小鬼のくせになまいきだor2   作:スッパもいもい

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次話投下しますね。


第5話 偶発的遭遇Ⅱ

 破壊神が広野のダンジョンを出奔してから数刻が経過した。太陽は中天を昇りきり、今や再び地平線に沈もうとしている。

 破壊神はその間、広野をのんびり歩きながら只人の都を目指していく。魔神将から受け取った司令書によれば、そろそろ混沌勢の暗黒の兵団が動く頃合いだ。

 破壊神的に混沌と秩序のどちらの勢力が勝利を得るか等はあまり興味無いが、数千数万の軍勢同士のガチンコには興味がある。さぞ、見物だろう。

 日が暮れ始めても町や村に着けなかったので、野宿の準備をするため鶴嘴を振るう。

 周囲の土を掘り返し、夜風を防げる程度の低い土壁を円環に形成。掘り起こした石で炉を作り、そこらに転がっていた倒木や枯れ枝を集め、火を焚く準備をしていると複数の足音が聞こえてきた。

「おおう、先客が居るの。わらしらも一緒していいかいの?」

 ひょっこり顔を出すは禿頭に長い白髭、ずんぐりむっくりとした背の低い男の老人、鉱人(ドワーフ)だ。

 あっ! ここ人類大辞典に載ってたところだ!

 しかし、一人キャンプに興じようとしていたところに、突然の来訪者、招かざる客。

 破壊神は渋い顔をする。

 いきなりそんなこと言われてもなあ~。アポイントメントは大事、いいね?

「何じゃい……駄目か?」

 それでも食い下がる鉱人だが、その後ろから長い首をぬっ、と出すは民族服を纏う、見上げる程に大きな体躯の男。

「旅の御仁ですかな。拙僧らは冒険者一行でしてな。明日、大きな小鬼の巣穴に挑む故、体力を温存出来る場所を探しておりまする。ご迷惑でなければ一夜、同席してもよろしいかな」

 その大男は鱗を有し、まるで破壊神のかつての戦友、トカゲおとこそのものだった!

ーーもちろん、いいぜ! ささっ、こちらへどうぞ!

 破壊神は(一方的な)親近感でトカゲおとこ、もとい蜥蜴人(リザードマン)の頼みとあらばと快諾し、岩を転がして即席の席を作る。

「ぷぷぷ、鉱人ったら厚かましいから拒否されてるじゃない」

 そう言うは、弓を持つ女の森人だった。

「うるさいのぅ。しかし、鱗のがすごい歓待を受けとるんじゃが」

 鉱人道士がチラと見ると、蜥蜴僧侶は破壊神から茶を受け取っているところだった。

「おお、ご厚意感謝しますぞ、旅の方。いやぁ、徳は積むものですなぁ」

 鉱人道士は珍しく溜め息を漏らした。

「釈然とせんが、まあええわい。かみきり丸、娘っ子もはよう来んかい」

 呼ばれて来るのは二人の只人。「邪魔をする」「お邪魔しますね」と片方はかみきり丸と呼ばれた薄汚れた鉄兜と革鎧、鎖帷子を纏った声からして青年の冒険者で、もう片方は白い神官衣に錫杖を持つ若い娘だった。

 野営が一気に賑やかになる。破壊神が薪に火を付けて顔を上げると、女神官が不思議そうな顔で破壊神を見ていた。

ーー何かな? お嬢さん

「あの、以前何処かでお会いした事ありませんか? その鶴嘴に見覚えが……」

 破壊神もこの女神官にやけにバブみを感じ、考えを巡らすが思い当たる節はなかった。

ーー他人の空似じゃない? 今時鶴嘴なんて、誰でも持っているしね

 なぁ? と破壊神は冒険者男性陣に同意を求めた。話を聞いていた妖精弓手が笑う。

「まさか。鉱人じゃあるまいし、持っているわけ無いじゃない。ねぇオルクボルク……」

 そして言葉を詰まらせる。オルクボルクと呼ばれた只人の腰には剣の他に予備武器として、ゴブリンから奪った鶴嘴があった。鉱人は言わずもがな。何の呪いに使うのか、小型のピッケルを所持している。

 妖精弓手はバッ、と蜥蜴僧侶を見て見つけた。彼の、蜥蜴僧侶の頭にある羽毛か何かの被り物の飾りの一つに、鶴嘴の刻印がされたペンダントがある事を。

「ぐぬぬ」と妖精弓手は端整な顔を歪め、またしても、はっ、と女神官を振り返る。

 よかった……彼女は持ってない、と一安心したのも束の間。

 その時、妖精弓手の視力は捉えた! 彼女の鞄から冒険者セットの! 小さいピッケルの頭が飛び出ているのを!

