鬼神と戦った職人はどうやら異世界転移に巻き込まれるようです 作:両刃剣はロマン
ガタゴトと馬車が揺れる。
俺とクレアは今、ハジメを救うためオルクス大迷宮の近くの宿場町ホルアドへ目指していた。
俺たちは最初の出発点であるハイリヒ王国から乗り込んでいるが、馬車は道中の村や町に止まり冒険者を乗せていく。
途中まではまだ見ぬ迷宮に夢見る新人冒険者や資金を稼ぐために潜る熟練の冒険者による会話で馬車の中は賑わっていた。
そう途中まではだ。
途中の村で一人の人物を乗せてからまるで通夜のように馬車内は静まり返っていた。
俺とクレアはチラッと目の前に座ってこちらをじーと見てくる件の人物を見る。
全身を騎士甲冑で身を包み、その甲冑には大小様々な傷がついている。
そしてその傍らには人一人がすっぽりと隠れるほど巨大で幅広な大剣とロングソード。
なにより、その人物が発する圧が尋常ではなかったのだ。
「ねえ、すごい見られてるんだけど」
「俺に言うなよ」
周囲の冒険者たちの口からは「戦姫」とか「帝国」などの単語が聞こえてきた。
正直、トータスに来て3週間ぐらいの俺には『戦姫』という単語にはピンとこなかった。
『帝国』は王国の東にあるヘルシャー帝国の事を指しているのだろう。
正直、帝国との接点もないためあまり関わりたくないのだが、猫の状態のクレアがしきりに頬をつついて催促してくる。
しかたなく俺は目の前の人物に声をかけることにした。
「なあ、俺に何か用なのか?」
「ん?ああ、にゃん……んんッ‼君の服が珍しかったのでな」
俺が声をかけると慌てたように言葉を返してきたが、今ニャンコって言いかけなかったか?
それ以上にそもそもこの人の性別が女性だったことに驚いたが。
「ああ、確かに今着てるのは向こうの服だから素材とかは珍しいかもな」
「向こう?もしや君はつい最近召喚された勇者か?」
「帝国の方にも知られてるのか……俺はその他大勢みたいなもんだがな」
「聖教は帝国でも信仰されているんだ、信託はこっちでも発表されてたよ。ところで集団でやってきたと聞いているがなぜ君1人なのかい?」
「ちょっと事情があってな」
周囲は俺と目の前の騎士との会話に先ほどとは打って変わって、ザワザワとしている。
「……ここで話すべきではなさそうだね。今日はホルアドで泊まるんだろ?もしよければ私に少し時間をくれないか?」
正直、この騎士甲冑に身を包んだ女性は怪しかった。
見ず知らずの俺になんでここまで関わって来るんだ?
「どうするクレア?」
「帝国ねぇ……どうせ泊まるんだし、話はいいんじゃにゃいかな?もしかしてら私達が知らにゃい情報も持ってるかもしれにゃいし」
「なら、そうするか」
「わかった。良かったら、おススメの店とか教えてくれないか?どこが良いかなんてまだ詳しく分からないんだ」
「任せてくれ」
陽が沈み始めた頃、目的地であるホルアドへ着くと女騎士に店の場所を聞き、宿をとる。
場所は前回と同じ宿を取った、約束の時間まではまだ少し時間があったため俺はクレアと雑談する。
気づけば話題は先ほどの女騎士についてになっていた。
「なあ、クレア。あの騎士どう出ると思う?」
「うーん……クレアも帝国に関しては気にする必要があまりないからって調べてなかったにゃあ」
珍しい、普段は二手三手先まで読むクレアが調べ切れていない事はそうそうないのに。
「そもそも帝国は王国と同盟国にゃのよ。聖教もこの世界の人族のほとんどが信仰している宗教だし、敵対するメリットもにゃいはずにゃんだけど……」
「けどあれはなぁ……」
「うん、どう考えても誘われているとしか考えられにゃいにゃ。目的は勇者に支給されたアーティファクト?それとも勇者そのもの?」
「案外、天之川並みの度が外れたお人よしって線もあり得えるかもしれないぞ」
「さすがにあんにゃのが二人はにゃいな」
ハハハと2人で笑っていると、気づけば約束の時間が迫っていた。
クレアを肩に乗せ、宿屋を出ると何やら通りが騒がしかった。
「なぁ、何があった?」
「見て見りゃ分かるさ。戦姫と冒険者のケンカだよ」
近くにいた男性のいった通りの方向を見れば、確かにあの騎士が巨大な大剣の腹で冒険者を薙ぎ払っていた。
