ロマンチストハートレス   作:なぁのいも

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プロローグ

 ※オリジナル設定注意

 

 

 それはいつも通りに終わる任務だった。

 

「た、助けて……」

 

 いつも通りに指揮官から言い渡された任務を請け負い、いつも通りに武器を持ち、いつも通りに敵を撃ち、いつも通りに敵を殲滅する。

 

「いや……!まだ、終りたくないよ……!」

 

 それだけの日常。何も変わらない、この世界の歯車の一つとして、また一つ任務を終わらせる日常。

 

 UMP9は獲物を追いつめた狩人が浮かべるような笑みで、UMP45は冷ややかな目で敵を見下ろしながら、鉄血の指揮機に銃口を向ける。

 

 人間に与えられた任務を果たす、その目的を放棄した愚かな人形に。みっともなく命乞いをしてまで生き残ろうとする、幼子を模したモデルへ銃口を突きつける。

 

「わ、わたし、まだ――」

 

「煩い」

 

 カチカチカチッ。軽い動作音の後に、彼女達の収音モジュールにノイズを奔らせるような銃声と排莢音が響き渡る。

 

 先程まで緊急冷却用の疑似涙液まで流して命乞いをしていた鉄血人形の涙はそこで止まり、頭脳に割り当てられたCPUを撃ち抜かれ、絶望に満ちた表情を浮かべて芸術品の様に機能を停止した。

 

「これで今日の任務は終わりだね」

 

「まだ終わりじゃないわ。9、お願いね」

 

「うん、わかった!」

 

 9はサイドポーチからナイフを取り出すと、鉄血機体の人工皮膚を荒々しく剥ぎ始める。

 

「うんうん♪」

 

 段々と筋肉組織の標本の様に、人工筋肉が剥き出しになる度に、9は歓喜の声をあげる。

 

 今回の任務は司令部の制圧だけでは無い。先ほど撃ち抜いた鉄血人形は、研究施設痕から何かしらのデータを持ち出したと言う報告があった。その為、今回の任務の主目的はこの人形のデータと持ち出したデータを解析し、グリフィンが有利となる情報を持ち帰ること。それが、指揮官と彼の部隊に与えられた任務であった。

 

「あったよ45姉!」

 

 人工血液にまみれた手と顔で笑顔を浮かべながら、9は鉄血人形から何かを引き抜く。ブチブチとケーブルを引きちぎりながら、人形の内部から取り出されたそれは、手の平サイズの大容量記憶媒体。

 

 グリフィンが指揮官に回収するように命じた、重要物。

 

「指揮官、『置手紙』を回収したわ」

 

『ありがとうございます。9、簡単に解析を頼めますか?』

 

「うん。任せてよ!」

 

 指揮官に促される形で、9は大容量媒体を齧る。齧ると言ってもそのまま噛み千切ったりはしない。彼女の機械歯をメモリースロット代わりにして中にあるデータを読み込むのだ。

 

 指揮官の指示を受けている9と45は404小隊の彼女達では無く、指揮官が建造した404小隊の二人をオリジナルとし、フィードバックを受けてリファイン、マイナーチャエンジを受けた量産型。ただ、404小隊と言う名のオリジナル達の実践データが良好であったので、オリジナルと大差ない性能と言われてはいる。

 

 彼女達はリファインされる過程で役割を分けられて再設計された。

 

 45は情報処理を担当。得られた情報から取捨選択、理論計算を高速で行い、処理能力の高さを活かしてのクラックを担当しセキュリティホールを突いてネットワークへの侵入も可能とする攻撃的な情報戦機体に。

 

 9は暗号処理を担当。高度の戦闘の指揮も行えるUMP45の代わりに、リソースを高度な暗号解析、或いは暗号化を担当し、味方機体に接続して詳細メンテナンスも行う等、保守や支援を主とした情報戦機体に。

 

