➡️ はい
いいえ
ーー
勇者を確実に仕留めるために
ーーさあッ! どうする勇者!
迫る死。破壊神のガチ攻撃に幻想は慌てるが、もはやサイコロを振る時間も神託を告げる暇もない。
避けることも防ぐことも不可能な攻撃に勇者は己が死ぬビジョンを幻視した。
足がすくむ。常人ならば絶望し、諦めるしかない状況だが彼女は違った。
勇者とは、聖剣を抜いたり、たかが魔神やドラゴンを倒せばなれるものではない。
真の勇者とは、誰もが恐れる恐怖に耐え、困難に立ち向かうその誇り高き姿にある!
そして今の彼女はまさしく勇者たる存在だった!
「敗けられないッ! 世界の為にも! 大切な仲間達の為にも! 絶対に敗ける訳にはいかないんだーッ!!」
勇者の心からの叫びに呼応するように聖剣は太陽のように光を発する。
「うっあああああーッ!」
剣を振り上げ、迫り来る閃光に叩きつける。
2つの高エネルギー体がぶつかり激しく拮抗するが、ジリジリと勇者は押されていく。
勇者は必死に踏ん張るがそれでも後退するのは止められない。聖剣を握る手が裂けてて出血する。
「くッ……!」
痛い! こんなの、1人じゃ耐えられない!
涙を浮かべながら歯を喰い縛り懸命に堪える。
バキリッ! と勇者の足元の石畳があまりの衝撃に耐えきれずに真っ二つに割れた。
勇者の体勢が崩れる。
(しまったッ!)
聖剣が押され破壊の閃光が勇者を呑み込もうとする。
その時!
「勇者! しっかり踏ん張って下さいッ!!」
「1人じゃ無い。私達が付いてる!」
剣聖と賢者が勇者の体を支える。
「みんな!」
1人では無理でも仲間達と一緒ならば耐えられる。勇者一党は一丸となり破壊神の攻撃を凌ぐ!
「ハアアアアッー!!」
ーーオオオオオーッ!!
互いの全力をぶつけ合い、辺り一面を激しい閃光が満たし爆発し、その余波は地揺れとなり水の都周辺地域を揺るがした。
破壊し尽くされ当初の面影は欠片も無くなった部屋に土埃が舞う。
果たして勇者達はどうなったか。
破壊神がツルハシを振るい風圧で邪魔な土埃をかき消すと、破壊神は禍々しい程の笑みを浮かべた。
そこには傷付きながらも健在な勇者達の姿が!
ーー素晴らしい! たかが人の身でよくぞ耐えてみせた! 素晴らしいぞ、勇者よッ!
何が嬉しいのか、破壊神は笑う。
ーーさあ! 勇者よ。互いにそろそろ限界だろう。フィナーレと行こうじゃないか!
破壊神はそう高らかに言うと、残された僅かな力で最後の選択をする。
どんな結末になろうと、次で決める。これが最後の一手にして最強の手札。
破壊神は呪文を唱えた!
ーーいおぬ わのな ぞむほ もからな ぱもほへ かとめ ばじき ぺぺぺ ぺぺぺぺ ぺぺぺぺ ぺぺッ! 出でよ、じゃしんッ!
カッ、と魔方陣が怪しく輝き蠢く。平面上の魔方陣が立体になり扉になった。
その扉は直ぐにヒビが入り崩れ去り、深海の暗闇のような空間から現れるは群青色をした巨体にギョロリとした真っ赤なひとつ目、背中にはコウモリの翼を有する
「EVILGOOODッ!」
重低音な禍々しい叫びを上げて、じゃしんが勇者達に襲い掛かり強力なパンチを繰り出す。
「ここで新たな魔神王級とか冗談でしょう!?」
剣聖が魂からの悲鳴を上げながら賢者を抱え回避。重鈍なじゃしんの攻撃はすばやい剣聖を捉えることは出来なかったものの、パンチを受けた地面はクレーターのように陥没してその桁外れの威力に剣聖は息を飲んだ。
ドカンッ、ドカンッとじゃしんが攻撃する度に大地が揺れる。
しかし勇者達を相手取るにはあまりに遅過ぎた。
「いっくぞーッ!」
勇者はそう叫ぶと、じゃしんの振り抜いた巨大な腕を走るという曲芸めいた動きで接近し、懐に潜り込む。
「スターバースト・ストリームッ!」
「勇者、それはいけない」
賢者の忠告を振り切って勇者は必殺の技を放つ。
斬撃の嵐、目にも留まらぬ16連撃をじゃしんに叩き込む。げに恐ろしいのは、その一発一発が
「IDOLLLッ!」
然しものじゃしんもこれには堪らず後退り倒れる込む。
「ひああっ!」
じゃしんが倒れ込んだ先には邪神官がいて情けない声を出す。
ーーというかお前まだいたの?
夥しい血を流しながら、じゃしんは起き上がろうとする。
その時、じゃしんの赤い瞳と邪神官の視線が交差した。邪神官の背中に嫌な汗が流れる。
じゃしんは邪神官に腕を伸ばした。そして掌がバッサリと裂けて現れたのは恐ろしい牙が覗く真っ赤な顎だった。
「な、何を!?」
邪神官が悲鳴を上げる間もなく掌に現れた大きな口は邪神官に噛み付く。
「ぎッぎゃあーッ! た助けッ! 破壊神様ッ!? お助けーッ!!」
邪神官の叫び虚しく、彼は生きたまま咀嚼され、頼りの破壊神は不思議そうにその様を見つめるのみだった。
「いっ、嫌だァッ! 死にたくなァいッ!!」
(あれかなあ?
