ロマンチストハートレス   作:なぁのいも

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音声ログ

 

20××/×/××(×) 22:36 

 

再生 開始

 

『僕はですね、ヒーローになるのが夢なんです』

 

『ヒーロー?』

 

『そう。ヒーローです』

 

『ふーん……。子供みたいな曖昧な夢ね』

 

『45姉!』

 

『ははっ、その通りかも知れませんね。でも、僕はヒーローになりたいんです』

 

『それは、どうしてなの?』

 

『昔……十年ちょっと前位の話です。第三次世界大戦が起きたのは、知ってますか?』

 

『うん』

 

『記録としては、ね』

 

『ははっ、そうでしょうね……。僕の故郷は、戦争の中で焼き払われてしまいました』

 

『……』

 

『……』

 

『僕は、そんな混乱の真っ只中に居ました。父さんも母さんも、兄さんも姉さんも妹も、友人や、優しくしてくれた皆もみんなみんな、炎に巻かれたり、倒壊した建物の瓦礫に押し潰されたり、敵国のロボットに殺されたり……いっぱいいっぱい……幼い頃から仲の良かった人たちが、沢山、沢山……』

 

『指揮官……』

 

『幼い僕は、色んな人に助けられたり、或いは恐怖心から色んな人を見捨てて逃げたりしながら、助けを求めてました。ずっと、ずっと……。こんな怖いのは嫌だ!痛いし熱いし苦しいしもう嫌だ!こんな思いしたく無い助けて!って』

 

『……うん』

 

『でも、助けてくれるものは何もありませんでした。一緒に逃げた人達も疲れと飢えから次々に倒れて、僕自身もそれに追い込まれてそれで、敵の軍用ロボットに見つかってしまったんです』

 

『……!』

 

『あの戦争は自分達の力を誇示するための、拡大するための戦争ではありません。自分達の国が生き残るための戦争だったんです。だから、民間人の捕虜なんてまずは捕られません。それに、あの時代の軍用ロボットはまだまだ発展途上で、民間人と軍人の区別がつきません。寧ろつかなくてよかったんです。何故なら食い扶持が減るので都合がいいのですから』

 

『指揮官……お話、止めにしてもいいんだよ……?体、凄く震えてるよ……』

 

『無理して話す事じゃないわ。その……ヒーローになりたいって小ばかにしたのは悪かったからその……』

 

『ありがとう二人とも。でも、僕は二人に言いたいんです。グリフィンに指揮官としてやって来た時から、たまたまとは言え、建造されて二人揃ってここに来てくれたのですから。……僕の勝手な我儘ですね。ごめんなさいこの話は――』

 

『……いいから続けて』

 

『うん……。聞くよ私達』

 

『……ありがとうございます。ロボットに銃口を突き付けられて、僕は死を悟ったんです。明確な死を終わりを。僕にはもう助けてくれる人は誰一人として居なかったんです。僕にももう逃げる力はありませんでした。疲れも空腹もとっくに限界で動く事すらままならなかった』

 

『うん……』

 

『……』

 

『それでも、そんな絶望的な状況でも、僕はカラカラに乾いてひび割れた喉を使って叫んだんです。誰も助けてくれないとわかってました。子供ながら、死の瞬間に逃避しようとしたんです。怖い思いをして死ぬよりかはマシだと』

 

『……』

 

『……』

 

『ふふっ、でもですね。僕は助かったんです。絶望的な状況から、僕は助けて貰ったんです』

 

『それって』

 

『そうです!ヒーローが現れたんです。五枚の花弁のエンブレムが掘られた武器を持ったヒーローが、彼が絶体絶命の僕を助けてくれたんです。僕のハンドガン、プルーンの花のエンブレムがついてるでしょ?あれ、彼のエンブレムを模したモノなんですよ』

 

『おぉー!』

 

『彼はロボットを即座に破壊すると、僕とまだ息のあった仲間を抱えて難民キャンプまで連れていってくれたんです。それで、僕達は救われたんです。ですが……』

 

『どうしたの……?』

 

『……責めたんでしょ。どうしてもっと早く助けてくれなかったのかって?』

 

『その通りです45。僕は彼を責めました。どうしてこんなになるまで来てくれなかったのだと。もっと早くに来てくれれば、皆は助かったかもしれないのにって』

 

