人格者   作:ヒトヨ

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新たな出会い。2017年11月10日。少年に新たな風が吹く。


新タナ風/出会イ

「はーーい!とうちゃーーーくっ!!」

「うるっせぇなオッサン静かにしろよ!!」

「いや、お二人共うるさいんですが、、」

食堂に入るや否や隊長と副隊長が叫び出し、食事を楽しみつつ談笑する兵士さん達がこちらを一斉に振り返る。何とも恥ずかしい事か。

その更に奥に面した一角、僕と同じように頭を抱える人達が居た。恐らく同じ部隊の兵士さんだ。

同じ所を見たであろう隊長がわざとらしい振る舞いでぶりっ子走りをここぞとばかりに繰り出す。

「んっもぅ〜!隊長が来たってのに落ち込まないでよぉ〜!」

「うっわきっっっっつ。」

どうやら効果はバツグンのようだ!

しかし周りの兵士さん達は大爆笑、隊長はいつもこんな事をしてるらしいと、周りの反応でわかってしまう。隣に立つのが恥ずかしい。

「おーい、一夜!早く来いや!」

隊長がこちらに大きく手を振る。大袈裟だ。

僕の隣に真顔で立っている副隊長が首を傾げて僕を見た。不思議がって目を合わせると副隊長がニヤリとイタズラな笑みを浮かべる。

「お呼ばれだぞぉ、少年?」

一言そう言うと僕より先に歩き出した。なんだか不思議な人だ。

副隊長の後ろを恐る恐る歩き奥の一角へ向かう。まだこの軍の制服すら受け取っていないからか、病院着である僕の存在感が際立っていると思うのは自意識過剰なだけなのか、とても不安になる。

到着すると1つ空けられた席があり、副隊長がそこに着席するようにと指さしで促してきた。

「し、失礼します。」

ボソボソと小さな声で着席する。さっきまでうるさかったはずのお二人が嘘のように静かなものでやけに気まずい。緊張で心拍が早くなり汗がじわりと額から滲む。こんな状態が長々と続いてみろ、死ぬぞ?

僕が俯いていると、左側から隊長のわざとらしい咳払い聞こえた。

「えー、ごほん。諸君、おいちゃんの頼みで食堂に集まってもらった事、感謝する!諸君らに紹介をせねばならない少年を連れて来た!上層の指示だけどな!!」

隊長のわざとらしい声がそこそこ響きはするが、今の状態の僕にとっては助けを出してくれた泥舟のような安心感だ。

「そこの病院服を着てる少年がそうらしいよ、私は正直頼りなさげに感じるけどね。」

副隊長の一言が刺さる、効果はバツグンです…。

「頼れる奴なんて最初から居ない!つーわけで我らがゴミ箱に7人目の仲間だ、みんな仲良くしてやってくれな!特にトップガン、お前さんに世話役させたいからよろしくな。」

「は、はぁ!?俺が、世話役?!」

トップガンと言われた青年が勢いよく立ち上がり即座に否定を重ねる。

「なんでこんなガキのお守りをしなきゃなんねぇんだよ、足手まといだろ、そう言うのはあんたや副隊長の方が向いてんだろ?!」

「トップガン、おめぇの実力は確かなもんさね。だがイマイチ協調性に欠ける。ゴミ箱部隊は確かに問題児の寄せ集めだが、協調性のねぇ奴程早死するんだよ、おめぇくらいになると分かるだろ?エリートさんよ。」

「だからって、俺である必要は無いはずだろ!」

「いいや、お前だからこそだ。いい加減分かったらどうなんだ。」

「ーーーッ!!」

正直僕も驚いた。隊長が明るい人だと思っていたばかりに圧を効かせた声を出すような人だとは思っていなかった。同じくその声に気圧されたのだろう、トップガンと呼ばた青年は何も言わずにゆっくり着席し机に頬杖をつきながら溜息をついた。