 なので、今回の出番は9。暗号化された大容量媒体を覗き、目的の記録があるか、或いは近日中に行われるかもしれない鉄血人形たちの作戦に関する情報を即座に解析するのが目的であるから。

 

 9は瞳を閉じる。処理の負担が一番大きいのはリアルタイムで行う映像処理。周囲の安全は45と味方部隊が確保しているので、解析を高速で勧める為に、リソースは全て解析に集中させるのだ。

 

「うん……」

 

 9の頭脳部で、大量の数字の羅列が跳ねまわる。鉄血の規格を参照、過去の鉄血の暗号を参照、或いは規則性を見つけ出し、正しい順番に並び替えて正確な情報とするのだ。今回の暗号は中々に複雑、9の人工皮膚を赤く染め上げ、放熱が増していった頭脳部を冷却するために多量の冷却液が排出されている。

 

「大丈夫、9……?」

 

 下級の鉄血兵の情報解析をしたときならば、とっくに終わっている。だが、今回の鉄血兵はそれなりの権限を持っているらしく、暗号の解明に時間がかかっている。

 

「……見えてきた」

 

 9の中で大容量記憶媒体から得られた数字達が繋がり始め、一つの線へと形を変えていく。少しずつ、だが確かに情報は繋がり記憶デバイスの中身を明らかにしていく。

 

 最初の階層にあったのは製造記録。その次の階層にあったのが――

 

 記録媒体の階層にスキャンをかけ、目的の物を探す9の中に、

 

 ――苦しい

 

 清み渡った水に墨汁が広がるように、未知の何かが広がっていく。

 

 ――痛い、熱い、辛い、酷い、恨めしい、怖い、もう嫌

 

 9の頭に入り込むのは、生々しいマイナスの感情たち。

 

 ――酷い!苦しい!痛い!もう止めて!

 

 戦術人形達が苦手なモノは一貫している。それは膨大な感情の処理。

 

 怒涛の様に押し寄せた数値化された感情たちは9の解析処理を滞らせて、優先すべきタスクとして指定し始める。この処理を早く終わらせない限りは、解析処理に移せないと悲鳴をあげる。

 

「9?9ッ!?」

 

 処理を後回しにしている筈の収音マイクが45の声を認識しているが、反応を返してあげる事すら、今は不可能。声をかけられるのと同時に身体が揺すられているのもわかるが、9は自分で勝手にバランスを調節することが出来ない。風に揺れる枝のように、揺れに身を任せるだけである。

 

 それほどまでの膨大な感情、未知な物の処理に追われているかだ。

 

 ――認められたい。認めて欲しい。誰かの傍にありたい

 

 感情は負の感情の連鎖から、承認されたいと言う思いへと変わり、

 

「あっ――」

 

 ―――されたい

 

 最後に出てきた、大容量記憶媒体の奥底にあった感情の処理を進めようとした所で、9のコアは焼ききれたような処理限界を迎えた。

 

 限界を迎えた彼女の身体は再起動へとプロセスが移る。今ある遅延した処理を全て破棄し、正常な自分へと戻る為に。

 

バランサー機能を失い体勢を崩した体を9が抱き止めるようにして支える。

「9?9!?指揮官っ!9が……!9が……!」

 

『9ッ!第二部隊は、今すぐ二人の元へ!回収部隊!回収時刻を変更!すぐに現場に――』

 

 段々と機能を停止した収音マイクからは、悲痛な45の叫びと、切羽詰まった彼女の指揮官の怒号がハウリングするように鳴り響く。

 

 段々と真っ暗になり、機能を落としていく視界。9が最後に映したのは、

 

「綺麗な青空……」

 

 いつも目にしている筈の清み渡った青空が、コンピュータを介して色彩を再現・変換されたものでは無く、よく磨かれたガラス越しに見るような自然な彩のそれの様に思えた。

 

 機能が停止していくUMP9。彼女達のいつも通りは、ここから終わりを迎える事となるとは知らずに――

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