鬼神と戦った職人はどうやら異世界転移に巻き込まれるようです 作:両刃剣はロマン
「……おい、てめえら。もう一度言ってみろ」
戻り次第、すぐさま国王や教皇たちに件の事件を報告していた。
奴らは最初は驚愕の顔をしてたが、行方不明がハジメだったことに安堵しやがった。
それはまだ耐えた。
だが……
「おい、そこのおっさん。死んだのが無能でよかったって今小声で言ったよな?」
「い、言っていません!」
ガクガクと青い顔をする豪奢な服をきたおっさんに向って、右手を武器化させてズカズカと音を鳴らすように歩く。
だがその前に団長に肩を掴まれる。
「ジン、やめろ。王の御前だ」
「団長。アンタだっておかしいと思うだろ!体を張ったハジメをコイツは‼」
「コウキだけでも大変なのに、お前まで暴れたら誰も止められない。すまないがカオリの様子を見に行ってくれ。良いですか王よ?」
「うむ」
…………クソッ
「すいませんでした」
そう言って、俺は謁見の間から出て行った。
「ジン、落ち着いた?」
「クレア、なんで人間の状態になってるんだ?」
扉をあけると、すぐ横で壁にもたれかかるようにクレアが立っていた。
「どうせ自分のせいで南雲君が~とかずっと考えてるんでしょ」
「……なんだよいきなり」
そう言うなりクレアが俺を抱きしめてくる。
クレアの身長は175cmと俺より高く、更にヒールを履いているため抱きしめられると俺の頭は丁度クレアの豊満な胸にうずくまってしまう。
「お、おい、クレア!?」
「大丈夫、あなたは選択は間違っていなかったわ」
「ッ!?」
そう言って頭を撫でてくる。
丁度心臓の位置に頭が置かれているのだろう。
ドクン、ドクンとクレアの鼓動が聞こえてくる。
「そのおかげで誰も欠けることもなく戻って来れた。これはジンじゃなきゃできなかったことよ」
だが……だがハジメは。
「南雲君は大丈夫よ。呪文を唱えれなかったから南雲君にピンポイントで座標固定はできなかったけど、代わりに風でベヒモスごと途中にあった滝まで横に飛ばしたわ。位置的にベヒモスの上だから、骨折とかのケガはしても即死はしてないはずよ」
それを聞いて、思わず顔を上にあげる。
そこにはほほ笑んだクレアの顔が映っていた。
「それにあの子は心配だったから、事前に魔物よけの魔法陣を服に刻んでるの。自分から魔物に近付かないかぎり、しばらくは食べられることもないわ」
「クレア……」
思わず、俺自身もギュっと抱きしめ返す。
「助けるわよ、南雲君を」
「ああ!」
そうと決まれば、行動は早かった。
まずはあの時倒れた白崎の様子を確認することにした。
「それにしてもジンは相変わらず、ネガティブになったらズルズル引きずるわよね。小さいころからそこだけは変わらないわ」
「うるせ!」
「よく剣神のところに挑みにいっては負けて、落ち込んでいたわよね?あの頃もさっきみたいに慰めてあげたものよ」
「~~~ッ/// 小学生の頃の話を持ち出すなよ!ほら着いたぞ」
さっきまでの優しい笑みは幻かというぐらい、道中でからかわれる。
くそ、顔が熱いじゃねーか!。
「雫、白崎の様子はどうだ?」
「ジン、クレア?」
ノックの後、扉を開ければ白崎を見るために謁見せずにこちらへ来ていた雫が白崎が寝ているベッドの横にイスを置いて座っていた。
「診察は終ったの?」
「ええ、ついさっき。身体的な異常はなかったわ。医者が言うには精神的ショックから心を守るためだろうって」
それを聞いて、俺とクレアは安堵のため息がでる。
「それは良かった。これで安心して行けるな」
「行く?まさか……」
俺の言葉に察しがついたのか、雫が立ち上がり俺の肩を掴んだ。
「ジン、貴方1人で戻るつもりなの!?」
「ああ、って言ってもクレアも一緒だがな」
「たいして変わらないわよ!」
「その話、私も混ぜてもらえませんか?」
俺たちがぎゃいぎゃい騒いでいると、開いている扉から1人の少女が入ってきた。
「リリィ」
「ジンさん、先ほどは貴族の方の失言を王に変わり謝罪させていただきます」