「さー!気を取り直して自己紹介タイムだ!そんじゃーー俺は済ませたんで副隊長からぐるっと行くか!!」

「あいさー」

気の抜けた返事をする副隊長がジュースを1口飲み、向かいにいる僕を見据える。

「私はセリア。セリア・シュヴァリエだ。」

「え、シュヴァリエ?って…。」

副隊長が不思議そうに首を傾げながら、眉間に皺を寄せ隊長を見る。

「レヴィから聞いてないの?」

「え、はい、何も。」

「あーそう、んじゃ説明すると、レヴィは私の妹のお婿さんなの。で姓を『シュヴァリエ』に変えたのね、OK?」

「妹さんがいらしたんですか。」

「ん、死んだけどね。」

「あ…」

失言だ、何も考えずに聞いたばかりに言わせてしまった。

「その…。」

「あー、気にしなさんな、もう何年も前だかんな。私はレヴィより受け入れてる自信がある。」

「おいおい、言い過ぎだぜ義姉さん、俺も受け入れてるっての。」

「ふん、どうかね。」

お二人がやけに仲が良いのはそう言った経緯があっての事だったのか。

「はいはい!じゃー次あたしね!」

副隊長の横に座っていた女性が手を挙げ立ち上がり、こちらを見てニカリと歯を見せ笑ってみせた。

第一印象から明るい人のオーラを感じさせるボーイッシュな短い茶髪に少し焼けた肌。上着を腰に巻きつけ黒のタンクトップで動きやすそうな見た目ではあるものの、腰から下にかけて、何やら色んなものをくっ付けていて重たそうにも思える。彼女が動く度ガチャガチャと音が鳴ってるのはその装着物のせいらしい。

「おーい!少年!そんなにあたしのコレクションが気になるカい?」

「へ、あぁ、重そうだなって。」

「あはは!!重い重い!とても重いよ!」

何故そんなに元気なんだ。重いのにまるで重さを感じさせない程良く動き良く跳ねる。ガチャガチャと金属音がなるものの、どことなく心地良い音で不思議と気分は悪くない。重金属では無いようで中は空洞かのような音も稀に聞こえる。

「えーおほん!あたしの名前はカーネア・ツェルツィティ!発音難しいから名前で呼んでな!」

「はい、よろしくお願いします。」

「ちなみに、この重いのには食料しかしか入ってないよ!」

「食料ですか?」

「うん!私大食らいだから!あははははは!」

カーネアさんは大笑いしつつ先程のようにガチャガチャと音を立てて何度も跳ねる。食料と聞いたせいか先程は聞こえなかった液体音も聞こえる気がする。

「はい!じゃあ次はトップガンの番だよ!」

「わかったから、そんな大声を出すな、うるせえ…。」

トップガンと呼ばれる青年はぼやきつつ渋々と言った様子で自己紹介を始める。

「俺はユキト、ユキト・バスクエルだ。階級は大尉、一応隊長補佐を務めている。」

「…ユキト?」

日本人らしき名称に疑問を持ちふと声が出る。それに即座に反応してくれたのは副隊長だった。

「あー、トップガンは日系アメリカ人でな、父がアメリカ人母が日本人なんだよ。」

「そうなんですか。」

横目でユキトさんをチラリと見る。本人は話題の中心にいるも関わらずここではないどこか遠くを見つめており、その瞳はどこか哀しさを彷彿とさせる。彼は言葉も荒く常に眉間にシワを寄せているものの印象は全体的に瞳に宿る哀しみに似たものを感じさせる。僕では到底わからない経験をしてここにいるのだろう。

「イチヤ、とか言ったな?」

「は、はい。」

「俺は正規軍として訓練しある時能力に目覚めここに来た、俺はお前のように特別扱いでここに来たんじゃない。だから俺はお前に特別扱いをしない。まともに扱って欲しいなら実力を見せてみろ。まあ、民間上がりの坊やには不可能だろうがな。」

