ブレ×ブレでテンプレ転生ファンタジーもの   作:某五歳児

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 一階から空までを貫いた崩壊の極光。その輝きは魔王支配域と隣接するヘブロン聖王国でも観測されていた。中でも特級の魔術師である宮廷魔導士たちが謁見中であった玉座の間は、王の御前にも関わらず喧騒に包まれていた。

 

 「なんだ、今の光は?」

 「ここからでも魔力を感じたぞ?」

 「魔王城の辺りだったよな···」

 「かなり高位の···いや、神代の魔術じゃないのか?」

 

 辛うじて膝は付いているものの、頭を下げることなど忘却した宮廷魔導士たち。宰相がこめかみの血管を切るのが早いか、魔導士たちが我に返るのが早いか。聖騎士団長は鉄面皮の下で愉快さを圧し殺して言う。

 

 「神官長、今のは」

 「···分かりませんが、『神罰』相当の魔力ですな」

 

 聖王国最強の魔導士団である宮廷魔導士と、最強の神官集団である聖歌隊。この二つが共同で編み上げることができる戦略級攻撃魔術『神罰』。それと同レベルの魔力を、武の頂点である二人は敏感に感じ取っていた。

 ···神官が武力集団というのは珍しい話だが、それはまた別の機会に。

 

 「えぇぃ、煩いぞ、控えろ!! 御前であるぞ!!」

 

 宰相の方が早かった。聖騎士団長は片眉を上げた。

 

 「宰相、卿も少し声を控えろ」

 

 こいつ近いのに煩ぇな。聖王は眉をひそめた。

 

 萎縮した宰相を捨て置き、聖王は神官長に視線を投げる。

 

 「ヨーセフ、今代の勇者は堅実な戦闘に特化したと聞いたが?」

 「は、畏れながら私もあのような攻撃手段は存じ上げませぬ故、断言しかねるのですが···あの三人の魔力全てを費やしても『神罰』には届きません。故に、あの光も勇者によるものではないと愚行致します」

 「ふむ···」

 

 『神罰』の術式は国家機密。他国が使えるとは思えないし、万一漏洩してもそう易々と撃てる術でもない。それに、何より。

 

 「『神罰』は戦略級魔法ではありますが、魔王城周辺の魔障の霧の前には無力でした。完全な別物かと」

 「···何にせよ、勇者からの報告を待つしかあるまい」

 

 聖王は背もたれに体を預け、目を閉じた。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 「せーんりっひんー、アソーレ、せーんりっひんー、アーヨイショー」

 

 よく分からない歌を歌いながら、綺麗に断頭して所有者を殺されたが故に無傷の鎧や武器を剥いでいく少年。他人が見れば単なる···いや、がめついアホ。しかも踊るアホだ。理解しかねるだろう。

 

 「···おい、なんだアレ」

 「魔人、だよな?」

 「あぁ、羽とか生えてるし···」

  

 勇者たちは魔王支配域では敵に会っていないとはいえ、カインは故郷を襲った龍と、アベルとトバルカインは親の仇であった吸血鬼と戦ったことのある猛者だ。毛色の違う魔人(?)に対して、「テキ!コロス!」と突っ込まない程度には頭が回った。

 

 「···なぁ、さっきから何見てんの?」

 「「「あ」」」

 

 相手の知覚能力にまでは、残念ながら思い至らなかったようだが。

 

 「や、そう警戒しなくても。別に因縁付けようってワケじゃないよ」

 

 魔王城の中で、魔王軍の精鋭──しかも見た限り全員が一撃で葬られている──の死体の山を漁る、人間であると明言しかねる存在が口にするにしては、妙に俗っぽい気休めだった。というか別に気休めにすらなっていない。

 

 「君たち何者? この辺かなり物騒だけど、家まで護衛しようか?」

 

 少年は考える。

 ここから一番近い町まで案内して貰おう。魔獣とかいて物騒なのは本当だし。

 

 「え、あ、いや、あの···」

 

 アベルは考える。

 魔王支配域を「物騒」って、何言ってるんだこいつ···

 

 「っていうかアンタこそ何者だよ···」

 

 トバルカインは顔を引き攣らせて言った。

 少年は一瞬だけきょとんとすると、人懐っこい笑みを浮かべた。

 

 「あ、ごめんごめん。俺は···マオ」

 

 名乗る前の不自然な空白に勇者たちは気付いていたが、偽名を名乗られたことに嫌悪感はない。というか、この状況で本名を明かされても多分疑う。

 

 「ボクは『鉄壁』のアベル。よろしく、マオ」

 「オレは『剣使い』のカインだ。これ、お前がやったのか?」

 「そうだよ。···ところで、その称号的なの何? クソカッケーな」

 

 黙々と死体を──その装備品を検分するトバルカインを他所に、三人の会話が弾む。

 

 「称号は一定レベル以上の冒険者なら大概持ってるぞ?」

 「おぉ、冒険者とか居るのか!! いいねぇ、いっつぁふぁんたじーって感じ!!」

 「けどなぁ···『剣使い』って単純過ぎねぇ? もっとこう、『剣聖』とか、『剣王』とか、そんな感じの称号が良かったぜ」

 「いやいや、そのシンプルさが逆にカッケーわ。いいなぁ···」

 「そ、そうか?」

 

 照れ笑いを誤魔化そうとしたのか、カインがトバルカインを呼ぶ。マオとしても、ただ黙々と死体を漁っている巨漢には興味があったので、そこに突っ込むことはしない。

 

 「あぁ、悪い···俺は『魔剣鍛冶』のトバルカイン。ところで、アレをやったのはお前か?」

 

