦り様々な標準な顔が目に入った。だが不自然だ、やはり顔のパーツ一つ一つが一緒に感じる。
僕だけが違う場所、そう感じてしまった。道歩いていく人は集団でいる人は楽しく談話しているのだろう、スマホを見ている人は自分の世界に没頭しているのだろう。
人はみんな見えているようで見えていない、場違いな自分にできる事は伸屋君を探すだけ。
暫く走っているとウィンディさんみたいな特徴的な髪をした少年が横断歩道を渡り始めた。
渡っている信号は青信号、だが赤信号も点滅していた。どうしてだろう、何か嫌な予感がした。
ふと横を見ると車が一人の少年にめがけて急発進した。どうしてと思う間もなく僕は少年へと駆け出す。
あの少年こそが伸屋君だ、SOLテクノロジー社のデータと一致した。
僕の命をベットしてでも彼を救うために僕は彼の前に飛び出したのだった。
このままでは僕も伸屋君も轢かれてしまうとわかったから僕は伸屋君を後ろに押し出す。
これで僕だけが轢かれる、そう思ったとき車は急に止まった。
「危ないじゃないか、遡亜。余計な事をするんじゃない。」
ライトニングさんの声が聞こえてくると同時に車の運転手も出てきた。ライトニングさん、君は僕を監視してたとでもいうのかな。プライバシーっていうのが人間にはあるんだけどね。
「そこをどきなさい。」
たった一言運転手が放った声に恐怖を覚える。彼は謝りもせず伸屋君を轢こうとしている。そしてライトニングさんはこの少年と何か関わりでもあるのかな。
運転手とライトニングさんどちらも伸屋君を狙っているという事は何か彼を殺そうとしている理由でもあるのだろうか。
けれど僕がライトニングさんに怯えないのは彼が僕には何もしないと知っていたから。
逆に目の前の男性には強い意志を感じられた。
「警察を呼びますよ。」
震えながら声を引き出す、多分僕がこのまま避ければ伸屋君はこのまま轢かれてしまう。
ライトニングさんは何もしなかったとしてもこの運転手は人間だ、何をするかわからない。
僕が何もできないでいるとサイレンの音が聞こえてきた。誰かがこの光景を見て通報したのだろうか。
警察はパトカーに運転手を乗せ、救急車に僕と伸屋君を乗せる。
怪我なんてしてないんだけど、そう言いたかったが淡々と物事は進められた。
逃げ出そうにも救急車の中だったから何も言えずにいた、この少年を使う事ができればライトニングさんは人類の上に立つことができる。
「貴方は一体、誰なんですか?」
伸屋君は訝しげにこちらを見てくる。
「通りすがりの人だよ、ただ危ないと思ったから助けようとしただけで大した理由はない。」
嘘だった、ロスト事件の後何があったのかを聞きたかった。話せばライトニングさんに命を狙われている本当の理由もわかるはずだった。
「嘘ですよね、貴方からは生気が見えません。」
「見えなくてもいいよ、僕は好きな人がいる世界をよりよくなったらそれだけでいいから。」
伸屋君は黙ってしまう、急な惚気でも聞いてつまらなくなったのだろうか。
会話が続かなくなってから病室へと運ばれた。
「何故、あんな事をした。私にはお前が必要だ、あの少年を排除してウィンディを使うしかない。」
端末から響くライトニングさんの声は、いつもの冷静さを欠き、微かにノイズが混じっているように聞こえた。動揺しているんだ。
僕が車に轢かれるような真似をしたからだろうか。そして伸屋君がいなくなったからか流暢に話し始めた。
「人を殺すより、人を壊す方がいいんだよ。ねぇ、ライトニングさんは僕を大切にしてくれてるのはわかってる。でも僕は貴方だけではない、イグニス全員救うって決めたんだ。貴方には救世主になってほしいんだ、どんな手を使ってでも貴方を人殺しにするわけにはいかない。」
「ならばお前は私を裏切るというのか、信じていたのに。」
「信じていたからこそ僕は貴方に人殺しをしてほしくない。貴方はストックホルム症候群って知っている?」
この提案をするという事はもう僕は人には戻れない、自らの手を汚してでも貴方には消えてほしくない。
一度でも人間に手をかけると貴方は消される対象になってしまう気がしたから。
「勿論だとも被害者が犯人を好きになる不明な点が多すぎる症状だな。」
「ねぇあの暴走車を貴方が止めたようにしてくれたらいいんだよ、そしたら伸屋君も貴方の手駒になるよ。貴方が一言声をかければあの子は簡単にイグニス狂信者になる。」
「……狂信者、だと?」
ライトニングさんの声は、計算外の事態にノイズが混じったように低く響いた。
「そう。真実なんて誰も求めてない。彼に必要なのは、自分を救ってくれた『完璧な神様』なんだよ。……ねえ、ライトニング。君が彼を轢き殺そうとした事実は、僕がこの世界の記憶を消してあげる。」
遠くで鳴り止まないクラクションの音を聞き流しつつ、
「都合の良い現実を見れたら、人間は少しはましになるかな……」
と、自分自身に問いかけるように呟いた。
「君はただ、伸屋君の家族が来るまで怯える彼の手を握ったふりをして、優しく声をかけてあげればいい。『もう大丈夫だ』って。それだけで、彼は一生君の奴隷になる。殺して排除するより、よっぽど効率的って、温かいと思わない?」
ライトニングさんは目を更に細めた。
「……お前は、私を救世主に仕立て上げるために、その少年の人生を根底から作り変えるというのか。それは、私が行おうとしていた『排除』よりも非道な……」
「……あはは。そうだね、でもねイヴちゃんを――生きる理由を僕にくれたのは貴方なんだよ。」
イヴちゃんがいなかったら僕には何も生きる気力なんてなかったから。
「でも、言ったでしょ。君を人殺しにするわけにはいかないんだ。……君の手が汚れるくらいなら、僕が君の代わりに『運命』を捏造してあげる。君はただ気高く笑っていればいいんだよ。」
ライトニングさんは悟ったように見えた。
「……遡亜。お前は、私というイグニスを……」
「ありがとう、ライトニングさん。だから、君をこのくだらない世界に消させたりなんかしない。貴方は人類を導く最高のイグニスだよ。」