 驚き! この場に集う6人中5人が、鶴嘴またはピッケルを有している。

 時代はまさに、大穴堀時代!

 私? 間違っているのは私の方なの!? とブレイクダンスを披露する妖精弓手を他所に、破壊神と冒険者一行は和気藹々と談笑を続ける。

ーーほう、音に聞こえしゴブリンスレイヤーとはあなたの事なのか

「そう、呼ばれている」

 破壊神は只人の青年。ゴブリンスレイヤーに興味を持った。小鬼を屠る者。なんと善い響だろう! 

 うんうん、と頷く破壊神にゴブリンスレイヤーはやはりと言うべきか、ゴブリン退治の話題を振る。

「話では、この辺りはもうゴブリン共の活動範囲内だ。ゴブリンを見かけたか?」

 破壊神は素直に見た、と答えてから、やったしまった、と思った。

「やはりか。何時、どこで見かけた? 数は? 武装の有無は? 犬やトロルは側にいたか?」

 今まで口も開かず、置物の如く座っていたゴブリンスレイヤーが堰を切った様に喋り出す。破壊神はその勢いに詰問を受ける錯覚を覚えた。 

 破壊神は内心困った。このゴブリンスレイヤーに協力したいのはやまやまだが、まさか「あなた達が目指してる、そのゴブリンが陣取る遺跡(風ダンジョン)は破壊神(じぶん)が造ったの! ごめんねテヘペロ☆」何て言おうものなら、ゴブリンに与する者として即座に首が飛びそうだ。

 それに図らずも破壊神と人喰い鬼が壮絶な喧嘩をしたお陰でゴブリンの数も半減、とはいかないまでも3割くらいは減ったし、間接的にこの冒険者達の手助けをしていると言えるのではないか。

 それに蜥蜴僧侶に嫌われたくないので、当たり障りの無いことを伝えることにした。

 あれこれゴブリンスレイヤーと話し込んでいると、何か良い匂いが漂ってくる。

 見ればいつの間にか蜥蜴僧侶と女神官が夕食の仕度をしていた。

「お二方、一旦話はそこまでに。さあ、焼けましたぞ」

 蜥蜴僧侶は串焼きを皆に配る。蜥蜴人が故郷の南方にある沼地の獣の肉だとか。旨いなこれ。

 鉱人道士が酒に合うと、がつがつ食べているのを見て妖精弓手は顔をしかめ、小馬鹿にしたように笑う。

「これだから鉱人はやなのよね。お肉お肉って意地汚いったら」

「野菜しか食えん兎もどきにゃ、この旨さはわからんよ。おお! 旨い旨い!」

 旨いと連呼して見せつけるように串焼きを頬張る鉱人道士。自分が食べられない物を旨そうに食べる様を見せつけられて妖精弓手は小さく唸る。

 それを見た破壊神はポツリと呟いた。

ーーあっ! ここ、人類大辞典に載ってたぞ! 

