ブレ×ブレでテンプレ転生ファンタジーもの   作:某五歳児

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 荘厳たる黒曜の城。

 魔障の霧と数倍の重力、人を憎み殺すことに快楽を覚える魔獣、その上位存在にして邪悪の権化たる魔人。生けとし生ける者すべてを拒むそれらに護られた、常識の埒外にある夢幻の要塞。

 

 名を、『魔王城』

 

 曰く、それは6人の勇者と100万もの軍勢を以てしても破ること能わず。

 曰く、魔王の側近たる72の悪魔はあらゆる攻撃が通じない。

 曰く、魔王は1000年の眠りより目覚め、人間を滅ぼそうとしている。

 曰く、曰く、曰く──。

 

 伝説のオンパレード。

 法螺が何割含まれているかは誰も知らないが、信じている者もそうはいまい。

 事実、それらは全て嘘である。

 ──今となっては、だが。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 荘厳たる黒曜の城。

 魔障の霧と数倍の重力。存在の核である魔石だけを残して消滅した魔獣の群れ。原型の一切を止めぬほど斬り刻まれた魔人の骸。仮初めとはいえ命あったはずのそれらを、不毛の大地の養分へと帰した下手人の少年。

 

 彼はこの世の住人とは思えぬ出で立ちだった。

 色素の薄い、黒い瞳。赤い髪。元は白かったであろう、今や返り血で染まったシャツ。グレーの半ズボン。何処にでも居そうな少年の特徴を持ってはいるが、それは『ガワ』だけだ。

 内側──魂とでも呼ぶべき領域が、この世のあらゆる存在を詰め込んで撹拌したように濁っていた。その影響で、身体にも異常を来している。

 顔を呪刻が彩り、異形の腕には身の丈を越す漆黒の大鎌を携え、背中からは天使のごとき純白の翼と龍のような禍々しい翼を生やしていた。

 

 「GAA···」

 「···」

 

 下半身を無くし、命乞いのように呻き声を上げて這いずる魔人を、少年は軽く振った鎌で断頭した。

 

 「──つまらんなぁ。別世界の同業者って言うから、どんな魔剣が居るのかと思って来てみれば」

 

 独り言には大きすぎる声が、無人の荒野に満ちる霧に吸い込まれて消えていく。

 返事をする者など、たとえ魔獣と魔人が健在でも居なかっただろうが。

 

 「おかしいなぁ···魔剣の気配もしないしなぁ···」

 

 声量を絞らない独り言をこぼしながら、少年は聳え立つ黒曜の城へと向かう。

 

 「UGAAA!!」

 「煩いぞ」

 

 門番として配置されていたガーゴイルの石の身体を、鎌の一閃で三枚に卸す。

 

 足を踏み入れた城内には、既に敵を盛大に歓迎するための用意が整っていた。

 

 見渡す限りの魔獣と魔人の群れだ。前衛であり、本来この城を攻めるのに必要な幾万の軍隊を押し止めるための、悪魔重装騎士(イーヴィルヘビーナイト)の密集陣形。背後に控える、幾万の軍隊を葬るための、魔導の踏破者(オーバーロード)の軍勢。

 単騎が当万の猛将、魔王の爪牙たる72柱の原初の悪魔。

 

 そして。

 

 高く続く階段の頂上で玉座に掛ける、死の覇気を纏う──魔王。

 

 「わざわざエントランスでお出迎えとは、フレンドリーで嬉しい限りだ」

 

 笑いを漏らし、少年は鎌を一振りした。

 

 一番近い悪魔重装騎士まで、およそ20メートル。遊びの意味しか持たないはずの動作。それを発端に、血の雨が降り注いだ。

 

 372体の魔王の軍勢と、1人の魔王。総373個の生首が地面を転がり、遅れて同数──いや、玉座に掛けたままの魔王のものを除く372個の身体が地面に崩れ落ちた。

 

 「···さて、魔王はやっぱり最上階かな」

 

 無感動に魔王軍の最精鋭たる親衛隊を屠り、まさか一撃の下に魔王が沈んでいるとは思わない少年は階段を昇る。途中、有象無象とは毛色の違う装備を着けた魔王の遺体を一瞥するが、

 

 「前線指揮官でもこの程度の装備なのか···ちょっと拍子抜けだな」

 

 審美眼か監察眼でもあれば、或いは《鑑定(アプレイザル)》の魔術でも使えれば、身に着ける鎧も剣も、装飾品の一つに至るまでが特SSS級装備──国宝級の代物だと見抜けたのだろうが、少年は生憎そうではないらしい。

 

 「外観的には13階か14階くらいの城だったんだが···空間操作か?」

 

 階段を昇ること数時間。踏破階層が100を数えた頃、少年は漸く異常に気づいた。

 それはフロアが多すぎるということに止まらない。

 

