「GROOR……」
今日も今日とて彼らは穴蔵暮らし。ジメジメと陰湿で腐臭で満ちるよくある洞穴。
そこで彼らにとっての昼。つまり忌々しい太陽が沈むまで、棲みかであるよくある洞窟に潜む。
人の子供程の背丈、肌は汚い緑色。あらゆる怪物の中で最も弱いとされるモンスター。
ゴブリンだ。
獣と比べれば脳ミソは発達しているが、およそ文明文化とかけ離れた暮らしぶりだが、数が揃えば社会や序列が生じるのは必然である。
現にその穴蔵にいるゴブリン達を率いるのは他の同朋より頭が回るゴブリンシャーマンだった。
動物の頭蓋骨を組合せた杖を持ち、頭には何の意味があるのか、皮の頭巾を被っている。
そんな彼は何を思ったのか手にした杖でガリガリと地面を引っ掻く。円を書き、意味不明な模様を描く。
神の啓発でもあったのか、召喚陣らしきものを描いている。
「GROORB!」
満足したのか、彼はその出来の悪い魔方陣に向かって喚いた。
召喚術は素人が見よう見真似で行える程簡単なものではない。天上世界にいる《真実》が振るうサイコロの出目も芳しくない、筈だった。
ーーその時、不思議なことが起こった!
グラグラグラっと、四方世界の遊戯盤が揺れ、賽の目がコロりと変わった!
《真実》と《幻想》が互いに顔を見合せ、サイコロの目を確認する。
クリティカルだ。
彼のゴブリンシャーマンの幼稚な儀式は、何の結果も出す事無く終わるはずが必然か偶然か、多次元の世界からある者を呼び寄せた!!
カッ! と魔方陣が光り、エーテルが逆巻き唸りをあげる。
突如の現象にゴブリンシャーマンも、その取り巻き達もこれにはびっくり。
光が弱まったと思ったら一段と強い閃光を発し、ゴブリンの小さな体をよろめかす程の突風が走る。
ゴブリンシャーマンが庇っていた顔をあげるとそこに在ったのは……。
◇◇◇
ゴホゴホっと召喚された破壊神はまずむせた。
何なんだ一体? トレーニング部屋でコケ達をのんびり眺めていたら、まぁた呼び出された。また魔王が征服した世界を勇者達に奪い返されたのか?
立ち上る煙を手でパタパタやっているうちに段々感覚が戻ってきた破壊神は顔をしかめた。
臭い。尋常無く臭い。ダーク股ーを鍋で煮詰めた様な、鼻を通り越して脳まで直接突き刺さる様な悪臭!
そして目の前には何やら小汚なく醜悪な緑色の生物が沢山。世界広しと言えどここまで醜い生き物はそうそうお目にかかれるモノではないぞ!
「GRAAAM! GOROOOB!」
そのゴブリンシャーマンは何やら喚き、手にした杖をブンブンと振り、隅に転がる自分達が散々に弄んだ只人の女を指した。それに合わせて回りの奴らも騒ぎだす。
破壊神は鼻を押さえながらげんなりした。
ーー召喚されし
奴らの言語(?)は理解できなくても、お互いに混沌の勢力に属している為か何となくニュアンスは解った。
破壊神は早くも家に帰りたくなった。いきなり呼び出され、訳の分からないのに絡まれる。しかもそいつらはこの上なく不潔!
眼を閉じた破壊神の脳裏に前回呼び出した魔王の顔が浮かぶ。彼は実に紳士的で礼儀正しかったなあ、と改めて思った。
だがそれに比べて今の状況はどうか。それを考えると何かムカムカしてきた。
破壊神は手にしている鶴嘴を肩に担ぎ上げ、片方の手の中指を天上に向かい突き立てた。
ーーおぅ、ふぁっくゆー!
するとゴブリンシャーマンは憤怒(?)の表情でギャーギャー叫ぶと手下をけしかけて来た。
召喚主の言うことを聞かない奴はちからずくで従わせる、と言うことらしい。
ズシンッと緑で巨体な怪物が進み出て拳を振り上げる。
破壊神は知らなかったが
その拳がだいぶ大振りながらブンッと飛んでくる……その前に破壊神は動いた。
ーー□ボタンもとい、ツンツン攻撃を食らえ!
手にした鶴嘴によるつつく攻撃! 威力自体は決して大したものではないが、破壊神による鶴嘴攻撃だ。
つつかれたホブゴブリンはギャッと声を上げるや灰のように体の端からみるみる崩れ去っていく。
養分が周囲に飛び散り土を肥やす。肥えた土は新たに生命を生み出し、または他の生けるモノを養うだろう。こうして世の中は循環していくのだ。
破壊神はその神の眼で周辺の土を見やる。
は? 養分が1しか増えてないんだけと?
