鬼神と戦った職人はどうやら異世界転移に巻き込まれるようです   作:両刃剣はロマン

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第8話

檜山が水晶に触れたことにより地面に魔法陣が現れ、まるであの時の教室のように視界が真っ白になるほど光ると次の瞬間には俺達は別の場所に転移していた。

そこは先ほどの場所とは違い、広い空間だった。

だが立っている場所とその反対側を除けば、一本の橋を除けば底が見えないほど深い崖になっていた。

 

「全員警戒しろ!何が起きても陣形を乱すな!」

 

メルド団長のその言葉に勇者組、騎士問わず緊張感が走る。

俺と雫も互いに視線を交わし、雫は後ろへ俺はクレアを握りメルド団長がいる橋の方へ向かう。

 

「ッ来るぞ!」

 

一部が臨戦態勢になると、俺たちを挟むように新たに魔法陣が地面に浮かび上がった。

魔法陣から何かが引き出されるように現れる。

そいつは俺が知る生物には当てはまらなかった。

しいて言えば、4足歩行の……ああそうだな牛に似ている。

額辺りから延びる二本の角と鼻先から延びる二本の短角が特徴で、体高だけでも俺の三倍はあった。

魂に関してもこれまでとは一線を画すほど強い。

コイツを調べるために魂感知をしたが、俺の後方……雫がいるあたりからも反応がある。

視線だけをそちらに向ければ、剣を持った骸骨たちが何匹も湧き出ていた。

 

「……ベヒモスか、ならここは65階層か」

「団長、後方からはトウラムソルジャー‼数はおおよそ20です」

「ちっ!前方は最高到達層のヤツが歯が立たなかったヤツで後ろは33階層の魔物……前方は引き受ける!全員、撤退だ!」

 

メルド団長の指示に返ってきたのは阿鼻叫喚の声だった。

それはそうだ。

今まで、どこか現実に受け止め切れなかったものたちはここで初めて命の危機を感じる。

こんな状況でまともに指示通り聞けるはずもなく……

 

「うわああああああ!」

「落ち着け‼あいつらはみんなで当たればどうにかなる!メルド団長が後ろを守っている間に早く!」

 

目の前の骸骨に闇雲に攻撃し、騎士団や雫、坂上などがそれを必死に統制しようと大声を上げていた。

 

「メルド団長、どっちに加勢しますか」

「……ジン、お前は勝てるのか?」

「いけます。ですがベヒモス相手は後方を守りながらは厳しいです」

「分かった、なら後方で頼む。ッ!おい、アマノガワ‼」

 

メルド団長と役割分担を話し合っていると、一つの人影が俺たちの前に躍り出た。

天之川だった。

あのバカは何を考えてか、光を纏わせた聖剣で斬りかかっていた。

 

――天翔閃

 

「バカな……天翔閃でも傷1つつかないなんて!」

「何やっている!お前も後方へ下がれ!」

「嫌です‼メルド団長を1人にするわけにはいけません!」

 

あのバカ……

俺から一言怒鳴る前に団長が口を開く。

 

「このバカもんが!ジン‼お前は構わず後方の道を拓け!」

「了解!」

 

その言葉に俺は180°体を反転させて、後方の戦場へ向かう。

途中、何やら覚悟をきめたハジメとすれ違うが気にず、最前線へ躍り出た。

 

「チッ数が増えている」

 

この短時間で骨の数は倍になっており、こちらの陣形は雫や騎士団が前で抑えているがグダグダだ。

大半がいまだパニックの状況から抜け出せてなく、後方からの支援はまともに機能していなかった。

そんな中、最前線の雫の側方から骨どもが斬りかかる。

 

「雫、俺を使え‼クレア!お前も単独で骨の除去を手伝え!」

「了解にゃ!」

 

俺は両刃剣を騎士団の前へ投げ、自身も前方へ飛びかかる。

そして右腕だけ武器化して骨どもを纏めて袈裟切りで斬り伏せる。

 

「ジン‼」

「雫‼」

 

互いに名前を呼びアイコンタクトを交わすと、雫は手に持っていたアーティファクトを目の前の骨に叩きつけ、俺の手を掴む。

それを確認した後、俺は完全に武器化し緋色の刀が雫の手に収まった。

俺を手にした雫は急所を守るように体を右斜めに向け、俺を右わきにとり剣先を後ろに下げる脇構――陽の構えを取る。

構えに合わせて、俺も魂感知をしてこちらへ迫る骨の数を正確に測る。

 

『まず正面に5そのあとに遅れて右横から3だ』

「雫ちゃん‼」

 

俺が伝えた直後に雫の前に5体のトウラムソルジャーが飛びかかり、白崎が叫ぶ。

 

『雫、全て切り伏せるぞ!』

「ええ、八重樫流……受けてみなさい!」

 