『そう思うわよ……。誰だってもしかしたらを捨てきれない……』

 

『指揮官……45姉……』

 

『……彼は僕を抱きしめると、何回もすまなかったと謝ったんです。死んでいった人たちも、僕も、助けてくれた彼も、誰も悪い人なんかいなかったのに……。悪いのは全て汚染物質を漏出させた元凶となった人達なのに……』

 

『うん……』

 

『彼は泣きながら責める僕を抱きしめながら言ってくれました。極東にあった自分の祖国は汚染と戦争で人間が住めるものではなくなり数年前に滅んだこと。その過程で何度も苦悶を漏らし、助けを求めながら亡くなっていく人を何度も見たこと。祖国を捨てこちらの方に渡ってからも、戦争の被害に苦しむ人を見捨てられず、救護活動を行っていること。色んな事を何も悪く無いのに僕に涙を流して謝りながら語ってくれました。それを聞いた僕も、彼の痛みを分かち合ってどんどん泣いてしまったのですがね……』

 

『……』

 

『それから、僕を助けてくれたヒーローは、半年もしないうちに別の地区へ向かってしまいました。他にも困っている人が居るから、助けに行くんだと言って。その頃の僕は、ヒーローの語る彼の祖国のお話が好きになってしまって、本当に悲しかったです」

 

『うん……』

 

『ヒーローは難民キャンプに去る前に僕に言葉を贈ってくれたんです。困った人が居たら、助けてあげれる人になれ、と』

 

『それが、指揮官がヒーローを目指す理由?』

 

『ええ、その通りです。僕はあのヒーローの様に、困った人達を助けたいんです。彼は生きる事を諦めようとした僕に希望を与えてくれましたから。だから、僕もヒーローになって困った人達を助けて、生きる人達の希望になりたいんです。……僕がそうであったように』

 

『で、指揮官を助けてくれたヒーローは今は何をしているのか、知ってるの?』

 

『いえ……。何もわかりません……。あの人の情報はずっと集めているのですが、何も……』

 

『成程……。でも、なんで指揮官はPMCに入ろうと思ったの?そのヒーローの様になりたいなら、軍に入った方が――』

 

『今の軍はELIDの対策と大都市の警備しか行ってません。そうですね……。僕は身近なヒーローになりたい、と言った所でしょうか。今はPMCの方が治安維持や、都市周辺の警備、貿易のキャラバンの護衛に、民間人の保護もPMCが担当してますし、PMCに入った方があのヒーローに近づける気がしたんです』

 

『ふーん。で、なんで私と9にだけ、話したの。腹の内では、何を考えてるかわからない、なんて評価を下されてる私達に』

 

『45姉!そのこと、気にしてたの!?』

 

『気にもするわよ。人間たちが作ったくせに。細部まで自分が望むように製造したクセに、そんな評価を下されるなんて気にもするわ。それに、私達は情報戦特化で時代遅れのモデルなんて一部から評価もされてるのに』

 

『……私があなた達にだけ話したのは、あなた達の事を信頼しているからです』

 

『指揮官!』

 

『へぇ……』

 

『夢、特に秘めた夢と言うのは、大半の人は他人には語らない物なのですよ。それこそ、夢を応援してくれるって人にしか』

 

『それなら、指揮官のことを気に入ってるあの上級代高官にでも頼んだらいいんじゃないの』

 

『キンバレーさんのことですよね?あの人にも話しましたよ。で、一通り笑われました。理由まで話したのに……』

 

『うわぁ……』

 

『一通り笑った後にキンバレーさんは言ってくれました。その夢を応援してくれると言ってくれました』

 

『それで、応援する人は十分なんじゃないの?』

 

『人間ていうのは多くを望むモノなんですよ。だから、応援してくれる人も沢山欲しい。それも、密かな夢であるのなら尚更応援してくれる人が多い方がいい。だから、言ってみたんです』

 

『勝手な話ね』

 

『45姉!さっきから態度が酷いよ!指揮官が私達を信頼して話して――』

 

『じゃあ、何を持って私達を信頼できると言ってるの?こんな私達の何を信頼してると言ってるの』

 

『うん……。具体的な言葉は出しづらいですね……』

 

『指揮官……』

 