 「人が居ねぇな···」

 

 癖なのか、声量を加減しない独り言を続ける。

 100を数えたフロアのうち、敵味方問わず生命体に遭遇したのは最初のエントランスのみ。魔王軍としては、エントランスを最終防衛ラインとして無数のトラップと精鋭による迎撃で殲滅する予定であったのだが。

 

 「トラップの類もないし···なに、もしかして前線基地とかなの、ここ」

 

 紛うことなき魔王軍が本拠、魔王城に対して何たる暴言か。

 そう咎める者は誰一人としていない。

 

 「···ん?」

 

 独り言を漏らしながら、さらに歩を進めること数十分。

 毛色の違うフロアに至り、少年は漸くこの行軍が終わるのかと安堵し、棒になった足を叩いて労った。

 

 「つ、疲れたぁぁぁ···」

 

 重厚な上位金属(オリハルコン)の扉。両開きのそれを蹴り開けると、そこには城の外観を上回る荘厳な景色が広がっていた。

 黒曜石か、或は未知なる石材か。漆黒ながら光沢と透明感のある素材で出来たホール。一直線に敷かれたレッドカーペットは、13段の階段を昇り玉座にまで続く。ホールを一望できる高さに設えられた玉座は、アメジスト製なのだろうか。天井に吊られた白金のシャンデリアから降り注ぐ光を受け、微かに透けてもいる。

 

 「つ、着いたぁぁぁぁ!!」

 

 途中から杖代わりにしていた大鎌を投げ出し、玉座に駆ける。投げ出された鎌は金属音を立てて地面に落ちるより早く、その全てを大気中の魔力へ還して掻き消えた。そして、少年は玉座に掛ける。

 

 「んふふ、魔王気分」

 

 魔王は2メートル超の魔人、少年は160センチそこそこ。足がプラプラしていてシュールなことこの上無かった。

 

 「んー···魔王って言うから、もっと良いモノ持ってるかと思ったんだけど···やっぱり前線基地か、これ」

 

 宝石の玉座は座り心地が良く無かったらしく、少年は直ぐに飽きて立ち上がった。正確には、乗っていた玉座から降りた、というのが正しい。

 

 「魔王城の座標ってこの辺のはずなんだが···ちょっと、転移担当? 仕事して?」

 

 虚空に向かって文句を言う少年。

 彼はしばらくそのまま立っていたが、やがて怪訝そうな顔になり、部屋を出た。そして、さっき昇ってきた階段へと至る。

 

 「これ降りるんスか···えぇ···」

 

 一般的に、坂道や階段の類は昇りより下りの方が体力を使うと言われる。少年はその知識に照らし、棒になった足を憐れむように叩いた。

 それも一瞬。少年はその表情を明るくすると、右手を横に突き出した。

 

 「そうだよな、階段が面倒なら、直接降りればいいよな!!」

 

 顔を輝かせ、右手に一本の杖を顕出させる。

 その杖を軽く掲げると、一筋の光が降り注いだ。

 出所は杖ではなく、遥か天空。魔王城の不壊とされた屋根を、外壁を、天蓋を音もなく灰塵と化し、一階まで突き抜ける。

 少年は不揃いの翼を羽ばたかせると、100階分の高度を一瞬で降りていく。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 『勇者』と呼ばれる存在が居る。

 彼ら、或いは彼女らは、創造神の加護を得て常外の力持つ英雄となり、魔王を倒すべくその領域を目指し旅をする。

 その顕現は100年に一度。

 一代につき三人の勇者が選ばれる。

 今代の勇者は『剣使い』の少年カイン。『鉄壁』の青年アベル。そして、『魔剣鍛冶』の大男トバルカイン。

 先代の教育を受け、完成した力と技巧を持つ三人の英傑が、ついに魔王支配域へと至る。

 が。

 

 「な、なんだこりゃ···」

 「この甲殻を一撃で···?」

 「かなりの業物だな、こいつらを殺ったのは」

 

 見渡す限りの敵を想定し、今生の別れまで告げてきた彼らを出迎えたのは、見渡す限りの敵。その死骸だった。

 

 「なん···うわっ!?」

 

 人一倍魔力に敏感なカインが悲鳴を漏らすと、即座にアベルが盾を構えて庇う。

 その数秒後、魔王城を天より降り注いだ一条の光が貫いた。衝撃波で魔人の血液混じりの砂塵が舞い上がり、地面が鳴動する。

 

 「今のは一体···まさか?」

 「あぁ、誰かが魔王と戦ってるんだ、助けに行こう!!」

 

 三人は一切の戦闘なくここに至り、有り余っている体力を生かして疾走した。

 

 

 




 魔界の設定細部が分からないなら別世界にすればいいじゃない(妥協)
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