ムシャムシャと邪神官を食べるじゃしんを見ながら破壊神は取り留めの無い事を考える。
邪神官(キノコ?)を食べて体力を回復したじゃしんは再び勇者に立ち向かう。
その戦闘意識は賞賛に値するが、敵前で背中を見せる事ほど迂闊なことはなかった。
「太陽の一撃ィッ!!」
勇者の聖剣がじゃしんを穿った。
じゃしんは熟れたトマトのように裂けて、最初から無かったかのように消えてしまう。
「ハッ、ハッ……」
流石に疲労の色が濃い勇者。だが、その瞳は闘志を失ってはいない。
賢者と剣聖も隊列に加わり、油断無く破壊神を包囲する。
少し前までは堅牢な石造りだったこの部屋も、今や原型を留めない程になっていて大きくひび割れた壁からは水が浸水している始末。
「残るは貴方だけ……」
「最早、逃れられないと知れ!」
賢者と剣聖が武器を構えながら言う。
軍パワー、堀パワーが底をつき、文字通り片手の破壊神は抗う術がない。
上等だ。勇者が地上に帰還するまで破壊神は諦めず戦い続けるものなのだ。
誇り高い破壊神は、決して
「さあ! クライマックス・フェイズだ。いくぞ! 勇者、推参ッ!!!」
聖剣が秘める力を一気に解放し、その力を加速装置にして一気に距離を詰める勇者。
ーー来いッ! 勇者! 我を殺してみせろーッ!
破壊神は勇者を迎え撃つべくツルハシを渾身の力で振るう。
聖剣とツルハシがぶつかり合う。
そして勇者の聖剣は破壊神のツルハシを両断し、光を纏う勇者の斬撃は確実に破壊神を捉えた。
「太陽の、爆発ッー!!!」
ーーぐわあああーッ!
◇◇◇
静寂の中パラパラと瓦礫が落ちる音と水が流れ込む音だけかこだまする。
倒れ伏した破壊神が目を開けると緑色の満月が煌々と輝いていた。
カラーン、と高い金属音が側で聞こえ、ぼんやりとその方を見ると両断されたツルハシがカラカラと虚しく転がっていた。
ーー熱く……永い戦いも、とうとう決着したか……
「ボク達の勝ちだね」
傍らに来た勇者が破壊神を見下ろす。
ーーそなたの勝ちだ。しかし……只人の娘1人に敗れる事になるとはなあ
「それは違うよ」
勇者の否定の言葉に破壊神はゆっくりと瞳を向ける。
「剣聖と賢者。皆の力がキミを
ーーふ、ははは……。そうか、仲間の力か……。
仲間の力……。久しく忘れていた。あの抜けているが憎めない魔王との苦楽を共にした日々が破壊神の脳裏に浮かび上がる。
ーーあれは、良いものだよなあ……。
勇者達は破壊神の愛と友情を肯定する言葉に驚き顔を見合わせる。そして勇者は何を感じ取ったのか、膝をつき破壊神に寄り添う。
「危険です」と剣聖は止めようとするが、「大丈夫」と勇者。
「……ねえ、もしさ。出会い方が違ったら、ボク達友達になれたかな?」
ーー再び……合見えることができれば、それも良いかもなあ……
ついさっきまで死合ってたとは思えない勇者の無垢な顔を破壊神は力無く笑いながら見上げる。
ーー最後に、そなたの名前を、聞かせてもらえぬか……
「ボクは───だよ」
ーーそうか……。勇者───よ。我を討ち倒しそなたに、『超勇者』の称号を贈ろう。
「超勇者……」
勇者は宿敵からの言葉を神妙に受け取る。
一歩引いたところから見ている剣聖と賢者は、月光が二人を照らして神からの奇跡を授かる神聖で荘厳な物語の場面のように感じた。
ーーその時、信じられないことがおこった!
カッ、と眼を見開いた破壊神は目にも止まらぬ早さで勇者を突き飛ばした!
「なッ! 貴様!」
剣聖は卑怯な振る舞いの破壊神に激怒し、止めを刺そうと斬りかかろうとするがその刹那、勇者がいた場所に巨石が落ちて来て破壊神を押し潰す。
破壊神と勇者達の激しい戦闘の余波に地下迷宮そのものがが耐えられなくなってきたのだ。
「崩落が始まった。ここにいては危険」
賢者の忠告通り、岩盤には亀裂が走り次々に岩が落ちてくる。浸水も既に洪水のような勢いで、後数分でこの空間は水没するだろう。
「勇者。立って下さい!」
「待って! まだあの人が!」
「もう間に合わない」
剣聖と賢者が勇者を引き立たせ出口へ向かう。
岩に挟まれて動けない破壊神は、地上へと向かう3人を穏やかな表情で見送る。
ーーふっ……。全ては栓無きことよ
激しい崩落と浸水の中、破壊神の意識は微睡みに落ちるように消えていった。
◇◇◇
辛くも地上へと脱出した勇者達は強烈な疲労と安心感で地面に倒れ込む。
「ハア、ハア……。
「禍々しい魔力は消えた。完全に打ち倒したとみていい……」
「そーかなあ?」
勇者は空を見上げる。緑色の満月が夜空を覆っている。
「なんだか、また会いそうな気がするけどなあ……」
取り敢えず、完結です。
お疲れ様でした。