――八重樫流剣術 陽の型『飛燕(ヒエン)

 

地面すれすれから刀身が迫り、骨(獲物)めがけて一閃、手ごたえはなかった。

それは魂の波長の増幅によって俺の刃が強固になったか、雫の斬り方が鮮やかだったのか……いや恐らく両方だったのだろう。

一切の手ごたえを感じず、目の前の骨たちは一瞬で上半身と下半身が別れ、返す刀で右側方骨の上半身と頭部が泣き別れた。

 

「ニャンコ コニャンコ ニャコニャンコ『肉球スタンプ』」

 

俺たちから離れた場所にいた残りの骨に関しても、クレアが魔法によって地面に押しつぶしていた。

骨どもはまだまだ残っている。

 

『雫やれるな?』

「当たり前よ。これでもまだ試し切りには不十分だわ」

 

それは頼もしいことだ。

そう言って、雫が八相の構えで俺を持つ……が後方から光の奔流が流れてくる。

 

――神威

 

その言葉によって、残りの骨が塵に還る。

この技は見てないが、似たようなものはさっき見た。

 

「みんな遅れてすまない!聞いてくれ、ここを切り抜ける!出口の確保までベヒモスを足止めする為に魔法組はメルド団長の指示に従え!前線組は……」

 

やっぱり、天之川だった。

先ほどまであんなにベヒモスに躍起になっていたのに、何があったのやら。

天之川の登場によってパニックになっていた奴らは、急速に落ち着いていく。

俺や雫が体を張っていたのに、こいつに全て持ってかれた感じがする。

…………ふぅ、このままでは職人の名が廃るな。

 

「雫、すまん変更だ。俺が蹴散らす」

「ちょっとジン!」

「この数は乱戦だろ、なら俺のほうが有利だ」

 

そう言って、武器化を解き、こちらに近付いたクレアにアイコンタクトで武器化してもらって両刃剣を水平に構える。

そんなやりとりをしているうちに、さらに魔法陣が浮かびあがり骨どもは目視でも60を超える数に増えていた。

 

「天之川、前線組は抜けてきた骨の対処につとめさせろ」

「ジン!だがこの数だぞ!」

「一気に減らすんだ。周りにいるほうが俺は動けない。それに両刃剣の真骨頂はな……1対多なんだよ‼」

 

――八重樫流棒術 『環蛇打(カンダダ)

 

その場に小さな台風が吹き荒れた。

中心は俺、暴風は両刃剣のクレアだ。

骨どもは片っ端から塵に還る。

この技は単純だ。

ただ型を順に高速で無駄なく繰り出すだけ。

だが侮るなかれ、八重樫流の技は正確に順を追えば追うほど相手を追いつめていく。

極めれば44に及ぶ技の繋ぎに終わりはなく、終わるとすればそれこそ相手の死だけの連撃に魔物であるトウラムソルジャーはなすすべもなく消えていく。

流石に数匹はその暴風から逃れるが、それでも魔法陣による召喚よりも撃破するスピードが勝っていた。

 

「天之川!」

「みんな!順に上へ行って安全の確保を!」

 

天之川の言葉に騎士団と数人が上層へ抜ける。

これで少なくとも挟み撃ちにあう最悪なケースは逃れた。

後は……

 

「よし、坊主下がれ!魔法組攻撃‼」

 

その声に振かえると、なんとベヒモスを足止めしていたのはハジメだった。

ベヒモス自体は四肢を錬成によって埋め込まれており、時間稼ぎもできている。

これで後はハジメがこちらに来れば、問題ないはず……

 

「え?」

 

時間が止まった。

何故か不自然に……いやこれは狙ったという方が納得する。

魔法組による魔法の1つがこちらへと引き返すハジメに飛んで行ったのだ。

それによってハジメが吹っ飛び、拘束を解いたベヒモスごと奈落の底へ落ちて行ったのだ。

 

「ジン!まだ敵はいるわよ」

 

その状況に固まってしまったがクレアの言葉に、反応していまだ魔法陣から出てくる骨どもを塵に還す。

 

「南雲君、南雲君!なぐもッ!?」

「全員、上に上がれ‼」

 

白崎がヒステリックに叫んでいたかと思えば、途中で声が途絶えそれに続くようにメルド団長が叫ぶ。

崖の下を覗く。

俺がベヒモスを相手すれば……いや、クレアの魔法を使えばここから。

 

「ジン」

「…………」

「分かっているわよね?この上からしばらくは私達がいないと更に死人が増えるわよ。厳しい事を言うけど、生存が絶望的な南雲君と生きている人、優先順位を間違えちゃダメ」

「すまんクレア……ハジメ、少しだけ待っていてくれ」

 

そして俺達はそのままオルクス大迷宮から撤退した……崖から落ちたハジメを1人残して。

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