「……。」

そうだ、確かに普通じゃない。民間人の僕がこの場に兵士としているのは間違いだ。彼は間違ったことは言っていない。民間人はこの場にいては行けないんだ…。

「特別扱いしないのはイチヤだけじゃない、アンタもだイギリス軍からの編入兵。」

「は、っはひ!」

僕の隣にいる少女が肩をびくりと震わせながら咄嗟に返事をする。その返事を聞いたユキトさんがさらに眉間にシワを寄せ少女を睨みつける。

「何だ今の返事は、イギリスはそんな情けない返事を教えているのか?もう一度だ!マリア・ルスタリウス少尉!」

「は、はい!」

「ったく、初めからその声で返事しろ。緊張するなとは言わんが、呼ばれたときくらいまともに返事出来るくらいの余裕を持て。」

「は、はい、申し訳ありません…。」

「アンタの経緯は俺の経緯に似通う点が多いし互いに元は正規軍の出身だ。一兵士と同じくらいには扱ってやる、安心しろ。以上だ。」

「ご、ご厚意、感謝いたします!バスクエル大尉!」

言うべきことを全て言い切ったのかユキトさんは一つ溜め息を吐き椅子の背もたれに背中を預けて目を瞑った。

それを確認したユキトさんの隣の女性が立ち上がり僕たちの方を見る。

第一印象は何とも言えない不思議な雰囲気を纏った人、だ。

髪の毛を耳より下で結わえ、左半分の顔に髪の毛がかからないようにしていて、長い髪を耳にかけて避けている。その左耳にはまるで、野良猫の耳に付けられる様なV字の切込みがある。反面の右側は完全に顔を覆うほどの前髪が出来上がっている。まるでその下は見せたくない、と言わんばかりの髪ではあるけれど、隠しきれていない。その下にある少し釣り上がり気味の目とそれを強調する真っ赤な瞳がチラチラとほんの僅かな隙間から見え隠れしている。体型は全体的に細身で上着を腰に巻いている。上着で覆われていない上半身は何とも大胆にスポーツブラのみで肌がほぼ露出している。しかしその肌はカーネアさんのように焼けている訳ではなく、逆に透き通るような白だ、実に目のやり場に困る。

「やあ、新隊員のお二人、私はこの隊の工兵及び整備兵のリットゥ・アンセムスだ。よろしく、呼び方はリツで良いよ。」

それを言い終えると彼女は直ぐに着席し、わざわざ多くは語らないと言ったような素振りで目の前にあるティーカップを持ち口に運ぶ。それを見ていた僕は呆気に取られていたが慌てて声を出す。

「よ、よろしくお願いします。」

すると、僕の声に反応したリツさんがティーカップを机に置き口元を拭って僕を見る。

「ん、よろしく。」

短い。きっとこの人は必要以上の事をしない人、もしくは深入りを嫌う人なのだろう。それ以上を汲み取る事は僕には出来ない。

そんな事を考えながらリツさんを見つめていると、ふと目が合い一瞬硬直してしまう。リツさんはそれを見て口の端を上げて声を出した。

「少年、そういう年頃なのはわからんでもないが、見すぎると勘違いされるぞ?」

不覚、勘違いされている。いや勘違いじゃないのかもしれないが、多分勘違いだよこれ。僕が女性に興味あるみたいなニュアンスになってるよねこれ?良くない、それは良くないぞ…。

「ぁあ、いえ、違うんです、その…」

「弁解しようとする時点でアウトだ、勘違いが深まるだけだよ?」

しまった、確かにリツさんの言う通りだ。そうだな、うん、言い訳すればするほどそう思われる年頃、その真っ只中に僕はいる…ッ!!

「す、すみません…」

大人しくこう言うのがベストだろう…。一夜、年齢16歳、年上女性にあしらわれ恥ずか死しそうな今日この頃。死にたい…。

僕が俯いて自分の膝を見つめてると、隣からガタリと起立音が聞こえたので、ぱっと見上げる。とうとう、隊長補佐に叱られていた彼女の番だ。聞くところ彼女は元々から軍隊に所属しててここに移籍と言う形で来ているらしいが…。

彼女をよく見ないでもわかる、過度に震えている、遠くから見ても分かるほどの身体の震えだろう。マリア少尉、と言ったか、見た目年齢は僕とそんなに変わらない10代の見た目だが僕より年上なのは確実、であるものの恐らく僕よりも小心者。酷く怯えきった様子で今にも零れそうな涙が琥珀色の瞳を潤ませている。身体が震えてるせいか、ブロンドのロングヘアも小刻みに揺られ照明の光を反射してキラキラ光っている。