 肩越しに死骸を指すトバルカイン。黒い瞳には抑えきれない恐怖と興味が宿っていた。

 マオが頷いて肯定すると、トバルカインは興味一色に染まった瞳をして口を開く。だが声を発するより先に、片手を上げたマオに遮られた。

 

 「待て、お前···『魔剣鍛冶』だと?」

 「あ、あぁ···ほら」

 

 トバルカインは懐から一枚のプレートを取り出した。ギルド発行のステータスカードで、名前と称号、ギルドランクが書かれている。

 

 「なにこれ」

 「ギルドカードだ。偽造不能の魔術が掛かってる」

 「···じゃあアンタ、魔剣が打てるのか?」

 

 驚愕一色。一分の興味もなくなるほどの衝撃を受けたのだろう。顔全体で感情を表すマオに気圧されたのか、トバルカインはつい、

 

 「あ、あぁ」

 

 と肯定してしまった。

 初対面の相手に明かすと色々と面倒だと経験的に知っているというのに、だ。

 しまった。こう言った次の相手のセリフは大体3つに決まってる。「嘘だ」「証拠を見せろ」「俺にも造ってくれ」。

 証拠ならカインとアベルがいま使っているし、魔鉱石や魔獣素材のような魔剣向きの素材があるなら造るのも吝かではない。問題は二人の装備を見て「魔剣だ」と一目で見抜けないような節穴には造りたくないというプライドと、高位素材を集められる技量を大抵の奴は持っていないということ。

 カインの剣は彼自身が狩った龍の素材だし、アベルの盾も吸血鬼が所持していた魔鉱石を使っている。勇者の彼らでさえ、トバルカインの流儀に合わせたのだ。有象無象は言うまでもない。

 

 「言っておくが──」

 「ほーん。すげぇな」

 「──あ?」

 

 先んじて注意をするのも慣れたもの。そう思いつつ口を開いたトバルカインの耳に入ったのは、マオの興味無さげな声だった。

 これがそこらの有象無象なら、多少気分を害しただろう。

 だが、トバルカインは既にマオの得物、その異常性の一端に気付いている。というのも、魔人や悪魔の身体を一撃で両断するという所業は、カインの武器·技量でも不可能だからだ。

 

 「なぁ、マオ。初対面で言うことでもないんだが、武器を見せてくれないか?」

 

 武器を、特に魔術的な仕掛けのある武器を見せるということは、手の内を明かし、生命線を預けるということに他ならない。初対面の、しかも敵の支配域で言うには愚鈍とすら言える申し出だ。

 まぁ無理だろうな、と、トバルカインは半ば諦めつつ。

 

 「ん? はい」

 「あぁ、ありがとう···っておい!?」

 

 差し出された鎌を受け取った。

 

 「お前何考え···なんだ、これ」

 「魔剣」

 

 端的に過ぎる答えに、トバルカインは怒鳴り散らしたくなった。

 刃から柄まで、全てが漆黒の大鎌。魔剣特有の「サイズに見合わず軽い」とか「持つだけで力が増す」といった感じが全くない。ただ刃が異常に鋭く、ずっしりと腕に掛かる重量以上に頑丈そうなのは何となく分かった。

 ···「何となく」だ。

 『魔剣鍛冶』の称号を持つ、当代最高のウェポンスミスが、武器を持って「何となく」しか理解できない。その異常性を、トバルカインは正しく理解していた。

 

 「···鑑定しても?」

 

 自身の目を鍛え、《鑑定(アプレイザル)》の魔術無しに武器を見極めることが出来る。それを誇りと掲げてすらいたトバルカインは、見えない頂点を見るためにそれを捨てた。

 そもそも《鑑定(アプレイザル)》を武器に使わせてくれる奴なんて、店番の鍛冶屋くらいだ。それに命を預ける者はまず認めない。

 

 「構わないけど」

 「感謝する」

 

 薄々気づいていたマオの異常性を再認識しながら、トバルカインは魔術を起動した。

 

 「《鑑定(アプレイザル)》···これは」

 

 

 名前 : レゾンデートル

 カテゴリ : 武器

 耐久値 : 測定不能

 保有魔力 : 測定不能

 所有者 : 秘匿

 製作者 : 秘匿

 

 

 「···なぁ、マオ」

 「なに?」

 「殆ど見えないんだが···銘は、レゾンデートルというのか? 製作者だけでも教えて貰えないだろうか?」

 「···何故?」

 

 通常、《鑑定(アプレイザル)》を欺く方法はない。だが何事にも例外はある。それがこのパターン──高すぎる頂上には何をしても届かない。そして、《秘匿(シークレット)》という暗号化の魔術を使われると見えなくなるということだ。とはいえ「見えなくなる」というだけで「隠している」ことまでは隠せないので、使い手の殆どいない魔術ではあるのだが。

 

 「弟子入りしようと思う」

 

 マオは考える。

 ──自然発生型の魔剣だし無理なんだよなぁ、と。

 

 トバルカインは考える。

 ──それが無理なら奪う···というのは無理。ならせめて味方に引き込んでおこう。

 

 二人の思考が終わり、マオが口を開く。

 より少し早く、カインの叫び声が響いた。ちなみに、アベルはこの場に残っている。

 

 「魔王だ!! 魔王が居たぞ!!」

 「なんだと!!」

 「もう死んでる、マオがやったのか!?」

 

 マオは考える。嘘を吐くか、正直に話すか。

 心当たりは全くない。エントランスに居たのは精々時間稼ぎの雑兵ども。玉座の間はもぬけの殻。

 

 だが、勇者ともあろう者が魔王を見違える訳もない。

 そこから導き出される結論。それは。

 

 「いや、俺じゃない。みんな気を付けろ、暗殺者が居るぞ!!」

 

 3人はパニックに陥った。

 

 

 

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