これはケンカというよりも蹂躙という言葉のほうが合っているような……
そんな事を思っていると騎士に吹き飛ばされた冒険者が1人、こちらへ転がってきた。
その冒険者をよく見れば、あの時馬車にいたメンバーでだったことに気づく。
「にゃにゃ、これは貸しを作ったかもしれないにゃ」
クレアの言葉を理解した俺も苦い顔になる。
何も、狙うのは国だけじゃない。
むしろこういったアウトローが多そうな冒険者に狙われることを警戒しとかなければいけなかったのだ。
「おや君か。すまない、私があそこで軽率な事をしたせいで君の事を狙うやからが出てきてしまった」
蹂躙が終わったのだろう例の女騎士が倒れた冒険者を一纏めにしていく、傍ら視界に入った俺たちに気が付き話しかけてきた。
「いや、俺もこうなることを考えず言ってしまった。悪いな、手間をかけさせて」
「ならお互い様ということで。私はこれから詰め所にこいつらをぶち込むから、君は先に店に行っていてくれ」
そう言って、渡されたのはコインがたくさん詰まった袋と店の名前が書かれた紙だった。
袋の中を見てみれば、金貨がジャラジャラと入っている。
「ッ!?おい、これって……もういねぇ」
「ジン、とりあえず店に行くしかにゃいな」
「はぁ……仕方ないか」
俺とクレアが書いてあった店に行くと、そこは店のたたずまい、客層、出てくる料理、どれひとつとっても他の店と比べて桁がひとつかふたつ違うと分かる店だった。
何度も店の名前を確認するが、間違いはない。
「いらっしゃいませ。当店は予約制なのですが、ご予約はお済でしょうか?」
「いや、えっとだな……」
そこで俺は、あの女騎士の名前を聞いていないことに気づく。
「?」
「えっとだな…………戦姫、戦姫がここの店に来るように言ってたんだ」
「なるほど、レイア様ですね。確かに二名でご予約されています。こちらへどうぞ」
戦姫で通じたことにほっと一息つき、予約されていたという窓際の席へと案内される。
注文を聞かれたが、さすがにこちらにも原因があったのに相手を待たないのははばかられるため断って席から外の景色を眺めていた。
おおよそ15分ぐらいだろう、店員の案内のもと戦姫も俺の前の席に案内されてきた。
「待たせたね。はじめに自己紹介をしよう。私はレイアだ」
そう言って俺にステータスプレートを渡してくる為、俺も自己紹介をしたあとクレアのも含めてステータスプレートを目の前の人物に渡す。
「ニャ……んん‼猫の分まであるなんて珍しいね。それにこんな天職は見たことがないよ」
相手が驚いたような声を上げる。
だが、俺は声には出ていないがそれ以上に驚いていた。
なんせ書かれていた内容はこうだったのだから。
レイア・D・ヘルシャー 20歳 女 レベル:70
天職:剣聖
それ以下のステータスは隠されていたがレベルはあの王国最強の団長を越え、天職もみるからに強そうなものなのだ。
なによりびっくりなのは、この家名……
「まさか皇族の関係者とは……」
「たしかに私はヘルシャー家の者だが、私に継承権はないんだ。それに私自身皇族として敬られるのに慣れていないんだ、気軽に接してくれ」
リリィもだったが、なぜこう軽いんだ……
この気軽さも相まって余計に怪しく見えた為、念のために魂感知をやってみても誰かが潜んでいるなんてことはなかった。
あと感知で気づいたのだがこの目の前の人物の魂で気になることが二つあった。
一つは数十人分の魂に匹敵する強靭な魂だ。
そういった魂の持ち主は総じて強い。
あの剣神とうたわれたミフネも魂99個分に匹敵するほど強大な魂を持っていた。
そこまで考えたところであちらも注文を済ませたようでこちらに声をかけてきた。
「では改めて聞いてもいいかな?」
「その前にひとつ、なんで初対面の俺たちに関わって来たんだ?」
「なんでか……そうだね、まず王国と帝国が同盟関係にあるのは知ってるかい?」
「ああ」
「なら、話ははやい。つまり、私は帝国から派遣された君たちが迷宮に入る際のスケットの1人だったんだ。
まあ、本当はそれは建前で君達勇者の実力を見極めるためなのが目的だったんだけどね」