「あ、ぁの、わ、私、私は、その…」

懸命に声を出しているんだろうが、全て震えてしまって今にも消えそうなほど弱々しい。目も当てられない程共感してしまう。自分が発言してる訳でもないのに結構胸に来る。

見かねたのか、隊長が短く息を吐き立ち上がる。

「マリア少尉?ゆっくりで良い、深呼吸するんだ、良い?見てろよ?」

「は、はぃ…。」

消え入りそうなマリアさんの声を確認した隊長は笑顔で頷き大袈裟に両手を広げた。

「良し見てろ?こんな風にだ…ッッッスゥウウウウウウウッ!!ホォァアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」

うっわ無理だろこんなの。正直言うキモイ。息吐く時にホァアとか言う人初めて見たんだけど?僕がおかしいのこれ?

「普通にやれよ!?」

「いや、普通にしろよ!」

案の定、副隊長と隊長補佐のハモりツッコミが炸裂する。普段から漫才でもしてるのか、この隊は。

「んだよぉ、普通じゃん。」

隊長はあれを普通と思っているのか、どう考えても大袈裟だろうに。

「ふっ、くっ…。」

隣から何やら漏れ出る声が聞こえ、もしやついに泣いたかと勢いよく見上げる。そこには肩を震わせ縮こまっているマリアさんが見えた。

「ほぉーら、オッサンのせいで泣いちゃったじゃあんん!!」

副隊長の大声も原因では…。

「えっ…マジ?やっべ、初日で隊員泣かすとか俺クズ野郎じゃぁん…」

流石の隊長も焦り始める、まぁ、焦るよな。

「ふっく…くく…。」

「マ、マリア少尉?ごめんて、おいちゃんが悪かったよう、許して…」

「ふっふふ、ふぁくっくく、ふぁはっはは、ぁははっあははは…!」

あれ、笑ってる?

僕は咄嗟に周囲を確認する。どうやら全員呆気に取られて居る様子で、特に隊長は何が起こったのかさっぱりわからんと言うような、何とも面白い顔をしている。そう、例えるなら、驚いてる猿。

「ふ、ふふ、ごめんなさい、あまりに、隊長が面白くて、つ、ツボに…ふふ。」

「な、なぁんだ、よ、良かったぁ。初日で隊長が新隊員泣かすとか、俺人生においての汚点がまた増える所だったぜ…。」

流石の隊長も焦るものなんだな、初日にもかかわらず色んな顔が見れて新鮮だ。マリアさんの気持ちも分かるものだ。うん。

「すみません、改めまして。マリア・ルスタリウス、階級は少尉であります!得意分野は狙撃や衛生などの後方支援です!ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします!」

吹っ切れたのか、ハキハキと明るい声で元気よく自己紹介をしたマリアさん。それを見てるとなんだか、こちらまで笑顔になるような温かさがある。これはとても良い事だな。

と、楽観視して居られるのも束の間、次は僕の番だ。1番最後って何気に1番緊張するよね。えっ、しない?そう…、僕だけ??

そんな独り言を脳内で繰り広げながらも起立する。そしてゆっくりと周囲を見渡すとあら不思議、全員の視線が僕に集中しているだけなのにどんどん自信が消えてゆく。うーん、無理、この感覚嫌い。

「えっと、はい、初めまして。イチヤ、と申します。本名じゃありません、仮名です。年齢16歳、好きな食べ物も嫌いな食べ物も分かりません、生まれも育ちもよく分かりませんが、多分日本です。誕生日は多分日本の12月から2月にかけての雪が降る寒い時期、特筆点は無し、本当に技術も何も無い、子供です、よろしく、お願いします…。」