破壊神は戸惑った。あんなメタボおとこ並みに巨大だったのに、養分がこれだけってどう考えてもおかしい。
試しに他の取り巻きの緑色達も何匹かつついてみたが、ダメだっ! 養分が1も溜まらん!
破壊神が愕然とする中、この醜悪なカスのような生き物が悲鳴を上げる。
とんでもない者を呼び出してしまった、大失敗と言う訳だ。
破壊神は慌てふためく生き物を養豚場のブタを見る眼で見ると地上に向かい歩き出した。
いくら破壊神でも養分が無い土からはどうやっても魔物を作れない。ましては彼はきれい好きだった。
こんなばっちい所にダンジョンを造りたくない。誰だってそう思うだろう?
そして、しばし歩くと破壊神は地上に出た。太陽の陽射しが暖かい。
思えばダンジョンを造り、魔物を創造し侵入してくる勇者達を撃退しても、自分が地上を歩いた経験は無い。
ーー地上を散策するのも良いかもしれない
◇◇◇
爽やかな森の木漏れ日を浴びながら破壊神は上機嫌に歩く。先程まで不衛生な洞窟に居たから森の清浄さが嬉しい。
ルンルン気分でスキップで進んで行くと、前から4人の少年少女達に出会った。
「うわぁ、いい歳した大人がスキップしてるよ……」
「ちょっとあんた、いくらなんでも失礼でしょ」
鉢巻きをした若者を黒髪を束ねた胴着の少女が窘める。
第一村○発見! 構成は男、女女女。……ぺっ!。
「あのさ、あんた。この辺の人かな? 聞きたいことがあるんだけど」
話しかけてきた鉢巻きをした若者を破壊神は思わず二度見した。
ーーハジメ君!? ハジメ君じゃないか!
「えっ? ち、違います。人違いですよ」
慌てて否定するハジメ君もとい鉢巻きをした若者。
ーーあっそう……それで?
近辺の人、ていうか人じゃないけどね。
「俺たち依頼を受けてゴブリン退治に向かうんだ。この辺りにゴブリンの巣があると聞いたけど、知ってるか?」
破壊神は考え込む。ゴブリン。ゴブ、リン? ……知らない魔物ですね。
「は? ゴブリン知らないって何? あり得ないでしょ」
そう言うは魔法使いのような杖を持ったとんがり帽子の眼鏡っ娘だった。
おまえ初対面の人にそれはないだろ……。これがツンデレーなのか。
「誰がツンデレよっ!」
ギャーとムキになるツンデレ娘を白い神官服を着た金髪の娘が遠慮がちに宥めた。
「まあまあ。えっと、あのですね。ゴブリンっていうのは緑色をしたーー」
ああ、そういうことね。完全に把握した。てか、あの醜いのゴブリン言うのか。
破壊神は先程まで居たゴブリンの巣穴の位置を教えた。
「ようしっ! 場所は突き止めた! 早速乗り込むぞ!」
息巻く若者は言うや否やずんずんと歩き出してしまう。
「ああ、もう待ってよ!」
「ふん」
と胴着の少女とツンデレ魔法娘が続く。
「えと、お話、ありがとうございました!」
たっ、と駆け出す神官娘を破壊神は呼び止めた。先の3人とは違い、ちゃんと礼を言える善い娘には破壊神から贈り物をあげよう。
懐から取り出すは一本の松明だった。
かつて破壊神が造ったダンジョンに侵入してきた勇者が持っていた物だ。ダンジョンに入った瞬間、ニジリゴケコマンド部隊によるコケ地獄戦術で文字通り瞬殺にした後に回収したものだ。
「えっ、いいんですか?」
ーーいいの、五万とあるし。それに
ダース単位で持ってく? と取り出すが、神官娘は顔を引きつった笑みでそれを辞退した。
なんて謙虚なのだろう!
頭目の若者の呼ぶ声に神官娘は、ペコリとお辞儀をし今度こそ駆け出していった。
破壊神はその若人達の背中を眺める。
ーー
何か勢いで書いてしまった。後悔はしてないが反省はしてる。
ところでみんなは「ゆうなま」好き? 自分はへたっぴだけど好き。
ツルハシ
破壊神のツルハシ。むしろ本体? 穴を掘って、魔物を産む事が出来る。すごい。
松明
トーチ。勇者の持ち物。灯りの側に居ると回復する。
女神官に持たせたから彼女ら生存ワンチャンあるで。
ゴブリン
養分魔分ともに無し。