「……それって普通勇者の一味の俺に言わねえだろ」
「ははは、まあそうだね。見て分かるけど、君はとても強い。強者に敬意を払う帝国の一応は皇族なんだ、そんな者が君にウソはつかないさ」
詳しく聞けば、俺たちとは入れ違いになり王国へ目指している途中で早馬でリリィの従者から知らせが来たらしく、引き返したところ俺達の馬車に乗ったらしい。
「ああそうだ。リリィの従者から手紙を預かっている、勇者に会ったら渡してほしいって」
「リリィから?」
レイア皇女から差し出された手紙を広げてみるとそこにはリリィの字でこう書かれていた。
『ジンさん、この手紙を読んでいるということは早馬で知らせたレイア様と無事に合流できたということですね。
彼女は私が幼いころから交流がある方で、恐らく勇者一行を除いてトータスでもっとも強いお方です。
彼女ならきっと南雲さん救出も快く手伝ってくださいます。
貴方達が無事に戻ってくることを切に願っています。
リリアーナ・S・B・ハイリヒ』
「従者に聞けば、入れ違いで王国の騎士団と共に這う這うの体で脱出していたと聞いた。あの団長は王国でも屈指の実力を持っている。迷宮で何があったんだい?」
結局俺はリリィの言葉の後押しもあり、目の前の皇女にハジメ救出の件を話した。
それを聞いた皇女様は運ばれてきた食事に手をつけず、ため息が漏れている。
「君はバカか。単身で迷宮に潜るなんて、私でもしないぞ」
「いやでもレイア皇女「レイアでいい」ああ、わかった。レイア、団長でもベヒモスに勝てないんだ。アレは守りながら戦うのは俺には厳しい。なら一人で行くしかないだろ?」
「……私も手伝おう。何ベヒモスなら殺ったことがあるから守ってもらう必要はないからな」
「へ?」
レイアのその言葉に俺は変な声が出た。
「……なぁ、クレア。確かベヒモスって」
「うん、この世界の最強って言われていた冒険者が歯が立たにゃかったって言ってたにゃ」
「えっとレイア?ひとつ聞いて良いか?」
「なんだ?」
「レイアのオルクスでの最高到達階層は?」
「一応94階だ。ただ、あの時点で仲間のケガや食料とかの問題があって引き返したからもう少し深いところまで行けたと思う」
……最強より上じゃねーか。
正直雫にあんなことを言った手前、初対面の人物にこんな事を頼むのははばかられるが優先はハジメだ。
「……レイア。お願いがある、俺と一緒にオルクスに潜ってくれないか?」
「無論だ。付いてくるなと言われても行くつもりだったからな」
レイアに差し出された右手を握り返したところでこの話は終った。
余談だが、食事中レイアは頑なに鎧は脱がず、口元の部分だけを開けて食事をしていた。
翌日からは本格的なダンジョン攻略の準備が始まった。
食料や回復薬、そして解毒薬。
「私が特に気にしなければならないと思ったのは石化だ。これだけは受けてはならない」
聞けば、現状石化の対処法は高い魔耐かそれこそ高価な薬しかないらしい。
「ん?石化ならクレアに任せるにゃ。対処法は見つけているにゃ」
いざその薬を買おうとしたらクレアがそう言ったため、レイアは反対したがそれらは買わずそれ以外をそろえていく。
「……買いすぎたね」
「ああ……買いすぎたな」
一通り揃えてみれば、大きな木箱数箱分。そしてリリィに借りた金はほとんど残っていなかった。
「しいて半年分ほどの食料たち、さて問題はこれを運ぶ手段か……」
それを見たレイアが何やら計算を始めた為、俺はそこに口を出す。
「レイアそれは最初から問題ない。クレア頼む」
「はいはい」
そう言ってクレアが人間状態に変わる。
案の定、レイアは「ニャンコが亜人に!?」とか驚いた声を出していた。
――ニャンコ コニャンコ ニャコニャンコ
「座標軸設定……空間固定 発動」
――インディペンデント キューブ
「続いて空間魔法発動」
――スケーリング イメージ
クレアがそう唱えると、目の前にあった木箱らが四角い空間に閉じ込められ、続いてそれが小さく縮小されていく。
魔法の説明をするならばインディペンデント キューブは対象を空間から隔離して封印する魔法でスケーリング イメージは対象を拡大、縮小する魔法だ。