終わった…。ゆっくり着席し、俯く。涙でそうなくらい何も無い。本当にただの子供だ、なんでこんな所にいてこれからここで働くことになってるんだ?おかしいだろ。

僕が俯いて色々考えてる中、突然左からバシン!っと手を叩く音が聞こえたのでビクリと顔を上げる。そこには起立した隊長がいた。

「いやー、実に良い時間だったな!笑顔満点とは言わねぇが、互いを少しでも分かれる有意義な時間だった!こういう小さな積み重ねが今後の俺たちに重要になってくる、つまりは課題だな。」

一泊置いて当たりを見渡す隊長。部隊全体の目が向いてる事が確認出来たらしく、小さく頷き、話を続ける。

「俺たちは周りからゴミ箱と言われ、それを自分たちでも認識している。先月、この部隊でやってられるかって言って自己中心的な行動をとった挙句、死にやがった馬鹿が二人いた。そうなった原因はなんだ?さて、トップガン答えてみろ。」

「チームワークの欠落、コミュニケーション拒絶、自身が正しいという思い込み。」

「うむ、その3つも原因の内だ。死んだ馬鹿とは言ったが、アイツらはアイツらで馬鹿ではない、それなりの経験のあるエリートだった。だがしかし、そのエリートっぷりを発揮できていたのは何故か?それは環境だ、自分が信頼した部隊、メンバー、仲間。それと連携する事で自身の力をより強く明確に発揮することが出来た。しかし、このゴミ箱とかいうクソ貯めに捨てられた事で自暴自棄になって死んでしまっては犬死だ!なんの生産性も無い!いやあるな、悲しみが生まれるだけだ!どちらにせよ結果は最悪だ。俺たちに必要不可欠なのはそこ、トップガンは未だ全体と連携してるかと言われれば疑問点ではあるが、個の実力は間違いなくこの部隊で1番だ。副隊長、義姉さんもまだ独り善がりな行動が多々見られるが、連携できないわけじゃない。むしろ俺の方が出来てない説まである。こんな風に誰もが完璧じゃないが、歪だからこそピタリとハマるピースもある。俺たち各々が抱えるものは180度違うだろう、方向性も含め何もかもな。だが、歪だからこそハマるものもある。俺はそれが出来るメンバーだと思っている。特に、今回入ってきてくれた一夜!コイツは間違いなく万能なピースだ、可能性に満ち満ちている。今はまだ頭角を表せてないがきっとこれから、トップガンも安心して背中を預けれる人材になるはずだ。そして、来たる最大任務のためにこれからミッチリ我々は訓練せねばならない。みんな、分かってるな?」

「イラク戦争規模の戦闘…。」

副隊長がボソリと呟く。『イラク戦争』。戦争という響きはどこかで聞いた様な軽いものじゃない。ズッシリ肩にのしかかり次第に重みを増してゆく程の重たい言葉だ。

2003年3月20日に開戦したものだが、その発端は1990年にまで遡る。イラク軍がクウェート国に侵攻した事が事の始まりだったらしい。1991年アメリカによる多国籍軍投入により勃発した『湾岸戦争』も後の『イラク戦争』に繋がる原因の内となったもので、戦争が戦争を呼ぶ、と言う事例の1つにもなった。

それが2017年現在、起ころうとしてる?一般ならそんなの冗談でしょ、で済むのだろうが今僕の目の前にいるのは生粋の軍人達だ、冗談であろうはずがない。これは真実だ。

「当該任務の目標は肥大化したテロ組織『Is(アイズ)』の駆逐を仮目標としている。彼奴等が起こしたテロは今や戦争の火種となって現在進行形で我ら国連軍の正規部隊、国際連合防衛軍α‬軍隊と睨み合いが続いている。とメディアでは言ってるが実の所水面下では既に冷戦は砕かれて前線では大量の死傷者が出ている。ぼやぼやしてると俺ら国際連合攻勢軍β軍隊/人格者軍が出張る前に国連の敗走で幕を閉じるだろうよ。上層の見解ではテロ軍の筆頭共は間違いなく高レート帯の人格者共が居るとの事だ。つまるとこ、‪正規α‬軍ではこれ以上の太刀打ちは不可能、近いうち俺たち人格者軍筆頭のβ軍隊の投入作戦が始まる。その前に俺たちはチームワークを抜本的に見直して全体の流れを止めないようにしないとならん。その間一夜はサレナ教官と共に教官の教習プログラムスケジュールに基づいて動いてもらうが、間違いなく短期でぐんと伸びるプログラムだ、俺たちのことは考えずに強くなる事だけを考えろ。」