「ねぇ、なんか言ったぁ?」

 誰にも聞こえない程の小声なのに森人の耳には届いたらしい。破壊神は誤魔化す様に荷物を漁り、中から布に包まれたものを取り出した。

ーー森人が肉を食べられないって本当なんだなって。でも、これなら食べられるでしょ

 布を取り除くと白っぽい塊が現れた。

「何ですか、それは?」と女神官。破壊神は、とりあえず一口、とそれを切り分けて皆に配る。

 真っ先に食べたのは鉱人道士だった。

「ほう、食感は干し肉に近いが、味はイモじゃな。なんじゃいな、これは?」

 女神官も未知の食材を啄むように食べる。

「美味しいですね、これ。でも、お芋じゃないですよね。お肉でもないし……」

 妖精弓手は手渡された未知の食材に顔を近づけ、クンクンと匂いを嗅ぐと食べれると思ったのか、その小さな口でパクついた。

「あっ、イケるわねこれ。優しい味で」

「実に美味でありますな。して、これは一体何なので?」

 蜥蜴僧侶に問われ、破壊神はネタバレをする。

ーーガジガジムシの干し肉だ。まあ、要するにデカイ蟲だ

 ぶーっ、と噴き出す鉱人道士。女神官は喉に詰まらせた。ゴブリンスレイヤーは口元に運んだそれをそっと戻す。

「ちょっ! 汚いわねッ」

「ゴホッ、ゴッホ。おまえさん! なんちゅーもん食べさせるんじゃ!!」

 妖精弓手の抗議を無視し、鉱人道士は声を荒立てる。

ーーさっき世界中の旨いもん食べたいって言ったじゃん

 実際旨かったから何も問題ない筈だ、と破壊神は主張する。

「確かに言ったが……せめて食う前に教えてくれ。ほれ見ぃ、娘っ子が窒息しそうじゃ」

 自らの胸を叩く女神官にゴブリンスレイヤーは水の入った水筒を差し出す。それを受け取って飲み、女神官は窮地を脱した。

「おや? 小鬼殺し殿。食べないなら拙僧が頂いても?」

「いいぞ」

 かたじけない、と蜥蜴僧侶は一口で丸飲みする。

「けほけほ。食べる前に教えて欲しかったです。本当に……」

 恨めしげに破壊神を見る女神官。

ーーおやおや

「おやおや、じゃねぇつーに。というか鱗のと長耳のは平気なのか……」

 虫の肉だと言われても、平気でうまいうまいと舌鼓を打つ蜥蜴僧侶と妖精弓手を鉱人道士は呆れ顔で見る。

「拙僧の故郷では普通に食してましたぞ。いやはや、なんとも懐かしい味で……」

「私がいた森でも昆虫食は普通だったわよ」

 あっけからんと言い放つ二人に、文化の違いを見せつけられた鉱人道士は口をへの字に曲げ、女神官は苦笑いを浮かべる。

 森人の食事事情は知らんが、ガジガジムシを食べないトカゲおとこなど存在しないのだ。

「これは私も何か出さなくちゃいけないわね」と森人的に旨いものを食べて気を良くした妖精弓手がゴソゴソと葉に包まれたものを取り出した。葉を広げるとパンに良く似たものが姿を表した。

 というかこれ、レン○スじゃね?