欠点としてはインディペンデント キューブ、スケーリング イメージ共に多量の魔力を食うことである。
「いったいなんなんだ……この魔法は」
「空間魔法。私達の世界の、それも今生きている中で最も強い魔女の得意魔法よ」
「……そんな者の魔法を使う、君は何者なんだい?」
「ふふふ、ジンの相棒で武器であり、
そう言って手に平に収まるほどに小さくなったキューブをクレアは手に取り不敵に笑う。
――キー出現 セット ロック完了
全ての過程を終えたキューブをクレアは俺に渡して、猫に戻る。
「今までの常識が崩れる魔法だな……」
団長もそうだがレイアもちょっと驚きすぎだと、俺とクレアは目を合わせて肩をすくめるのだった。
準備が終わった頃には太陽は真上まで来ていたが、気にせずに俺達はダンジョンへと潜った。
と言っても1~19階層までは最短ルートで降りていく、その際出て来た魔物を俺とレイアは文字通り一太刀で切り捨てていった。
そして現在20階層、上を見上げればグランツ鉱石がキラキラと光を反射させていた。
「君、ここは階段へ行くルートとは違うぞ」
「いや、いいんだここで」
そう言って俺は壁をよじ登る。
「おい、罠の可能性が」
「大丈夫だ」
なんせ、
グランツ鉱石に触れるとあの時のように魔法陣が展開され、俺達は転移された。
「ここは……」
「65階層だ。レイア、骨を頼めるか?」
召喚されるのは前回と同じ魔物たち。
レイアは隠す気がないのか、
「トウラムソルジャーか、問題ないが君は?」
「俺はアイツに八つ当たりだな」
そう言って一部が崩壊した橋へ向かう。
出てくるのはあの時の再現かのように唸り声をあげるベヒモスが出て来た。
「クレア、魂の共鳴だ」
「了解、派手に殺っちゃうにゃ」
――魂の共鳴 『
「前回のやつとは違うかもしれないが、お前の魂頂戴する」
「見事なものだな」
戦闘が終わり、そう言ってガシャガシャと音を鳴らしながら俺の元へ来るのは骨を全て炭にしたレイアだった。
「いや、味方を守る余裕がない時点でまだまだだ」
「そうか、それでこのまま階段を降りるのかい?」
「いや、ここから下へ向かうさ」
そう言って指すのは奈落のように底が見えない崖だ。
と言ってもこのまま落ちれば、下手すればケガでは済まない。
「じゃあ、クレアの出番ね」
そう言って、クレアが人になり呪文を唱える。
――ニャンコ コニャンコ ニャコニャンコ
「氷柱体を空間固定してっと、あとは……」
そう言って出て来た氷に飛び移ったクレアが右足を鳴らすと魔法陣が描かれていく。
――天道
「……」
「さあ、はやく乗って」
レイアは言葉を失っていたが、一緒に飛び移ると氷がゆっくりと地の底へ向かって行く。
「クレアが聖教の神山で仕える者しか使えない魔法を使えるのはもう何も言わないが、これは莫大な魔力が必要だと聞いているんだが」
「ん、まあ多いわね。それでも数日分あれば十分だけどね」
レイアの言葉にクレアがなんでもないように言っているが、クレアの魔力量は現在の天之川20人以上だ。
そのクレアが数日分の魔力生成量が必要な時点でこの魔法のすごさがうかがえる。
「数日分?」
「ああ、そういえばこっちでは自分の魔力を直接操れないのよね。これよ」
そう言ってクレアは服を少しずらして肩を見せる。
そこには幾何学模様が描かれていおり、それらが今は発光している。
「これは、余った魔力を貯蓄するための魔法陣なの。寝る前に魔力を操作してここに注ぎ込めばその分が貯蓄されるってわけ。莫大な魔力が必要な魔法でもここでプールした分から使えばいいってことよ。下まで降りるまでかかりそうだし、教えましょうか?」
「ぜひ頼む!」
俺の横で
そうして65階層に残ったのは、真っ黒になって粉々になった骨と体中をそぎ落とされ頭から先がないベヒモスだけだった。
レイア・D・ヘルシャー
帝国の第一皇女
実力はトータスでもトップなのだが、女性だからなのか継承権はなく他の兄妹と違って自由に行動している。
また常に騎士甲冑を身に纏いそれにふさわしい口調性格をしているが、彼女の姿を知るものは皇帝と皇后以外誰も知らないらしい。
本小説においては、常識を知るがゆえに規格外PTでの苦労人枠にあたる