「は、はい。」

「良し、これで顔合わせは終了だ。各自自室に戻り次第今日のスケジュールをこなしてくれたまえ。一夜は俺と共にサレナ教官の部屋に行くから、ついて来なさい。以上解散!」

隊長の号令で全員が起立し敬礼する。僕はただそれを呆然と眺め、みんなが去る背中を見送る事しか出来なかった。

『戦争』…。その言葉だけが頭の中でグルグルと巡り続け、考えるだけで心拍が早くなる。『戦争』人が殺し合う生と死の狭間。地獄。巻き込まれるのは彼ら軍人だけじゃない、僕ら民間人も死ぬ。逃げ惑い、逃げ遅れ、捕まり見せしめに首を斬られる。頭を撃ち抜かれる。

弾丸が飛び交い、何処も彼処も爆散し、飛散物ですら殺人的な物が飛ぶ。どこかで聞いた、爆散した瓦礫が頭に当たり即死した人が居て、その人の格好は先程までと変わらない。足を組み背筋を伸ばし座っている。それだけ聞くと何の変哲もない日常の風景だ。しかし、それに『頭だけがない。』と付け加えると先程までの日常が崩れ去る。それが戦争。突如として起り避難できていなかった民間人たちが犠牲になる。惨たらしい現実の地獄。僕は今後、そんな非現実的で空想的な事象に巻き込まれるのか。そう考えると、鳥肌が立って身体が震える。怖い。ひとつ間違えれば僕が死ぬんだ。こんな子供が居ていい場所じゃない。逃げないと。

そう考えた矢先、後ろから肩を掴まれる。ゆっくり振り返るとそこには微笑んでいる隊長が居た。

「怖いよな、俺も怖えぇよ。」

「え…?」

「だって、俺まだ死にたくねぇし。俺の奥さんも戦死したしな。戦争には嫌な思い出しかない。だからお前に過酷な人生を歩ませることを俺自身も後悔してる。でも俺はお前の背中を押さなきゃならない。そんな自分をまた嫌うんだろうが、今はそうするしかないんだ。許してくれ。」

「隊長…。」

「俺は最低なクズ人間だ。子供を戦場に送るための訓練を受けさせ、その次は実践だって、否定権をお前に持たせてやれない。だが、俺はお前にこう言うしかないんだよ。」

隊長が俯く。それを見つめる僕は隊長が何を言わんとしているかが、何故だかわかる気がした。

「一夜、俺に命を預けてくれ。」

そう言って彼は僕に右手を差し出した。

僕はその右手に手を伸ばし、力強く握りしめた。

「ありがとう、その命、絶対に無駄にしねぇ。」

そう言うと隊長もまた、力強く僕の手を握り返した。

これは一種の契約だ。僕はこの時、民間人であることをやめ民間人たちを守る軍人となった。きっとこれから、僕の想像以上の絶望が繰り広げられる、そんなの簡単に分かるのに。僕はそれらから人々を守りたいと、不思議と自然と手が伸びた。

「全世界の人を守る。正義の味方…。」

ふとそんな言葉が漏れる。

すると隊長が不思議そうな顔をして僕を見た。きっと、変な事を言ったんだろう、不可能に近い理想、夢。…呪い。

記憶を失う前のジブンは、とんだお人好しに違いない。そんな言葉を頭に刷り込むほど優しい心の持ち主だったのだろう。僕はそれになれるだろうか。かつてのジブンに戻れるのだろうか。

隊長が歩き出す。その背を追って、僕も歩く。

…その一歩は、自分でも驚くほど強く軽く。何よりも重たかった。




眼前の絶望。体現される地獄。新たな風を背に受け歩く。
少年はその絶望の道を歩くことを選んだ。


『P.S.』
後書きは何かあれば作者の独白場にします。
遅くなってごめんね。(´・ω・`)

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