「いや、俺も迷宮のことで敏感になっていた。王の前での痴態、すいませんでした」
リリィと俺が互いに頭を下げる。
その状況についていけてない雫はクレアが耳元でささやいて説明していた。
「ではこれでお互い様ということで、改めてお教えしてくださいませんか?」
そうリリィに促され、俺はハジメがまだ生存していることをリリィと雫に説明した。
「なるほど……それなら確かに」
腕を組み、片手を顎に当て何か考えるリリィ。
だが、その顔は険しい表情をしていた。
「リリィ、何かあったのかしら?」
「……ええ、先ほど勇者たちは心のケアのためにしばらく王城からでないようにと王が指示されまして」
「それは命令かしら?」
「そうです、クレアさん」
それはどれくらいの期間なのか。
正直、いくら魔物よけがあるからと言っていつまでも無事にいられるはずはない。
一刻もはやく、向かわなければ行けない状況なのは誰の目にも見えていた。
「……ジンさん。ベヒモス、いやアレ以上の魔物を倒せますか?」
「どれくらい上を指しているかは分からないが、ベヒモスなら護衛対象がいなかったら大丈夫だ」
「分かりました。2日だけお時間を頂いても?」
俺はクレアを見る。
2日という言葉にクレアは少し考え、少しして縦に首を振った。
「ああ、問題ない」
「ありがとうございます。では私はやることができましたので」
そう言って一度頭を下げると、そうそうに医務室からリリィは出て行った。
残っているのは最初のメンバーだけだ。
「ジン、行くなら私も」
「ダメだ、雫」
「なんでよジン!」
覚悟を決めたような目で雫が提案したが俺は首を横に振る。
正直、付いてきてくれるという言葉はありがたかった。
「白崎を支えれるのはお前だけだろ」
「ッ‼」
「だから俺はお前にここを任せたい。俺にはできない、お前にしか頼めない事なんだ」
「私にしかできない……」
「ああ、俺は南雲を絶対に救う。だから頼む」
そう言って俺は雫に向って頭を下げる。
クレアも特に何も言わず、俺たちを見守っていた。
しばらく無言の時間が続き、やがて前方からため息がひとつ漏れた。
「……わかったわ。それに今のままでは足手まといな事は自覚しているつもりよ」
雫の言葉に俺が顔をあげると、鼻先に指を突き付けられた。
「南雲君を救うのは当たり前だけど、ジン、貴方も五体満足で戻ってきなさいよ!」
「……ああ、わかった。約束する」
「ならよし‼クレア、ジンはいざってなったら無茶するからお願いね」
「りょーかい。……ホント、なんでこれで付き合ってないんだか」
「「?」」
「なんでもないわ」
クレアが何かいったが、ヒラヒラと手を振って医務室を出る。
「ジン、私は少し図書館に行くわ」
「ああ、俺も行く。じゃあ、雫行ってくる」
「そうだ、行くとき見送りはいる?」
「分かってるだろ?」
「ええ、なんせアメリカに行く時もまた会うからって見送りさせてもらえなかったものね。次会うときは、ベヒモスくらい狩れるぐらいに強くなって待っているわ」
「それは楽しみだ」
そう言って、俺もクレアに続いて医務室を出る。
扉越しにすすり泣く声が聞こえたきたが、俺はあえて聞こえてない振りをするのだった。
それからはあっという間だった。
図書館で迷宮について調べたり、迷宮周辺の地図を調べたりとここでしかできない事をやれるだけやった。
そして約束の2日の朝、俺とクレアは現在リリィの私室にいた。
「お待たせしました、ジンさん。まず、南雲さんですが正式に死亡したと王国は判断しました」
「ッ‼……リリィ、それだけの報告じゃないんだろ?」
「ええ、本命はこれからです。これを勝ち取るのが大変だったんですよ」
そう言って、リリィが手を鳴らすとメイドがないかを持ってやってきた。
それは豪華な装飾がついたロングソードと柄に茨の装飾がなされた短剣だった。
「この度、私に専用の騎士を持つ許可を頂いきました。この騎士には私が個人的に命令して良いんです。例えば、迷宮を攻略しろなどですね」