「森人の保存食。ホントは滅多に人にあげてはいけないのだけど、今回は特別」

 妖精弓手がレ○バスを出し、負けじと鉱人道士が自慢の酒を取り出した。壺に入ったそれの封を切ると良い香りの酒精が放たれる。

「ふふん、わしらの穴蔵で造られた秘蔵の火酒よ」

「火のお酒?」

 妖精弓手が興味津々と鉱人道士の手にした酒を覗き込む。

「なんじゃい耳長の。まさか酒も飲んだことないなんざ、童子みたいなこと言わんよな?」

 挑発する鉱人道士に妖精弓手は酒の入った椀をひったくった。

「お酒って葡萄のやつでしょ。飲んだ事あるわよ、子供じゃないんだし……」

 そのやり取りを見ていた破壊神はやれやれと息を吐いた。

 やり取りが、親戚の集まりで背伸びをしたい子供をからかうおっさんの図、そのものだった。

 明日は戦いに赴くのだろう? 子供には響くからやめとけ、と破壊神は妖精弓手に言ったが、湾に並々注がれた酒を猫のように嗅ぐ妖精弓手は、じろりと破壊神を睨む。

「私は2000歳よ。子供じゃないわ」

 ……なんだやっぱり子供じゃないか、と破壊神は鼻で笑うが、その仕草が鉱人道士と同じく挑発と受けとったのか、妖精弓手は一息に椀の酒を飲み干した。

 途端、瞬時に顔を赤くさせ盛大にむせる妖精弓手。

「はっはっはっ、娘っ子にゃ早かったかのう!」

「程々にな。野伏が酔い潰れたのでは話にならないぞ」 

 その様を見て実に愉快そうに笑う鉱人道士を蜥蜴僧侶が窘めた。

 それからはちょっとした宴会の様だった。絡み酒の妖精弓手がゴブリンスレイヤーに絡みチーズを出させ、そのチーズがお気に召した蜥蜴僧侶が騒ぎ、鉱人道士が破壊神の持つ鶴嘴に興味を持ったり、荒ぶる森人がまたしてもゴブリンスレイヤーに絡み、彼の荷を漁ろうとして手を叩かれた。

 宴もたけなわになった頃、そう言えば、と鉱人道士がぽつりと呟いた。

「小鬼共はどこから来るのかのう。わしらは、ありゃ堕落した圃人や森人だのと聞いとるが……」

 それを聞いた妖精弓手が鉱人道士をきっと睨む。

「ひどい偏見ね。私は黄金に魅せられた鉱人の成れの果てと聞いたわ」

「お互い様だの。鱗のはどうじゃ?」

「拙僧は地下にある王国から小鬼共はやって来ると、父祖より教わったが……人族はどう考えておるのかな? 女神官殿」

「あっ、はい。わたしたちはーー」

 そんな哲学的問答をする冒険者一行を横目で見つつ、フライパンで何かを煎りながら破壊神はそれは無いと思った。 

 今まで色々な人の国で巨大なダンジョンを掘ってきたが、地中にゴブリンの国など見た記憶など無い。

 べらぼうめぇ! 偉大な母なる大地にそんな穢れたものがあって堪るか!

「じゃあ最後、旅人さんはどう思うの?」

 妖精弓手に問われ破壊神は顔をあげた。

 女神官は誰かが失敗すると一匹涌くと言い、ゴブリンスレイヤーは緑の月からやって来ると言った。

 破壊神はどちらかとゴブリンスレイヤーの考えに近いかもしれない。

 かつて、世界征服した大陸の周りには更なる巨大な大陸があった……。あれにはマジコーヒーを吹いた。

 それと同じようにこの陸地の、海の向こうからゴブリン共が何らかの方法でやって来るかもしれない。

 破壊神はふと、夜空を見上げた。冒険者達も連れて空を見上げる。満天の星空だが破壊神には月や星々の他に何かがうっすらと見えた。

 体の前でバッテンを作り、言っちゃダメだよ! という必死のジェスチャーをする真実と幻想の姿だ。

 破壊神は眉間を揉んだ。

ーーさてねぇ。本当の事は、神のみぞ知るってやつだろうよ

 

 ◇◇◇

 

 翌朝。太陽が地平線から顔を出した頃、破壊神と冒険者一行は出立の準備をしていた。

 準備といっても簡単に朝食を取り、焚き火の後の燻る炭に土をかけて消火し、各々の荷物を手に引っ掛ければ準備万端。流石に旅慣れた者達だった。

ーー久しぶりに楽しい夜だった。ありがとう

「何の。拙僧らこそ、とんだ邪魔を致した」

 カカカッ、と笑う破壊神に蜥蜴僧侶は奇妙な合掌で応える。ちょうど蜥蜴僧侶が背に朝日を背負う形となり、後光を放っている様に見える。

 その光景と律儀な蜥蜴僧侶に破壊神はまたしても笑う。

ーーいやあ、本当に楽しかったから……そうだな、これから戦いに赴く若人達にささやかながら礼をさせてくれ

 そう言って破壊神は懐から袋を取り出し、少し迷ってから、それをゴブリンスレイヤーに押し付けた。

「これは?」

ーー内緒。いざとなったら使うとよろしい。後、松明持ってく?

「やっぱりあなたはあの時の人ですよねえ!?」

 松明を取り出した破壊神に今まで大人しかった女神官は声が広野にこだました。




妖精弓手「オルクボルク、何貰ったの?」
ゴブスレ「……豆だ。煎った豆だ」


オーガ 「なんか嫌な予感する……」



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