『ここに来た時から、僕と一緒に任務をこなしてくれたから、と言うのはありますが、敢えて言うとしたらあなた達は優しい子達だから、ですかね』

 

『……!どこが……!』

 

『45あなたは優しいです。とても。いつだって隊の皆の事を気にして作戦を立案してくださりますし、僕の事もよく気にかけてくれます。この前、長時間の作戦を終えて司令室で寝落ちした時に毛布を欠けてくれてのは45ですよね。9から聞きました。監視カメラの映像は細工していたみたいですが、他人の目は誤魔化せなかったみたいですね』

 

『な、ナイン!?』

 

『ご、ごめん45姉……!つい……』

 

『つ、ついってあなたねぇ!!』

 

『9だって優しい子です。チームメイトの事で気を配ったり、新入りと古参との橋渡し役になってくれたり、いつも一生懸命だったり。たまに怖く感じる事はありますが……』

 

『えへへ~』

 

『怖いって言われてるわよ9……』

 

『だから信頼してるんです。僕との関係が深いだけじゃ無くて、あなた達は優しい子ですから』

 

『本当に……甘いのね……。いつか、寝首を掻かれても知らないわよ』

 

『あなたはそんな事しないですよ。信じてますから』

 

『……』

 

『…………』

 

『………………』

 

『……はぁ。負けた。私の負けよ。わかったわよ。言われた以上、任務は請け負うわ。応援してあげる。指揮官の夢』

 

『もう、45姉は素直じゃないんだから~。任務なんて言っちゃって』

 

『9、お口チャック』

 

『……ありがとうございます45』

 

『あっ、もちろん私は指揮官の夢を応援するよ!』

 

『……ありがとう9』

 

『じゃ~あ、私の目標?それとも夢?と言うのかな?それを教えてあげるね!』

 

『どうせいつものでしょ?』

 

『私の夢はねぇ~家族を作る事だよ!』

 

『やっぱり……』

 

『家族ですか?』

 

『そう家族!困ったら助け合ったり、皆でパーティーしたり、一緒に笑ったり!色んな事を一緒にやってくれる人達を作ること』

 

『……この基地に居る皆はそういう人達じゃないんですか?』

 

『……あっ!その通りだ!指揮官のおかげだね!ありがとう指揮官!』

 

『わ、わわっ!』

 

『はぁ……突然抱き付くから、指揮官が転んじゃったじゃないの……』

 

『……』

 

『な、何よ9……』

 

『45姉も一緒にどぉ?』

 

『9、あなたねぇ……』

 

『ジーーーーーー』

 

『わかった。わかったから。えーい!!』

 

『うわぁ45!?』

 

『……指揮官、私の夢も教えてあげようか?』

 

『んー?45姉は夢とかあったの?』

 

『9、シャラップ!』

 

『ははは……。45の夢は何ですか?』

 

『それはね……。ヒーローの味方になることよ』

 

『45……』

 

『45姉……』

 

『だから、期待を裏切らないでね指揮官』

 

『じゃあ、私はヒーローの家族になろーと!』

 

『さっきからズルいわよ9!後出しばっかりで!』

 

『はははっ……。ありがとうございます。頑張らないといけませんね』

 

『しきかーん……』

 

『しきかん……』

 

『僕は、ヒーローになってみせます。絶対に。困ってる人に寄り添って助ける事が出来るような。そんなヒーローに―――』

 

音声ログ

 

20××/×/××(×) 22:36 

 

再生 終了

 





彼女らが未来で交わす言葉達

『45姉……』

『9、覚悟は決めた?』

『うん……決まったよ。』

『ふふ、変ね。私達にあるのはやるかやらないかなのに、覚悟を決めるか決めないかなんて』

『そうだね……。でも、これが――』

『そうね。迷いと息苦しさで歪められそうになりながらも、その先にある道を制そうとする。これが』

『うん。多分これこそが、『感情』っていうモノで『心』何だと思う』

『そうね……。最初は凄く戸惑ったけど、今はそれも心地いい……。不思議ね。思いっていうモノは。凄く、凄く、重大なモノね……』

『うん。だからこそ、私達はわかったんだよ。だから、指揮官を救おう45姉。私は指揮官の、ヒーローの家族なんだから』

『うん。行こう9.私は指揮官の、ヒーローの味方なんだから』

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