「にゃるほどね、でも勇者はダメって言われにゃかったの?」
「言われましたよ、『勇者は』って。それは光輝さんしか指しませんから、ジンさん達は関係ないですね」
そのリリィの屁理屈にその場に小さな笑いが漏れる。
その後、メイドから剣を受け取った、リリィが剣先を俺の肩に当てる。
リリィの顔は先ほどまでと打って変わり、真面目な顔だった。
「では、真桐 刃、そしてその相棒のクレア。あなたたちに私、リリアーナ・S・B・ハイリヒの専属の騎士を命じます」
そう言われ、俺はリリィの前で片膝をつけ右手を握り左胸に当てて首を垂れる。
クレアもそれに続き人間状態になって、同じ格好をする。
「「謹んで、拝命します」」
そう言うと、メイドに短剣をそれぞれ渡された。
これはリリィの騎士になった証だそうだ。
すぐには広まらないがのちのちは身分証明の代わりになるらしい。
そこまですると厳かな空気は霧散し、リリィの顔にも笑顔が浮かぶ。
「では、さっそくオルクス大迷宮に行きますか?」
「一応そのつもりだ」
「ならこれを」
そう言って渡されたのは、硬貨が入った袋と小さなビンだった。
中を見てみると金の硬貨が30枚、30万ルタが入っていた。
日本の通貨に換算すると30万ほどになる。
「ちょッリリィ!?多すぎるってこの額は!」
「いいえ、未到達階層に行くのに準備はしすぎなくらい必要です。それでも足りないかと思うぐらいだったのでよ。それともまだいりますか?」
「……いや、いい。ありがたく借りる。それでこのビンは?」
そう言って、俺は改めて水が入った小瓶を指す。
「借りるですか……まあいいです。そのビンには神水が入っています、南雲さんを見つけたら飲ませてあげてください」
「神水?」
「ジン、いわゆるエリクサーよ。肉体の欠損とかは無理だけど、傷や魔力は完全回復するわ。でもよく手に入ったわね?クレアも調べたけど、神水の元になる神結晶って教会が管理していたはずよね?」
「そこは王族ですから」
そう言ってドヤ顔をしたリリィを見て、三人とも笑ってしまう。
「ふふ。ジンさん、南雲さんの捜索よろしくお願いします」
「ああ、まかせろ。必ず見つけて連れてくる」
それでリリィと話は終わり、俺は最後に雫の姿でも見ようと訓練場へ向かう。
……さて、そろそろ後ろをつけている奴にも話をつけるか。
この二日間、医務室を出てから一人の人物に俺は尾行、いや尾行とは言えないもっとお粗末なものだが後をつけられていた。
曲がり角で留まる。
「なぁ?」
「ッ!?」
俺が声をかけると、奴は息を殺すようにその場に留まっていた。
俺は曲がり角の先を見ずに、そのまま言葉を続ける。
「お前が証拠隠滅の為なのか、罪悪感から俺をつけてるのかは分からない。……正直俺はお前の性格は嫌いだが、一つだけ忠告しとくぞ。これ以上選択を間違えたら死ぬぞ。というより俺が本来の仕事をするはめになる。よく考えて行動しろよ」
「…………」
分かっていたが、返事は返ってこなかった。
俺は言うことは言ったため、そのまま訓練所を目指す。
もう後を追ってくる人物はいなかった。
訓練所へ向かうと剣戟の音が聞こえてきた。
「雫、いくらなんでもハイペース過ぎないか?早朝からずっとだぞ!?」
「まだ喋る余裕があるみたいね。ならもっとできるでしょ」
――八重樫流剣術 水の型『雀蜂』
うわっ、雫のヤツえげつないな。
あれって中段の構えの状態で、全身をバネに最短・最速の突きをする技だぞ。
しかも確実に当てるために超短距離の縮地も併用して、ガードをずらしている。
案の定、天之川はもろにくらって地面に転がっていた。
いやまだこれはマシな方だろう。
今回は木刀だったが、これが真剣なら頭と体が泣き別れているはずだ。
そんな雫の姿を目に焼き付け、改めて俺は停めている馬車へ向かった。
その後は何も起こる事はなく、馬車へたどり着き早々に出発する。
馬車はオルクス大迷宮に向って走り出す。
ハジメを救うために。